(4月15日 カイロ サウジアラビアへの2島移譲問題でシシ政権へ抗議する人々 “flickr”より By Александр Цысарь https://www.flickr.com/photos/131938945@N06/26484009130/in/photolist-HbrB7B-Gn7Hcz-HbrAXt-Gn7H4i-HD56SZ-GSpXXW-HbrBbV-HCNp2P-HyJGyz-GLqGc6-Gmite5-GBXgNo )
【「ムバラク時代のほうがましだったという声が、あちこちで聞こえ始めている」】
エジプトのシシ政権については、その強権支配を批判する声が絶えません。
イスラム主義のムスリム同胞団に対する強硬姿勢は変わらず、昨年6月に死刑判決が出ているモルシ前大統領については、テロ容疑でも禁固刑が出されています。
****モルシ元大統領に禁錮25年=エジプト****
エジプトの裁判所は18日、2013年7月に事実上のクーデターで失脚したイスラム組織ムスリム同胞団出身のモルシ元大統領に対し、「テロを志向する非合法的な組織を率いた」との罪で禁錮25年を言い渡した。
判決では何が「非合法的な組織」なのか言及されなかったが、元大統領の弁護士は「ムスリム同胞団を意味している」と説明した。元大統領は昨年6月、刑務所脱獄罪で死刑判決を受けている。【6月18日 時事】
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強権的支配の対象にはイスラム主義者だけでなく、政権に批判的なジャーナリストや革命を主導した「4月6日運動」など世俗リベラル派の若者グループも含まれています。
****エジプト裁判所、記者など6人に死刑判決 スパイ罪で****
エジプトの裁判所は20日までに、同国の国家機密を漏洩(ろうえい)したとしてスパイ罪に問われたアラビア語放送局アルジャジーラのジャーナリストなど6人に死刑を言い渡した。(中略)
死刑判決を受けたジャーナリストは、アルジャジーラの元ニュースディレクター、イブラヒム・モハメド・ヘラル被告と、元プロデューサーのアラー・オマル・モハメド・サブラン被告、および放送局Rasdの記者アスマー・モハメド・ハティブ被告。国家機密をカタールに漏洩した罪に問われて被告不在のまま裁判が行われ、18日に判決が言い渡された。
さらに、ドキュメンタリー映画制作者、エジプト航空の客室乗務員、大学教員助手の3人にも死刑判決が言い渡された。この3人は拘置されている。
被告はいずれも判決を不服として控訴することができる。
死刑判決についてアルジャジーラは、「不当な政治的判決であり、言論と表現の自由に対する容赦ない運動の一環」と非難する声明を発表した。【6月20日 CNN】
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強権的な政治手法は、政情不安の続くエジプトにあって、治安回復、更には経済情勢改善に向けての代償とも位置づけられ、シシ政権は国内的には支持されてもいました。
2014年5月の大統領選で95%以上の得票を得たシシ大統領は、生活改善まで「2年間の忍耐」を求めていました。
しかし、就任から2年たった今も年率10%以上の物価上昇や若者の失業問題は改善の道筋がつかず、過激派組織「イスラム国」(IS)分派などによるテロも起きている。更には、ロシア航空機爆破事件などで外国人観光客の足も遠のいており、基幹産業である観光に大きな打撃となっています。(なお、5月19日に地中海で墜落したパリ発カイロ行きのエジプト航空機については、フランス検察当局は6月27日、テロではなく過失致死事件として捜査する方針を決めています。)
「シシ氏への期待感は残っているが、支持率は徐々に下がっている。革命の目的だった自由や生活の改善は実現しておらず、不満や怒りはたまっている」(カイロ大学のハッサン・ナファ教授(政治学))【1月25日 毎日】とも。
****独裁エジプトに再度の市民蜂起が迫る****
<民主化運動(アラブの春)で2011年に独裁者ムバラクを倒したエジプトで、今また人々が権力の横暴に怯えている。民主的に選ばれたムルシを軍事クーデターで倒したシシが恐怖政治を敷いているのだ。市民の拉致・殺害も平気でやってのける政権に、人々の怒りは爆発寸前だ>
