(いずれも【松田茂樹氏「アジアで進行する少子化」】より)
【未婚化が少子化に直結するアジア諸国】
周知のように、日本だけでなく東アジア諸国に共通する現象として少子化が急速に進展しています。
****アジア諸国の低出生力****
少子化とは、合計特殊出生率(以下「出生率」)が、その国の人口が増加も減少もせずに均衡する出生率の値である人口置換水準(日本の場合は2.07) を長期間下回り、低迷する状態のことである。
近年アジア主要国では出生率が急速に低下して、2 を大きく下回る状態になっている。
アジアの中で出生率が最も早く低下しはじめたのが、日本である。日本の出生率は、戦後すぐの1947 年に4.54 であったが、政府による産児制限の推進等により1960 年には2 まで急速に低下した。
そして、70 年代半ばに2 を割って以降、徐々に低下して、2005 年には過去最低の1.25 になった。その後回復傾向にあるものの、いまだ1.44(2016年)にとどまる。
韓国の出生率の低下は日本よりも短期間かつ急であり、1970 年に4.5 であった値が、その後15 年足らずで2 を割り込み、2014 年に1.21 と世界的にみても極めて低い水準である。
シンガポールの出生率も、1970 年の3.10 から徐々に低下して、80 年代に2 を下回り、2000 年代以降は1.2 前後で推移している。
台湾と香港の出生率も同様の傾向を辿っている。これら諸国と若干傾向が異なるのが中国とタイだが、両国の出生
率も近年低迷する。
このように、低出生率はアジアの先進国と新興国に共通する現象である。このうち近年出生率の明確な回復傾向がみられるのは日本のみである。【松田茂樹氏「アジアで進行する少子化」】
*******************
少子化はアジアだけでなく、欧州諸国でも見られる現象で、個人の解放や自己実現を重視する「物質主義」から「脱物質主義」へというポストモダン的な価値観の変化が起こり、そうした価値観の変化を背景に、同棲の増加、婚外子の増加、離婚等を特徴とする、出生率が人口置換水準を下回る水準への低下が起きていると説明されることが多いようです。
日本などアジア諸国においても、そうした説明は一定にあてはまる部分はあるものの、アジア諸国における家族制度の強さをみても、アジアでは西欧と同様の価値観変化が出生率低下等をもたらした要因にはなってはいないなど、異なる面もあります。
****「圧縮された近代」*****
日本を含むアジア諸国は、欧州よりも短期間に経済や政治面における近代化を達成した。しかし、家族制度は強く残り、価値観もポストモダン的なものと異なる。そして、欧州諸国以上に急速な少子化を経験している。
こうした社会の特徴を解釈する理論枠組みに韓国を舞台にした「圧縮された近代」(Chang 2010)がある。
欧州において2 世紀かかった近代化を、韓国は政治、経済等の分野において半世紀で達成した。古典的な近代化論では、近代化のプロセスにおいて社会の諸制度は伝統的に家族が担ってきた経済活動や教育等を担うようになり、家族や伝統的価値観が弱まることを想定している。
しかしながら、韓国では儒教を背景にした伝統的な家族主義それは政治、企業、社会秩序の維持の各所に広まるが強く残り、その家族主義が短期間における急速な近代化の達成を可能にさせた。
この近代化の過程において政府は経済発展を優先して、社会福祉は家族がもっぱら担ってきたために、家族の負担は非常に重い。このために、若い世代は家族を形成することを避けるようになり、少子化が進行しているという。
この圧縮された近代は、韓国のみならず経済発展の著しいアジア各国に共通する特徴であり、アジアの中で最も早く近代化を遂げた日本は「半圧縮近代」とされる(落合2013)。
日本においても、1970 年代には家族を福祉の主要な担い手のひとつと位置づける「日本型福祉社会」という政府構想があり、社会福祉の整備がすすんだ現在においても子育てや介護における家族の役割はいまだ大きい。
この理論枠組みは、経済や政治分野に比べて、その社会の基盤をなす価値観や家族制度は維持されやすく、変化するとしても時間がかかることを示唆する。【同上】
