孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  繰り返される警官の黒人への過剰な発砲と警察への報復 分断された社会への懸念

2016-07-15 23:07:05 | アメリカ

(7月14日、米ルイジアナ州バトンルージュの路上で黒人射殺に抗議するデモのさなかに、長いドレス姿で重武装の警官隊の前に立つ様子が話題となった黒人女性エバンスさん。
“警官が彼女を捕まえ、急いで連れ去った。ほんの30秒程度の出来事だったという。地元警察当局の拘置記録によると、エバンスさんは幹線道路の交通妨害の容疑で拘束され、釈放された。”【7月15日 ロイター】)
 
人種問題が絡んだ警察の過剰な実力行使と警察への憎しみ・反感
アメリカでは周知のように、警察の黒人に対する過剰な実力行使、警察への住民の抗議、警官への報復テロという人種問題絡みの問題が再び表面化しています。

****ミネソタでも警官が黒人男性を射殺 免許証取り出そうとしたところ発砲、映像拡散で抗議に火****
米南部ルイジアナ州バトンルージュで5日、黒人男性(37)が白人の警察官に取り押さえられ、銃で撃たれて死亡し、司法省と連邦捜査局(FBI)は6日、警察の対応に問題がなかったかについて捜査を開始した。
 
また、6日には中西部ミネソタ州ミネアポリス郊外でも黒人男性(32)が警察官に射殺された。米国では黒人に対する警察の過剰な実力行使が社会問題となっており、2件相次いだことで、抗議活動が拡大化している。
 
バトンルージュでは5日未明、「黒人男性に銃で脅された」との通報で駆けつけた警察官2人が、オールトン・スターリングさんを射殺。当時の様子を撮影したとみられる映像が公開され、警察官2人がスターリングさんを地面に倒して動きを封じた後、警察官が発砲する様子が映し出された。
 
また、ミネアポリス郊外では6日夜、車を運転中だったフィランド・カスティールさんが警察官に止められ、銃で撃たれて死亡した。同乗していた交際相手の女性が発砲直後とみられる動画を公開。女性によると、カスティールさんが免許証などを取り出そうとしたところ、警察官が発砲したという。警察は車内から拳銃が見つかったと発表した。【7月7日 産経】
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映像を見る限り、警官の対応は“問題があった”ように思えます。
個々の警官の行動にとどまらず、警官にそのような行動をとらせる社会的緊張(人種間の緊張、一般的治安状況、特に銃器の氾濫)こそが問題であるようにも思えます。

警官に不当に扱われているという黒人の怒り・不満は、警官に対するテロという忌むべき事件を引き起こしています。

****ダラス警官銃撃】死亡の容疑者「白人、特に白人の警官を殺したい」 にじむ差別感情、米社会が抱える問題浮かび上がる****
米南部テキサス州ダラスの警察官狙撃事件の背景には人種差別をめぐる感情が色濃くにじむ。警察官による黒人射殺が起きるたびに警察への憎悪は増し、人種差別議論が繰り返されてきた。

12人の警察官が標的にされ、5人が犠牲となった前代未聞の事件。米国が抱える根深い問題が改めて浮かび上がっている。
 
「白人、特に白人の警官を殺したい」。警察官を次々に狙撃した黒人の元陸軍予備役兵士、マイカ・ジョンソン容疑者(25)は死亡する前、警察の交渉官にそう話したという。
 
事件の前日と前々日にルイジアナ州とミネソタ州で連続して起きた警察官による黒人射殺の様子がインターネット上に動画で公開され、複数の動画投稿サイトなどを通じて、拡散した。無抵抗の黒人に何発も発砲する映像は強い衝撃を与える。連邦捜査局(FBI)はジョンソン容疑者も動画を見て、犯行に駆り立てられたとみて調べている。
 