エジプトの大統領が、サウジアラビアの国王に紅海に浮かぶ2つの島をプレゼントした。先月、ちょうど筆者が首都カイロに入った日のことだ。どちらの島もアカバ湾にあり、アカバ湾の奥にはヨルダンとイスラエルの港がある。そんな戦略的要衝を、国王の約束した総額数百億ドルに上る援助と投資の見返りにエジプトが領土を差し出した格好だ。当然、エジプト人は納得しない。(中略)
「今のエジプトは三流の軍事独裁国だ」と言うのは、エジプト権利と自由センター事務局長のモハメド・ロトフィ。「(チリのかつての独裁者)ピノチェトよりひどい。まともな独裁国家なら経済は発展する。そして国民は人権を手放す代わりに安定を手に入れる。しかし、この国では何も手に入らない。経済は破綻し、活動家やジャーナリスト、NGOが弾圧されている」
5年前、「アラブの春」の民衆蜂起でホスニ・ムバラクの長期独裁政権は倒れた。しかし、その後に民主的な手続きで選ばれたムハンマド・モルシ大統領は軍事クーデターで失脚。そのクーデターを率いたシシが大統領の座に就いてから2年、エジプトは今、深刻な危機にある。
「ひどく危険な時期だ」とロトフィは言う。「未来が見えない。政府が脆弱だからではなく、国民が変革の展望を持てないからだ。だが展望がない以上、政府がいつ倒れてもおかしくない」
そうであれば、エジプトは再び暴力の嵐に見舞われる運命かもしれない。公式な世論調査はないが、国民のシシ離れが進んでいる実感はある。「政府への信頼はまったくない」とロトフィ。「ムバラク時代のほうがましだったという声が、あちこちで聞こえ始めている」
ちなみにロトフィによれば、ムバラクは抑圧的だったが経済を発展させ、紛争の火種を抱える中近東に平和をもたらすという明確な展望を持っていた。
ピラミッド周辺も閑古鳥
国内の人権活動家やアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際団体のみるところ、エジプト国民に対する抑圧は過去数十年で最悪の状態にある。全国で6万人が政治犯として拘束され、裁判抜きの処刑が執行されているともいわれている。
シシはテロとの戦いに必要な措置だと強弁しているが、それで社会の安定がもたらされたとは言い難い。シナイ半島ではテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)系の武装勢力が思うままに振る舞い、今では誰も近づこうとしない。
主要産業である観光業には大打撃だ。2、3年前には観光客でいっぱいだったピラミッド周辺も、今は閑古鳥が鳴く。筆者が訪れた日も、欧米人の観光客は数えるほどだった。
昨年10月末には、ロシアの旅客機が爆弾テロで墜落した。今年1月上旬には、ISIS系と思われる男たちが紅海のリゾートで外国人観光客3人を襲った。
テロの恐怖、一般市民の拉致、経済の低迷、そして軍事政権の横暴。これらが相まって、国民を絶望の淵に追い込む。エジプトにも民主主義の時代が来ると信じた「アラブの春」の日々は、はかない夢だったのか。
エジプトにおける「アラブの春」の到来を告げる大規模集会がタハリール広場で始まったのは5年前の1月25日だった。その5周年の日が近づくと、カイロ市内の状況は一段と険悪になったという。警察は活動家と目される人の家を強襲し、あちこちに監視カメラを設置した。
カイロに住んで20年以上というある外国人記者によれば、「(2014年に虚偽報道の罪で)アルジャジーラの記者が収監されて以来、みんな身の危険を感じている」らしい。
一般の外国人も危ない。今年1月25日の晩には、自宅付近の地下鉄駅に向かっていた若いイタリア人学生ジュリオ・レジェーニが拉致され、数日後に無惨な遺体となって発見されている。
レジェーニはアラビア語を話し、その研究対象は労働組合だった。もとより軍事政権に歓迎されそうなテーマではない。
治安当局は事件への関与を否定。強盗の仕業と決め付け、容疑者とされる5人を特定し即刻殺害してしまった。イタリア政府は駐エジプト大使を召還し、エジプト政府に捜査情報の開示を求めたが、エジプト側は応じていない。(中略)
普通の市民が拉致される
「政治的に言うと、エジプトは治安を制御できない時期にある」とロトフィは言う。「民衆からの信頼も失われ、経済に関しては無力感がある」
エジプトの失業率は公称11%(実態は20%に迫るという)。観光業は過去最低水準で、食品や日用品の価格は高騰。だが最も深刻な問題は自由の喪失だ。(中略)
