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(ラスベガスで移民制度改革案を発表するオバマ大統領 【1月30日 ロイター】http://jp.reuters.com/article/jpUSpolitics/idJPTYE90T01020130130)
国家の枠組みに関する最近の話題。
民族の分断で、国家の枠組み維持に苦慮するボスニア・ヘルツェゴビナ
不法移民の流入に悩みながらも、よりオープンな形で国家のアイデンティティを模索するアメリカ
国家の枠組みを超えて共同体を目指そうするEU
【「この国では個人の人権ではなく、『民族の一員』の人権しかない」】
ボスニア・ヘルツェゴビナでは、旧ユーゴスラビア連邦からの独立をめぐって1992年、イスラム教のモスレム人(ボシュニャク人)、カトリックのクロアチア人、セルビア正教のセルビア人の3勢力の間で紛争が勃発。
三つ巴の混乱に加えて、セルビア人勢力を支援するユーゴスラビア連邦軍の介入もあって戦況は泥沼化しました。
1995年には、イスラム教徒の男性約8000人が殺害された「スレブレニツァ虐殺事件」が発生するなど、「民族浄化」の言葉も生まれました。
1995年の「デイトン合意」で紛争は一応終結、ボスニア・ヘルツェゴビナとして独立したものの、ボシュニャク人とクロアチア人を中心としたボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、セルビア人のセルビア人共和国に内部的に分断され、国家は3民族の不安定な均衡の上に成立しています。
中央政府の首相は事実上、3民族による輪番制になっていますが、2010年10月の総選挙後の組閣では、首相や閣僚ポスト配分を巡って難航し、新首相が決定するまで1年3カ月を要しています。
セルビア人からは分離を求める動きが絶えません。
分断は政治だけでなく、同じ小学校なのに民族・宗教ごとに教室や授業まで異なるといったように、教育・市民生活にまで及んでいます。
****国勢調査、対立の火種 ボスニア・ヘルツェゴビナ、また延期へ****
1992~95年の内戦後、正確な人口統計を持たないボスニア・ヘルツェゴビナで22年ぶりに決まった4月の国勢調査が、再び延期されそうだ。人口構成の変化が民族間の対立感情再燃というパンドラの箱を開きかねないからだ。
●3民族の均衡危うく 「政争の代用品に」
《35%が「ボスニア・ヘルツェゴビナ人」》
11月初旬、主要紙にそんな見出しが躍った。本番の国勢調査を模し、一部地域で行われた試験調査が終わった直後のことだ。
最後の国勢調査は内戦に陥る前で旧ユーゴスラビア連邦時代の91年。当時の民族構成は、今はボシュニャク人と呼ばれるモスレム人が44%、セルビア人31%、クロアチア人17%。「その他」に当たる回答をした人は8%に満たなかった。記事は、試験調査で3民族の一部を上回る数の人が「その他」を選び、「ボスニア・ヘルツェゴビナ人」と答えたという内容だった。
「誰かが何かの目的で流した(偽の)情報だと考えざるを得ない」。ズデンコ・ミリノビッチ政府統計局長は頭を抱える。試験調査は技術上の問題点を調べるためで、集計結果はまとめていない。そんな数字があるはずはないのだ。
内戦後、国勢調査は民族対立を理由に見送られてきた。2001年に予定された調査はボシュニャク人勢力が難民帰還を待つよう主張。11年を目指した法案も、民族や宗教を問う質問をどう扱うかで頓挫した。
91年の人口は440万人。内戦を経て政府推定は現在380万人だが、300万人程度との見方も。国民の年齢分布が不明で社会福祉政策も作れない。
だが、待望の調査実施を前にミリノビッチ統計局長は「あらゆる方向から政治的圧力を感じる」という。
95年和平合意の一部である現憲法は、「構成民族」と呼ばれる3民族の権力均衡が基本だ。国をボシュニャク人とクロアチア人を中心としたボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、セルビア人共和国に分け、3民族から各1人の幹部会員が8カ月交代で国家元首を務める。議会も定数15の上院は5議席ずつ割り振られる。
このため、3民族の一部がその他民族を下回ると、その勢力は権力分割の正当性を問われかねない。
民族を問う質問に「回答を強制すべきではない」とする欧州連合(EU)などの求めで、「答えない」の選択肢が加わった。質問を外すことが検討されたが、セルビア人共和国が強い権限を持つことを望むセルビア人勢力が強硬にこだわった。