人種差別問題が背景にあったと指摘された事件としては、カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で1991年3月、スピード違反をした黒人男性が白人警察官らに車からひきずり出され、暴行を加えられた事件が有名だ。住民がビデオカメラでこの様子を撮影。全米で映像が報道されると、黒人社会が猛反発した。警察官ら4人が起訴されたが、翌92年4月に陪審が無罪評決を下したことがきっかけとなり、市街地の商店などが焼き打ちにあうなどしたロサンゼルス暴動が起きた。
 
近年では、ミズーリ州ファーガソンで2014年8月、丸腰だった黒人少年=当時(18)=が警察官に射殺された。警察官が不起訴になると、ファーガソンで暴動が発生。警察に敵意を示す黒人が増え、同年12月にはニューヨーク市で警察車両に乗っていた警察官2人が近づいてきた黒人の男に撃たれ死亡した。
 
警察官による黒人射殺はその後も起き、「差別」と「危険の回避」の堂々巡りの議論が続く。狙撃事件を受けて、警察官らの黒人に対する緊張がさらに高まるのは必至だ。
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このダラスの事件後も、警察の黒人差別に対する抗議行動が続き、混乱も生じています。

****射殺、デモと警察対立続く 米で黒人死亡に抗議、逮捕相次ぐ****
米国で、黒人コミュニティーと警察の間の対立が再び懸念されている。黒人男性が警察によって射殺される事件が相次ぎ、構造的な差別に注目が集まっている。テキサス州ダラスで黒人の男が警察官を狙撃して5人を殺害した事件の影響も影を落としている。
 
黒人男性が警察官に射殺されたルイジアナ州バトンルージュでは、事件が起きた今月5日から抗議デモが続く。10日には中心部で数百人が行進し、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」と声を上げた。「黒人の命も大切だ」という意味のスローガンだ。
 
当初は平穏だったが、「路上を占拠している」との理由で警察との対立が始まった。重装備した警察官も登場し、立ち退きを拒んだ人を逮捕した。参加者のアレクサス・スプラグさん(22)は「幼い子供もいたのに、警察への信頼感が余計に損なわれる」と語った。

CNNによると、やはり黒人男性が射殺されたミネソタ州や、ニューヨークなどでもデモが続き、週末だけで300人以上逮捕された。
 
BLMの運動は2013年、黒人少年を銃撃して死なせた白人男性が無罪になったことをきっかけに誕生し、黒人が犠牲となる事件が相次いで広まった。今月、オバマ大統領が「刑事司法システムの中で人種によって異なる結果が生じている」と指摘するなど、運動の成果も表れている。
 
ダラスの警察官狙撃事件は、7日夜に発生。死亡した容疑者はBLMと関係ないが、「影響がある」という人もいる。警察関連のロビー団体幹部は8日、フォックステレビのインタビューで「(オバマ政権が)BLMを批判しないことがダラス事件を可能にした」と主張した。【7月13日 朝日】
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13日にもミネソタ州のミネアポリスでは、7月6日に起きた「フィランド・キャスティリ死亡事件」に抗議したデモ隊が朝のラッシュ時に高速道路に押しかけ封鎖、警察が41人の抗議者(デモ参加者)を逮捕するという事態になっています。

【「米国は分断していない。一つの家族だ」とは言いつつも・・・
現在の状況は知りませんが、仮に今回の抗議行動がこれで収束したとしても、おそらくまた同じような事件が、そして同じような抗議行動が繰り返されるのだろう・・・というところがアメリカの大きな問題です。

****ダラス警官銃撃】オバマ氏「米国は分断していない。一つの家族だ」 結束と対立解消訴え 追悼式典で****
オバマ米大統領は12日、南部テキサス州ダラスの銃撃事件で犠牲となった5人の警察官の追悼式に出席し、「私たちは一見してみえるほど分断はしていない。米国は一つの家族だ」などと述べ、米国民の結束と人種間の対立の解消を訴えた。追悼式にはミシェル夫人やブッシュ前大統領夫妻らが出席した。
 
演説では、不満を抱える市民と警察の双方に理解を示し、冒頭、犠牲となった5人の警察官の人柄や家族などを紹介。7日の銃撃事件では「銃弾が飛んでも、たじろぐことはなかった」とその雄姿をたたえ、圧倒的多数の警察官が「尊敬に値する」と述べた。
 
