孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  14年末の外国部隊撤退 和平を探る動きはあるものの、内戦・混乱の不安も

2013-01-08 23:16:20 | アフガン・パキスタン

(1月4日 カブール旧市街の様子 着飾った子供の手をひく母親の姿は、世界の他の都市と同じような平和を感じさせます “flickr”より By benbruise http://www.flickr.com/photos/benbruges/8350437282/

【「外国部隊撤退が進む年内に和平交渉が行われる可能性は高い」】
アフガニスタンでは、米軍など外国部隊の2014年末までの撤退を控えて、政府とタリバンの間の和平を探る動きが出ているようです。ただし、いまのところは“探る”段階であり、今後の見通しも“これから”といった感はありますが。

****アフガン政府VSタリバン 和平模索も 埋まらぬ溝 パキスタン協力姿勢****
民主主義VSイスラム法 統治に相違

アフガニスタンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)の撤退を2014年末に控え、アフガンで政府とイスラム原理主義勢力タリバンとの和平を探る動きが活発化している。
アフガン側が、隣国パキスタンに働きかけて、拘束中のタリバンのメンバーを釈放させるなど、対話実現への呼び水としようとする一方、タリバン側も国外の会合で対話に応じる姿勢をちらつかせている。
ただ、和平実現に向けた双方の要求の隔たりは大きく、情勢は依然厳しい。

パキスタン政府は昨年11、12月、タリバンとの和平交渉に取り組むアフガン高等和平評議会の求めに応じ、旧タリバン政権時代の元法相や元州知事らを含む26人の身柄を釈放した。
パキスタンはタリバンなど武装勢力を保護し、アフガン和平の障害になっていると非難されてきた。そのパキスタンが協力的な姿勢をみせたのは、パキスタン自身、ISAF撤退後、アフガン情勢の不安定化に伴って国内のイスラム過激派との戦いが激化することを警戒しているからだ。

アフガン政府も最近、ISAFに逮捕された122人をカブール近郊バグラムの収容施設から釈放。今後も収容者が順次釈放される見通しだ。和平交渉実現へ向けたアフガン政府による地ならしの一環といえる。

一方、タリバン側は「米国の手先のカルザイ政権とは直接交渉しない」との立場に変わりはないが、昨年12月にパリ郊外で開催された、仏シンクタンク主催のセミナーに代表者を送った。その場で和平交渉に関する協議はなかったとされるものの、カルザイ大統領は会議の開催を歓迎した。
タリバン側は昨年6月にも京都で開催された同様の会議に代表者を出すなど対話への関心があることを示唆した。

アフガン政府はタリバンが戦闘を停止すれば、来年の総選挙でタリバンが政治参加する和平の枠組みを描く。アフガンの政治評論家、モハンマド・ハッサン・ハキヤー氏は「タリバンが政府側と戦う主な理由は外国部隊の駐留であり、部隊撤退が進む年内に和平交渉が行われる可能性は高い」と分析する。

しかし、かつてタリバンと内戦を繰り広げた旧北部同盟の政治組織、国民戦線のアフマド・ベフザド下院議員は「政府とタリバンとの間の和平に向けた交渉はまったく進展がない。アフガン政府にも和平の機会や環境を作り出す力がない」と話す。
ハキヤー氏は「問題は、アフガン政府や支援国が民主主義国家を求めているのに対し、タリバンはイスラム法による統治を主張していることだ」と両者間の根本的な溝を指摘する。

タリバンは5日、インターネットのサイトで「ISAF撤退後に米兵が一人でも残っていれば戦闘は止めない」などとする声明を発表。カルザイ大統領が7日からの訪米で、オバマ米大統領とISAF撤退後の協力などについて協議することを強く牽制(けんせい)した。【1月8日 産経】
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タリバンの勢いに翳りも
こうした“和平を探る”動きの背景には、タリバン側にも武力で政府軍を圧倒する力がなくなっている現状があるのではないでしょうか。

ひところはタリバン支配地域が拡大し、米軍でもなかなか抑えきれないような勢いでしたが、オバマ大統領が行った大規模増派による南部カンダハル州やヘルマンド州などのタリバンの本拠地とも言われるエリアでの掃討作戦、アフガニスタンのタリバンを人的・物的両面で支えるパキスタン北西部への執拗な無人機攻撃・・・などが、沈静化に向けて一定に功を奏したように見えます。