******************
家族制度が残存することで、アジア諸国では急速に進展する未婚化が少子化に直結する形にもなっています。
****未婚化と少子化のリンク****
近年アジア諸国では、「結婚からの逃避」(Jones 2005)とも形容される、急速な未婚化が進行している。(中略)
同棲と婚外子が広まっていないということは、人々は結婚後に子どもをもうけることになる。
このために、欧州諸国と異なり、アジア諸国では未婚率の上昇は少子化に直結する。日本についてみれば、1970 年代半ば以降の出生率低下の9 割は未婚率によってもたらされている(岩澤2014)。【同上】
*******************
【シンガポール:見合い費用を政府が半額負担 それでも改善しない少子化】
早くから少子化対策に取り組んできているシンガポールでは、結婚奨励のため、政府がお見合い費用の半額を負担しています。
****シンガポールの結婚奨励政策に新手法、見合い費用を政府が半額負担****
シンガポールの結婚奨励政策に新手法、見合い費用を政府が半額負担
シンガポール首相府が発表した「2017年人口簡易報告」によると、シンガポールの総人口は2016年比で0.1%増加し、2003年以降の最低増加率を記録した。
そのため、シンガポール政府はさまざまな結婚・育児奨励政策を実施している。また、今月には独身者を対象としたお見合いイベントへの参加を呼びかけ、さらには「デート費用は政府持ち」というキャッチフレーズまで打ち出しており、政府の結婚奨励に対する苦心が垣間見える。
シンガポールでは3月中旬から、1カ月半にわたる大規模なお見合い交流イベントを開いている。お見合いイベントのスタイルはさまざまで、グルメを堪能できるイベントやランニングやクルージングを楽しめるイベント、一緒に手作りを楽しむパーティーまである。そしてこうしたイベントの参加費用の半分は政府が負担している。
2016年のある調査によると、シンガポールでは男女の結婚年齢が過去30年間で3〜4歳上がってきているとしており、アジアの中でも独身率が高い国の一つ。
結婚しない人が増加している共通した原因としては、女性の教育レベルの大幅な向上、キャリアに対する不安、離婚率の上昇、都市生活のストレス、子供を持ちたくないなどが挙げられる。
お見合いイベント組織機関の総合アドバイザーである梁心怡氏は、「子供を持つことはとても程遠い望みになっていると言える。なぜなら生活水準がすでに向上していると感じている人は多く、一方で子育ては非常にコストの高いものとなっているからだ」とした。 (中略)
専門家は、結婚奨励政策だけでなく、男性が積極的に家事を手伝うべきだと呼びかけている。家庭の仕事を行うのは女性だけの責任ではないという考えが広がることで、出生率の向上につながるからだ。
シンガポール国立大学・社会科学院の家庭人口・研究センターの李唯軍主任は、「シンガポールは以前、子供を出産すると1000シンガポールドル(約8万円)を支給するという手当てがあった。現在では、第一子の出産による手当ては6000〜8000シンガポールドル(約48〜64万円)にまで上がった。
政府は新生児向けに公共積立金保健口座を開設し、3000シンガポールドルの補助金をその口座に入れる。また、シンガポールでは、母親は4カ月の育児休暇を取得でき、データイムの育児センターや幼稚園も建設されている。
これらのインフラ設備は、子供を持つ親たちが家庭と仕事を両立するためのサポートに繋がっている」と説明した。
シンガポール政府は育児の奨励を行うとともに、老後の保障制度のさらなる向上も行っており、終身学習計画を実行に移し、より多くの養老機関を建設し、定年退職の年齢を引き上げ、高齢者が社会で活躍し続けられる制度を整えている。【3月31日 Record china】
****************
シンガポールのこの種の取り組みは今に始まった話ではなく、国営の出会い系サイトも運用されています。
****国営の出会い系サイト****
シンガポールには、通称SDNと呼ばれる、少子化対策のために設置された政府機関・Social Development Network(社会開発ネットワーク)というものがあります。