一方で、黒人に対する警察官の差別意識については「米国には依然として偏見がある」と言及。「平和的なデモに参加している人を、被害妄想を持っていると一蹴することはできない」などと強調した。また、若い世代にとってコンピューターよりも銃を手に入れることが簡単だとし、銃規制の必要性を改めて訴えた。
 
大統領退任後、ダラスに自宅を構えるブッシュ氏は、「悲しみや恐怖心ではなく、希望や愛情で結束することを望んでいる」と連帯を訴えた。【7月13日 産経】
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話がそれますが、上記のように追悼式に参列したブッシュ元大統領は酒に酔っていたらしく、踊ったり、微笑んだりしている様子が映像に流れ、多くの批判を浴びたとか。【7月15日 PARS TODAY】

オバマ大統領は「米国は分断していない。一つの家族だ」と訴えていますが、現実は厳しい側面もあります。

****人種間関係、7割が「悪い」=92年以来最多―米警官狙撃1週間****
白人警官らによる黒人射殺や、黒人による警官狙撃事件が先週相次いだ米国で、人種間の関係について「総じて悪い」と考えている人が69%に上ることが、13日公表された最新の世論調査結果で分かった。

白人警官の暴力をきっかけにロサンゼルスで大規模な黒人暴動が起きた1992年以来、最多となった。 
ロス暴動では53人が死亡し、直後の世論調査で人種間の関係を悪いと考えた人は68%だった。(後略)【7月14日 時事】 
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低所得黒人層救済のためには最低賃金を廃止すべし?】
興味深いのは、こうした状況を改善する具体策として、「黒人を救うには最低賃金を廃止せよ」との、一見事態改善に逆行するような指摘があることです。

****黒人を救うには最低賃金を廃止せよ****
アメリカ社会が揺れている。先週はルイジアナ州とミネソタ州で黒人男性が警察官に射殺される事件が相次ぎ、さらにテキサス州ダラスで黒人の男が警察官を狙撃し5人が殺害される事件が起きた。

一連の事件は、アメリカの黒人が直面する苦難を改めて浮き彫りにした。黒人はアメリカ人全体と比べて凶悪犯罪の被害者になる確率が突出しており、失業率や貧困率が極めて高く、低所得者層が多い。まさに苦難の渦中にある。

これまでも事あるごとに問題になってきたが、そのたびに政治家は、何となく黒人の「権利拡大」や「地位向上」につながりそうな、大して代わり映えのない政策を掲げてきた。

ほとんどの場合、そうした政策によって権利を拡大してきたのは主に公務員で、本来の目的である黒人とその他の間の格差を埋めることはできなかった。

政策の失敗が明らかになるころには、世論や政治家の関心はすでに下火になっており、新たな事件の発生を待つしかなかった。

一見弱者に優しい制度だが
今回こそ、政治家は従来とは考え方を改め、実際に黒人の為になる政策を試みるときだ。当研究所でも教育や刑事司法制度、セーフティーネット(安全網)の改革に関する提言を行っているが、ここではもう一つ、シンプルだがやや意外に聞こえるかもしれない提言をしよう。最低賃金の廃止だ。

否定する政治家もいるが、最低賃金の引き上げによって低所得者層の失業が増えることは、今では広く知られている。2013年の研究では、最低賃金の引き上げと犯罪の増加には、直接的な因果関係があることも明らかになった。
これらの実証研究を否定するのは、気候変動に関する研究を否定するのと同じくらい無意味だ。

研究では、最低賃金がもたらす悪影響によって最もダメージを受けるのは「若年層の黒人男性」だということも分かっている。それはまさに、黒人の中でも最悪の苦境に置かれている層だ。

誰にでも最低の賃金を保障する制度は一見、弱者に優しく見える。しかし実際には企業は、最低賃金を下回るスキルしか持たない未熟練労働者を雇わなくなる。

代わりにもし、初心者でも仕事に就けるチャンスがもっとあれば、若年層の黒人男性もいくばくかの収入を得ながら職業経験を積み、より賃金の高い仕事に転職し、最終的に暴力や貧困から遠ざかることもできるだろう。

