孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  狭まるインラック政権包囲網 新たな混乱の幕開けか 打開に向け、タクシン一族の政界引退提案も

2014-04-22 22:03:02 | 東南アジア

(4月5日、バンコク郊外で4か月ぶりに開催された、タクシン派「反独裁民主統一戦線(UDD)」の大規模集会(警察発表で参加者4万人) 【4月7日 anngle】http://anngle.org/newsclips/redshirt2014april5.html)

今月末から来月初めには一定の結論
反タクシン派の反政府行動に直面してきたタクシン元首相の妹であるインラック首相が、反タクシン派の牙城とも言える憲法裁判所や国家汚職追放委員会によって失職の危機にさらされていることは、これまでも再三取り上げてきました。
(4月1日ブログ「タイ 憲法裁判所の総選挙無効判断で深まる混迷 漂流するタイ政治」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140401

状況は次第に煮詰まってきた感じで、今月末から来月初めには結論が出そうです。

****退陣へ狭まる「首相包囲網」 タイ、職権乱用審理や汚職告発****
政治の混乱が続くタイで、インラック首相が近く退陣に追い込まれるとの観測が高まってきた。
国家汚職追放委員会による告発や、憲法裁判所による有罪判決などが予想されるからだ。反政府と政権支持の双方の摩擦が再び過熱する事態も予想される。

汚職追放委の広報担当者は18日、政府のコメ買い上げ政策の不正をめぐり、インラック首相の処遇が来月初めにも決まるとの見通しを示した。追放委が告発すれば首相は停職処分となり、上院で弾劾手続きが始まる。

また、憲法裁は2日、国家安全保障会議の事務局長人事をめぐり、首相が職権を乱用したとする訴えを受理した。憲法違反と認められれば首相は失職となる。
ロイター通信によると、憲法裁は首相に弁明を許すか否かを23日にも決めるが、早ければ今月末にも有罪が確定する可能性がある。

インラック氏が失職しても、内閣から首相代行などが任命されれば、同氏の兄で国外逃亡中のタクシン元首相一派を一掃するという反政府派の目的は達成できない。

このため、反タクシン派が多いとされる憲法裁は、「憲法の条項解釈などもからめ、インラック氏だけでなく内閣を総辞職に追い込む」(地元メディア)とみる向きもある。

現行憲法は、首相は下院議員から選ぶと定めているが、2月2日の総選挙が反政府派の妨害で無効となり、やり直し総選挙は早くても7月ごろになる見通し。

非常事態にはプミポン国王が首相を任命できる仕組みも憲法に盛り込まれており、反政府デモ隊を主導するステープ元副首相もこれを支持すると表明した。
ステープ氏は、仏教暦の正月を祝う「ソンクラーン休暇」が明けた17日、一時休止していた活動を再開。

一方、タクシン派の団体「反独裁民主統一戦線(UDD)」も、憲法裁が有罪判決を下すなどした場合には大規模デモを開催すると警告しており、双方の衝突を懸念する声も強まっている。【4月22日 産経】
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先ずは、インラック首相の抗弁期間延長を憲法裁判所が認めるか否か、明日23日に判断が示されます。
憲法裁判所で争われているのは、インラック首相が首相就任直後の2011年に当時の安全保障事務局長を異動させたことが不当な介入として違憲に当たるかどうかという問題です。

“当時のタウィン事務局長は反タクシンの民主党政権時代に任命された人物だった。タウィン氏は行政裁判所に地位保全の訴えを起こし、今年3月7日、最高行政裁が手続きに違法性を認めて同氏の復職を命じ、政権も従った。

これを受け、反タクシン色の強い上院議員らが「大臣による人事介入で違憲」として憲法裁に提訴。憲法では、これが認定されれば大臣資格は喪失。さらに別の条項で、首相が大臣資格を失った場合は内閣は総辞職すると規定している。”【4月3日 朝日】

国家汚職追放委員会(NACC)が問題としているのはインラック政権の看板政策である米買い取り制度です。

“NACCによると、国家コメ政策委員会の委員長を兼務するインラック首相は、同制度で約2000億バーツ(約6330億円)相当の損失が出たとの報告や、深刻な不正につながる恐れがあるとの警告を受けていたのに、制度の推進を主張。これが職務怠慢と職権乱用の罪に当たると判断された。・・・NACCが最終的に上院に首相弾劾を求めることを決めた場合、その時点で首相は職務停止となり、上院が弾劾を決議すると首相の座を追われる。”【2月18日 時事】 

いずれについても、選挙では農民・貧困層の支持が強いタクシン派を追い落とせないこと、そもそも農民や貧困層が政治決定に参画すること自体に抵抗感を持つ既得権益・反タクシン派が、選挙によらずに司法手続き等でタクシン派インラック政権を追い詰めようという試み・・・ともとれることも、これまでのブログで触れてきたところです。

憲法裁判所にしても国家汚職追放委員会(NACC)にしても、反タクシン勢力が強い組織ですので、政権にとっては厳しい判断が予想されています。

****憲法裁と汚職制圧委、タイ政府を厳しく批判****
インラック首相が違法人事に伴う憲法裁判所の判断によって失職、また、コメ質入れ制度の不正横行に絡む職務怠慢で国家汚職制圧委員会(NACC)が罷免を請求し停職となるとの見方が強まるなか、憲法裁とNACCは4月18日、政府の治安対策本部、平和秩序管理センター(CAPO)が17日に「憲法裁とNACCの越権行為によってインラック首相が失職・停職となって政治空白が生じた場合、政府は国王陛下のご判断を仰ぐ必要がある」との見解を示したことを厳しく批判した。

