(各国の債務残高GDP比 日本財務省HPより http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/007.htm)
【与野党は「団結を」】
アメリカでは、上院の多数を占める与党民主党、下院の多数を占める野党共和党という、議会の“ねじれ”を背景に、ブッシュ減税の打ち切り期限と財政支出の強制削減期限が重なる年末、いわゆる“財政の崖”をどのように回避するかで、大統領・民主党と共和党の厳しい交渉が続いていました。
ホワイトハウスの報告書によれば、減税打ち切りの部分だけでみても、もしオバマ大統領が主張していた世帯年収25万ドル(約2100万円)未満の中間所得層に対する減税措置が年末で打ち切られた場合、今年の個人消費は金額にして2000億ドル程度減少、伸び率は1.7ポイント低下するとのことで、アメリカの実質GDP伸び率は1.4ポイント押し下げられると予測されていました。
当然、経済停滞に苦しむ日本を含む世界各国に大きく影響します。
一向に進展しない政治交渉に国民・経済界も苛立ち・不安を募らせ、“与野党は「Come Together(団結を)」―。米コーヒーチェーン最大手スターバックスは27日、米政府機関や議会などが集中するワシントン地区の各店舗で、顧客に渡す紙コップに店員が手書きでこのようなメッセージを書き込み、減税失効と自動的な歳出削減が重なる「財政の崖」回避に向け、与野党議員が協力して行動するよう呼び掛けた”【12月28日 時事】といった行動も報じられていました。
“崖”が目前に迫った年末の数日も、“合意間近”“予断を許さない”“見通し立たず”といった情報がメディア上で踊っていましたが、年末決着には間に合わず一時的に崖から転落したものの、1日に入りなんとか妥協点を見出したようです。
****米上院で法案通過、「財政の崖」ぎりぎりで実質回避*****
2012年末から13年初頭にかけて米国で減税の期限切れと政府支出の強制削減がほぼ同時に訪れる「財政の崖」への対応で、米与野党幹部は31日夜(日本時間1日昼)、「崖」の回避案に合意した。上院は1月1日未明(同午後)、関連法案を賛成89反対9の賛成多数で可決した。
下院は1日昼(日本時間2日未明)に採決する予定。法案は成立し、崖からの転落がぎりぎりで実質的に避けられる見通しとなった。
ホワイトハウスと米与野党幹部は、中・低所得者にブッシュ政権以来の減税を継続する一方、単身で年収40万ドル(約3400万円)、夫婦で年収45万ドル(約3900万円)以上の世帯には減税を打ち切ることで合意。1月から始まる政府支出の強制削減措置については、2カ月間延期することで合意した。
ただ、合意と法案のとりまとめに時間がかかったため、法律は「崖」を避けるための期限となっていた12月31日中に成立しなかった。年越しと同時に米国はいったん「崖」から転落し、全国民が形式上増税となった。
しかし米議会関係者によると、法案が1日に成立すれば、中・低所得者にはさかのぼって減税を継続する形になるため、米国民や米経済に対する悪影響は抑えられる。政府支出の強制削減はもともと1月2日に始まる予定だったため、これも回避できる。【1月1日 朝日】
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共和党議員は先の選挙では、増税案には賛成しないという「納税者保護公約」への誓約書にサインをしていました。
しかし、大統領選挙でのオバマ勝利を受けて強気の姿勢を崩さないオバマ大統領に対し、米CNNテレビが11月26日発表した世論調査では、“「財政の崖」回避に失敗した場合、非難されるべきは共和党だとの回答が45%に上ったのに対し、オバマ大統領との回答は34%にとどまった”【11月27日 時事】というように、富裕層への増税を一切拒否するという共和党の姿勢には厳しい視線も向けられていたこともあり、今回の妥協に至ったようです。
しかしながら、“政府支出の強制削減措置については、2カ月間延期する”という“先送り”であり、税制改革や財政再建の包括策合意に向けて、今後も与野党の厳しい交渉が続きます。
【後に控える連邦政府債務法定上限引き上げ問題】
更に、大きな問題がこの後控えています。
“政府支出の強制削減措置”が導入された契機は、11年8月の連邦政府債務法定上限引き上げ問題における民主・共和両党の硬直的対応で、政府機能の停止や国債償還問題が浮上し、一時アメリカがデフォルト(債務不履行)に陥るのでは・・・とも懸念されました。
その連邦政府債務法定上限引き上げ問題が、再度表面化しています。
****米国の連邦債務、大晦日に上限到達 特別措置検討****
米国のティモシー・ガイトナー財務長官は26日、米国の連邦債務残高が31日までに法律で定められた上限の16兆3900億ドルに達する見通しだと明らかにした。
ハリー・リード上院院内総務に宛てた書簡のなかで表明したもので、ガイトナー長官は上限到達を遅らせるための「特別措置」をとる考えだという。
米国では、減税の失効と歳出の自動削減発動のタイミングが重なる「財政の崖」の期限が31日に迫っている。【12月27日 AFP】
