孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  ポスト中国「東南アジアの時代」をリード 労働争議、イスラム主義などの問題も

2013-01-24 22:42:15 | 東南アジア

(インドネシアだけでなく東南アジア各国で普通に見られる光景ですが、アチェ州のある都市では女性の後部座席へのまたがり座りが“シャリアに反する”と禁止されるそうです。イスラムの教えに反するかどうかはともかく、横座りは恐ろしく危険です。 “flickr”より By jahat http://www.flickr.com/photos/jahat/3308930680/

東南アジア諸国の成長に期待が集まる
中国の昨年のGDP伸び率は7.5%にとどまり、今後数年の伸びも同程度、もしくはそれ以下の数字になると予測されている。
日本からすれば“とどまる”というレベルではありませんが、10%前後の伸び率でここ10年ほどの世界経済を牽引してきた勢いは陰りを見せているようです。
種々の問題に加え、長期的に見ても、一人っ子政策によって歪みを持った人口構成が急速に高齢化することから、経済的には重い足かせがあるように思われます。(その点では日本も同じ問題を抱えていますが)

中国に変わって成長の中心になるのでは・・・と期待されているのが東南アジア・ASEAN諸国です。
“域内の人口は6億人を超えており、約5億人の人口を抱える欧州連合(EU)より多い。2010年の加盟国の合計のGDPは1兆8000億ドル(約145兆円)であり、日本のGDPの約30%の規模である”【ウィキペディア】という現状ですが、今後域内の関係が深まれば更に大きな経済圏に拡大する可能性を秘めています。

****東南アジアの時代がやって来る*****
賃金上昇や差別的な慣行で中国リスクが高まるなか、新たな自由貿易圈の構築に向かう東南アジア諸国の成長に期待が集まる   ブライアン・クライン(元米国務省中国経済担当官)

大きく膨らむ中流層、世界不況を尻目にした堅実な成長、資源豊かな海と川、整備が進むインフラ・・・これらの言葉はかつて中国に対する褒め言葉だったが、今は違う。中国は自らの繁栄の重圧で成長に陰りを見せている。

一方、アジアの有望市場であるASEAN(東南アジア諸国連合)の10カ国では発展が止まらない。東アジアの影に隠れていた東南アジアが、ついに自立の時を迎えようとしている。
今やASEANのGDP(購買力平価換算)は約3兆ドルと、中国経済の約3分の1の規模になる。
貿易や投資の促進政策のおかげで域内の絆も強まった。いずれは中国との競合や軍事的な対立もあり得るため、嫌でも協力強化に向かう必要がある。

多国新企業は既に気付いている。知的財産権の侵害が心配なら、生産拠点を中国の深川ではなく、インドネシアに置いたほうがいい。貿易の自由化が進んでいるから、中国には関税なしで輸出できるはずだ。
人件費の高騰で悩むなら、国際的な港湾や航路にアクセスしやすく、かつ人件費が安いベトナムやインドネシア、バングラデシュ、カンボジアに生産工場を移したらどうか。高い技術を必要としない労働力なら、こうした国には山ほどある。

東南アジアの台頭はしっかりした基盤に支えられている。これら諸国の大半は、既に農業からサービス業へと比重を移している。これは経済が円熟した証拠だ。アジア開発銀行によると、資源が豊かなフィリピンやベトナム、ラオス、カンボジア、インドネシアでも、過去10年で農業への依存度が24~50%も減少。GDPに占めるサーービス業の割合は、3分の1~4分の3近くになっている。

域内の結束も深まっている。15年の構築を目指すASEAN経済共同体は、東南アジア全域を自由貿易圏にするのが目的。トラック部品をタイから関税なしでインドネシアに運び、現地の工場で組み立てるようにすれば、ASEAN全体で工業技術の水準が上がるだろう。(後略)【1月29日号 Newsweek日本版】
**********************

東南アジアの経済成長の牽引役
もちろん今後の課題は多く、上記記事でも後半はその指摘にもなる訳ですが、その話は今回はさておき、ASEAN諸国のなかでも最大規模の経済を持つインドネシアを取り上げます。

