
(「iPad」に「Apad」「iRobot」 “flickr”より By cvander http://www.flickr.com/photos/cvander/4653202262/)
【「中国のホンダ事件が日本への警鐘に」】
中国広東省のホンダの変速機工場におけるストライキは、5月31日には会社側を支持する政府系労働組合員とストに参加する従業員合わせて数百人が乱闘になり、7、8人の従業員が負傷する混乱もありましたが、6月4日、ようやく終結しました。
****ホンダ:中国工場、ストライキ終結*****
ホンダは4日、中国広東省仏山市の変速機工場で発生した労働争議が終結したと発表した。5月末に提示した24%の賃上げで合意した。この結果、5日以降、変速機工場と中国内の完成車4工場はすべて通常稼働に戻る。変速機工場では5月17日にストライキが発生。変速機供給が止まったことで、完成車工場も約2週間操業停止した。【6月5日 毎日】
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中国ではこのところ、河南省平頂山市にある国有企業の繊維メーカーの工場で賃上げ要求のストが起き、従業員ら約1万人が工場を封鎖したり、広東省の台湾系携帯電話機メーカーで従業員の自殺が相次いだり、労務管理に絡む大きなトラブルが頻発しています。
今回のホンダにおける労働争議は、“中国の低労働コスト時代が終わりに近づいている”ことを示しているとの指摘があります。
また、一方で、そのことは“中国人の給料や生活水準の上昇につながり、日本の輸出企業だけでなく、現地で生産・販売する日本企業にとってもプラスとなる”との指摘もあります。
****ホンダ中国工場のストライキ、日本企業への警鐘に―米紙****
2010年6月1日、米紙ニューヨーク・タイムズは「中国のホンダ事件が日本への警鐘に」と題した記事を掲載し、中国で発生したホンダ部品工場のストライキが、安価な労働力を求めて中国へ進出している日本企業にとって中国との関係を再考する機会となっていると指摘した。4日付で環球時報が伝えた。
中国経済に詳しい東京大学の教授は「日本は中国の低労働コスト時代が終わりに近づいていることに気付き始めた。コスト削減のために中国に目を向けていた企業は方向転換する必要がある」と指摘する。しかし一方で、労働コストの上昇は生産コストに影響するものの、中国人の給料や生活水準の上昇につながり、日本の輸出企業だけでなく、現地で生産・販売する日本企業にとってもプラスとなる。(中略)
今回のストライキの原因は、給料の低さだけでなく、日本人社員との給料格差にもあり、日本人の給料は中国人の50倍にも達しているとされた。専門家は「日本企業は中国での雇用形式を変更する必要に迫られている。中国人労働者に日本人と同等の給料、福利厚生、昇格の機会を与える必要がある」と指摘している。【6月5日 Record China】
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上記記事でも指摘されているように、単に賃金水準の問題だけでなく、不公平感も絡んでいるようです。
“中国人民大学労働人事学院の楊立雄教授は、中国国内に展開する外資系企業で中国人の昇進機会が限られている点を指摘する。「ホンダ工場の場合、経営陣の大半は日本人。現地の中国人が昇進するのは非常に難しい上、月給も低く、労働条件も良くはない」
また、長きにわたる日中両国の対立の歴史を背景とした中国人従業員の日本人従業員に対する反感もある。今回のストでホンダの中国人従業員たちは、同じ工場で働く日本人の賃金は50倍だと訴えた。水野氏によると、中国人労働者の間には雇用側の日本企業に差別されているという気持ちが強く、「このほうがもっと感情的かつ根本的な問題で、政治的問題に発展する懸念もある」という。”【6月4日 AFP】
賃金上昇に伴う中国市場の購買力拡大についても、同様指摘があります。
“岡三証券の藤木宏和投資戦略部主任は、日本は価格面ではすでに周辺のライバル国に勝ち目はなく、競争できるのは高級品市場の需要に応える職人的な技術力の高さだと強調。ゆえに日本企業がターゲットとすべき層は、中間層から富裕層の消費者だと話している。”【同上】
長期的視点でみるなら、中国市場の購買力拡大、高級品需要の高まりは日本にとって大きなプラスとなるのではないでしょうか。
【技術革新のために求められる知的財産権保護】
中国経済に関しては、上記の賃金水準上昇の話のほか、他国技術の模倣・・・端的に言えば“パクリ”の問題が「iPad」絡みで話題になっています。
****自業自得?パクリが中国の技術革新を妨げる―独メディア****
2010年6月1日、ドイツの放送局ドイチェ・ヴェレによると、アップルのタブレット型コンピュータ「iPad」の発売から2か月も経たないうちに、その「パクリ版」が中国市場にお目見えしたという。4日付で環球時報が伝えた。
記事によると、その名は「iPed」。深セン市内の電子機器市場で他のコピー商品と並んで販売されている。その小売価格は700元(約9500円)、本物のiPadのエントリーモデルは499ドル(約4万5700円)だから、単純計算しても5分の1だ。
多くの外国人にとって、中国のコピー商品はもう珍しくも何ともない。コピー商品開発は中国の数十年の経済成長とともにあり、常にさらされる諸外国の批判をものともせず、中国はその「パクリ」技術を年々進歩させているという。
米シンクタンク・ヘリテージ財団の中国経済問題専門家、デレック・スィザーズ博士は、「(中国の技術盗用には)大企業もなす術がない。10年前なら中国に知的財産権を盗まれるのがいやなら中国でのビジネスを諦めろと助言したが、もう中国が全世界でビジネスを展開している」と話す。
記事は、現在の中国には他国技術の模倣から始めたかつての日本や韓国との共通点があるとしながら、その最大の相違点は、模倣商品製造技術が独り歩きしていることだと指摘した。本来なら技術の進歩はイノベーションを生み出していくものだが、模倣による利益が独自開発の利益を上回るとき、イノベーションが妨げられるとスィザーズ博士は考える。
同博士は言う。「知的財産権が保護され得ないなら、政府が進めようとしている技術革新は永遠に実現しないだろう。他人の技術を盗んでたやすく金儲けができても、自分が開発した技術が盗まれると分かっているなら、誰もそんな開発をしようとはしない。」【6月5日 Record China】
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もっとも、「iPad」のパクリ商品については、同じRecord China の別記事で、“予想に反してあまり売れていない”との指摘もあります。
“外観だけ似せた粗悪品を買うよりは、少々値段が張っても確かな性能の正規品を買った方が良いと考える層が増えているからだという”【6月5日 Record China】
中国企業にとっても、低賃金に依存した低価格商品の輸出に依存した形から、独自技術の開発に基づくイノベーションへ、経済構造の変革が求められる時代にそろそろさしかかってきたようです。