シンガポール在住の20歳以上が、登録できるサービスで、このページにいつ訪れても、婚活パーティーや、料理教室など、男女の出会いを期待できる、イベントなどを掲載しています。
こちらに掲載しているイベントの多くは、割安で、参加が出来ることが多いといいます。
といいますのも、婚活事業者や、出会い系パーティー事業者には、SDNから、補助金という形で支援が入るそうです。
更に、このwebサイトで集客まで助けてくれるのだから、婚活事業者は、有り難い限りでしょう。
その他、このwebサイトには、デートで異性を攻略する方法だったり、恋愛コラムなどが、掲載されています。
シンガポールには、国営の出会い系サイトが設置されているのです。【2016年9月6日 Think Nomad】
*********************
しかしながら、シンガポールの少子化が未だ改善しないということは、この種の取り組みだけでは限界があるということも示しています。
******************
「シンガポールは80年代に、日本よりも早く少子化対策を始めた。87年には政策スローガン『3人以上(子どもを)持とう、余裕があるならば』を掲げた。子ども手当や公務員の不妊手術のための休暇制度、時間短縮勤務など様々な対策が取られた。
この結果、一時的に出生率は上昇したが、再び低迷した。政策を打ち出しても、出生率は永続的に上昇するということにはならなかった。
04年にも『シンガポール―家族にとってすばらしい場所』という政策スローガンを出し、出産祝い金や子ども手当の増額、外国人メイド税の減税など包括的な政策を出したが、効果があったとはいえない。今もなお、出生率は1.1~1.2あたりをはっている。」(国立社会保障・人口問題研究所の人口構造研究部、鈴木透部長)【2014年6月9日 WOMAN AMART】
*******************
なお、シンガポールは“国”というより“都市”に近いこともあって、“アジアの大都市の2008~2012 年の平均出生率をみると、都市国家であるシンガポールは1.23 であるのに対して、東京1.10、ソウル1.01、台北1.08、香港1.13、北京0.71、上海0.74 であることから、シンガポールの出生率は大都市として決して低くはないという見解もある”【松田茂樹氏「アジアで進行する少子化」】とのことです。
【OECD最下位の韓国:胸の整形手術を支援との案も】
少子化の進展では韓国も深刻です。
****17年の出生数35.7万人で過去最少 前年比12%急減=韓国****
韓国統計庁が28日発表した出生・死亡統計(速報)によると、2017年の出生数は35万7700人で前年(40万6200人)比11.9%減少し、関連統計の作成を開始した1970年代以降で最も少なくなった。減少幅は2001年(12.5%減)以来16年ぶりの大きさ。
韓国の年間出生数は世界でも類を見ないほどのペースで急減している。1970年代には100万人台だったが、2002年に49万人と半減し、17年にはついに30万人台に落ち込んだ。
17年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均数)は1.05と、やはり過去最低となった。05年(1.08)以来、12年ぶりに1.10を下回った。
韓国の合計特殊出生率は人口維持に必要とされる2.10の半分で、経済協力開発機構(OECD)35加盟国の平均(1.68)を大きく下回り断トツの最下位だ。
17年の平均出産年齢は32.6歳で前年より0.2歳上昇した。昨年出産した女性に35歳以上が占める割合は29.4%で、前年より3.0ポイント上がった。【2月28日 聯合ニュース】
*****************
その韓国では、出産を推奨する方法として「胸の美容整形手術の付加価値税を免除する」案が物議を醸しているとも。
****少子化対策で胸の整形手術を支援!?韓国国会で推進された法案が物議****
2018年2月15日、韓国・京郷新聞によると、韓国の国会で女性らの出産を推奨する方法として「胸の美容整形手術の付加価値税を免除する」案が推進され、物議を醸している。(中略)
