孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南スーダン  民族浄化、食糧危機 アフリカの現実の一側面  問われる日本のPKO対応

2014-04-25 22:28:28 | スーダン

(南スーダンのナシルでの集会に参加する反政府の民兵組織「白い軍隊(White Army)」のメンバーら(4月14日撮影)【4月22日 AFP】)

民族浄化
2011年7月にスーダンからの分離独立を果たした、もっとも新しい国家である南スーダンで、昨年末に起きた政府軍と反乱軍の内戦状態が民族紛争という最悪の形で今も続いています。

****南スーダン:大規模戦闘再燃も…安保理、市民保護を協議****
アフリカ東部の南スーダンで政府軍と反乱軍の大規模な戦闘が再燃する恐れが高まっていることを受け、国連安全保障理事会が23日、非公式協議を開催した。

日本の自衛隊が参加する国連平和維持活動(PKO)部隊が展開しており、主な任務を国造り支援から市民保護や人権監視に変更することや、紛争当事者に対する制裁の必要性などが議論され、国際社会の危機感が浮き彫りになった。

国連南スーダン派遣団(UNMISS)は21日、ヌエル人主体の反乱軍が北部ベンチウで特定の民族などを標的にして市民数百人を殺害したとして、非難声明を出した。

声明によると、ヌエル人主体の反乱軍は15日、ベンチウのモスクに避難していたヌエル人以外の住民を選別して殺害。モスクでの死者数は200人以上で400人以上が負傷したという。

国連はさらに、ベンチウ市内の病院で、ヌエル人以外の南スーダン人などが殺され、反乱軍のベンチウ制圧を喜ぶ群衆に加わらなかったヌエル人も殺されたと指摘。

反乱軍と関係のある者が、特定グループの女性に対する性暴力を勧めるような内容の「ヘイトスピーチ」がラジオ放送されたと、強く批判している。

17日には、東部ジョングレイ州の州都ボルのUNMISS施設で、武装集団が避難していた市民に向かって銃を乱射。計58人が死亡する事態も起きた。

2011年に独立した南スーダンだが、昨年12月、マシャール前副大統領を支持する軍の一部が政府軍と衝突。その後、戦闘が各地に拡大し、キール大統領の出身民族ディンカ人と、マシャール氏が出身のヌエル人との民族対立の様相にも発展し、事実上の内戦状態に陥った。

難民・避難民は100万人以上となった。両陣営は1月に停戦合意し和平交渉を行ってきたが、進展していない。【4月24日 毎日】
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国連南スーダン派遣団(UNMISS)の声明によれば、“反政府勢力は先週、北部の油田地帯ユニティ州の州都ベンティウを占領した際、病院や教会などを捜索。15日にはモスク(イスラム礼拝所)に押し入り、避難していた人々を民族や出身国別にグループ分けし、一部グループの200人以上を殺害、400人以上を負傷させた”【4月22日 時事】ということで、民族浄化に他なりません。

更に、ウガンダやスーダンなど周辺国が国連PKOとは別に独自の介入を行う動きも報じられています。

迫る食糧危機
戦闘および“難民・避難民は100万人以上”という状況の必然的結果として、食糧危機が懸念されています。

****南スーダン、深刻な食糧不足危機****
世界で最も新しい国、南スーダンがいま、極めて深刻な食糧不足の危機に瀕している。

国連の推定では、大雨季が始まる5月までに作物の植え付けが終わらなければ、国内人口の約3分の1にあたる 1100万人が飢餓に見舞われ、5万人近くの子どもが犠牲になるとみられている。
これは、過去30年間の食糧不足 の中でも最も深刻な事態である。

2013年12月のクーデター未遂事件発生以来、南スーダンでは政治勢力が分裂状態に陥り、国中に暴力が蔓延している。
殺害された住民は1万人を超え、数十万人が国外への脱出を余儀なくされた。

これでは、作付け時期が到来しても植え付けができる状態ではない。「われわれは現在、多くの問題に取り組んでいる」。そう話すのは、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)事務総長特別副代表のトビー・ランザー氏。
「事態の規模、深刻さ、残忍さが、海辺に襲いかかる津波のようにこの国を圧倒してしまった」。

ランザー氏によると、食糧不足が現実になるかどうかは、5月末までの情勢次第だという。
「まさに試練の時だ」。

◆武力抗争が引き起こす食糧不足
南スーダンでは、国内に流通する食糧の大半が、最も激しい戦闘地域であるジョングレイ、上ナイル、ユニテ ィの3州で生産されている。特に穀倉地帯の上ナイル州は、アフリカで広く栽培されている乾燥に強い穀物モロコシ(ソルガム)の主要産 地だ。