若年層の黒人のために最低賃金を廃止することは、重要な歴史的転換点にもなるだろう。最低賃金が設定された背景には、黒人や女性の雇用を奪うことで、白人男性が優先して仕事に就くべきだと信じた進歩主義者の狙いもあった。経済的に苦闘する黒人の今日の姿は、そうした進歩主義者による計画が、アメリカ社会でいかにうまくいったかを象徴するものだ。【7月14日 Newsweek】
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“最低賃金が設定された背景には、黒人や女性の雇用を奪うことで、白人男性が優先して仕事に就くべきだと信じた進歩主義者の狙いもあった。”というのは初耳です。オーソライズされた考えなのでしょうか?

それはともかく、最低賃金が設定されると、最低賃金を下回るスキルしか持たない未熟練労働者の雇用機会が狭められる・・・というのは、“なるほど”という感もあります。

ただ、現実の経済構造、最低賃金廃止が社会全体に漏らす影響など広い視点から注意深く検証する必要があると思われます。

完全市場モデル的な、自由市場を重視する経済学にあっては、上記のような最低賃金の引き上げによって低所得者層の失業が増えるという考えが多いようです。ですから自由市場信奉者が多いアメリカでは、一般的な見方かも。

しかし、理論と現実にはギャップもあります。また、“これらの実証研究を否定するのは、気候変動に関する研究を否定するのと同じくらい無意味だ”とのことですが、“実証的には、最低賃金の雇用の縮小の効果が出るような大幅な最低賃金の上昇をした例がないため、雇用の縮小効果は小さく、好影響・悪影響を判断・確認できるような研究ができていない。ビル・クリントン政権であった1996年に最低賃金が引き上げられた際に、失業率の上昇はみられず、低所得者層の給料が増加した。”【ウィキペディア】とも。

ロボットによる犯人爆殺 背景には改善されない銃社会の現実
話をダラスの警官襲撃事件に戻すと、犯人をロボットで爆殺したことも大きな話題となっています。

ロボットが人を殺す・・・ということへの違和感はあります。
違和感はありますが、SWATが射殺するのとどこが違うのか?犯人がバリケード等に隠れており射殺もできない場合は「容疑者のそばで爆発させる以外に選択肢はない」(ダラス警察署長)ではないか・・・というのもわかります。

今回は、ロボットとはいっても遠隔操作で、実際の爆殺操作は人間が行っています。
今後、AIを搭載したロボットが自己判断で人間を殺害するということになれば、話は全く違ってきます。そうした事態に道を開くことにつながるのでは・・・という不安もあります。

もうひとつ問題となるのは、こうした“武器”は軍から警察へ流れ出たものであるという点です。
警察が軍隊のように重武装して、武装勢力に対応するように市民に向きあうことの問題があります。

こうした警察の重武装化・軍隊化は、住民と警察の信頼関係を薄め、敵対関係のような雰囲気を醸し出す恐れもあります。
日本のような、住民密着の“おまわりさん”が望ましい姿でしょう。

アメリカにあっては、警察にそうしたことを許さない現実があります。そうした治安悪化の一番きな原因はやはり“銃社会”という現実でしょう。

しかし銃規制は遅々として進みません。

****米議会まもなく休会入り、銃規制・ジカ熱法案は棚上げ****
米議会はまもなく7週間に及ぶ休会に入るが、銃規制強化やジカ熱対策などの差し迫った問題は先送りされる見通しだ。

米国内で銃暴力が後を絶たない中、共和党のケビン・マッカーシー下院院内総務は12日、米下院では今週、テロリストの疑いがある人物の銃購入を制限する法案の採決を行わないと記者団に語った。(中略)

長い休会のスタートまで残り4日となり、少なくとも議会が再開される9月6日まで何らかの銃規制が打ち出される可能性はなくなった。【7月13日 ロイター】
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