****インドネシア 消費ブームに乗った「稼ぎ頭*****
外国メーカーを引き付ける市場の魅力と課題

世界最大のイスラム国家、1万数千の島々、エキソチックなバリ島……。今のインドネシアを表現するにはそんなイメージよりも、「東南アジアの経済成長の牽引役」というほうがふさわしいかもしれない。
先進国が景気後退や緊縮財政、デフォルト(債務不履行)危機や成長率の低迷に苦しむなか、インドネシアは不況とは無縁だ。
GDPは過去10年間で2倍になった。12年の成長率は11年の6・5%から6・3%に「低下」したが、辛うじて2%の伸びを達成したアメリカから見れば羨ましい限りだ。

「インドネシアはASEAN全体のGDPの50%近くを占める。ある意味、東南アジアの稼ぎ頭だ」とオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の東南アジア担当エコノミスト、アニンダ・ミトラは言う。
経済規模は1兆ドルに迫る勢いだ。既に東南アジア最大で20カ国・地域(G20)でも16位だが、経営コンサルティング会社マッキンゼーの予測では30年までにイギリスやドイツを抜き、消費人口は9000万人増加する。

人口2億4200万人のインドネシアが快進撃を続ける理由はどこにあるのか。
慎重な金融政策と通貨安によって対外債務が減少した結果、民間部門も政府部門も収支が改善。投資はパームオイル、石炭、鉱物資源などさまざまな産業の追い風になっている。
経済成長の牽引役は堅調な国内需要で、製造業や輸出に比べて国外の状況の変化に左右されにくい。若い労働力や中間層の成長も、消費の堅調な仲びに貢献する。(中略)

政府もこの機を逃すまいと必死だ。13年は経済発展が外交政策の重要な要素になるとマルティ・ネタレガワ外相は語った。具体的には貿易、投資、観光、食糧・エネルギー安全保障の分野で戦略的パートナー国と2国間関係を改善することが優先課題だ。「各国の潜在力および可能性を踏まえて、どの分野での協力を優先するか微調整する」

職業訓練にも熱心で、昨年11月のASEAN技能コンテストでは自動車やIT(情報技術)関連の部門で勝利し、ベトナムやタイを抑えてトップになった。
PR力も向上した。昨年夏にロサンゼルスで開催した「第1回在外インドネシア人会議」には20を超える国から2000人以上が集まった。

とはいえ政府の目標は中国並みの年7%成長だ。達成するためにはさまざまな障害を速やかに排除する必要がある。肥大した官僚主義、インフラの不備、資本調達の困難さ、もちろん腐敗も、だ。
労働問題という火種も(中略)

労働者の不満も芽のうちに摘み取らなければならない。昨年12月には自動車部品大手のミツバとトヨタの現地法人が1300人を解雇したのを受けて、ジャカルタの日本大使館前で大規模な抗議デモが行われた。
インドネシア労働力・移住省によれば正規雇用は労働者全体の30%止まり。企業は競争力を維持するにはアウトソーシングが必要だと主張している。(中略)
重要なのは労働問題を速やかに解決できるかどうかだ。企業と労組の溝が広がれば国の成長を阻害するばかりか、悪くすれば暴動に発展しかねない。

初等教育でインドネシア語と「愛国心」を重視し、英語などの授業を減らす方針も成長の足かせになる可能性がある。英語力が依然として国際競争力を高める鍵の1つだということが分かっていないようだ。【1月29日号 Newsweek日本版】
**********************

“インドネシアの富豪の数は日本より多い。東南アジア最大の経済を誇るこの国では、拡大する中流層が世界経済の減速をよそに消費し、新たなモノやサービスを売る企業の価値を押し上げている。
フォーブス誌インドネシア版が今週発表した富豪リストに、過去最多の32人(一族)が登場。日本の28人を上回り、昨年の26人から増加した。”【12月5日 The Wall Street Journal】といった話も、インドネシア経済の好調さを物語るものでしょう。

一般に、安い労働力に支えられた経済成長は長続きせず、技能開発が進まないと付加価値の高い製品の製造と賃金上昇が見込めない「中所得国の罠」が存在しますが、インドネシアの場合、“職業訓練にも熱心で、昨年11月のASEAN技能コンテストでは自動車やIT(情報技術)関連の部門で勝利し、ベトナムやタイを抑えてトップになった”とのことで、将来的に“罠”を抜けることも期待できます。

【「警察官に賄賂を渡すのは、普通の行為」】
問題点として挙げられている、社会全体にはびこる“腐敗”は、経済問題は別にしてもインドネシアが今後優先的に取り組むべき課題です。

