
(1月4日 ガザで開催されたファタハ設立48周年記念式典 【1月4日 共同】 http://news.goo.ne.jp/photo/kyodo/world/PN2013010401001569.html)
【「再び団結し、近く(イスラエルによる)占領を終結させよう」】
パレスチナの和平交渉を軌道に乗せるためには、自治政府主流派組織ファタハ・アッバス議とガザ地区を実効支配するハマスに分裂した現状の改善、交渉の主体たるパレスチナ側の一体化が必要なことは、これまでも再三繰り返してきました。
ファタハとハマスは2011年5月、統一政府を結成する合意文書への調印式をカイロで行い、1年以内に議長選・評議会(国会)選を実施することで合意しましたが、その後の交渉は難航し、議長選・評議会(国会)選実施の目処はたっていません。
イスラエルを認めないという立場を崩さないハマスと、イスラエルの存在を認めたうえで交渉に臨むとするファタハでは、対イスラエル政策の違いが両者にはありますが、簡単に言えば主導権争いでしょう。
先のイスラエルとガザ地区・ハマスの衝突で、ロケット弾をイスラエル中枢に打ち込んだことでハマスの評価が高まり、一方で自治政府・アッバス議長の影は薄く、求心力低下が懸念され、今後の一体化は更に難しくなるのではないかと感じていました。
しかし、昨年末から、ヨルダン川西岸でのハマスの集会を、ガザ地区でファタハの集会を互いに認める形で、和解への機運が高まっているそうです。内情はよくわかりませんが、一体化に向けた歓迎すべき動きでしょう。
****パレスチナ:ファタハ、ガザで初の集会 和解機運高まる****
パレスチナ自治政府主流派組織ファタハは4日、自治区ガザ地区で設立48周年記念式典を開き、支持者数万人が参加した。イスラム原理主義組織ハマスが07年6月にガザを武力制圧して以来、ガザでのファタハ集会は初めて。和解機運が高まっていることを示す象徴的な出来事といえる。
パレスチナのメディアなどによると、集会にはファタハのラジューブ幹部らが出席した。アッバス自治政府議長は会場の大型画面を通じ「再び団結し、近く(イスラエルによる)占領を終結させよう」などと演説。支持者らは熱狂的に黄色いファタハ旗を振った。
12月には自治政府がヨルダン川西岸でのハマスの大規模集会を許可していた。
両組織は11年5月に基本合意した統一政府樹立協議を2週間以内にカイロで再開する。ロイター通信が仲介するエジプトの当局者の話として報じた。
両者の接近は、パレスチナとの和平問題を抱えるイスラエルを難しい立場に置きかねない。イスラエルは「テロ組織」に指定するハマスとの交渉を拒否するが、パレスチナ側が「一体化」すれば、10年9月に中断した和平交渉の再開を求める国際社会の圧力が強まる可能性があるからだ。
ファタハは内部対立を克服してイスラエルの揺さぶりを目指す。ハマスも、中東の民主化要求運動「アラブの春」に触発された住民の要求を受け占領終結による生活改善を模索する。昨年11月にはハマスがイスラエルとの戦闘で軍事力を示し、自治政府が国連で地位格上げに成功し、対イスラエル圧力強化で協調機運が強まった。【1月5日 毎日】
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国連総会における「オブザーバー国家」への地位格上げについては、従来反対していたハマスも、消極的ながら賛成する姿勢に一定の変化を見せており、“和解を進めようとのシグナル”との指摘もありました。
“ハマスはもともと、自治政府による今回の格上げ決議には反対の立場をとってきた。決議がうたう、1967年の第3次中東戦争より前の境界線に基づくパレスチナとイスラエルの「2国家共存」は、パレスチナ人の権利放棄につながる-との理由からだ。しかし、ハマス政治局指導者のミシュアル氏は11月26日、消極的にながらも一転して支持を表明。同月14日から21日まで続いたイスラエルとの戦闘を、ある程度有利な形で停戦に持ち込んだことで勢いに乗るこの時期に、ファタハとの和解を進めようとのシグナルではないかとの見方が強まった”【12月1日 産経】
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【「境界を侵入者やテロから守らなければならない」】
一方、イスラエル・ネタニヤフ政権は、ユダヤ人入植活動でも強硬姿勢を崩していません。
これまで控えてきた新規入植地の建設も承認されています。
****エルサレム市、新規入植地建設を承認=着工なら97年以来****
エルサレム市当局は19日、イスラエルが占領する東エルサレムで新規入植地ギバトハマトスに2600戸の住宅を建設することを承認した。地元メディアが伝えた。イスラエルは既存の入植地での住宅建設を続けているが、新しい入植地の建設は控えてきた。実際に着工されれば、1997年以来となる。
