
(統一暫定政府樹立で合意し、記者会見で笑顔を見せるファタハ幹部のアルアハマド氏(左)とハマス最高幹部のハニヤ氏=ガザで23日、ロイター 【4月24日 毎日】)
【分裂状態が解消される歴史的進展の可能性】
ヨルダン川西岸地区を支配するパレスチナ自治政府の主流派組織ファタハと、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが統一暫定政府を樹立することで合意したと発表、2007年以降続くヨルダン川西岸とガザ地区のパレスチナ分裂の解消が進む可能性が出てきました。
しかし、イスラエル敵視政策を堅持するハマスを自治政府が取り込むことで、中東和平交渉が頓挫することが懸念されています。
****パレスチナ:暫定統一政府で合意…ファタハとハマス****
パレスチナ自治政府の主流派組織ファタハとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは23日、統一の暫定政府を樹立することで合意したと発表した。
ただ、米国やイスラエルはハマスをテロ組織と認定しており、昨年7月に約3年ぶりに米国の仲介で再開した中東和平交渉を一層困難にする可能性がある。
ガザで行われた共同記者会見によると、ファタハとハマスは5週間以内に暫定政府を発足させ、6カ月後にもトップの議長や議員を選ぶ選挙を実施することで一致した。
実現すれば、ハマスが2007年にガザを制圧して以降続く、ヨルダン川西岸パレスチナ自治区とガザ地区の分裂状態が解消される歴史的進展となる。
ただ、両者は11年以降、エジプトの仲介などを受け統一政府樹立で合意しながら、権力闘争や対イスラエル戦略の違いで繰り返し決裂している。
米国務省のサキ報道官は23日の会見で合意発表について「失望した」と述べ、「事態を複雑化させる」と強い懸念を示した。ハマスがイスラエル国家の存在を認めない姿勢を貫いていることから、「(統一)政府と(イスラエルは)交渉できないだろう」と語った。
ケリー長官はネタニヤフ・イスラエル首相と電話で対応を協議した。また、米国政府は自治政府側に合意に伴う懸念を伝えたという。
イスラエルのネタニヤフ首相は23日、「イスラエルとの和平に向かう代わりに、彼(アッバス議長)はハマスとの和平を選んだ」と述べ、ハマスとの統一政府を目指すのであればイスラエルとの和平はありえないとの見解を明確にした。23日夜に予定されていたイスラエルとパレスチナ両交渉団による和平協議は中止された。
ファタハを率いるアッバス議長は中東和平交渉が行き詰まるなか、ガザとの共存を掲げることでパレスチナ市民の支持を強めたい思惑があるとされる。
一方、人と物の出入りを制限するイスラエルの封鎖政策を受けるガザ地区のハマスは、同じムスリム同胞団出身のエジプト・モルシ政権が昨年夏に崩壊して以降、エジプトからの支援が途絶し困窮。パレスチナ自治政府の仲介によるエジプト政府との関係改善に期待を寄せている。【4月24日 毎日】
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“合意の発表を受け、ガザ地区では多くの人々がパレスチナ自治政府の旗を掲げて通りに繰り出し、歓喜に沸いた。”【4月24日 AFP】
なかなか進展しなかった統一政府づくりが動き始めた背景には、上記記事最後にあるように、エジプトの支援が途絶したハマス側の経済的苦境があるように思われます。
【ハマスの政権参加で和平交渉の継続は困難】
一方、敵対するハマスの参加に猛反発するイスラエルは、この合意発表直後にガザ地区を空爆したと報じられています。
****中東和平交渉、決裂の危機=猶予は「5週間」****
パレスチナ自治政府の主流派ファタハと自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが23日、統一暫定政権の発足で合意し、米国が仲介する和平交渉は決裂の瀬戸際に立たされている。
5週間以内とされる暫定政権発足までに、米国が打開策を取りまとめることができなければ、交渉継続は絶望的だ。
イスラエルや欧米は、「テロ組織」とみなすハマスと交渉する条件として、(1)イスラエルの承認(2)武装闘争の放棄(3)パレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)などの順守―を求めてきた。
米国は、ハマスが関与する暫定政権にも3条件受け入れを迫っているが、ハマスは拒否するとみられる。
欧米が暫定政権を承認せず、制裁に踏み切れば、和平交渉の継続は困難となる。【4月24日 時事】
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【実質的前進のためには必要なステップではないか】
現実的な話の流れとして、ハマスの政権参加で和平交渉が難しくなったということは理解できますが、形式的な交渉進展ではなく、今後の実質的な進展を得るためにはハマスの政権参加はむしろ必要なことではないでしょうか。
交渉とは互いが譲歩しあうことですが、国内に反対強硬派を抱えていてはこの譲歩はできません。
ハマス抜きで自治政府が譲歩を示して和平交渉を進めれば、ハマスの絶好の攻撃材料となり、自治政府の求心力は急速に低下するでしょう。
また、仮にそういう形で何らかの合意がなされたとしても、反対を続けるハマス・ガザ地区とイスラエルとの間で衝突が起きて、合意が紙くずになることは目に見えています。
ハマスも野にあるときと、政権に参加した場合とでは、微妙に対応も変わってくると思われます。
特に、財政的に追い詰められている現状では。
回り道のように思われても、ハマスも参加したパレスチナ統一政府との交渉によってのみ、実質的交渉前進は得られると思います。
対応しやすい相手だけを選んで交渉していても仕方がありません。
ハマスが参加する統一政府は完全には“3条件”を受け入れることはできないでしょうが、それでも統一政府の交渉前進への姿勢を引き出し、一方でイスラエルの首に縄を付けてでも交渉の席に引っ張り出し、両者に譲歩を迫るのがアメリカの仕事だと考えますが・・・・。