(【4月26日 BBC】 米議会で、トランプ大統領とは異なる世界観を語るマクロン仏大統領)
【「これはブロマンスだ」「今までメラニア夫人に示した愛情より愛にあふれている」】
フランスのマクロン大統領とアメリカのトランプ米大統領、年齢が親子ほども違い、政治姿勢もマクロン大統領のグローバリズム・自由貿易重視に対し、トランプ大統領はアメリカ第一で、保護貿易傾向も・・・と、対照的なな二人ですが、既成政党・既成政治の枠組みの外から、大方の予想に反する形で一気に権力の座のついたという点では、共通点もあります。
この二人、マクロン大統領の就任直後の“握手対決”と、その対決でマクロン大統領が一歩も引かなかったことで話題ともなりました。
****マクロン氏、トランプ氏と「握手対決」****
ドナルド・トランプ米大統領は、相手の腕を引き寄せてバランスを崩してしまうほど力強い握手で有名だが、39歳の仏政界の神童、エマニュエル・マクロン大統領は、準備万端だったようだ。
両大統領は(2017年5月)25日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を前に、ベルギー・ブリュッセルの米国大使館で会談。
トランプ大統領と並んで座ったマクロン大統領は、世界各国のメディアのカメラを前に、口元を硬く閉じ、トランプ氏の細めた目をしっかりと見据えて握手に臨んだ。
握手の間、両大統領は歯を食いしばり、2人の顔はこわばり、こぶしは白くなった。握手がようやく終わると、両者は子牛のメインディッシュとベルギーチョコレートのムースのデザートの昼食へと向かった。(後略)【2017年5月26日 AFP】
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こうした“握手対決”で見せた同じような負けん気の強さに互いに感じるものがあったのか、ともに既成政治を突きくづしたという共通項のせいか、政治姿勢の違いにもかかわらず、個人的には極めて良好な関係にあることもよく知られています。
そのマクロン大統領が、トランプ大統領就任以来の初の国賓として23~25日に訪米。
イラン核合意破棄に向かって突き進むトランプ大統領をなだめられるとしたらマクロン氏以外にいないということもあって、両者の会談が注目されました。
良好な個人関係は健在のようです。
****トランプ氏、マクロン氏の「ふけ」払い「特別な関係」を強調****
ドナルド・トランプ米大統領は24日、訪米中のエマニュエル・マクロン仏大統領のスーツの襟から「ふけ」を払うしぐさを見せ、これも両首脳が「とても特別な関係」にある証しだと強調した。
トランプ氏は、首都ワシントンを訪問したマクロン氏を、昨年の大統領就任以来自身の初めての国賓として迎えた。
トランプ氏が意外なジェスチャーをして見せたのは、ホワイトハウスの大統領執務室で、写真撮影のためマクロン氏と並んだ時だった。
トランプ大統領は、「われわれはとても特別な関係にある。その証拠に私はこの小さなふけのかけらを払ってあげよう」と言って、マクロン氏の襟元から小さな白いほこりを取り除いた。そして「彼(マクロン氏)を完璧にしてあげないと、彼は完璧なんだから」と続け、マクロン氏の笑いを誘った。【4月25日 AFP】
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この“特別な関係”「ブロマンス」は、アメリカでも深夜番組の格好のネタになっているとか。
****米仏大統領の「ブロマンス」 米深夜番組の格好のネタに****
固い握手から温かい抱擁、ちょっとした身繕いまで──訪米中のエマニュエル・マクロン仏大統領とドナルド・トランプ米大統領の「ブロマンス」が、米国の深夜トーク番組で司会者を務めるコメディアンたちの格好のネタを提供した。
ブロマンスはブラザー(兄弟)とロマンスをかけた造語で、男性同士のプラトニックな親密さを意味する。
「トランプ氏とマクロン氏は、興味深い関係にある」。ジミー・キンメル氏はABCテレビの冠番組でこう評した。「トランプ氏は本当に友達を必要としている。旧友のほとんどは刑務所行きだからね」(中略)
マクロン氏との熱い友情ぶりを、メラニア夫人との冷え切った夫婦関係と対比するコメディアンも相次いだ。