パレスチナが11月に国連総会で「オブザーバー国家」への地位格上げを実現して以降、イスラエルは対抗措置として、占領地ヨルダン川西岸や東エルサレムでユダヤ人入植活動を加速させており、今回の承認もその一環だ。パレスチナだけでなく、国際社会からも非難を浴びる中、ネタニヤフ・イスラエル首相は19日も、「エルサレムでの住宅建設を続ける」と述べ、強硬姿勢を崩していない。【12月20日 時事】
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そのイスラエルですが、最近国境・境界でのフェンス建設・強化に余念がないようです。
****エジプト国境にフェンス建設=240キロ超、不法移民・治安対策―イスラエル****
イスラエル政府は5日までに、隣国エジプトのシナイ半島から不法移民や武装勢力が侵入するのを防ぐため、エジプト国境沿いに建設していた240キロ超のフェンスの大部分を完成させた。ネタニヤフ首相はヨルダン国境にもフェンスを建設する方針で、中東情勢が不安定化する中、国境の防御を固める狙いがある。
内務省などによると、過去数年間で約6万人の不法移民がスーダンやエリトリアからシナイ半島を経由して侵入し、社会問題化した。こうした事態を受けてフェンス建設は2010年に始まり、不法移民の侵入は12年1月の2153人から12月には36人に激減した。
有刺鉄線が巻かれたフェンスは高さ5メートルで、総工費は16億シェケル(約375億円)。残る12キロは3カ月以内に完成する見込みだ。【1月5日 時事】
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****ゴラン高原境界のフェンス強化=シリア情勢緊迫化受け―イスラエル*****
イスラエルのネタニヤフ首相は6日の閣議で、ゴラン高原のイスラエル占領地と国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)が展開する非武装地帯の境界に設置してある防御フェンスを強化する姿勢を強調した。内戦下のシリア情勢が緊迫化し、非武装地帯を含むゴラン高原の治安状況が悪化していることを受けた措置。
イスラエルはエジプト国境に不法移民などの流入を防ぐためのフェンスをほぼ完成させたばかりで、ネタニヤフ首相は「エジプト国境で成功しつつあるように、シリアとの境界を侵入者やテロから守らなければならない」と述べた。
国防省によると、現在あるフェンスの外側に、より強度の高いフェンスの建設を進める。すでに10キロが完成しており、これをさらに60キロ延伸する予定という。【1月6日 時事】
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混乱するエジプト・ヨルダン情勢、シリア内政を受けたゴラン高原の緊張といった要因によるもので、当事者イスラエルにとっては必要と思われる処置なのでしょう。
ただ、いくらフェンスを張り巡らし、アイアンドームのような防御システムを構築しても、大規模な戦闘状況に陥れば安全を保障してくれるものではありません。
国家の安全保障のためには、パレスチナや近隣諸国と大規模な戦闘状況に陥ることのない関係を築き上げていく方が有効のようにおもえるのですが。
追記
****「パレスチナ国家」をイスラエル人の半数以上が支持 日刊紙調査****
イスラエルの世論調査で、パレスチナの独立国家樹立を支持するイスラエル人がわずかながら半数を上回る結果が出た。
日刊紙イスラエル・ハヨムが800人以上を対象に行った調査では「2国共存、すなわちイスラエルから独立したパレスチナ国家の創設という考えに賛成か、反対か」と質問した。すると、回答者の約54%が「支持する」と答えた。「反対する」と答えた人は38%で、残りは無回答だった。
ただし、同じ調査で54%以上がパレスチナとの和平協定締結は不可能だと考えており、またパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長を和平交渉の相手とはみなさないと答えた人も55%に上った。
イスラエルが占領しているヨルダン川西岸のユダヤ人入植地建設をめぐっては「支持する」が43.4%、「建設凍結が望ましい」が43.5%でほぼ拮抗した。
イスラエルは今月22日に総選挙を控えており、次期連立政権を構成するとみられる2党を含む右派3党は、ヨルダン川西岸の一部あるいは全域のイスラエル併合を真剣に主張している。1967年の第3次中東戦争でイスラエルに占領されたヨルダン川西岸には現在パレスチナ人約170万人が住んでいる一方、イスラエル人数十万人が入植している。
総選挙ではベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いる与党リクード党と、極右政党「わが家イスラエルによる右派連立が勝利すると予想されているが、支持率は次第に下がっており、次期政権の組閣でネタニヤフ氏が独自性を打ち出す余地は少なくなる可能性がある。【1月7日 AFP】
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