孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  アクバル大帝が築いたラホール城で、インド・パキスタン分離の今昔を思う

2014-04-19 21:44:57 | アフガン・パキスタン

(ラホール城・鏡の間 建物内外の壁面大理石にガラス・貴石が埋め込まれており、建物の前面に作られた浅いプールの水面に反射した月の光が、建物を覆う鏡を煌めかしたとか)

パキスタン旅行の帰途、ドバイにトランジットしています。
昨日は、午前中ラホール城などを見学し、午後にラワルピンディにバス移動、今朝のフライトで日本への帰国の途にあります。

パキスタンから北部インドの歴史的一体性
ラホールにはかなり昔から城が築かれていましたが、現在のラホール・フォートを築いたのはラホールを首都としたムガール帝国3代皇帝アクバルです。

“ムガール帝国”といえば、5代皇帝シャー・ジャハンがタージ・マハルを築いたように、インド亜大陸を支配した国家です。

そのシャー・ジャハンもラホール城で生まれ、ラホール城の拡張に努めた人物で、シーシュ・マハルも彼の時代のものです。

もともとムガール王家はアフガニスタン・カブールを本拠としており、その後、パキスタン・北部インドに進出し、インド亜大陸を支配するムガール帝国を築きました。

このように、アフガニスタンからパキスタン、北部インドに至るエリアは繋がりの強い地域で、カニシカ王のクシャナ朝、更にはショカ王のマウリア朝も、この一帯を支配した国家です。

これに対し、インド南部は上記のようなインド王朝からは独立しており、ムガール帝国の最大版図にも、インド最南端は含まれていません。

現在私たちが“インド”として認識している版図は、イギリスのインド支配以降のもののように思えます。

【インド・パキスタンの分離
もともと北部インドとのつながりが強く、イギリスによって一体的に支配されてパキスタンを、ムスリムが住む独立国家としてインドから分離し、イスラムの教えに基づいて統治するという考えを強くアピールしたのが、詩人であり、哲学者でもあったイクバールでした。

彼の墓は、ラホール城に隣接する、世界最大規模のムガール時代のモスク「バードシャーヒー・モスク」にあります。現在も2名の兵士がその墓を守っています。

イクバールの思想を“パキスタン建国”という形で現実のものにしたのがジンナーでした。
ジンナーは最初からインド分離を考えていた訳でもなく、イクバールのようなイスラム原理主義でもありませんでしたが、イクバールはジンナーの政治活動を支援し、結果的にイスラム国家パキスタンが誕生することになります。

イクバールの思想、ジンナーの政治選択が正しかったのかどうか・・・・は、わかりませんが、宗教的・民族的対立、分離運動が世界のあちこちで見られる現状を考えると、遅かれ早かれ・・・・という感もあります。

インド人民党・モディ氏の台頭で懸念される宗教間軋轢
インドの方は、イスラムに純化したパキスタンとは逆に、多宗教国家としての道を歩んでいますが、それは国民会議派の思想でもあります。

そのインドで現在行われている総選挙では、ヒンズー至上主義のインド人民党が勝利すると予測されており、首相には、2002年のイスラム教徒虐殺暴動に関与したともされているモディ氏が就任するものと見られています。

もともと宗教間の暴動が起こるような風土ですから、ヒンズー至上主義を隠さないモディ氏の中央政界登場はヒンズー・イスラム間の対立を煽るところとなっています。

****印総選挙で宗教対立 北部州、多数派ヒンズーVSイスラム 政党、憎悪あおる****
インド総選挙の投票が進む中、国内最多の有権者を抱える北部ウッタルプラデシュ州で、多数派ヒンズー教徒と少数派イスラム教徒の住民対立が顕在化している。

宗教対立を利用しようと、各政党が暴力をあおっているとの非難も上がる。
11日には、選挙管理委員会が政党幹部2人を「ヘイト・スピーチ」(憎悪に基づいた演説)の疑いで当局に告発する事態に発展した。
                   ◇
「あの日、住民トラブルを話し合う会議があった。ヒンズー至上主義のインド人民党(BJP)幹部がイスラム教徒を攻撃する演説をして、ヒンズー教徒が私たちを襲い始めたんだ」

