(ポーランド・オシフィエンチムにあるアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所跡で、悪名高いスローガン「働けば自由になる」が掲げられた門を通るローマ・カトリック教会のフランシスコ法王(2016年7月29日撮影)【7月29日 AFP】)
【「真実を話すことを恐れるべきではない。平和を失った世界は戦争状態にある」】
ローマ法王はポーランドにあるナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所跡を訪問して祈りをささげていますが、ポーランドに向かう飛行機の中では、報道陣に対し「真実を話すことを恐れるべきではない。平和を失った世界は戦争状態にある」と語り、難民保護への強い決意を語っています。訪問国ポーランドの難民拒否姿勢も強く批判しています。
****「世界は戦争状態」と法王、初訪問ポーランドで難民受け入れ説く****
ローマ・カトリック教会のフランシスコ(Francis)法王は27日、ポーランドを初訪問し、「世界は戦争状態にある」が原因は宗教はではないと語った。
前日の26日にはフランスのカトリック教会で、礼拝中の司祭が男2人に殺害される事件が起き、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出している。
こうした中、ポーランド南部クラクフに到着した法王は、ポーランドの人々に向けた第一声で、「恐怖を克服する」方法は、紛争や苦難を逃れてきた人々を受け入れることだと指摘。「戦争と飢えから逃れた人々を受け入れる精神と、自由と安全の中で信仰を告白する権利などの基本的人権を奪われた人々への連帯」を呼び掛けた。
また、移民に対して門戸を開くためには「偉大な英知と慈悲」が求められると述べ、第2次世界大戦後最悪の欧州難民危機にあたり、ポーランドの右派政権が負担の分担を拒否していると激しく非難した。
これに先だち法王は、伊ローマからポーランドに向かう飛行機の中で、報道陣に対し「真実を話すことを恐れるべきではない。平和を失った世界は戦争状態にある」と述べ、次のように続けた。
「私の言う戦争とは、利害や金銭、資源をめぐる戦争のことで、宗教をめぐる戦争ではない。全ての宗教は平和を望んでおり、戦争を望んでいるのは宗教ではない」【7月28日 AFP】
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アウシュビッツ強制収容所跡を訪問後も、「残虐さはアウシュビッツで終わらなかった」と今も続く紛争地での人権侵害を批判しています。
****<ローマ法王>現代の人権侵害を批判****
ポーランド訪問中のフランシスコ・ローマ法王は29日、同国南部にあるナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所跡を訪問後、「残虐さはアウシュビッツで終わらなかった」と述べ、現代の紛争地などに残る人権侵害を批判した。
法王は、ポーランド南部クラクフの大司教館の窓からカトリック信徒に向かい、現代でも「多くの囚人が拷問され、過密な刑務所で動物同然の暮らしを送っている」と指摘。「70年前、銃やガスで人々が殺されたが、今も戦争地域の多くで同じことが起きている」と警鐘を鳴らした。
これに先立ち、クラクフの公園で世界各国から集まった若者を前に、「暴力、テロ、戦争のせいで無実の人々が命を落としているなら、神はどこにいるのか?」と問いかけ、シリア内戦を逃れた難民を「友愛」を持って受け入れるよう呼びかけた。
法王は27日、ポーランド訪問開始にあたり、フランスのカトリック教会で起きた神父殺害事件など欧州で相次ぐテロを受け、「世界は戦争中」との認識を示した。【7月30日 毎日】
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【増え続ける難民・移民 犠牲者もすでに3千人超】
ローマ法王の言葉にもかかわらず、欧州を目指す難民の悲劇は一向に減少していません。
****欧州目指す難民や移民 ことし25万人超える****
ヨーロッパを目指して地中海などを渡る難民や移民は、ことしに入ってから25万人を超え、去年の同じ時期よりも3万人以上多く、死者と行方不明者の数も3000人を超えたことが分かりました。
IOM=国際移住機関は29日、ヨーロッパを目指す難民や移民についての最新の調査結果を発表し、ことしに入ってから今月27日までで、合わせて25万1557人がアフリカなどからヨーロッパに渡ったことが分かりました。
これは去年の同じ時期よりも3万人以上多く、その大半はギリシャとイタリアに渡っていて、なかでもイタリアには、ことし5月と6月だけでおよそ4万2300人が渡ったということです。
また、3034人が船の事故などによって死亡したか行方不明になっていて、去年の同じ時期と比べると死者と行方不明者も1000人以上増えています。
IOMの担当者によりますと、ことしは去年よりも、北アフリカからイタリアを目指す難民や移民が増えていて、特にリビアから地中海を渡ろうとした人たちが死亡するケースが相次いでいるということです。
ヨーロッパを目指す難民や移民の数は、去年は8月から10月にかけてピークを迎えていて、IOMは、各国と連携して実態の把握を急ぐとともに、対応を検討することにしています。【7月30日 NHK】
