孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シベリア炭疽菌感染が示す温暖化による永久凍土融解の危険性 温暖化問題に否定的なトランプ氏

2016-07-29 22:32:04 | 環境

(【7月29日 CNN】)

75年前に死んだトナカイの凍結死骸が暑さで解けて・・・・】
TVのニュースで、なんの話題だったかは忘れましたが、ロシアの軍幹部の会議の様子が放映されており、出席者が「クールビズ」のような半そでの軍服姿だったのが印象に残りました。

ロシアも暑いのだろうか・・・・と、暑さでぼんやりした(別に、暑くなくても同じですが)頭で考えていたのですが、あの永久凍土のシベリアでも35℃を記録する異常な暑さが観測されているそうです。

凍土が暑さで溶けると、中からはいろんなものが出てきます。
なかには危険なものも。例えば「炭疽菌」とか。

****トナカイの死骸から炭疽菌感染か、13人入院 シベリア西部****
ロシアのシベリア西部で炭疽菌(たんそきん)の感染が広がり、ヤマロネネツ自治区の当局者によると、28日までに13人が入院した。ロシア農務省の専門家は、75年前に死んだトナカイの凍結死骸が暑さで解けて感染源になったと推定している。

同地ではこの1カ月あまりでトナカイ1200頭が死に、当局は当初、熱波が原因と見ていた。この1カ月の最高気温は35度と、同地としては異常な暑さを観測していた。

しかし詳しく調べた結果、トナカイの死因は炭疽菌だったことが確認された。

入院した患者が炭疽菌に感染しているかどうかはまだ確認されていない。しかし感染を想定して抗生剤を使った治療を受けているという。

専門家は、炭疽菌に感染したトナカイの凍結死骸が暑さのために解け、熱波で弱ったトナカイがそれを食べて、遊牧民にまで感染が広がったと推測する。

ロシアの専門家によると、同地で炭疽菌の感染が広がったのは1941年以来。1968年以降は感染事例は確認されていなかった。

米国立衛生研究所の専門家によると、炭疽菌には切り傷などから胞子が入り込む皮膚感染と、食肉に起因する胃腸感染があり、皮膚感染の場合はおよそ5~10%の確率で死亡する。胃腸感染の場合、死亡率はもっと高いという。

ヤマロネネツ自治区の人口約50万人のうち、1万5000人は遊牧民として生活する。当局はウラル北部のヤマル地区で、遊牧民世帯を集団で避難させた。

当局は9月まで隔離を続け、住民や家畜に現地で検査を受けさせたりワクチンを接種するなどの対応を進めるほか、近く動物の死骸の回収と焼却に乗り出す方針。【7月29日 CNN】
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炭疽菌は生物兵器や2001年のアメリカ炭疽菌事件が連想されます。
実際、旧ソ連のスヴェルドロフスクの生物兵器施設では、1979年の4-5月にかけ、人為的ミスによる炭疽菌の漏出事件が発生し、周辺住民96名が感染、うち66名が死亡するという「事故」が起きています。

当時は冷戦時代で、当然のように「事故」は隠蔽されていましたが、1992年、ロシア連邦のエリツィン大統領が軍の炭疽菌によるバイオハザード(生物学的危害)であったことを公的に認めています。【ウィキペディアより】

炭疽菌にはそういった負のイメージがつきまといますので、今回も・・・と思ってしまいますが、炭疽菌自体は世界中で分離される普遍的な自然環境の常在細菌ですので、特段の「裏」はないでしょう。

炭疽菌が生物兵器に利用されるのは、生育環境が悪化すると芽胞を形成し、芽胞は熱や化学物質などに対して非常に高い耐久性を持つという特性もあってのことでしょうが、今回も“75年前に死んだトナカイの凍結死骸が暑さで解けて感染源になった”とのことです。

永久凍土から未知のウイルスが出現する危険性も
シベリアの永久凍土からは、もっともっと古い「危険物」も出てきます。

****シベリアの永久凍土で発見された3万年前の巨大ウイルスを蘇生させる研究を開始(フランス****
少なくとも3万年前のものと思われる太古のウイルスが、シベリアの永久凍土の氷床コアから発見された。

そこでフランスのエクス=マルセイユ大学のジャン・ミシェル・クラブリー教授率いる研究チームはこの巨大ウイルスを蘇生させる計画を発表した。どんな危険性が潜んでいるのかを見極めるためだ。

古代のウイルスが発見されたのは、後期更新世の堆積物の30m下においてだ。モルウイルス・シベリカムと名付けられた本ウイルスは、2003年以降に発見された先史時代のウイルスとしては4種類目で、同チームによる発見はこれで2個目となる。直径0.6ミクロンのモルウイルス・シベリカムは巨大ウイルスの仲間入りを果たした。

研究者は研究チームはウイルスを蘇生させる際、動物や人間に病気を引き起こす可能性がないことを事前に検証する必要がある。
 
永久凍土が溶け始め危険なウイルスが広まる可能性
クラブリー教授によれば、シベリアは危機に晒されているという。1970年代以降、永久凍土は縮小を続け、厚みも失われてきた。気候変化からも、今後一層の縮小が予測される。