ロトフィの執務室の外には、イブラヒム・メトワリという弁護士がいた。失踪者の家族会を設立した人物で、彼の息子も13年7月8日に失踪したままだという。当時はまだ学生だった。メトワリによれば、息子は政治的でもなければ、シシ政権が目の敵とするムスリム同胞団に属していたわけでもない。
徒歩で帰宅中に目隠しをされ、路上で連れ去られたというのが最後の目撃情報だ。その翌日、父親はあちこちの病院、遺体安置所、警察署を捜し回った。警察では内務省に相談するように指示されたという(人権団体によると、内務省こそ多くの拉致事件の黒幕だ)。
失踪から3年近くが過ぎた今も、メトワリは息子がきっと生きていて、シナイ半島付近の拷問で悪名高いアズーリ刑務所にいる可能性が高いと思っている。捕まえられた理由は不明だし、何らかの罪を問われた記録もない。だからメトワリは息子の失踪当時の国防相、つまりシシに対して訴訟を起こした。(中略)
「ムバラクよりひどい」とメトワリは言う。この日、筆者は同じ言葉を何度も、何人もの取材相手から聞かされた。
その一人が、マナル・イブラヒム・サラム。彼女の息子(24)は2年前から行方不明だ。何か手掛かりはないかと、自宅からバスで約3時間かけてカイロに通い、遺体安置所を確認して回る日々が続く。「息子の消息を知るためならどこにでも出向き、誰とでも話す」。しかし、当局は何もしてくれないと言う。
姿を消すのは、学生や政治活動に関わっていると疑われた人々だけではない。
アヤ・ヒジャジー(29)は、米ジョージ・メイスン大学で紛争解決学を学んだアメリカ人だ。アイルランド在住でグーグルに勤める兄のバセルによれば、彼女は状況改善の力になりたいとカイロに渡った。
彼女は夫と共に、ストリートチルドレンのための慈善団体「懸け橋」を立ち上げた。だが、程なく逮捕され、2年近くカイロの女子刑務所に収監されている。裁判は5回延期された。彼女は読書家で、絵も得意だ。「絵はもともとうまかった」が(刑務所では絵を描くしかないので)「相当腕が上がったはず」と話すバセルの声は暗い。
ヒジャジーは「ストリートチルドレンという巨大な問題の解決に乗り出そうとしていた」。そのために、主として公衆衛生やセクシュアル・ハラスメントや児童福祉に関する問題の解決に当たるNGOをエジプトに設立した。
だが小さなミスを犯し、罠に落ちた。当局からNGOの正式な登録番号を取得する前に活動を始めてしまったのだ。
彼女が捕まると「なぜか」新聞各紙による個人攻撃が始まった。父親はレバノン人、母親はエジプト人なのに国籍はアメリカだから、だろうか。
ヒジャジーは人身売買や児童虐待の罪に問われた。家族も友人も、周囲の人権活動家も、そんなことは信じていない。「見せしめなのは明らかだ」とバセルは言う。「若者にこう警告したいのだ。今とは違う世の中がお望みか? 政府の代わりに人助けをしたいか? やめろ、刑務所行きだぞ、とね」
「市民社会との戦いだ」
治安当局による弾圧の強化は、今の政府には何でもできるという事実を国民に見せつける手段だと、カイロ人権研究所のザレーは言う。「これはテロとの戦いではない、市民社会との戦いだ。治安機関が暴走している」
体制側にとって、5年前の春は悪夢だった。だから、その再現は許さないと固く決意している、とザレーは言う。
地元ジャーナリストの大半は身を潜めている。アルジャジーラ記者の収監以来、外国人記者もエジプトへの渡航や取材に慎重になっている。政治の腐敗を追及したアラー・アブデル・ファタハなど、著名な政治ブロガーも収監されている。
筆者がエジプトで話を聞いた人々の大半は、抑圧と恐怖による支配は続かず、間もなく転換点を迎えると考えている。5年前の革命を後押ししたのは、物価の高騰とソーシャルメディアの台頭だった。今まさに怒りが充満しており、民衆蜂起に発展するのは時間の問題だ。(後略)【5月18日 Newsweek】
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人々の“怒り”“不満”が高まっているのは事実でしょうが、それが民衆蜂起につながるかどうかはわかりません。
5年前の革命に対して、混乱をもたらしたものとして否定的な見方も国内にはあります。
なお、上記のような人権問題を抱えるエジプトですが、国連人権理事会の新たな理事国9カ国のひとつに選出されています。
このことを厳しく糾弾する記事がありましたが、イラン系メディアでした。まあ、エジプトにしても、イランにしても・・・という感はあります。
記事冒頭にある、サウジアラビアへの紅海にある2島移譲というエジプト政府の決定については、エジプトの裁判所がこれを取り消しています。世論の反発を危惧したのでしょう。