****インドネシア:警官に賄賂「当たり前」が3割…意識調査に****
「汚職大国」とやゆされることもあるインドネシアの中央統計局は4日までに、汚職に関する国民の意識調査の結果を公表、回答者の32%が「警察官に賄賂を渡すのは、普通の行為」と答えるなど社会生活の隅々に汚職体質が染み込んでいる実態が明らかになった。

ユドヨノ政権は汚職撲滅を最優先課題としているが、昨年は与党元幹部が汚職で逮捕され、現職大臣が収賄疑惑で辞任に追い込まれるなど改善の兆しは一向に見えない。好調な経済を支える外国からの投資への悪影響も懸念されており、対策が急務となっている。
昨年10月の調査は全国各地の1万世帯を対象とし回答率89%。【1月4日 毎日】
*******************

労使間の深い溝
頻発する労働争議の背景には、経営サイドからは「いったん正規雇用したら基本的に自主退社以外は認められない」現行労働法の問題、労組サイドからは、派遣など外部委託によって雇用者の賃金が低く据え置かれている現状が指摘されています。

****インドネシア:労働者の待遇改善求めるデモ頻発****
日本企業の進出が加速するインドネシアで、待遇改善を求める労働者の動きが活発化している。
日系工場が集中する首都ジャカルタ近郊の工業団地では賃上げや正社員化を求めるデモや妨害行為が頻発。労働組合に弱腰な政府に反発する経営者側は、工場などを一時封鎖するロックアウトで対抗する構えを見せ、投資環境の悪化が懸念されている。

インドネシアでは所得格差が広がり労働者の不満が高まり、労組は最低賃金の引き上げや派遣労働など外部委託廃止と派遣労働者の正社員化を要求。先月の全国規模のゼネストは全国21の県・市で200万人(労組発表)が参加した。

その後もデモや就業中の労働者を工場外に連れ出してデモ参加を強要する「スウィーピング」と呼ばれる妨害行為が続いている。社員を脅迫して外部委託廃止の「誓約書」に署名を強要する事件も多発しているが、警察の積極的な取り締まりは行われていない。
 
◇日系企業も標的
日系企業も標的となっている。トヨタ自動車の現地法人が「派遣社員を違法に解雇した」として労組メンバーら約500人が先月18日、ジャカルタの日本大使館前で抗議デモを展開。トヨタ側は「違法な点はない」と反論している。日系企業約500社が加盟する「ジャカルタ・ジャパン・クラブ」(JJC)によると6月以降、約50社がスウィーピングなどの被害を受けた。(後略)【2012年11月22日 毎日】
*****************

【「愛国心や国民性を傷つける」】
【1月29日号 Newsweek日本版】記事のラストにある英語教育後退の話の背景には、イスラム主義の高まりという深刻な問題もあるように見えます。

****英語のみで授業行うコースは違憲…インドネシア****
インドネシア憲法裁判所は、一部の学校で英語のみによる授業を行う「国際コース」制度は違憲だとする判断を下した。

国際コース制度は2006年度から導入され、公私立合わせて全国約18万の小・中・高校の中から指定を受けた約1300校で英語による授業が行われている。授業料は通常課程より高額となる。このコースについて、市民活動家らが「教育の機会均等を妨げる」として違憲審査を求めていた。

8日の判決は、国際コース制度が児童・生徒の差別的待遇を助長するとして活動家らの主張を認めるとともに、外国語のみの授業は「愛国心や国民性を傷つける」と指摘した。

裁判長のマーフッド憲法裁長官は、清廉な人物として国民的人気が高く、14年の大統領選出馬も取りざたされているが、ナショナリスト的傾向も指摘されている。昨年11月には、国の石油・ガス事業監督機関が「外資寄りで汚職の疑惑が絶えない」とするイスラム主義団体の主張を認めて同機関の設置法に違憲判断を下した。同機関は即刻廃止された。【1月10日 読売】
*******************

上記の“愛国心や国民性”にもかかわりますが、【1月29日号 Newsweek日本版】で指摘されていないインドネシアの抱える大きな問題が、イスラム主義の今後の動向ではないでしょうか。