同州では、戦闘を逃れた各地からの難民がナイル川の両岸に殺到している。現在は、周辺での狩りや漁、湿地帯に自生するスイレンの球根を採集して何とか飢えを凌いでいる状態だ。
だが、5月の雨期に川が氾濫すれば暮らしが成り立たず、また別の土地への移動を迫られる。

一方、暴力から逃れるため、土地を見捨てる農民も少なくない。踏みとどまっている農家もあるが、多くはいつ戦闘に巻き込まれるかわからないという恐れから、なかなか作物の植え付けをする心境にはならないようだ。
「作付けを行わなければ、収穫はゼロになる。飢餓状態一歩手前の300万~400万人を救うために、国際社会は一刻も早く行動を起こすべきだ」とランザー氏は語る。

国連世界食糧計画(WFP)は食糧の空中投下を計画中で、ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)も、水を運ぶプラスチック製バケツや蚊帳、浄水錠剤など生活必需品を詰め込んだパッケージの準備を検討している。

さらに世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)は、到達困難地域の中でも特に深刻な状況な地域に対して、6~8名程度の小編成チームの空路派遣を既に開始している。

◆事態の行方は依然不透明
実際の食糧不足の影響は、作物の収穫が滞る冬以降の深刻化が予想されている。
対応を迫られている国連は、まず作付けが順調に行われている地域を6月に評価する計画だ。

一方、戦火の被害が3州より少なかった西エクアトリア州などでは、作物の植え付けが既に行われているようだ。しかし、その恩恵にあずかるのは周辺地域のみで、国全体への波及効果は期待できないだろう。
「市場が未発達で、他の州に出荷する手段がない」とランザー氏は現状を嘆く。

食糧不足の回避に向けて緊急支援が求められる中、政府勢力と反政府勢力はともに活動中の国連、NPOに対し、さらなる暴力と非難で応じる始末だ。
UNMISSの報道官ジョゼフ・コントレーラス氏は、「われわれは随分ひどい目にあっている。拳銃を突きつけられるような事態も希ではない」と語る。

暴力的な行為は収まりつつあるが、深刻な事態が かえって両勢力を問題解決から遠ざける結果を招いているのは不幸としか言いようがない。
コントレーラス氏によれば、UNMISSのスタッフは現在、両者の話し合いを見守りながら妥協点を見出すよう促しているという。
「武力抗争は依然として続いている。両勢力が交渉の席に着くかどうかは今もって不透明な状況だ」。【4月22日 ナショナルジオグラフィック】
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なぜ殺すのか?】
4月21日ブログ「ナイジェリア アフリカのイメージを払拭する経済成長 それでも“アフリカ的な”テロの横行」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140421)で、サハラ以南のアフリカについて

“紛争や貧困、病気というイメージばかりが強調されたため、観光客は恐れをなして近づかず、企業も本腰を入れて進出しようとしなかった。しかし、実像は異なっている。民主主義が広がり、経済は急成長している。毎晩、空腹を抱えながら眠りにつく人より太りすぎの人のほうが多いのがサハラ以南のアフリカの現状なのである。”【4月21日 ウォール・ストリート・ジャーナル】

との指摘があることを紹介しましたが、やはり上記の南スーダンやコンゴ、中央アフリカの状況を見ると、“紛争や貧困”というネガティブなアフリカのイメージそのままの現実が残存していることも認めざるを得ません。

特に感じるのは、どこの国・地域でも政治対立は存在しますが、どうしてアフリカではこんなにストレートに“殺し合い”という暴力に発展するのか?という疑問です。

****南アフリカ:総選挙目前 頻発する「政治殺人****
南アフリカで5月7日に総選挙(下院、定数400)が実施される。与党「アフリカ民族会議(ANC)」の優位は変わらないが、党派間対立や党内抗争で政党関係者が殺害されるケースが頻発している。

最も事件が多発している東部クワズールー・ナタール州では、過去4年で60人以上が殺害されたとの推計もある。総選挙を前にさらなる「政治殺人」への懸念が高まっている。(中略)

さまざまな要因や動機があるにせよ、なぜ殺すのか。
デハース氏は、南アの凶悪犯罪や未解決事件の多さに言及し「犯罪者が罰を受けないという状況や、犯罪が文化のようになり、家庭や学校、職場などさまざまな場所で、人々が物事を暴力で解決しようとする姿勢が背景にあるのではないか」と言う。【4月23日 毎日】
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日本や欧米世界で重視される理念や理想といったものを受け付けない、むき出しの憎悪という現実が全ての世界・・・という感があります。
それだけ現実の抱える問題・状況が厳しいということでもあるのでしょうが。