一方、アフガニスタン政府軍については、治安を担う能力が疑問視されていましたが、米軍の指導もあってそれなりに力をつけてきている・・・という見方もあるようです。

****政府軍との力関係が逆転****
タリバン側のベテラン幹部は、とにかく粘って幸運を待つのが今の戦略だと口をそろえる。
「これから決定的に重要な時期になる」と、タリバン政権時代の元閣僚の1人は話す。「抵抗運動はまだ続けるが、2~3年前より厳しい戦いになるかもしれない。われわれは多くの戦士や指導者、司令官を失った。今後の展開は誰にも分からない」

ある有力な情報担当者も同意見だ。以前のタリバンは冬になると決まって翌年の大攻勢を予告していたが、13年の目標は組織の団結を保ち、戦い続けることだと、この人物は告白する。
「われわれの戦略は、規模や中身はともかく攻撃を継続することだ。13年になっても組織を維持して、われわれの存在を証明しなくては」

実際には、それも容易ではないだろう。「たとえ攻撃を続けても、北部と南部でさらに支配地域を失う恐れがある」と、前出の元閣僚は打ち明ける。
政府軍の多くは米軍の訓練を受けている上に、規模でもタリバンを上回る。もはや勝てるかどうか分からないと、元閣僚は率直に認める。特にカブールの政府軍は、今後も米軍の圧倒的な支援を受けられる。

「政府軍が治安を引き継いだ地域でわれわれが影響力を拡大できるかどうか、それが大きな問題だ」と、彼は言う。拡大できなければ、タリバンを見限るアフガン人がさらに増えそうだ。
「政府軍が支配地域を維持できれば、現体制にとって事実上の大勝利だろう」【1月2日号 Newsweek日本版】
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もっとも、アフガニスタン政府軍の能力については、相変わらずその力不足を指摘する向きもります。
“9月20日、南部地域治安回復のため増派されていた3万3000人の米軍の撤退が完了し、在アフガニスタンの米軍は6万8000人まで縮小した。しかし、ヘルマンド州の英軍基地へのタリバン兵士の侵入・襲撃やカンダハール州における都市周辺部でのテロ活動の活発化は、米軍の大量投入で一旦沈静化した南部地域の治安がANSF(アフガニスタン政府軍)を中心とした部隊では維持できていないことの証左とも考えられる”【2012年10月26日 日経ビジネス 宮原 信孝氏】

オマル師の姿なく、組織的混乱も
タリバンの士気をくじいているのは、最高指導者オマル師が2001年以降その消息が明らかでなく、生存すら疑われていることです。また、タリバンの武装闘争路線・宗教統治に多くの国民が否定的なことも、タリバンの復活を阻害しています。

****支持拡大はもう不可能****
最大の不安要因はタリバン上層部の指導力不足だ。「反乱軍の指揮という点では、現在の軍事部門の司令官はかつてのオバイドゥッラ師、ダードゥッラ師、バラダル師に及ばない。誰もがバラダルの不在を嘆いている」
ダードゥッラは07年に死亡した軍事部門の元最高司令官。バラダルは最高指導者ムハマド・オマル師の元右腕で、10年からパキスタン当局に拘束されている。オバイドゥッラは同年にパキスタンの刑務所で死亡したタ
リバンの元ナンバー3だ。

タリバンにとって、それ以上に痛いのは最高指導者の不在だ。10年末(01年末?)、バラダルのオートバイに乗ってカンダハルの山中に姿を消して以来、オマルの確かな消息は伝わっていない。
13年こそ「信徒の長」が健在を世に示し、再び指導力を発揮して士気を高めてほしいと、忠実な部下たちは願っている。「オマル師が姿を見せるなら今しかない。われわれはもう待てない」と、元閣僚は言う。
多くのタリバン兵はオマル復活への希望を失いかけていると、彼は危機感を募らせる。「しかし彼の生存が証明され、戦いの先頭に立ってくれれば、われわれは勝てる」

だが今のタリバンは、オマルの不在以上に根深い問題を突き付けられている。大半のアフガン人は汚職と殺戮に飽き飽きしているが、タリバンは一般市民にも受け入れられる経済的・政治的主張を打ち出すことよりも、武力を使った権力奪回にこだわり続けている。

アフガニスタンでは、14年に次期大統領選が実施される予定だ。ハミド・カルザイ現大統領は国民の過半数(およびタリバンの大多数)と同じパシュトゥン人だが、憲法の規定で3選を禁じられている。今のところ有力な後継者も見当たらない。

「タリバンは13年中に国家の将来像を描く必要がある。14年になってからでは遅いのではないか」と、元閣僚は言う。
カルザイ政権は無能で汚職まみれだが、タリバンはこの点をうまく利用できなかった。「指導力の問題が特に深刻なのは、体制側のパシュトゥン人だ」と、元閣僚は指摘する。「タリバンがもっと開放的で柔軟な姿勢に変われば、もっと多くの支持を集める可能性がある」