調査を監視する非政府組織(NGO)のティア・メニシェビッチ代表は「この質問で国勢調査が政治闘争の代用品に代わってしまった」と話す。EUなど国際監視機構は12月、政府に半年延期を勧告した。
●帰属意識に変化
すべてが「二度と民族紛争を起こさない」ために設計された今のボスニア・ヘルツェゴビナを、「人工国家」と揶揄(やゆ)する人もいる。
中央、連邦、セルビア人共和国のほか中立都市、連邦10州にそれぞれ「政府」があり、すべての議会、官庁で民族均衡の原則が働く。公共機関は民族構成比に配慮して職員を採用。ある国会議員は「冬タイヤの基準を決めるのも3民族合意」と自嘲的に語った。
ただ、民族への帰属意識は、突きつめれば個人の考え方の問題。国民の意識には変化も生まれている。地方と都市部の差はあるが、国連開発計画(UNDP)が07年の調査で3580人にそれぞれの民族と「ボスニア・ヘルツェゴビナ国民であること」のどちらにより帰属意識を感じるか聞くと、43%が後者を選んだ。
政治参加を促進するNGOを運営するダルコ・ブルカン氏(33)は「『ボスニア・ヘルツェゴビナ人』意識は言われているより広がっている」と話す。
「でも、政治は民族別だからそんな声を反映しない。政府は意思決定ができず、経済発展もない。私たちはいらだっている」
3民族の権力分割を定めた憲法は今、改正を求める国際圧力にさらされてもいる。欧州人権裁判所(ストラスブール)は09年、「幹部会や上院議員への立候補が認められないのは人権違反」とするユダヤ人のヤコブ・フィンチ元スイス大使の訴えを認めた。判決は権力分割が和平をもたらしたと認定する一方、少数民族の権利を認めるよう求めた。
フィンチ氏は「少数民族のために訴えたのではない。この国では個人の人権ではなく、『民族の一員』の人権しかないことを明らかにしたかった」と話す。
判決から3年。国勢調査が実現すれば、憲法改正が議会の最大の焦点になる。
ボシュニャク人の最大勢力、民主行動党のハビッド・ゲニャツ幹部会議長は「この国に権力分割は絶対必要だ。少数民族の権利の問題は『その他』民族を構成民族に加えれば解決できる」とする。一方で「すべてが市民ではなく、民族の問題になってしまうのは(民族分離が進む)地方の権限が強すぎるから」とセルビア人勢力への牽制(けんせい)も忘れなかった。 【1月30日 朝日】
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ボスニア・ヘルツェゴビナについては、憎しみ合う民族をひとつの国家の枠組みに縛りつけることの無意味さを以前のブログでも取り上げたことがありますが、ただ、分離したとしても話は簡単ではありません。
「『ボスニア・ヘルツェゴビナ人』意識は言われているより広がっている」・・・というのが事実なら、今後に希望が持てます。しかし、民族を超えて“市民”として国民和解に至るまでには、長い時間が必要とされるようにも思います。
【「アメリカ人の条件は血縁や出生地だけじゃない。国の基盤となる原則に忠実であることだ。」】
移民の国アメリカは、今も多くの不法移民を抱え、その扱いが政治的にも大きな問題となっています。
大統領選挙の勝利という“実績評価”を得て2期目に入ったオバマ大統領は、ここ1~2年が政治的には一番力を発揮できる時期ですが、やはり大きな政治課題である銃規制への取組と並んで、移民問題についても、よりオープンな国家枠組みを目指す方向で動きを見せています。
****もっとオープンになるオバマのアメリカ****
政権2期目の目玉として、オバマは不法滞在者1100万人に市民権を与えるなどの改革案を打ち出した
1月29日、ネバダ州ラスベガスのデルソル高校に意外な人物がやって来た。バラク・オバマ米大統領だ。
不法移民問題を政権2期目の重要課題として掲げるオバマはこの日、自らの包括的な移民制度改革案を発表する演説会場として、ヒスパニック系の生徒が半数以上を占めるデルソル高校を選んだ。
「アメリカは移民の国だ」と、大統領は聴衆に向かって語りかけた。「今こそ常識的で包括的な移民制度改革に取り組むべきだ」
この前日には、共和党のジョン・マケイン上院議員や民主党のチャック・シューマー上院議員ら超党派の有力議員たちが、包括的な移民法案の骨子で合意。オバマはこれを示唆しつつ、「長い年月を経て初めて、共和党と民主党がこの問題に一緒に取り組む気になったらしい」と期待を示した。
「アメリカ人の条件」を問い直す