もっとも、「ヘイトスピーチ」的なむき出しの憎悪は最近の日本などでも見られるところで、そうしたものの行き着く結果は、アフリカ的な暴力の世界に他なりません。

なお、反政府軍を率いるマシャール前副大統領は、“「私はもう戦いたくなかった」。マシャール氏は最近にAFPが反乱軍の拠点で行ったインタビューで、こう語った。人々は、彼がゲリラ軍の指揮官として戦ったスーダン内戦によって、もう戦いはこりごりだと思っているという”【4月22日 AFP】とのことです。
だったら、なぜ・・・という話ですが。

避難民虐殺を座視するのか?】
冒頭記事に“日本の自衛隊が参加する国連平和維持活動(PKO)部隊が展開しており、主な任務を国造り支援から市民保護や人権監視に変更することや、紛争当事者に対する制裁の必要性などが議論され、国際社会の危機感が浮き彫りになった”ともあるように、内戦状態への国連PKOの対応が議論されています。

日本が派遣しているのは施設部隊で、通常は武器を携行していません。
現行のPKO協力法などは正当防衛や緊急避難などの場合に限り、必要最小限度の武器使用を認めていますが、避難民など文民保護を目的とした武器使用は憲法が禁じる「海外での武力行使」につながりかねないとして認めていません。

しかし、その日本の部隊も“今年1月上旬、首都ジュバの宿営地付近で銃撃戦が起きた際、全隊員に武器と銃弾を携行させ、「正当防衛や緊急避難に該当する場合は命を守るために撃て」と命じていた”【4月21日 朝日】という状況に直面しています。

陸上自衛隊の井川賢一・派遣隊長は、そのときの状況について、以下のように語っています。

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「隊員を死なせるわけにはいかない、最低限の自衛だけはさせる必要があると考えて全隊員に武器と弾薬を携行させた。隊員には『各自あるいは部隊の判断で、正当防衛や緊急避難に該当する場合には命を守るために撃て』と命じた」

「例えば目の前で避難民が殺されても、それが正当防衛や緊急避難に該当しなければ我々は撃てない。我々は国内法に基づいて行動する。正当防衛や緊急避難に該当する場合には撃つという、厳しい判断にならざるを得ない」【4月21日 朝日】
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****法改正か撤退か、国民的議論を 記者はこう見た****
ジュバにあるPKO施設の避難民居住区は、人で埋め尽くされていた。砂ぼこりと強烈な汚物の臭い。トイレは設置されているものの、子どもたちが道の真ん中で便をしている。

施設内で暮らす避難民は約3万人。守るのはルワンダなどの部隊だ。装備や隊員たちの熟練度は見るからに自衛隊の方が上回っている。それでも、自衛隊員たちは避難民を守るための武器使用が許されない。もし自衛隊がいながら、すぐそばで避難民の虐殺が起きた場合、国際世論は「仕方ない」と見なすだろうか。

国連PKOは避難民などを守る文民保護に焦点を移しつつある。だが、文民保護には相応のリスクと覚悟が伴う。避難民を保護すれば敵対勢力の目には「敵」と映り、戦闘に巻き込まれる可能性が高まるためだ。

事実上の内戦状態にある南スーダンで、自衛隊はこれまで通りの構えで国際社会から期待された任務を遂行できるのか。

現地を取材した私の考えでは選択肢は二つしかない。
憲法解釈の見直しやPKO協力法などの改正によって派遣部隊に避難民を守るための武器使用を認めるか、現地が内戦状態にあることを認め、「停戦」を前提とする現行法を順守して南スーダンから撤退するかのどちらかだ。

中部ボルでは今月17日にも、武装勢力がPKO施設内で銃を乱射する事件が起きている。国民的な議論が急がれる。機を逸すれば国際的な信用だけでなく、避難民や隊員の命を失いかねない。(ジュバ=三浦英之)【4月21日 朝日】
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これまでも何回も取り上げているように、ルワンダ大虐殺の混乱当時にルワンダ愛国戦線(RPF)を率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているときじっと動かなかったUNAMIR(PKOである国連ルワンダ支援団)司令官ダレール将軍のことを「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と評しています。

日本も平和憲法の精神はゆるぎなく堅持する必要はありますが、国際社会における具体的行動としては、避難民・人を守る行為に参加することは国際社会の一員として果たすべき責務であると考えます。
コメント
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