【「女性がまたがる姿はアチェ文化とシャリアに反する」】
下記記事は、イスラム国家インドネシアでもイスラム色の強いスマトラ島アチェ州の話題です。

****インドネシア:またがり座り規制に「女性差別」の声****
女性の権利に厳格なイスラム法(シャリア)の施行が認められているインドネシア・スマトラ島アチェ州で、女性がバイクの後部座席にまたがって座ることを禁止する規則が導入されることになり、波紋が広がっている。
足をそろえた「横座り」以外は罰則の対象で、人権団体は「明確な女性差別で、危険でもある」と批判。フェイスブックなどネット上では「正しい乗り方」と新規則を皮肉る写真も登場している。

女性の「またがり座り禁止」を導入するのは同州北部ロクスマウェ市。「女性がまたがる姿はアチェ文化とシャリアに反する」とのイスラム聖職者団体の提言を受けた市長が2日、規則を定めた文章に署名した。数カ月の試行期間を経て施行される予定で、施行後は足をそろえた「横座り」以外の座り方は罰則の対象になる。

地元人権団体の責任者は「(イスラム教の聖典)コーランに女性の座り方の規則などない」と市当局の対応を批判。「(市は)貧困撲滅など、もっと優先度の高い問題に取り組むべきだ」と訴えている。

インドネシア北西端のアチェ州は同国で最も早くイスラム教が普及した地域の一つで厳格な信者が多い。特別自治法に基づきシャリア施行が認められている。
州内では近年、女性のスカート着用が義務付けられ、パンク音楽ファンの若者が宗教警察に頭を丸刈りにされる事件も起きている。人権団体によると、「シャリアに反する」との理由で起きた暴力事件は昨年だけで50件に上り、増加傾向にある。【1月5日 毎日】
****************

拡散する小規模テロ
インドネシアのイスラム原理主義と言えば、イスラム地下組織ジェマ・イスラミアが想起されますが、現在ではその分派・残党による小規模テロが拡散している状況のようです。

****インドネシア:小規模テロ頻発 警察やキリスト教会標的に*****
10年前のバリ島爆弾テロ事件以来、毎年のように大規模無差別テロが続いたインドネシアで、イスラム武装組織による小規模テロが頻発している。標的は警察やキリスト教会で、テロ事件を専門とする弁護士は「復讐(ふくしゅう)が新たな目的」と指摘する。過去にイスラム教徒とキリスト教徒の衝突が起きた地域では宗教紛争を再燃させようという動きもある。

90年代末にイスラム教徒とキリスト教徒の大規模な武力衝突が起きた中スラウェシ州ポソでは9月以降、警官襲撃や教会放火が相次ぎ、7日には警察がテロ組織の訓練基地と見られる施設を摘発。15日には地元警察署長の自宅が銃撃を受けた。(中略)

02年以降の一連の大規模テロを主導したイスラム地下組織ジェマ・イスラミア(JI)は、イスラム国家建設という理想を掲げ、アフガニスタンやパレスチナでイスラム教徒を弾圧したと主張し、米国や豪州を激しく憎悪した。その結果、米系高級ホテルや豪州大使館、外国人が集まるバリ島の歓楽街を爆弾テロの標的とした。

だが、JIはその後、治安当局による掃討作戦で弱体化。過去10年間に逮捕されたメンバーは800人を超え、約60人が殺害されたとされる。09年7月にジャカルタの米系高級ホテルで起きた爆弾テロ以降、大規模テロにかわって、警察を狙った小規模のテロが続発する。

バリ島爆弾テロの主犯格や、最近の警官襲撃事件の実行犯など100人以上のテロ犯の弁護を担当したアヒヤル弁護士は「聖戦を続けるイスラム過激派の主目標が、警察への復讐と宗教紛争への準備に変わった」と話す。AP通信も「10年に複数のイスラム過激派の宗教指導者が(テロ対象を)西洋人から国内の標的に変えるよう呼びかけた」と報じており、テロの形態が変化していると見られる。

アヒヤル弁護士は新たな組織の特徴について、JIやその分派組織の残党らが各地で結成▽規模は5人前後の少人数▽自前で爆弾を製造し独自に活動−−と分析。また、JIに近いテロリストが、ポソやアンボンでの宗教紛争に備えて軍事訓練をしていたという。【2012年11月23日 毎日】
******************

こうしたイスラム主義の拡大、イスラム過激派テロの増大は、外国企業のインドネシア進出をも阻害しますが、それ以上に、インドネシア国民の生活を大きく制約するものとなります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする