孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  「深刻な大気汚染」を連日記録 懸念される健康被害

2013-01-13 21:28:30 | 中国

大気汚染で日中でも見通しが悪い北京市内の道路 【1月13日 zakzak】http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20130113/frn1301131335002-n1.htm

測定可能限界超え?】
経済成長優先の中国で環境問題が深刻化していることは広く指摘されているところです。
大気汚染もそのひとつです。
北京オリンピック開催時には、このような環境でマラソン競技が可能なのか・・・といったことも話題になりました。さすがにオリンピック開催時には当局も工場の操業停止や車の規制などでなんとかしのいだようですが、基本的な問題はなんら解決されていません。

“北京市内の大気汚染状況は、当局の発表によれば十数年間連続で改善とされていますが、依然として深刻な状況が継続し、最近、大気の滞留しやすい自然条件も加わり、特に深刻な汚染が多発しています。”【在中国日本大使館HP】
北京オリンピック直後に観光で北京に数日滞在したことがありますが、確かに妙に霞んだ日がありました。それがスモッグなのか自然現象なのかは定かではありませんでしたが。

****各地で有害物質含む濃霧=呼吸器疾患急増、交通まひ―中国****
中国各地で1月上旬から連日、有害物質を含んだ霧が立ち込め、中国メディアによると、北京など33都市で12日、6段階の大気汚染指数で最悪の「深刻な汚染」を記録し、13日も続いている。
呼吸器系疾患の患者が急増し、高速道路の通行止めや航空便の欠航が相次ぐなど、市民生活にも大きな影響が出ている。

大気汚染の主な原因は、車の排ガスや工場の煙などから出る直径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質「PM2.5」。北京では12日、この物質の観測値が1立方メートル当たり75マイクログラム以下としている基準を市内全域で超え、半数の観測点で基準の10倍近くまで上昇。900マイクログラムを突破したところもあった。

北京市政府は屋外での運動をやめるよう通達を出しているほか、外出をできるだけ控え、外出の際はマスクを着用して公共交通機関を利用するよう呼び掛けている。【1月13日 時事】
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「PM2.5」の“900マイクログラムを突破”というのが、どこの発表によるものかはよくわかりません。
下記記事にあるように、そもそも北京当局観測体制の測定限度は最大500マイクログラムであるとのことで、現在の汚染はこの限界を超えているとも言われています。

****北京市内の大気汚染が危険水準、市と米大使館の測定値に大きな差****
北京市内は12日に厚いスモッグに覆われ、2日連続で大気汚染が危険な水準に悪化したため、住民は外出を控えるよう勧告された。同国国営メディアが伝えた。

国営新華社通信によると、北京市の環境警報センターは高齢者や子供、呼吸器や心臓に疾患のある人々に対し、外出や激しい運動をやめるよう通達した。
同センターによると、市内の大気調査で、肺まで到達する極めて小さな浮遊粒子の観測値が1立方メートル当たり456マイクログラムを記録した。「良好」な状態は100マイクログラム未満とされている。

ただ北京市内にある米国大使館のウェブサイトには、800マイクログラム超の観測値が掲載された。米大使館はインターネットの短文投稿で、北京当局の測定限度が最大500マイクログラムである点を指摘し、独自の測定結果が測定値の限界を超えたと述べた。

北京当局は昨年、外国大使館が独自の大気調査結果を公表することは違法との見解を表明している。ただ米当局は、海外在留市民に有益だとして、公表を止めない方針だと明言している。

新華社通信は環境警報センターの発表として、深刻な大気汚染があと3日間続き、天候条件によって粒子の拡散が止まるとの予想を示している。【1月13日 AFP】
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世論にせかされて新基準
従来、北京市環境保護局はより大きな粒子である「PM10」の測定結果のみを公表していました。
しかし、アメリカ大使館が測定発表している微細な粒子「PM2.5」に関する情報との乖離があり、北京当局の公表数値は危険の実態を表していないとの批判が中国国内でもありました。

****中国:もっと大気汚染測定を厳格に 北京市民****
北京の大気汚染度について市民の間に、測定方式を厳格化すべきだとの声が高まっている。
発端は在北京の米国大使館が発表する汚染度評価が、北京市環境保護局のものに比べ格段に厳しかったことだ。北京市側は「米大使館の測定方法にも議論の余地がある」などと反論したが、市民の間では米側の評価への信頼の方が高いようだ。

北京は晴天でもスモッグで曇って見える日が少なくない。米国大使館は屋上に設置した機器による大気汚染度の測定結果をツイッター上などで公表。連日「健康に良くない」、「危険」といった評価が並び、市民の関心を集めている。

一方で新華社などによると、北京市環境保護局は、今年1~10月までのうち239日の大気汚染度を「良い」と評価。これは米国大使館が大気中で、「PM2.5」と呼ばれる微細な粒子を測定しているのに対し、北京市環境保護局はより大きな粒子である「PM10」の測定結果のみを公表しているためだ。