昨年9月7日にウッタルプラデシュ州ムザファルナガル近郊で起きた事件を、イスラム教徒のノミヌル・イスラムさん(71)はこう説明した。息子(28)を殺害され、イスラム教徒居住区が放火と略奪に遭った。約5万人が家を追われ、今でも約2万5千人が避難生活を送る。

発端は、イスラム教徒の男性が、妹に乱暴したヒンズー教徒を射殺した事件。両教徒間の衝突に発展し計63人が死亡、犠牲者の多くはイスラム教徒だった。

 ◆非難の応酬続く
インドでは人口約13億人のうち、ヒンズー教徒が約80%を占め、イスラム教徒は約13%にとどまる。

ムザファルナガル・シャフプル地区の住民評議会会長のイスラム教徒、モハンマド・シャフナワズ・クレシ氏は「BJP幹部は『イスラム教徒はテロリストだ』などと吹聴してヒンズー教徒に暴力をけしかけている」と非難した。

今月4日には、BJPの首相候補であるナレンドラ・モディ氏の右腕とされる幹部、アミット・シャー氏が集会で「イスラム教徒に報復を」とヒンズー教徒らを扇動。11日、選管に選挙運動禁止を命じられ、「ヘイト・スピーチ」の疑いで告発された。

クレシ氏はモディ氏について、「経済政策などで救世主のように言われているが、イスラム教徒には非常に嫌われている。2002年に起きたグジャラート州の虐殺事件を思い出せば、明らかだ」と話す。

これは、暴動が発生しヒンズー教徒がイスラム教徒を虐殺したとされる事件だ。死者は計1千人とも2千人ともいわれる。当時から州政府の首相を務めているモディ氏は関与を否定したものの、イスラム教徒や欧米から虐殺を黙認したとの批判を受けている。

 ◆選管から処分
一方、ヒンズー教徒側もイスラム教徒側への怒りを増幅させている。昨年9月の衝突で負傷したヒンズー教徒のチャンドビア・シンさん(36)は、「BJPが暴動をあおっているというのは、州政府のでっち上げだ」と強く反発する。

ムザファルナガルの選挙区でBJPに対抗するのは、ウッタルプラデシュ州の政権与党である地域政党、社会党(SP)などで、イスラム教徒の支持を受けている。シンさんが指摘するように、SP幹部のアザム・カーン氏がヒンズー教徒への憎悪をあおる発言を繰り返し、BJP幹部と同様、11日に選管の処分を受けた。

多民族、多宗教国家のインドではこれまでも、小さな事件をきっかけに多くの暴動や虐殺が起きてきた。
ムザファルナガルでは10日に総選挙の投票が実施された。開票は来月に行われるが、選挙が終わっても、住民間の反目は容易には解消しそうにない。

「何のための選挙なのか」という疑問の声も上がっている。【4月13日 産経】
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それでもモディ氏が優勢なのは、宗教間の対立が先鋭化しても構わない、もし相手が騒ぐなら、その時は・・・・といったヒンズー教徒住民の意向も窺えます。

いつまでも、どこでも繰り返される、異なる者への不寛容には暗澹たる思いもします。

隣国パキスタンとの関係は?】
国内イスラム教徒だけなく、国外イスラム教国パキスタンとの軋轢も懸念されます。
カシミールなどの領土問題を抱える両国は戦火を何度も交えた犬猿の仲ですが、両国ともに核保有国です。

勝利が予想されているインド人民党は「核の先制不使用」の原則を放棄する方針だとも伝えられて、国際的波紋が広がっていました。
簡単に言えば、必要ならパキスタンに対する核兵器による先制攻撃も辞さないということになります。

