(中国広東省当局によって書き換えられた3日付の中国紙、南方週末の記事【1月4日 共同】http://www.47news.jp/CN/201301/CN2013010401001257.html)
共産党一党支配の中国において報道の自由を求めることは、はかない夢にも思われますが、当局の頑な対応に対する激しい反発が存在することに、わずかな期待を感じます)
【「憲政の夢」を「中華民族の偉大な復興の夢」に書き換え】
事実上の共産党一党支配の中国に欧米的な“報道の自由”が存在しないことは周知のところですが、改革を求める論調で知られる週刊紙が新年号で掲載する予定だった記事が広東省共産党委員会宣伝部によって大幅に改ざんされた問題で、同紙の元記者・編集者がインターネット上で公開書簡を発表し、同宣伝部長に引責辞任と公開謝罪を要求し、波紋が広がっています。
社会主義体制の中国でメディア関係者が公然と宣伝担当幹部の辞任を求めるのは極めて異例のことです。
****共産党指示で全面書き換え 「憲政の夢」訴えた中国紙****
中国紙・南方週末の新年特別号が、共産党宣伝部の指示で全く異なる紙面につくり替えられ、記者らが抗議している。改革を進める「憲政の夢」は、習近平(シーチンピン)総書記が訴える「中華民族の偉大な復興の夢」に書き換えられた。記者らはボツになった原文を公開した。
問題の紙面は3日発売の特別号。恒例の新年の祝辞として、同紙の特約評論家が「中国の夢 憲政の夢」と題する文章を書いた。だが同紙関係者などによると、広東省党委の宣伝部長が直接的に書き直しを指示。冒頭部分は少なくとも5度変更させられ、「夢とは当たり前のことを承諾すること」になった。個人の署名も「南方週末編集部」に変えられ、中華民族復興の夢は「これまでよりもずっと近くにある」との表現で発行された。
法がおろそかにされがちな現状を改め、憲法に基づく法治国家の実現や、自由や正義を求める論調はことごとく削除。「国家が良くなることで、みんな(の生活)も良くなる」との共産党のフレーズに置き換わった。反日デモの理性的な愛国者に関する報道も削除された。
また、大半の編集者が休みで不在だった発行の直前になって宣伝部が書いた1面の序文に、歴史の誤りや誤字なども相次いだ。同紙は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に声明を出し、「出版の過程で著しい規則違反があり、事実誤認もあった重大な出版事故だ」などと抗議した。ボツになった原稿がネットで公開されると、他紙の記者らが次々に転送し、政府に抗議の姿勢を示す異例の事態になった。
同様に、最新号で憲政の重要性を訴えた改革派雑誌「炎黄春秋」のホームページも4日から開けなくなるなど、当局の締め付けは厳しくなっている。
これに対し、中国外務省の華春瑩副報道局長は4日の記者会見で「中国に新聞の検閲制度は存在しない。メディアによる(政府への)チェック機能は十分に発揮されている」と述べた。共産党機関紙・人民日報系の環球時報も社説で「中国のメディアは西側諸国と同じであるはずがなく、幻想だ」と主張するなど、一線の記者と対立している。
南方週末は、報道の自由がない中国で、調査報道や政治改革を訴える論調が特徴で人気が高い。同紙に書き換えを命じた宣伝部長は、国営新華社通信の元副社長だった。【1月6日 朝日】
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改革を進める「憲政の夢」を習近平総書記が訴える「中華民族の偉大な復興の夢」に書き換えてしまうというのは、“そこまでやるか・・・”という感がありますが、“そのくらいなら掲載禁止にすれば・・・”とも思ってしまいます。さすがに中国でも“掲載禁止処分”というのは「中国に新聞の検閲制度は存在しない」という建前に触れ、差し障りがあるのでしょうか。