中国青年報(8日付)は、北京市などの測定方法が「甘い」理由を「環境保護よりも経済成長を優先しているためだ」とする専門家の見方を紹介した。また、同紙の社会調査センターがインターネットを使ったアンケートを実施したところ、回答者の69.8%が政府の環境保護部門の測定結果は自分の実感に合っていないと答えた。

中国版ツイッター上などでは、米国大使館と同様の基準で測定すべきだとの声が高まり、北京市は観測センターを市民に開放して、技術スタッフによる説明を試みるなど世論対策に追われている。【2011年11月11日】
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こうしたアメリカ大使館発表数字と世論にせかされる形で、中国側も測定方法・基準を変更した経緯があります。
“2012年2月に新たな環境基準が発表され、PM10の年平均値を0.10mg/m3から0.07mg/ m3 へ改正するとともに、PM2.5の環境基準を新たに設定し、2016年1月から全国で施行することとし、北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタ等の重点地域、直轄市及び省都では2012年から前倒しで観測が実施されています” 【在中国日本大使館HP】

中国4都市で約8600人が死亡
中国新基準では「PM2.5」について、0~35μg/立方㍍が“優”、35~75が“良”とされています。
アメリカ・日本の基準では、、0~15μg/立方㍍が“優”、15~40が“良”となっています。
この違いについては、観測方法の差によるものなのか、中国の基準が緩く設定されているのかはわかりません。

アメリカ環境保護庁による健康アドバイスによれば、150~250μg/立方㍍の場合は、“心臓・肺疾患患者、高齢者及び子供は、すべての屋外活動を中止 それ以外のすべての者は、長時間又は激しい屋外活動を中止”となっています。
250μgを超える状況についての“アドバイス”はありません。そういう状況を想定していないということでしょう。
ですから、お役所の健康アドバイスといった類が安全サイドを過度に強調したものであったとしても、今回北京で観測されている“456”とか、あるいは“800超”“900”という数字は相当に危険な数字と思われます。

微小粒子状物質は肺がんや循環器疾患などを引き起こすとされており、これが原因で“中国4都市で約8600人が死亡している”との調査報告もあります。

****有害微小物質で8600人死亡、中国4都市で=調査****
北京大学と環境保護団体グリーンピースの調査によると、大気汚染をもたらす有害な微小粒子状物質(PM2.5)が原因で今年、中国4都市で約8600人が死亡した。19日付の国営英字紙チャイナ・デーリーが伝えた。

PM2.5による経済的損失は、北京、上海、広州、西安の4都市で10億ドル(約842億円)に上るとし、研究結果は世界保健機関(WHO)の指針まで水準を下げるよう求めている。そうすれば、8割以上の死亡を防ぐことができるとしている。

PM2.5は直径2.5マイクロメートル以下の有害微小物質で、肺がんや循環器疾患などを引き起こす。
中国政府は主要都市に対し、PM2.5の測定値を公表するよう求めていた。【2012年12月19日 ロイター】
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調査内容の妥当性については何とも言えませんが、“あの”グリーンピースが中国で北京大学と共同調査をしているということが驚きです。

中国当局の環境対策への“やる気”次第
“粒子状物質には、工場のばい煙、自動車の排気ガスなどの人為由来、黄砂、森林火災など自然由来のものがあります。また、粒子として排出される一次粒子とガス状物質が大気中で粒子化する二次生成粒子があります” 【在中国日本大使館HP】ということで、ゴビ砂漠・タクラマカン砂漠・黄土高原からの黄砂の影響は十分に考えられます。

それだけに、工場のばい煙、自動車の排気ガスなどの人為由来については徹底して抑える対応が求められるところですが、何事につけ“経済成長優先”の中国ですから・・・。
問題化するまでPM2.5について測定もしてこなかったということにも、その姿勢が表れています。
更に言えば、現在発表されている数字が信用できるのか・・・という疑念もすてきれません。
事故やトラブルがあっても“社会的影響に配慮して”隠ぺいしてしまう・・・といったことが往々にして見られる中国です。健康被害の責任を追及されかねないような数字を正直に公表するのでしょうか?

いずれにしても、中国共産党指導部としては、今後“成長一本やり”ではなく、環境対策への配慮もこれまで以上に求められます。
かつて公害問題に苦しみ、そこを乗り越えてきた日本の環境技術が役立つ余地は十分にあり、日中関係改善の道筋にもなれば・・・という思いはあります。
ただ、これまでも環境ODAとして相当の金額を日本から中国へはつぎ込んでいますが、十分な成果が上がったとは言い難いようです。
もとより、関係か悪化している“大国”中国への資金・技術提供には日本国内の反感も強いところです。
日本として協力できるかどうかは、中国当局の環境対策への“やる気”次第でしょう。
コメント
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