【中東情勢に一定の存在感を持つエジプトへの支援・対応は?】
外交的にはエジプト外相のイスラエル訪問が報じられています。
****9年ぶりイスラエル訪問=首相と会談―エジプト外相****
エジプトのシュクリ外相は10日、エルサレムを訪れてイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、停滞しているイスラエルとパレスチナの和平交渉などについて協議した。エジプト外相のイスラエル訪問は9年ぶり。
ネタニヤフ首相はこの日の閣議の冒頭で「イスラエルとエジプトの関係の変化と、和平プロセスを進めようとする(エジプトの)シシ大統領の重要な呼び掛けを示すものだ」と外相訪問を歓迎した。
また、シシ大統領はこれに先立って、イスラエルとパレスチナ双方に対し、和平実現に向けて努力するよう促した。【7月10日 時事】
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イスラエルとの関係を持つことは、アラブ世界にあってはリスクを伴いますが、国際的には中東問題に立ちする影響力を補強することにもなります。
サウジアラビアとイランを軸とした動きが中心の昨今の中東情勢にあって、エジプトはかつての威光は失っていますが、それでもまだ重要な関係国です。
アメリカ・オバマ政権としても、エジプトの人権問題は承知してはいますが、あまり冷たく対応してロシア・中国の方へ追いやることも得策ではないと考えています。
ただ、エジプトへの軍事支援が民衆弾圧やアメリカ等の関係機関に向けられる危険性も危惧されています。
****賛否分かれる米のエジプト軍事支援****
ワシントン・ポスト紙のディール論説副編集長が、5月29日付同紙にて、人権状況の改善がないにもかかわらず米国はエジプトへ装甲車を無償供与した、と批判しています。要旨、次の通り。
人権問題の改善という条件はなし
5月に、米国はエジプトに対する耐地雷伏撃防護車両(MRAP)762台のうちの第一回目の供与を行った。これはオバマ政権による対エジプト軍事援助13億ドルとは別枠である。
オバマ政権は人権問題の改善を供与の条件とする考えは受け入れなかった。オバマ政権はシシ政権に対してこの防護車両が「第四世代戦争」にいかに組み込まれるのかにつき公に説明することを求めるべきだ。
第四世代戦争とは、シシがかつて軍幹部学校で説明したところによれば、近代通信手段、心理学とメディアを使ってエジプトの内部分裂を図るものだとされている。
エジプトの軍部によれば、この戦争での敵は米国だとされる。3月にエジプト国防省が行った対議会ブリーフでは中東の分裂を謀る西欧の計画についても話があったと言われる。
政府側の宣伝関係者はもっと直截的である。エジプトの多くのNGOは第四世代戦争によって国を崩壊させようとたくらんでいる、2011年の民衆運動は実はイスラエルの利益のためにエジプトを破壊しようとした米の陰謀だった、それは「ユダヤの春」だった、などと述べている。(中略)
エジプト軍はISと戦うために戦車や耐地雷防護車両やF16を使うが、他方で軍の諜報や訴追をカイロにいる米国の活動家に向けている。オバマ政権がこれらの政策に反対するとか軍事援助が悪影響を受けない限り、これらの政策は何の矛盾もない。実際オバマ政権は対エジプト軍事援助に対する人権などの条件を撤廃するよう議会に求めている。
エジプトの軍事政権を支持することは米エジプト関係を壊すことになっている。民主主義、人権、米国との同盟関係を支持する世俗派の支持者達が弾圧されている。他方でエジプト国民には米国はエジプトの分断、破壊を図っているとの宣伝が吹き込まれている。米国から見れば、最大規模の軍事援助の見返りがこんなものかということになる。
私(ディール)の知るエジプトの活動家は次のような忠告をする。平和的反対運動の弾圧や報道陣の訴追、NGOの閉鎖などを止めさせることができないのであれば、少なくとも、シシに「米国はエジプトを破壊しようとはしていないし、第四世代戦争とは無関係である」と宣言させるべきだ。これは762台の防護車両無償供与の見返りとして過大な要求ではない。(後略)【7月11日 WEDGE】
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中東安定のためのエジプト支援を優先すべきか、人権。民主主義の問題を優先すべきか、悩ましい問題です。