(【7月14日 AFP】 地元住民は「私たちの子どもみたいなものだった」と、奴隷扱いを否定しているそうですが・・・)
【「鎖やひもでつながれ、暴行され、屈辱を与えられ」】
フランスで大規模テロが起きても、トルコでクーデター騒ぎがあっても、その可能性は普段から懸念されていたところあり、また、これまでも同様の出来事が起きていますので特段驚きはしませんが(その重要性を軽視するという話ではありませんが)、東欧とはいえEU加盟国でもあるルーマニアに「奴隷村」が存在していたという記事には驚きました。
****ルーマニアに「奴隷村」、警察が強制捜査****
ルーマニア南部の村で、村人たちが拉致してきた数十人の若い男性や少年を、鎖につないだり、虐待したりするなどして、奴隷のように扱っていたことが、捜査当局の発表で明らかになった。
警察当局は13日、ブカレストの北170キロにあるベレボイエシュティ村に大規模な強制捜査を行い、未成年2人を含む5人を保護した。容疑者は約90人に上るという。
組織犯罪対策部の検察官によると、被害者は約40人で、2008年以降に「教会や鉄道の駅のそばの公共の場所や、自宅」から拉致された。
「鎖やひもでつながれ、暴行され、屈辱を与えられ」、食料を十分に与えられず、残飯を食べさせられ、家事や動物の世話、違法な伐採などをさせられていたという。【7月14日 AFP】
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続報によれば、地元住民は「奴隷」扱いしていたとの報道を否定しているそうです。
****ルーマニアの「奴隷村」、容疑者38人を再勾留****
ルーマニア南部のベレボイエシュティ村で、数十人の若い男性や少年たちが奴隷のように扱われていたとされる事件で、警察当局は14日、容疑者38人を再勾留した。(中略)
また「(被害者は)全裸で放置され、冷水と湯を代わる代わる浴びせられていた。手足をつながれ、地面に置かれた食料を食べるよう命じられ、容疑者らを楽しませるために闘い合いを命じられていた」という。
さらに検察官は、2008年以降、約40人の被害者が「教会や鉄道の駅のそばの公共の場所や、自宅」から拉致され、家事や動物の世話、違法な伐採などを強要されていたと述べている。またDIICOTの報道官によると、一部の被害者は性的虐待も受けていたとみられている。
児童保護当局者は地元メディアに対し、13日に保護された被害者たちは「頭皮を中心に全身に傷があった。肉体的・心的外傷を受けていた」と語った。
■地元住民は「奴隷化」を否定
地元住民は14日、記者らに対し、事件は事実ではなく、被害者とされる少年たちは孤児の野宿者で、ひどい扱いは受けていなかったと主張した。
身元を明かすのを拒否したある地元女性はAFPに対し「この人たちが家に仕事をしに来たとき、私たちは食べ物を与え、寝床を提供していた。何もひどいことはしていない」と話し、「彼らは親がいなく不幸だった。私たちはかわいそうに思っていた。私たちの子どもみたいなものだった」と語った。【7月15日 AFP】
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失礼ながらアフリカやインドの山奥ならともかく、欧州のルーマニアで、首都からそう遠くもないところに「奴隷村」が・・・・ということに最初驚きました。
ルーマニアは2007年にEU加盟していますが、EU創設を定めたマーストリヒト条約第49条では、EU加盟国は自由、民主主義、人権の尊重、法の支配といった理念を尊重していることが挙げられています。
【「奴隷」から連想されるロマ差別問題】
地元住民が否定していますので、真相はわかりません。
わかりませんが、考えてみると「奴隷」「虐待」につながるような風土にも思い当たります。これまでもたびたび取り上げてきた「ロマ」の問題です。
北インド起源ともされるロマは“ジプシー”とも呼ばれ、ルーマニア・ブルガリアなど中東欧を中心に広く欧州に暮らしています。
かつては移動生活をする者が多かったようですが、現代では定住生活をする者も多いと言われています。
“欧州連合の行政府・欧州委員会によると、欧州に暮らすロマの人口は推定1000万~1200万人。 欧州評議会の各国別推計によると、ルーマニア185万人、ブルガリア75万人、スペイン72万5000人、ハンガリー70万人、スロバキア49万人、フランス40万人、ギリシャ26万5000人、チェコ22万5000人、イタリア14万人など”【ウィキペディア】