さすがに国際的な批判もあって、「核の先制不使用」の原則を維持する方向に軌道修正したようです。

****インド:「核の先制不使用」原則 政権交代後も維持の考え****
インド総選挙(5月16日開票)で勝利が予想されている最大野党・インド人民党の次期首相候補、ナレンドラ・モディ氏(63)は16日、地元テレビのインタビューで「核の先制不使用」の原則を維持する考えを示した。

ロイター通信が今月上旬、人民党は先制不使用を放棄する方針だと報じ、波紋が広がっていた。開票日が近づく中、国際的な批判に配慮を示した形だ。インドは1998年、人民党のバジパイ政権下で地下核実験を実施したが、その後に先制不使用原則を打ち出した。

モディ氏はインタビューで、核兵器は「自国の防衛のために必要」としたうえで、「先制不使用はバジパイ氏の偉大な施策だ。妥協はない」と強調した。

人民党は今月発表したマニフェストで「核政策の再検討」をうたっているが、具体的な内容は明らかにしていない。【4月17日 毎日】
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インド側での人民党・モディ氏の台頭を隣国パキスタンがどのように見ているのかも知りたかったところですが、旅行中現地の方に訊く機会はありませんでした。

なお、日本・安倍政権とモディ氏は非常に親密な関係を維持しています。
両トップの保守強硬的な政治姿勢に共通点が多いこと、人権問題を重視する欧米がモディ氏を犯罪者扱いするなかで、インドへの進出を拡大したい、更には対中国という観点からインドとの関係強化を図りたい日本は、欧米とは一線を画し、モディ氏との関係を強化しながらインドへの経済進出を進めてきました。

進展しないいTTPとの和平交渉
話をパキスタンに戻すと、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)は16日、政府との停戦期間について、これ以上延長しないと発表しています。

****パキスタンのタリバン運動 「停戦延長せず」 和平交渉に悲観論も****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)は16日、政府との停戦期間について、これ以上延長しないと発表した。

停戦中に政府側からの攻撃が続いているのが理由だとしている。政府は17日、国家安全保障会議の会合を開き、対応を協議した。

両者間では和平交渉が続いているが、これまでもタリバン運動側のテロに政府が空爆で対抗するなどしており、交渉は紆余(うよ)曲折の道をたどっている。
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タリバン運動は和平交渉を進めるため、3月1日に1カ月間の停戦を発表し、その後10日間の延長を決めていた。

政府は2月6日、タリバン運動の代理人との交渉を開始し、その後、初の直接協議も行われていた。さらに、政府側は今月13日、間もなくタリバン運動との包括対話が始まるとの見通しを示し、タリバン運動の求めに応じて約30人のメンバーらの釈放を始めていると明らかにしていた。

タリバン運動の広報担当者は、停戦中に50人以上のメンバーが殺害されたと主張しているが「和平交渉は誠意と真剣さを持って続ける」としている。

タリバン運動の狙いは不明だが、政府側から何らかの譲歩を引き出すための戦略ではないかとの見方がされている。
ただ、専門家の間ではかねて和平交渉は対テロ戦で弱体化したタリバン運動に組織再編の時間を与えるだけだとの批判があり、今後の交渉の行方を悲観する声も少なくない。【4月18日 産経】
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パキスタン旅行中のここ1週間ほどは、大きなテロはなかったように思います。
交渉打ち切りとなれば、またあちこちでテロが繰り返されるのでしょう。

政権側が欧米的民主主義の価値観を大幅に譲歩して、イスラム原理主義的施策を受け入れない限りTTPがテロを止めることはないでしょう。
それは、イクバールの思想に沿うものでしょうが、部外者には、それでいいのか?とも思えます。

もともとシャリフ首相はTTPとの和平交渉を進めているように、イスラム主義に寛容な立場ですが、インド側で対イスラム強硬姿勢が強まれば、パキスタン内でイスラム保守派の声も更に大きくなるのでしょう。
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