(提案者の)ペク委員長は協力要請書で「少子化問題の原因はさまざまだが、出産や授乳による体形の変化に対する女性らの懸念も相当な影響を与えている」とし、発議の理由について「これは整形手術を通じて解決できるが、現行法上は美容整形に該当し付加価値税が課税されるため、費用負担が大きいという制約がある」と説明したとされる。
さらに「出産した女性が受ける房拡大・縮小手術は、妊娠・出産の延長線上で産後の回復や管理のための医療保健サービスとしての性格を持っていることから、付加価値税を免除し出産を奨励しよう」と提案したというのだ。
これに対し、他の与党議員からは「法案に問題がある」との指摘が出ているという。ある与党議員は「趣旨は理解できるが、不適切に見えてしまう可能性がある」と話しており、韓国女性民友会のキムミン・ムンジョン代表も「多くの女性が出産を諦める理由は社会にまん延した性差別のせいであり、かえって女性に厳格な外見の基準を突き付けて性差別をあおっている」「少子化の原因を見誤った安易で恥ずかしい法案」と批判しているそうだ。
記事によると、ペク議員側はこの物議を受け「税理士業界が提案したさまざまな少子化対策の1つ」とし、「ひとまず発議は中断した状態。女性界・市民団体の諮問した後、再び推進していきたい」と明らかにしているとのこと。
これに対し、韓国のネット上では女性ユーザーより男性ユーザーの方が多く意見を寄せている。「おかしい」「恥ずかしい」「あんなのが国会議員だなんて情けない。国民の税金を無駄遣いしてる」「レベルが低過ぎ。議員を辞めたら?」「少子化と整形に何の関係がある?次からあんな議員は選ばないようにして」など非難の嵐は避けがたいようだ。
国会議員に代わって代案を寄せるユーザーも見られ、「それならバイアグラを保険適用にした方が出産の奨励につながりそう」「胸の形を気にして出産しないわけじゃない。回復に焦点を当てて医療支援をするのなら、(出産後の)失禁や骨盤臓器脱の支援をした方が現実的」などの声が上がった。【2月16日 Record china】
*********************
お見合いへの政府補助、国営出会い系サイト、胸の美容整形手術の優遇・・・・等々、いろんな対策の検討は結構ですが、基本的には、少子化・未婚化が進展する原因を理論的に解明し、それに沿った根本的な対策が必要とされています。
場合によっては、非嫡出子に関する扱いや移民に関する検討も。
【婚外子が半分以上を占めるフランス・スウェーデン】
欧州各国の出生率については、以下のようにも。
フランスは、相変わらず2に近い数字を示しています。
“フランスでは56.7%、スウェーデンでは54.6%が婚外子だが、何ら差別を被ることはなく、婚内子と同等の権利が保障されている。”【2017年7月13日 Newsweek】
****EUの合計特殊出生率、仏がトップ 独は移民流入で出生数増加****
欧州連合統計局(ユーロスタット)は28日、EUおよび加盟各国の2016年の合計特殊出生率を発表した。
国別の1位はフランスの1.92、2位はスウェーデンの1.85だったが、人口維持に必要な目安である人口置換水準の2.1を下回った。
一方、最下位のスペインとイタリア(いずれも1.34)をはじめ、下位には経済問題を抱える国の多い南欧諸国が並び、おおむね北欧諸国を下回った。
ユーロスタットの最新の統計によると、2016年の欧州連合加盟28か国の出生数は計514万8000人で、2015年の510万3000人から増加した。
EU全体の合計特殊出生率は1.60で、ユーロスタットが「先進国の人口置換水準」と見なす2.1を大きく下回った。
フランス、スウェーデンに次ぐ3位はアイルランド(1.81)で、4位にはデンマークと英国(いずれも1.79)が並んだ。
ドイツでは出生率が1.59だったのに対し、出生数が記録的水準の79万2131人に上った。移民の大量流入でドイツ人以外の女性による出産が増加したことが押し上げ要因となった。
ドイツ連邦統計局が28日発表した統計によれば、出生数の増加率はドイツ人女性の約3パーセントに対し、ドイツ人以外の女性では25パーセントに達した。
ユーロスタットによると、初産の平均年齢はEU全体が29歳で、最も低いブルガリアは26歳、最も高いイタリアは31歳だった。【3月29日 AFP】
*********************