また、同地域はアクセスも容易になっており、天然資源需要から注目を集めるようにもなってきた。クラブリー教授は、深い部分の層が露出すれば、危険な新種ウイルスが広まる可能もあると懸念する。

「 大災害のレシピです。商業的な採掘が開始されれば、永久凍土の層が各地に運搬されます。鉱業などによって、そうした古い層に穴が開けられます。危険なのはそこです」

クラブリー教授は、30年前に根絶が宣言された天然痘ウイルスが復活することもありうると語る。そうしたウイルスが、モルウイルス・シベリカムと同じ方法で生き残っているのであれば、天然痘は根絶されたのではなく、表面から消えただけということになる。深く掘り進めることで、天然痘が現代に蘇る可能性を高めることになる。

研究チームは、安全な実験室条件の下で、宿主となる単細胞アメーバと同じ環境に置くことで、このウイルスの蘇生を試みる予定だという。

クラブリー教授率いる研究チームは2013年、今回と同じ場所でピソウイルス・シベリカムと呼ばれる別種の巨大ウイルスを発見し、シャーレ内で蘇生させることに成功している。

この時は、ピソウイルス・シベリカムのアメーバへの感染が確認されているが、人間や動物に対して感染力はなかった。【2015年09月16日  カラパイア http://karapaia.livedoor.biz/archives/52200794.html
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なお、上記巨大ウイルスに関しては、フランスの研究チームによる蘇生の結果、人や動物には感染しないが、特定の微生物には感染しその細胞内で増えることが確認されたそうです。

今後、温暖化の影響で永久凍土が溶けたり、北極周辺などで原油採掘が進んだりすると、未知のウイルスが出現する危険性が高まると科学者らは警告しています。

大好きな「パンデミック」映画にありそうなシチュエーションですが、十分に現実性もありそうです。
永久凍土の変化が急速に進んでいることは、日本の研究機関によっても報告されています。

****シベリアの永久凍土の乾燥化進む 急激な温暖化が一因****
海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの共同研究グループが、シベリアの永久凍土の乾燥化が進み、その一因がこの地域の急激な温暖化によるものであることを明らかにした。

温暖化の影響が北極周辺に広く及んでいることを裏付ける研究成果で、論文はこのほど英科学誌に掲載された。

JAMSTEC地球表層物質環境研究分野と名古屋大学宇宙地球環境研究所などの共同研究グループは、米航空宇宙局(NASA)とドイツ航空宇宙センター(DLR)が2002年に打ち上げた「重力観測衛星」のデータなどを使って02年4月から15年8月までの北極海沿岸のシベリアの永久凍土地帯の土壌、湿地や湖沼などに含まれる水の量(陸水貯留量)を分析した。(後略)【5月6日 Science Portal】
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永久凍土の融解が進めば温暖化は加速
永久凍土から出てくる「危険物」はウイルス・細菌だけではないことは、2015年8月25日ブログ“温暖化 アメリカ西部が「メガ干ばつ」へ ロシア・シベリアでは永久凍土融解でメタン放出”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150825でも扱ったことがあります。

先住民族ネネツ人の言葉で「世界の果て」を意味するロシア・西シベリアのヤマル地方の地平線まで広がるツンドラの平原に、突如月面のクレーターのような巨大な穴が出現し話題となりました。

穴は直径約37メートル、深さ約75メートルもあり、その後も同様の穴の報告が相次ぎ、(当時で)4個が確かめられています。

原因については、研究者の間では「永久凍土が溶け、メタンガスの圧力が地中で高まって爆発した」との説が有力です。

温暖化によるメタンガス放出は、更に温暖化を加速させるという「厄介者」であることは周知のところです。

****メタンの温室効果、CO2の25倍 温暖化進む恐れ****
永久凍土はシベリアだけでなく、カナダやアラスカなど、北半球の大陸表面の24%に存在する。

温暖化による極地の気温上昇は、世界平均の2倍の速さで進むとされる。国連環境計画(UNEP)が2012年にまとめた報告書によると、今から2100年までに全地球の気温が3度上がれば北極では6度上昇し、地表付近の永久凍土の30~85%が失われる可能性がある。

特に心配されているのが、温室効果ガスの大量放出だ。全世界の永久凍土にあるメタンや二酸化炭素(CO2)の炭素量は、現在の大気に含まれる量の2倍。メタンの温室効果はCO2の25倍ある。どれほどの影響がでるのか、専門家でもまだ見通せていない。

名古屋大学地球水循環研究センターの檜山哲哉教授は「永久凍土の融解が進めば温暖化は加速し、大地や植物だけでなく人間社会にも大きな影響を及ぼす。100年後、1千年後を見通すための研究が必要だ」と話す。【2015年7月19日 朝日】
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今回の「75年前に死んだトナカイの凍結死骸からの炭疽菌感染拡大」の問題は、上記のような永久凍土に潜む天然痘や“未知のウイルス”、あるいはメタンガスが出現するといった危険性が絵空事ではないことを示しています。