しかし同時に、「とりとめのない論争のせいで、移民制度改革が滞ることは許されない」とけん制。意見対立が再燃して議会の調整がなかなかつかない事態となれば、自分の提案内容で法案成立を主導すると、強い姿勢を示した。すると、会場からは歓声が沸き上がった。
今回の改革案で、オバマは三つの大きな柱を打ち出した。1つ目は、国境警備や違法な就労の取り締まりの強化。2つ目は、1100万人に上る不法滞在者に市民権の付与を認める道を開き、具体的な申請の条件やプロセスを定めること。そして3つ目は、市民権を取得した住民が国外の家族を呼び寄せたり、外国人学生が卒業後にそのままアメリカで事業を始めたりしやすくなるよう、制度を改革することだ。
「この問題に力を入れるほど、感情的な論争が高まるだろう」とオバマは語った。「アメリカ国民である『我々』と、移民である『彼ら』。そんな感覚で議論が広がりがちだ。かつては『我々』も『彼ら』だったことは簡単に忘れてしまう。先住民でない限り、誰もがどこかからやって来たのに」
そして、こう訴えた。「アメリカ人の条件は血縁や出生地だけじゃない。国の基盤となる原則に忠実であることだ。これは単なる政策の議論ではなく、人間に関する議論なのだ」【1月30日 Newsweek】
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これまで移民対策について閉鎖的な対応を主張してきた共和党は、昨年の大統領選で移民の多くを占めるヒスパニック系の支持を得られなかったことが敗北要因の一つになりました。
今後、有権者に占めるヒスパニック系の比重はますます増大します。
このため共和党内部にも、党勢立て直しに移民制度改革での柔軟な対応が必要との見方があることが、財政問題など民主・共和両党の対立で身動きがとれないことが多いオバマ大統領にとっては追い風となっています。
もっとも、共和党は国境警備の強化が先決という立場でオバマ大統領とは異なっています。
【「グローバル化した世界で欧州の一国はごく小さいが、欧州がまとまれば指導的役割を果たせる。」】
既存の国家の枠組みを超えて、共同体として更に深化し「欧州合衆国」を目指すというのがEU。
イギリスのようにEU離脱が話題になる国が存在する状況で、どこまで現実味のある話なのかは知りませんが、“構想”として語られるだけでも驚きがあります。
****EU:20年までに「欧州合衆国」 欧州委副委員長、議会強化を提唱****
欧州連合(EU)の内閣にあたる欧州委員会のビビアン・レディング副委員長(司法担当)=ルクセンブルク=が毎日新聞のインタビューに応じ、20年までにEUの基本条約を改正し、「欧州合衆国」を作る構想を明らかにした。欧州議会を強化し、議会が選ぶ内閣を設置、各国首脳の会議が監視機能を果たす内容。欧州債務危機でEUへの不信感は高まっているが「だからこそ市民はEUの変化を求めている」と改革に自信を見せた。
キャメロン英首相がEU離脱の是非を問う国民投票を実施する方針を示したことについて「グローバル化した世界で欧州の一国はごく小さいが、欧州がまとまれば指導的役割を果たせる。一つの加盟国の一部のEU懐疑派にEUの将来を決めさせることは許さない」と厳しく批判。単独行動は「政治的に誤った方向だ」と指摘した。
EUは各国首脳で構成される欧州理事会が最高の権力機関。欧州委がその決定を執行する内閣にあたり、欧州議会が法律をチェックする。ただ、議会に立法権がなく、欧州委より各国首脳の欧州理事会の方が力が強い構造になっている。首脳間で政策が決定されることが多く、不信感を呼ぶと指摘されている。
副委員長は欧州委のナンバー2で、条約改正や将来構想に影響力を持つ。副委員長は、欧州債務危機で共通通貨ユーロや中央銀行の欧州中央銀行(ECB)はあるのに共通の財政・経済政策がない欠点が指摘されたことを念頭に「危機はもっとEUが統合すべきであることを示した」と主張し、政治・経済統合の重要性を指摘した。
副委員長構想によると、権力の「正統性を高める」ため欧州議会の権力を強化し、内閣は議会が選ぶ。各国首脳の会議が米上院のような役割を果たす2院制を導入する。
14年の欧州議会で是非を問う。その上で15年に各国政府、議会、欧州議会、欧州委が参加する「制憲会議」を発足させ、18年までに憲法にあたる新たな基本条約案を策定。各国の国民投票を経た後20年までに施行する。【1月29日 毎日】
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