憲法裁によれば、憲法裁が違法人事に関連する首相の責任について審理することは権限の範囲内。これにCAPOが口出しすることは憲法裁への不当な干渉であり、また、CAPOの権限から大きく逸脱しているという。

サンサンNACC事務局長もまた、「政府に有利な判断を示すようNACCに圧力をかけるものだ」とCAPOを強く非難した。【4月19日 バンコク週報】
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タクシン派は“報復措置”へ
もしインラック首相の失職・弾劾ということになれば、これまで反タクシン派の動きを静観してきたタクシン派・赤シャツ隊の抗議行動が一気に噴出し、タイは新たな混乱に直面することが予想されます。

****タクシン支持グループ、首相失職なら憲法裁に報復****
憲法裁の判断によりインラック首相が違法人事に絡んで失職するとの見方が強まっていることについて、タクシン支持組織のひとつ、民主主義擁護ボランティアグループ(DPVG)のスポン代表は4月20日、「憲法裁が首相に有罪を言い渡したら幹部会議を開いて報復措置を話し合う」と明言した。

「ランボー・イサン」(東北タイのランボー)とのニックネームを持つ同代表によれば、インラック首相による国家治安委員会(NSC)事務局長の異動については、民主党政権で当時のアピシット首相(民主党党首)も同様のことをしており、インラック首相だけが違法とされたのは不当とのことだ。

なお、DPVGは先に東北部ナコンラチャシマ県で2日間にわたりトレーニングコース を開いたが、ここにDPVGのメンバー1万5000人以上が参加したことだ。【4月21日 バンコク週報】
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“東北タイのランボー”・・・・相当に暴れまわりそうな名前です。
“2日間にわたるトレーニングコース”というのは何でしょうか?ただの勉強会でしょうか?それとも武闘訓練のようなものでしょうか?

タクシン派の地盤であるタイ北東部チェンマイには、首都バンコクに対する反感も根強くあるようです。

*****タイ北部が分離独立?=陸軍、タクシン派を告発****
タイ陸軍は3日、タクシン元首相支持派の一部組織が刑法に違反し、タイ北部の分離独立を唱える活動を行ったとして、組織幹部を警察に告発した。

告発されたのは、インラック首相の地元である北部チェンマイ県のタクシン派組織「ラック・チェンマイ51」幹部ペチャラワット氏。「ソー・ポー・ポー・ラーンナー」の名称を使って北部の分離独立を訴える横断幕を掲げるなどしたとされる。

ラーンナーは13世紀末から19世紀末にかけてタイ北部に存在した王国の名前で、「ソー・ポー・ポー・ラーンナー」はタイ語で「ラーンナー人民民主共和国」の略語を意味する。インラック首相の辞任を求める反政府運動が続く首都バンコクや南部に対抗した動きとみられる。【3月3日 時事】 
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まあ、現段階では?マーク付きの動きでしょうが、新たな混乱の背景となる住民感情をも示しています。

なお、タクシン派も軍によるクーデターの動きを警戒しており、双方が牽制しあっている感があります。

****軍が反論、「タクシン元首相はクーデター妄想症****
国外逃亡中のタクシン元首相が訪問先の中国・北京で支持者に対し、「東部プラチンブリ県に本部を置く第2歩兵師団の兵士たちがクーデターを起こそうとしている」と述べたとされることについて、同師団の幹部らはこのほど、「元首相はクーデター妄想症だ」と述べ、根も葉もない憶測だと反論した。

同師団は「ブラパパヤック(東のトラ)」と呼ばれているが、その幹部たちによれば、クーデターを起こすには少なくとも40大隊に及ぶ兵員が必要。ひとつの師団だけでは到底不可能とのことだ。

なお、関係筋によれば、2006年9月の軍事クーデターで当時のタクシン首相が政権の座から追われたことから、タクシン派は現在も軍部を恐れているとされるが、元首相やタクシン派幹部が「クーデターの可能性」にたびたび言及するのは、支持者の結束を強化するとともに、同派への同情・支持を集めることを狙ったものとも考えられるという。【4月22日 バンコク週報】
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【「犠牲になるのをいとわない」・・・「タクシンはうそつきだ」】
上記のようなインラック政権包囲網が狭まる状況で、タクシン氏が一族の政界引退を提案しているそうです。

****タクシン一族「政界引退も」=元首相が言及―タイ****
反政府陣営から辞任要求を突き付けられているタイのインラック首相の兄タクシン元首相は、長期化する政治対立を打開するため、タクシン一族が政界から身を引く可能性に言及した。
タクシン氏の法律顧問を務めるノパドン元外相が21日、記者団に明らかにした。

ノパドン氏によると、タクシン氏は「(タクシン一族は)犠牲になるのをいとわない。政治家としての役割に終止符を打つ用意がある」と強調。一方で、反政府デモも同時に中止すべきだと主張し、総選挙が問題を平和的に解決する唯一の手段だとの考えを示したという。

インラック首相が憲法裁判所や国家汚職追放委員会(NACC)の判断次第で失職や職務停止となる可能性に直面する中、タクシン氏としては、一族の政界引退にまで言及することで、ステープ元副首相ら反政府陣営に妥協を促した形だ。

しかし、ステープ氏は21日夜の反政府集会で行った演説でタクシン氏の発言に触れ、「われわれは過去、何度もうそをつかれ、だまされた」と指摘。「タクシンはうそつきだ」と述べ、タクシン氏との取引には応じない意向を強調した。【4月22日 時事】 
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新たな混乱を避け、今後の国民和解を進めていくうえでは、タクシン一族が政界から身を引くことが現実的な出発点として評価できるように思われます。

“タクシン氏との取引には応じない”と言ってしまえば、どうにもなりませんが。
憲法裁判所や国家汚職追放委員会の判断への影響は・・・よくわかりません。
コメント
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