トランプ氏の不可解な確信
アメリカ共和党大統領候補のトランプ氏はかねてより温暖化問題については否定的で、「パリ協定」不参加を表明しています。

****<トランプ氏>パリ協定「不参加」・・・「時代遅れな規制****
米大統領選に向けた共和党候補指名争いで、実業家のドナルド・トランプ氏(69)は26日、遊説先で記者会見し、大統領に当選すれば温室効果ガス削減の新たな国際枠組み「パリ協定」への参加を取り消すと表明した。ロイター通信が伝えた。
 
ノースダコタ州で会見したトランプ氏は、パリ協定について「労働者に不利益で国益に反し、時代遅れで不必要な規制は完全に破壊されるべきだ」と、持論を展開した。パリ協定は4月に175カ国・地域が署名。オバマ政権は早期に批准手続きを終える意向だ。
 
パリ協定には「批准国は協定の発効後3年間は脱退を通告することができず、通告しても1年間は脱退できない」との条項が盛り込まれている。

このため、トランプ氏が大統領に就任したとしても、発効していれば任期中は事実上協定から抜けられない。ただし、国連気候変動枠組み条約自体から脱退すれば、4年を待たずにパリ協定からも抜け出ることは可能だ。(後略)【5月27日 毎日】
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最大の温暖化効果ガス排出国であるアメリカと中国の積極姿勢への転換で、ようやく動き始めた世界の温暖化対策ですが、「トランプ大統領」になれば、これもついえてしまうようです。

国際社会との協調に関心がなく、「国益が一番」という姿勢はトランプ氏の安全保障問題への対応などにも共通する傾向ですが(「トランプ氏」というより、「トランプ氏を支持するアメリカ世論の」と言うべきでしょうが)、こうした「自国の国益が一番」という傾向は、アメリカ・トランプ氏に限った話でもなく、欧州などでも広く顕在化している方向性です。

それにしても、長期の時間軸での検証が必要で、現時点における「絶対的証拠」もない「人間の産業活動に伴う温暖化効果ガスによる気候変動」について、「本当だろうか?」と疑念を呈することは十分にありえる話ですが、「そんなもの関係ない!」と逆の確信を抱く根拠はどこから出てくるのでしょうか?

内向き傾向を強めるアメリカ世論には受けるのでしょうが。

地下帯水層枯渇で選択を迫られるアメリカ農業
「人間の産業活動の地球環境に与える影響」に関して、温暖化よりももっと短期に「答え」が出そうな問題があります。アメリカ農業を支えてきた地下帯水層の枯渇です。

****北米最大の地下帯水層が枯渇****
乾燥した米国中部で近代的な生活が送れるのは、膨大な量の地下水を含んだ地層「オガララ帯水層」があるおかげだ。

そのオガララの水を調査するため、私たちはここカンザス州へやって来た。井戸に下ろした巻き尺の先端は、深さ60メートルでようやく水面に達した。1年前に測ったときより30センチも低い。このペースで水が減れば、井戸が枯れるのも時間の問題だ。「この状態で灌漑に使えば、ひと夏もちません」。米カンザス地質調査所で水資源データの管理責任者を務めるブライアン・ウィルソンは言った。

農業地帯を支える水
オガララ帯水層をめぐるウィルソンの調査に同行し、8000キロを旅した。私たちが車で走ったのは、サウスダコタ州からテキサス州にかけて広がる、米国有数の高い生産性を誇る農業地帯の一角だ。一帯の年間生産額は少なくとも200億ドル(約2兆円)に達し、米国内の小麦、トウモロコシ、肉牛の5分の1近くがここで育てられている。

そうした農家は今、難しい選択を迫られている。水を節約して地下水の枯渇を遅らせるか、目前に迫った終焉に向かってこのまま突っ走るのか。

なかには現実を直視したがらない農家もある。今の調子で水をくみ続け、帯水層が干上がってしまったら、世界の食料市場は大打撃を受けるだろう。

国連の試算によれば、21世紀半ばまでに世界の人口は90億人を超えるため、あと数十年で食料生産を6割増やす必要があるという。そんな世界情勢を尻目に、水はゆっくりと枯れつつある。

世界各地で枯れる地下水
オガララ帯水層は北米最大の地下水資源だが、同様の問題は世界中で起きている。アジア、アフリカ、中東の大規模な帯水層は、どこも急速に水量が減少しているのだ。オガララの南部を含め、そうした帯水層は地下水の回復スピードが極めて遅く、一度水を使い果たしたら、元に戻るまで何千年もかかる。(中略)

「影響は甚大です」と警鐘を鳴らすのは、米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所の水文学者ジェイ・ファミグリエッティだ。彼の研究チームは、人工衛星による観測データを使って世界37カ所の巨大帯水層の変化を記録している。「食料生産を維持するには、まず地下水の維持が必要なのに、それができていません。オガララの水を使い切ることが、米国、ひいては世界の食料生産にとって賢い選択なのか、真剣に考えなくてはなりません」【ナショナル ジオグラフィック2016年8月号特集「地下水が枯れる日」より】
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「オガララ帯水層」枯渇で危機が表面化すれば、アメリカの温暖化問題への取り組みにも変化があるのかも。
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