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“歳出の先送りや財務省証券の発行などで、三ヵ月程度は債務の増加を抑えることはできる。しかし、合意に至らなければ、連邦政府の歳出は年間三兆五千三百八十四億ドル、つまり月間支出三千億ドルの一割が自動的にカットされる。この問題が火を噴くのは三月か四月だろう。”【1月号 選択】
よもや“アメリカがデフォルト”などといった事態にはならないとは思いますが、その危険が浮上するだけでも国際金融市場は大きく動揺します。円相場への影響も当然でます。
更に、アメリカの財政危機の表面化は、日本の同じ問題の表面化を促すことにもなります。
巨額の国債残高を抱えながら、改革が一向に進まない日本の財政問題に火がつくと・・・・正月早々、不吉な話は止めましょう。
【「決められぬ政治」】
アメリカ政治の硬直化をもたらしている「決められぬ政治」については、厳しい指摘がなされています。
****米議会、懲りずに迷走 財政運営“ねじれ病巣”深刻****
「財政の崖」をめぐる米議会協議は難航を重ね、期限の大みそかまで持ち越された。ねじれ議会で与野党が非難の応酬を重ねる「決められぬ政治」と、喫緊課題の財政運営の迷走ぶりが改めて浮き彫りになり、世界経済を何度も危険にさらしてきた米国の“病巣”は深刻だ。
「30日までに合意できるよう最善を尽くす」
そう宣言していた民主党指導部のリード上院院内総務は12月30日、「今日はもう審議しない」と言い捨て、そそくさと議場を後にした。
28日の演説で「国民の我慢も限界に近い。今回もデジャビュ(既視感)があるからだ」とつぶやいたのは、ほかならぬオバマ大統領だ。
2011年も春の予算案をめぐる政府機関閉鎖(シャットダウン)騒ぎ、同年夏には債務上限引き上げ問題に伴う債務不履行(デフォルト)危機と、いずれの与野党協議も期限ぎりぎりまで時間を浪費し、米国のみならず世界を恐怖に陥れた。
与野党が責任を押しつけ合い、次第に感情的な批判にエスカレートするのもお決まりのパターン。共和党のベイナー下院議長が「民主党は歳出削減に真剣に取り組む気がない」と批判すれば、リード氏がベイナー氏に対し「(議長選を控え)財政強化より自身のポストの維持を気にしている」とやり返す。オバマ大統領も与野党の歩み寄りを期待するといいながら、再選直後で鼻息が荒く、協議の大詰めで「共和党の優先事項は富裕層の減税維持だ」と非難し、共和党側の態度を硬化させた。
「危機にもかかわらず党利党略に固執した」(CNNテレビ)醜態に注がれる視線は厳しい。「財政の崖」という言葉の生みの親のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は「議会の対立自体が不透明感を増幅する」と苦言を呈し、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事も「財政の崖は欧州債務危機に匹敵するリスク」と強く警告してきた。
財政運営の信認低下で米国債の格下げリスクもくすぶり、2期目を迎えるオバマ政権のかじ取りは厳しさを増しそうだ。【1月1日 産経】
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単に議会の“ねじれ”だけで言えば、そう珍しい話ではなく、これまでもあったことです。
「ティーパーティー」のような強硬な意見の台頭を背景に、政治における柔軟な議論ができなくなっていることが原因に思われます。
増税も行わず、福祉支出も減らさない・・・という選択は不可能になってきています。民主・共和両党とも、現実を直視した対応が求められています。
【格差が拡大するなかで失われる中間所得層】
政治の硬直化をもたらしているのは、厳しい経済環境ですが、基本的にはこの経済状況の改善が必要とされます。
アメリカ経済の問題点として、格差が拡大するなかで中間所得層が失われつつあることが指摘されています。
****中間層の復活 それしかない〈危機を越えて:1〉****
「100年に1度の危機」と呼ばれたリーマン・ショックから4年あまり。米国は高い失業率と政府の借金に頭を抱え、欧州ではなおユーロ通貨危機がくすぶる。一時は救世主と見られた中国など新興国は輸出がふるわず、日本の成長にも影を落とし始めた。
この先、世界経済はどうなっていくのか。処方箋(せん)はあるのか。各国の有識者にシリーズで聞く。1回目は、米国の元労働長官で、カリフォルニア大教授のロバート・ライシュ氏。
――米国経済の現状を、どうみていますか。
「回復の足取りは、きわめて遅い。中間所得層が失われつつあることが大きい。米国の経済の7割は、個人消費に依存しているが、その担い手である中間層が、もはや経済を持続的に回していくだけの購買力を持ちえていない」
――なぜそうなってきたのでしょうか。
「この傾向が始まったのは1970年代後半からだ。中間層は消費を続けるために、まずは主婦などの女性が働きに出た。次に、多くの人が長い時間働くようになった。それでも足りないので、多くの人は住宅などを担保にお金を借りて消費に回した。住宅価格が上がっている限り、それは足りないお金を補うことに役立った」
「やがて住宅バブルははじけ、借り入れすらできなくなった。2007年には国民の総所得の4分の1が人口の1%に集まっているが、これほどまでに一極集中したのは大恐慌直前の1928年以来のことだ。それほど、いまの米国は所得の格差が拡大している」