しかし、もう手遅れかもしれない。多くのアフガン人、特に都市住民は長年の苦難を通じてタリバンヘの憎悪と恐怖を植え付けられている。かつてのタリバン政権は冷酷で非寛容な体質を見せつけ、それ以降も無数の民間人を路上爆弾や自爆テロで虐殺してきた。多くの国民は、タリバン流の宗教統治はもうたくさんだと考えている。【1月2日号 Newsweek日本版】
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最高指導者オマル師が姿を見せないこと、幹部の拘束・死亡などもあって、タリバン内部には組織的混乱がおきていることも報じられています。

****タリバンを揺るがす内部分裂の危機****
アフガニスタンの反政府武装勢カタリバンの指導層が激しい権力闘争に揺れている。鍵を握るのはキューバのグアンタナモ米海軍基地での収容生活を経て、軍事部門トップに抜擢されたアブドル・カユム・ザキール。冷酷かつ緻密な戦いぶりに定評がある一方、短気で部下に厳しく、現場の状況変化に機敏に対応できないとの評もある。
戦場での部下の慟きに敬意を示さず、基本的な要求さえ無視するザキールに、現場の上級司令官らの不満は爆発寸前だという。

ザキールはこの2ヵ月ほどタリバンの最高意思決定機関クエッタ・シューラの会合も欠席している。12月中旬には、主導権を争ってきた有力幹部のアクタル・ムハマド・マンスールからの出席要請を無視。マンスールは自身がタリバンの全権を掌握すると宣言し、ザキール派の多くの司令冒らを解任した。

ザキール派がこれを受け入れるはずはなく、最高指導者ムハマド・オマル師の意向だと証明するよう要求するだろう。だが、オマル師の消息は01年以来途絶えたまま。指揮系統が立て直されない限り、タリバンが内部崩壊する日も近いかもしれない。【1月2日号 Newsweek日本版】
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反タリバン武装勢力・軍閥が再結集する動きも
タリバン側に政府軍を圧倒するだけの力がない場合、外国部隊撤退後、アフガニスタン政府とタリバンの和平が進展する・・・かと言えば、必ずしもそうは言い切れません。
かつてのアフガニスタン内戦を戦った反タリバン武装勢力・軍閥が再結集・強化され、再び内戦の混乱に突入する可能性もかなり高いものがあります。現在すでに、北部や西部などで、そうした武装強化の動きが見られているようです。

外国部隊の撤退は軍事面以外にも大きな影響があります。
世界銀行によれば、アフガニスタンのGDPの97%は軍事・開発援助や外国駐留部隊の消費によって成り立っているそうで、外国部隊の撤退はアフガニスタン経済の根幹を揺るがします。
景気の急激な悪化、失業の増大という社会不安は、軍事的混乱の温床ともなります。

14年末以降の米軍駐留規模
もっとも、アメリカは14年末以降も一定規模の部隊をアフガニスタンに残存させるつもりのようです。

****アフガン大統領が訪米へ…米軍駐留規模など協議****
米大統領報道官室は7日、アフガニスタンのカルザイ大統領が訪米し、オバマ大統領と11日、ホワイトハウスで会談すると発表した。

カルザイ大統領は10日、国防総省でパネッタ国防長官とも会談する。会談で双方は、北大西洋条約機構(NATO)を中心とする国際治安支援部隊(ISAF)が2014年末にアフガンから撤収した後も駐留を続ける米軍の規模などについて意見交換する。

米メディアによるとホワイトハウスは、〈1〉6000人〈2〉1万人〈3〉1万5000~2万人の3案を検討しているという。現在、アフガンに駐留する米兵は6万6000人。ISAF撤収後はアフガン側が治安権限を担うが、米軍はアル・カーイダなどテロ組織の掃討作戦を行う特殊部隊や、能力不足が指摘されるアフガン治安部隊の訓練要員を駐留させる方針だ。【1月8日 読売】
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「ISAF撤退後に米兵が一人でも残っていれば戦闘は止めない」とするタリバン側が、どのように反応するのかは現段階ではよくわかりません。
また、アメリカ側も、オバマ政権2期目の国防長官として、軍事介入に慎重な元共和党上院議員のチャック・ヘーゲル氏が起用され、国内の反戦世論の高まりと財政上の制約から、外国への大規模部隊の駐留継続は困難とも見られています。【1月8日 時事より】

タリバンの動向、反タリバン武装勢力の動向、14年の大統領選挙、アメリカの14年末以降の方針・・・など、不確定要素が多すぎて、和平に向かうのか、内戦・混乱に向かうのか、アフガニスタンの今後は全くわかりません。
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