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難民・移民の受入で様々な問題が起こること、欧州各地で難民・移民らによるテロが起きていることは事実ですが、そうしたことは、今年すでに死者と行方不明者の数が3000人を超えているという事実を無視していい理由にはなりません。
受け入れを拒む姿勢が「恐怖」を助長し、疎外感を感じた難民らをテロリストの側に追いやっていることを認識する必要があると思います。そのような状況では、どれだけ監視体制を強化しようとも、テロは今後も続くでしょう。
【和平交渉が決裂したイエメン】
普段取り上げられる機会が少ない「紛争地」の状況について、いくつか。
中東最貧国イエメンで続く内戦は、ハディ暫定大統領を支援して軍事介入しているサウジアラビアと、反政府勢力フーシ派の背後にいるとされるイランの代理戦争とも見られていますが、国連も仲介しての和平交渉は進展していません。反政府勢力フーシ派とサレハ前大統領派が共同してハディ暫定大統領派と戦う形になっています。
****死者6400人、クウェートでの和平交渉に進展なし****
国連(UN)が仲介してフーシ派とアブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領派の和平協議がクウェートで長期にわたって行われている。
6月25日夜にクウェートの首都クウェート市に入った潘基文(バン・キムン)国連事務総長は26日、和平へのロードマップを受け入れて15か月続いている紛争を解決するよう全当事者に呼び掛けたが、交渉に進展はみられていない。
フーシ派は2014年9月にイエメンの首都サヌアの政府庁舎を一時占拠。昨年3月にサウジアラビア主導の連合軍が介入を開始した。国連は、それ以降イエメンでは6400人以上が死亡し、その多くは一般市民だとしている。【6月29日 AFP】
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この和平交渉は事実上破綻したようにも伝えられています。
****イエメン(和平交渉の終焉)****
イエメンではクウェイトでの交渉期限も迫り、その失敗も間近かと思われていましたが、どうやら最終的にクウェイト会談は決裂し、イエメンはまた戦場に戻る(もっとも会議中も戦場が完全に静かになったことはなかったが…)ことになりました。(中略)
まずhothy -サーレハ連合が、声明で両者がサナアで最高政治評議会を設置したが、これは大統領評議会の全ての権限(勅令の発布、政府機関に対する命令等)を行使するものであるとしました。(中略)
それがここにきて、hothy連合が一方的、かつ自分たちだけで、大統領表議会に代わるものを設置することとしたのは、実質的に会議を見切ったものと言えます。
これに対して副首相で政府側の交渉代表である外相は、国際社会に対して、このようなhothy連合の一方的措置を非難するように要請し、会議は終了したので、政府側代表団は30日クウェイトを引き上げると声明した由。(後略)【7月29日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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【戦闘再燃も懸念される南スーダン 問われる国連PKOの意義】
キール大統領派とマシャール副大統領派の内戦が続いていた南スーダンでは、いったんは両者の“手打ち”で混乱が収まったかのようにも見られ、日本政府も、邦人保護のために近隣国のジブチに派遣していた航空自衛隊のC130輸送機3機について、22日撤収命令を出しました。
しかし、副大統領派が内部対立で分裂、キール大統領がこれに乗じる形でマシャール副大統領を解任するということで、戦闘再燃が懸念される状況となっています。
****南スーダン 副大統領解任で戦闘再燃の懸念****
政府軍と反政府勢力の対立で激しい戦闘が続いたアフリカの南スーダンで、キール大統領が、反政府勢力を率いるマシャール副大統領を解任し、いったん収まった戦闘が再燃しないか懸念されています。
アフリカの南スーダンの首都ジュバでは、今月に入ってキール大統領派の政府軍とマシャール副大統領を支持する反政府勢力の間で戦闘が再び起き、270人以上が死亡する事態となっています。
11日の停戦命令のあとは戦闘は収まっているものの、マシャール副大統領はジュバから離れ、和解に向けた対話も行われないままとなっていました。
こうしたなかで、キール大統領は25日、マシャール氏を副大統領職から解任しました。そのうえで、キール大統領は、反政府勢力の中でマシャール氏と対立していたタバン・デン・ガイ前鉱物相を後任に任命しました。
南スーダンでは、ジュバで政府軍と反政府勢力の間で戦闘が起きたことで、現地に滞在していた日本の関係者が航空自衛隊の輸送機などで国外退避しましたが、国連のPKO=平和維持活動に参加している自衛隊の部隊は今もジュバで活動しています。
マシャール氏側は、副大統領職を解任されたことでさらに反発を強めるなど、双方の対立が深まっていて、いったん収まった戦闘が再燃しないか懸念されています。【7月27日 NHK】
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今月7日以降の戦闘で、再び多くの避難民が発生しています。