「元気な消費者がいなければ企業は投資しない。雇用も増やそうとしない。米国経済が、再び力強い成長の軌道にのるには、中間層の復活こそがカギになる。それ以外に方法はない。格差をそのままにすれば、いずれ政治的な不満として噴き出てくるだろう」
――政治的な不満とは、どんな形であらわれるのでしょうか。
「格差がうまく是正されないと、極端な主張をもった『第三極』が台頭しかねないとみている。3年後の16年、もしくは、その先の20年の米国の大統領選挙では、既存の民主党でもない共和党でもない、新しい政治勢力が国民の支持を得て、勢力を伸ばすこともありうる」
「最近は(保守の大衆運動である)『茶会』(ティーパーティー)のような極右が、連邦政府そのものを敵対視し支持を得てきた。米国では、こうした極端な政策は受け入れられてこなかった。茶会は一例だが、国民の政治への怒りが募ると、こうした極端な主張が力を持ってくる」
――オバマ大統領は、雇用を増やし、米景気を元気づけるために「製造業の復活」を掲げています。
「この先も、米国では多くの製造業が生まれるだろうが、それが劇的に復活することはないと思うし、雇用を増やすことに直接は、つながりにくい。製造業の製造ラインは今後ますますロボットなどでオートメーション(自動)化されていくので、多くの人手を必要としなくなる。生産拠点も海外に多い。(オバマ氏の主張は)理解するものの、必ずしも正しくない」
――米国のような経済格差は、世界的に広がっているのでしょうか。
「格差拡大の傾向は、すでに多くの国でみられる。中国やロシア、インドなど新興国でも富が富裕層に集まる傾向がみられ、実際、こうした国の経済成長も鈍くなっている。米国ほどひどくはないが、私は、日本でも格差の広がりは無視できないと考えている」
――中間層を復活させるには、どうすればよいのでしょうか。
「米国では、新しい仕事をうまく見つけられる再雇用制度や、所得階層が低い人たちへの教育の充実、公的医療保険の対象を広げることなどが考えられる」
「私は11月の大統領選の結果に希望をみた。(オバマ氏が再選されたということは)米国民は例えば富裕層への増税などを望んでいるというシグナルだ。格差が広がっていることをふまえれば、富裕層の最高税率引き上げなどは理にかなっている」
「私が主張し続けたいのは、経済は(だれかの利益が増えると、その分、別の人の損失が増える)ゼロサム・ゲームではないということだ。経済がもっとよくなれば、いまは富が集まっている富裕層にとってもよいはずだ」
――回復が鈍いとはいえ、米国経済は年2%前後の成長をしています。
「強さの秘密は、起業したスモールビジネスが育ち、ベンチャー企業への投資活動などが活発なことだ。これらが経済活動の『主力エンジン』の一つになっている。イノベーション(技術革新)は、経済の成長にとって、きわめて重要なものだ」
「残念ながら、日本にはそれがない。80年代に日本を訪ねたが、当時は新しい製品があふれ、米国人は日本に打ち負かされると本気で心配していたほどだ。ただ、日本には、人的資源があり、多くの金融資産もある。(国内総生産=GDPで)中国に追い抜かれたとはいえ、いまも世界3位の経済大国だ。強さを取り戻すことは十分に可能だと思っている」
◇
ロバート・ライシュ クリントン政権の1993年から4年間、労働長官を務めた。オバマ大統領に経済政策を助言した経験もある。著書に「暴走する資本主義」「余震 そして中間層がいなくなる」など多数。66歳。【1月1日 朝日】
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【景気回復の兆しも】
「回復の足取りは、きわめて遅い」とは言いつつも、アメリカ経済には明るい兆しも見えます。
****米失業率7.7%、4年ぶり低水準 堅調な個人消費支え****
米労働省が7日発表した11月の米失業率は、前月から0.2ポイント改善して7.7%となった。2008年12月以来、約4年ぶりの低い失業率となり、初めてオバマ政権発足前の水準となった。
景気の動きを映し出す指標として市場の関心が高い「非農業部門の就業者数」(季節調整済み)は、前月比で14万6千人の増加となった。増加幅は事前の市場予想(平均で9万人前後の増加)を上回り、同時に改定された前月の実績(13万8千人増)も超えた。
堅調な個人消費に支えられ、小売業や卸売業が雇用の確保を進めている模様だ。10月末に米東部を襲ったハリケーン「サンディ」の影響が懸念されたが、同省は「11月については大幅な影響はなかった」と分析している。
就業者数の増加幅は今年7月以降、5カ月連続で10万人台が続き、回復傾向をみせている。ただ、減税打ち切りと政府の歳出減が同時に訪れる「財政の崖」が迫り、米議会の対応次第では企業が再び雇用増に慎重になる可能性もある。 【12月8日 朝日】
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硬直した政治が足を引っ張らなければ、13年のアメリカ経済はそこそこ回復を見せるように思われます。
そうあってほしい・・・という年初の願いを込めた話ではありますが。