上記数字でもわかるように、ルーマニアは「ロマ」が最も多く暮らす国でもあります。
人権尊重の欧州におけるロマ差別の問題については、
2013年8月24日“人権重視の欧州で続くロマ差別 ロマ分断の「壁」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130824
2013年10月24日“移民・外国人への風当たりが強まる欧州で、相次ぐ被差別民族ロマの話題”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131024
2016年3月4日“難民・移民問題に揺れる欧州が昔から抱えるもひとつの異民族・異文化問題・・・「ロマ」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160304などで取り上げてきました。
****各国のロマ・・・ルーマニア****
ルーマニアにおけるロマに対しての差別は根深く、結婚、就職、就学、転居などありとあらゆる方面にて行われている。しかしその起源はいずれの説も根拠を欠いたものが多く、現在でも定説は無い。
ルーマニア国内のロマ支援組織の多くは19世紀半ばまで約600年間続いた奴隷時代にその根源があると主張している。
それによると『1800年代の法典はロマを「生まれながらの奴隷」と規定し、ルーマニアの一般市民との結婚を認めなかった。
そして、奴隷解放後も根深い差別の下でロマの土地所有や教育は進まなかった。都市周辺部に追いやられたロマは独自の文化や慣習を固守する閉鎖的な社会を築き、差別を増幅させる悪循環につながった』とされている。
その一方で、当時そのような法典が公布及び施行された記録が残されておらず、法典自体も見つかっていないため、この説は根拠に乏しいとする見解も存在する。
ロマを「生まれながらの奴隷」と規定した法典はロマ支援組織が差別の根拠として捏造したもので、奴隷時代の始まりとされる13世紀以前から、既に習慣という形でルーマニアでのロマ差別は存在していた、という見解を支持しているルーマニア国外のロマ支援組織やロマ研究者は多い。
21世紀に入った現在、ルーマニアでのロマ問題は拡大の一途をたどっている。EU諸国からのロマの強制送還により、ロマ人口が増加しているのである。
ルーマニアにおいて、ロマは自己申告に基づく国勢調査では50万人だが、出自を隠している人も含めると150万人に達すると言われる。
ルーマニアの身分証明書には民族記入欄が無いため、ロマであることを隠し社会に同化する人も少なくない。
2002年の調査では、ロマの進学率が極度に低いことが明らかになっており、高卒以上は全体の46.8%に対し、ロマは6.3%、全く教育を受けていない無就学者の割合は、ロマだけで34.3%にも上るのに対し、少数民族を含むルーマニア全体では5.6%にとどまっている。
これらの問題に対してルーマニア政府は、「国内にロマはいないため、ロマに対する差別問題は存在しない」としてロマの存在自体を否定している。
つまり、ルーマニア国内にロマが存在しない以上、ロマに対しての差別は存在しえず、ロマ差別はあくまでもルーマニアでは架空の存在でしかない、というのが政府の見解となっている。
このため、国内におけるロマ問題への対策をルーマニア政府は何一つ行っていない。さらに、国内外からのロマ対策を要求する声に対しても何の反応も示していない。
この結果、ルーマニアでのロマ問題は解決のめどは立っておらず、逆にロマ差別自体がルーマニア人ならびに国家ルーマニアとしてのアイデンティティになっていることは否定できなくなっている。
1991年にはブカレスト近郊のボランタン村でロマの家100軒が数百名の暴徒に襲われ、焼き討ちに遭う事件が起きている。【ウィキペディア】
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今回拉致され奴隷扱いされていたとされる被害者がロマなのかどうかは知りません。
ただ、ロマでないにしても、ロマに関する“19世紀半ばまで約600年間続いた奴隷時代”という歴史・風土が今回事件に関係しているのでは・・・とも思えます。単なる推測に過ぎませんが。
ロマの“奴隷時代”が20世紀以降消えた訳ではありません。
チャウシェスク元大統領時代には、民族優等主義の発想から、ロマを劣った民族と考え、財産や職を取り上げた上で強制隔離するようなユダヤ人差別と同様な扱いがロマに対して行われてと指摘されています。
【「ダークネスDUA」http://www.bllackz.com/?m=c&c=20101126T0324000900】