****ウガンダへ避難2万6千人超に=南スーダン****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官は22日、南スーダンでキール大統領派とマシャール副大統領派の衝突が始まった今月7日以降、隣国ウガンダに逃れた住民の数が2万6000人を超えたと明らかにした。
11日に両派の停戦が発効したが、難民らは戦闘が今も続き、武装集団による略奪や市民の殺害も行われていると訴えているという。21日には一日で最も多い8000人以上がウガンダに入った。【7月23日 時事】
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緊迫した情勢が続く現地では、派遣されている国連PKOの存在の意味が問われる出来事も報じられています。
****戦闘激化の南スーダンで性的暴行120件、PKO要員が見ぬふりか****
国連は27日、南スーダンでサルバ・キール大統領を支持する政府軍とリヤク・マシャール第1副大統領(当時)の支持勢力との間で激しい戦闘が再発した今月8日以降、少なくとも120件の性的暴行事件が起きたと発表した。
国連の平和維持活動(PKO)要員が暴行現場を目撃していながら見逃した疑いがあるとして、調査を開始したという。
「PKO要員が窮地にある市民を救助しなかった疑いがあり、深刻に受け止めている」と、ファルハン・ハク国連事務総長副報道官は述べ、国連南スーダン派遣団(UNMISS)司令部が調査を行っていることを明らかにした。
報道によると、少なくとも1件の女性暴行事件の現場にPKO要員が居合わせたが、何もしなかったという。AP通信は目撃者1人の証言として、基地の入り口近くで女性が兵士2人に襲われ、助けを求めて叫んでいるのを中国とネパールのPKO部隊員30人余りが見ていたと伝えた。
ハク副報道官によると、首都ジュバでは国連基地の付近を含む市内各地で、軍服を着た南スーダン兵と私服の男たちが市民に対し性的暴行をはたらいたとみられ、集団暴行も起きたという。被害者には未成年者も含まれているという。
ジュバでは、7月8日~11日に政府軍とマシャール氏支持派との間で激しい戦闘が続き、少なくとも300人が死亡、数千人が国連の基地に避難した。
キール大統領は25日、マシャール氏を副大統領職から解任し、後任にマシャール派のタバン・デン・ガイ前鉱物相を任命。マシャール派内部では深刻な分裂が起きている。【7月28日 AFP】
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国連PKOが現地紛争に巻き込まれることを警戒するのはわかりますが、現地住民への暴行・虐殺を黙認したのでは、ルワンダでジェノサイドを座視したことの繰り返しともなります。
【警戒が続くブルンジ 国連は警察部隊派遣を決定】
そのルワンダでの反省から、同様のジェノサイドにもつながりかねないと国連が警戒しているのがルワンダの隣国ブルンジでの混乱です。
ブルンジでは、ヌクルンジザ大統領の3選出馬に対する抗議デモが激化した昨年4月以降、不穏な情勢が続いています。反体制派はヌクルンジザ氏の3期目就任は憲法違反だと反発し、治安当局は反体制派への弾圧を強めています。
****国連警察部隊をブルンジに派遣へ、安保理が決議採択****
国連安全保障理事会は29日、ブルンジに国連の警察部隊を派遣する決議案を採択した。1年以上にわたって暴力行為が頻発しているブルンジの危機的な状況を終息させるための措置としてはこれまでで最も強力なものとなる。
フランスが草案をまとめた決議は、最大228人の国連警察部隊を1年間、ブルンジの首都ブジュンブラと同国各地に派遣するという内容。
同決議は、国連の潘基文(バン・キムン)事務総長に対して、人権侵害と虐待の有無の状況を監視するためブルンジに警察部隊を「段階的に配備」するよう求めている。
国連安保理はブルンジの暴力行為に歯止めを掛けるよう国際社会から圧力を受けている。ブルンジでは、1994年に隣国ルワンダで起きた虐殺事件のように、暴力行為から大規模な残虐行為に発展する懸念が生じている。【7月30日 AFP】
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今年4月25日には、国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のベンスダ主任検察官が、ブルンジ情勢について、人道に対する罪などに当たる犯罪があったかどうかを調べる予備調査を始めると発表しています。
ベンスダ氏はこれまでに430人以上が死亡、少なくとも3400人が拘束されたと指摘しています。
“国連の警察部隊”なるものがどのような位置づけにあって、どれだけの実効性を有しているのかは知りませんが、ブルンジでの混乱を未然に防ぐことができれば幸いです。
なお、ブルンジに対しては今年1月、アフリカ連合(AU)が平和維持部隊派遣を検討しましたが、ブルンジがこれを拒否して派遣は見送られています。
シリア・イラクや欧州各地のテロ事件だけでなく、「世界は戦争状態にある」のが現実です。
これを鎮めるのは容易ならざることであるのは言うまでもありませんが、あきらめたり、「自国第一」と、自分たちの世界とは関係がないと見なしたりすることは、その時点で敗北したことを意味します。
国際社会は「偉大な英知と慈悲」を保ちつつ、こうした事態に積極的・有効に関与していくことが求められています。