改革派雑誌「炎黄春秋」の件については、以下のように報じられています。
****「事実無根だ」****
北京の著名な改革派雑誌、炎黄春秋では、手続きに不備があったなどとして、当局により1日からホームページが強制閉鎖されている。
同誌は1月号に新年社説を掲載し、「共産党は憲法と法律の下で活動しなければならない」「言論の自由を保障すべきだ」と主張。それを当局が問題視したとの見方が広がっている。
同誌は1989年に失脚した趙紫陽元総書記の部下をはじめ、共産党古参幹部や、民主化を主張する知識人を中心に編集されている。これまでも政治改革を呼びかける記事を掲載し、当局から度々注意を受けたが、ホームページの閉鎖は初めてという。
炎黄春秋の楊継縄副社長は4日、産経新聞の電話取材に対し、「中央宣伝部の担当者が昨年12月31日に、事前に届けていないことと、請負業者が変わったことを理由にホームページの閉鎖を命じた。だが、いずれも事実無根だ」と説明している。【1月5日 産経】
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【「メディアはいま最も暗黒の時期にいる」】
宣伝部長の辞任と謝罪迫る「南方週末」の元記者らは、「メディアはいま最も暗黒の時期にいる」などと強く抗議しています。
一方、当局側は、中国版ツイッターの書き込みを出来なくしたり、削除したりして、抑え込みを図っています。
****中国:共産党幹部が記事改ざん指示 記者ら辞任と謝罪迫る****
腐敗追及など改革を求める論調で知られる中国南部・広東省の週刊紙、南方週末が3日付の新年号で掲載予定だった記事が、メディアを管轄する同省共産党委員会宣伝部の※震(たく・しん)部長の指示で大幅に改ざんされていたことが分かった。
同紙の元記者ら130人以上のメディア関係者が※氏に引責辞任と謝罪を迫る声明を発表。学識者らも抗議声明を出し、5日夜の時点で1700人以上が署名した。中国で記者がこれほど公然と反旗を翻す事態は異例だ。(※は席の巾が尺)(中略)
同紙の元記者らは4日、複数の書簡を発表。「メディアはいま最も暗黒の時期にいる」などと強く抗議した。編集部も2度にわたって抗議声明を出し、昨年1年間で書き換えや不掲載を命じられた記事は1034本もあったと明らかにした。
抗議の広がりを受け、当局はネット上の取り締まりを強化。改ざん前の記事を投稿するなどした記者らの中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」は新たな書き込みができなくなり、南方週末に関する書き込みも次々と削除されている。他紙の記者らが転送を続けており、広東省の中国紙記者は「記者の間で、長い間の当局の横暴に対する反発が爆発している。何とか言論の自由を守りたい」と訴えた。【1月5日 毎日】
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【「共産党の喉舌(代弁者)」】
「報道」メディアを管轄するのが共産党委員会「宣伝部」であるということからも、「中国のメディアは西側諸国と同じであるはずがなく、幻想だ」(機関紙・人民日報系の環球時報も社説)という中国社会制度の大前提が明らかです。
今回の騒動は、共産党・政府への異論を許さないという“中国社会制度の大前提”に対する抗議ですが、どこまでこうした声が届くのか、当局側の対応が注目されます。
なお“この問題で、中国メディアの多くは沈黙を保っているが、ネット上では「南方週末事件」として検閲非難の発言が相次いでいる”【1月5日 産経】とのことです。
中国共産党機関紙・人民日報が新年にあたり「真実を語り、実情を書く」と紙面で宣言していましたが、“暗黒の時期にいる”中国メディアの夜明けはいつになるのでしょうか?