【ルーマニアに限らないロマ差別 “西欧的価値観”の一般性への疑念も】
ルーマニアの名誉のために付け加えれば(名誉回復になつかどうかは知りませんが)、ロマ差別は別にルーマニアに限った話ではなく、欧州全域において根深いものがあります。
国際人権団体アムネスティは中欧チェコにおける現在も続くロマ差別について、以下のように指摘しています。
****「もう学校に行きたくない」〜チェコで続くロマの子どもたちへの差別〜****
■□■ チェコ教育現場での差別 ■□■
差別は子どもにも向かう。そしてそれを行政が助長している。ハンガリーで、ルーマニアで、スロバキアで、チェコで、ロマというだけで一般教育からはじき出し、知的障がい者のための学校やロマだけを集めた学校へと追いやっているのだ。
アムネスティはこの問題に取り組んでいる。現地調査で差別の実態を明らかにして発信し、状況改善のために政府や市民に働きかけてきた。
今年はチェコで行われている深刻な差別を、レポートとして発表した。ロマの子どもたちは公用語のチェコ語が母語でないことも多いが、チェコ政府はサポートを行うどころか、面倒だからと一般の学校への入学を拒否しているのだ。
チェコの人口に占めるロマの人びとの割合は3%に満たない。にも関わらず、軽度の知的障がい者用の学校・学級の子どもたちの30%近くは、ロマの子どもたちだ。明らかに異常な多さだ。
こうした差別はEU法や国際人権法に違反する行為であるが、それがチェコではまかり通っている。
また、たとえ一般の学校への入学を許されたとしても、生徒や教職員たちからいじめや差別的な扱いを受けたりすることもある。
一般レベルの教育を受ける機会を奪われることは、将来の可能性も摘み取られてしまうということだ。そして貧困や疎外から抜け出せない悪循環に陥らされてしまう。
チェコ政府はこういった状況に対し適切な対策をとることを怠ってきた。これは人種差別以外のなにものでもない。
■□■ 子どもたちが経験した差別 ■□■
11歳のカレルとその妹ヤナが通っていた学校には、ほかにロマの子どもたちがいなかった。
「妹のヤナがいじめられて、怖くて学校に連れて行こうとすると泣き出してしまうようになったんだ。それで僕がヤナをいじめた子どもたちと喧嘩したら、僕だけ叱られた。それがどんどんひどくなって、学校に行かなくなったんだよ」
チェコでは正当な理由のない欠席が続くと、保護者の法的責任が問われるため、結果的にカレルとヤナは家族から引き離され、児童養護施設に入れられることになった。
15歳のアンドレは5年生のときに軽度の知的障がい者用の学校に入れられた。
「前はスロバキアに住んでいて、サッカーが好きで将来はサッカー選手になるのが夢だったんだ。いくつもトロフィーをもらったよ。それがチェコに引っ越してきて、チェコ語が分からなくても誰も助けてくれなかった。落第点を取ってしまった時、テストを受けさせられて、違う学校に行かされることになった。そこでの授業の進みは遅いし簡単だ。僕は高校や大学に行きたいんだけど、先生たちは無理だって言うんだ」
■□■ 差別を終わらせるために ■□■
国際社会からの痛烈な批判をたびたび受けながらも、チェコ政府は、問題の核心を解決できず、いまだにロマの子どもたちを「分離」して教え続けている。
2007年に欧州人権裁判所がこの分離教育は差別であると断じて以来、チェコ政府は教育制度の改善策を何度も発表してきた。しかしどれもロマの子どもたちに対する教育差別に正面から向き合ったものとは言えず、約束した策の実行も不十分だ。(後略)(アムネスティ・インターナショナル日本)
【2015年07月24日 THE HUFFINGTON POST】
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7月12日ブログ“ハンガリー 「3分の2」で改憲・新憲法 国家・民族重視の「非リベラル国家」を目指すオルバン政権”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160712では中欧ハンガリー・オルバン政権がEUが標榜する価値観に沿っていないことを取り上げましたが、一口に「欧州」とは言っても、そもそも中東欧にあっては、いわゆる“西欧的価値観”とは異なる風土が存在しているのかも・・・とも思われます。
なお、ロマ差別については、フランスなど西欧にあっても問題になることが多い事案で、西欧がいわゆる“西欧的価値観”に全面的に沿っているという話でもありません。