****人民日報「真実語り、実情書く」=「うそつき」批判を意識か―中国****
中国共産党機関紙・人民日報が、1日付の1面に「読者への新年メッセージ」という文章を掲載し、「真実を語り、実情を書く」と宣言した。同紙のミニブログ「微博」(中国版ツイッター)には「ついに自らが長期にわたりうそをついてきたことを認めた」との書き込みが相次ぐなどインターネット上で話題となっている。
人民日報は「共産党の喉舌(代弁者)」と言われ、党の宣伝・プロパガンダの役割を担っている。北京の人権派弁護士は「共産党がいかに美しく、すばらしいかを伝えるため多くの『うそ』を作っている」と批判。今回の新年メッセージはこうした批判を意識したものとの見方も強い。【1月3日 時事】
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【「国家が利用者の個人情報やプライバシーの電子情報を管理する」】
メディアが当局管理下にある中国では、インターネットが比較的自由に発言できる場でもありますが、そのネットの規制も強化されています。
****中国:ネット管理強化の法案を審議 利用者には懸念の声****
25日付の中国各紙によると、全国人民代表大会(国会に相当)常務委員会は24日、インターネット利用者の個人情報の管理を強化する法案を審議した。担当者はネット利用者の情報漏えいや悪質サイトからの被害を防ぐためと目的を説明しているが、ネット利用者の間では「言論の自由を制限するもの」といった懸念の声が出ている。
具体的な条文は検討段階だが、男が身分を偽って恋愛サイトを通じて金をだまし取ったり、企業の個人情報のデータが不正に盗まれたりする事件が近年続発したため、法案で「国家が利用者の個人情報やプライバシーの電子情報を管理する」とした。
契約などで個人情報を入力する際は、真実の情報を登録することを義務づける。サイトの運営者にも規定を守り、当局に協力するよう求めた。清華大学の専門家は「発信者が自己責任を持つ効果があり、ネット管理と言論の自由は矛盾しない」などと中国メディアに語っている。
これに対し、ネット上では「情報の自由な流れを阻むものだ」「ネット利用者は党幹部の多くの腐敗の証拠を持っているのに、暴露すれば(情報発信者が特定されて)処分されてしまう」などといった懸念の声が大部分を占めている。
習近平(しゅう・きんぺい)指導部が先月に発足した直後、共産党幹部の不祥事がネットなどで次々に明らかになり、管理強化に転じたとの見方もある。【12月25日 毎日】
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【権力の横暴をチェックする道を閉ざしてはならない】
中国社会の矛盾・問題は毎日のように報じられており、いちいち取り上げていたらきりがありませんが、ひとつだけ。
****中国相次ぐ子供の悲劇 当局へ批判殺到****
昨年暮れから今年初めにかけて、中国各地で子供が犠牲になる痛ましい事故が相次ぎ、「いかに子供を守るか」が社会の関心となっている。背景には貧困やずさんな社会保障制度など多くの問題が横たわっており、識者からは「経済成長を追求するよりも、弱者の生存環境の改善が先決だ」との意見が出ている。
河南省開封市の蘭考県で4日午前、養護施設として使われている民家が火事になり、生後7カ月から5歳の子供ら7人が死亡した。ほとんどが障害を持つ孤児で、小売商の女性(48)がほかの孤児約30人と一緒に育てていた。この女性は25年前から親に捨てられた障害を持つ子供ら100人以上を養育し、「愛心ママ」と呼ばれていた。
地元の警察当局は孤児院経営の認可を受けていないとして、女性の身柄を拘束した。しかし、インターネットには「彼女を捕まえるのは理不尽だ。行政は今まで何もやってこなかったことを反省すべきだ」といった書き込みが殺到した。
また、江西省貴渓市で昨年12月24日、幼稚園のマイクロバスが池に転落し、園児11人が死亡する事故があった。地元警察は当局の認可を受けずに8年間も幼稚園を経営していたなどとして女性園長を逮捕したが、地元では「政府の責任逃れ」との批判が高まっている。亡くなったのはほとんどが、両親が出稼ぎで長期不在のため、農村部で祖父母と暮らす子供だった。貧困のため正式な幼稚園に通えない事情があったという。
昨年11月には貴州省で男児5人がゴミ箱の中で一酸化炭素中毒死し、「なぜ救えなかったのか」と大きく報道された。北京在住の社会福祉問題専門家は「児童福祉は経済成長の数字には表れないので、地方政府は無視してきた。習近平指導部は児童福祉改善を最優先にすべきだ」としている。【1月6日 産経】
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中国社会保障制度の未整備の問題もさることながら、「愛心ママ」や女性園長を拘束・逮捕して責任を転嫁する当局側の横暴さが目に余ります。
メディアやインターネットの管理が強化されれば、こうした権力の乱用・腐敗・不正を告発する道も閉ざされてしまい、社会問題が臨界点まで膨らむのを助長するだけであるという意味で社会的自殺行為に思えます。
社会批判に応える耳を持ち合わせていないのなら、その一点において政権を担う資格がないと言えます。そのことは共産党であろうがなかろうが、同じことです。