スティーブン・コルベア氏は、CBSテレビのトーク番組「ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーブン・コルベア」で、「メラニア夫人の手を握るのと比べたら、カーマスートラ(インドの性愛論書)を実践しているようなものだ」「どっちと結婚しているんだ?」と米仏首脳の関係をやゆ。
トレバー・ノア氏はコメディ・セントラルの「ザ・デイリー・ショー」で、マクロン氏について「トランプ氏の取扱説明書でも持っているのかな」と評した。
「マクロン氏がトランプ氏と気持ちを通じ合っているのは実感できただろう」とノア氏はコメント。「皆も知っての通り、トランプ氏は情にもろいたちではない。だがマクロン氏は明らかに、トランプ氏がこれまで感じたことのなかった人間らしい思いやりを呼び起こした」と続け、「陳腐な表現だと分かってはいるが、これはブロマンスだ」「今までメラニア夫人に示した愛情より愛にあふれている」などと語った。【4月26日 AFP】
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【実現不可能な“新提案”でトランプ氏つなぎ止め】
与太話はともかく、5月12日にはトランプ大統領がイランへの制裁を再開を発表し、合意破棄が現実のものとなるかも・・・というイラン核合意、マクロン大統領など欧州諸国は、「ひどい合意だ。合意すべきではなかった」とするトランプ大統領に対し合意維持を強く求めています。
マクロン大統領は、トランプ氏との会談前、「プランB(代替案)はない」と語っていました。
****仏、イラン核合意「代替ない」 マクロン大統領、米に維持要求****
フランスのマクロン大統領は22日放送の米FOXニュースとのインタビューで、トランプ米大統領が見直しを求めるイラン核合意について「代替案はない」と述べ、イランの核開発再開を阻止するために米国は合意にとどまるべきだと主張した。
マクロン氏は23日からの訪米でトランプ氏と会談。オバマ前米政権時に米欧など6カ国とイランが結んだ核合意が主要議題となる見通しだ。
トランプ氏は、イランの核開発制限の期間が限られ、弾道ミサイル開発を黙認していると合意を批判、修正できなければ、離脱する意向を示している。【4月23日 共同】
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ただ「プランB(代替案)はない」とは言いつつも、トランプ大統領の意向は固く、今回の会談で“決裂”となれば、離脱に向けての導火線に点火されることにもなりますので、マクロン大統領としても、なんとか今後に向けた方向性を示す必要があります。
****仏大統領、イラン核合意で新提案 トランプ氏も前向き****
トランプ米大統領は24日、マクロン仏大統領とホワイトハウスで会談し、イランが2015年に米欧など6カ国と結んだ核合意について協議した。
マクロン氏は合意維持のため、弾道ミサイル開発規制などを追加する「新たな合意」を提案。トランプ氏は「可能かどうか見てみよう」と前向きに検討する姿勢を示した。
マクロン氏は共同記者会見で、トランプ氏に「新たな合意」を提案したことを明かした。イランの核開発を制限する既存の合意に加え、①弾道ミサイル開発への規制②核開発制限の期限の延長③シリアなど周辺国への干渉の阻止、を追加することを目指すという。
トランプ氏はこれまで核合意に「破滅的な欠陥がある」とし、5月12日までに合意を修正できなければ離脱すると明言してきた。提案はトランプ氏の要求に対応した形だ。
ただ、「新たな合意」をどのような国々の枠組みで進めるのかは不明で、イラン側に応じさせるのも困難だ。
ログイン前の続きマクロン氏は共同会見で「核合意は十分なものではないが、少なくとも25年まではイランの核の活動を制御できる」と重要性を強調。その上で、「核合意を破棄するのではなく、我々の懸念に対応する新たなものを作る」とした。
一方のトランプ氏は「大きな試みをしてみる。ディール(取引)がうまくいくかどうか、見てみよう」とした。核合意からの離脱の明言は避け、「(修正期限の)12日に私がどうするかは誰も知らない。確固とした基盤のある新たな合意が可能かどうか見てみる」と語った。
また、トランプ氏はイランが核計画を再開した場合を念頭に「もしイランが何らかの脅しをするならば、ほとんどの国が経験したことがない代償を払うことになる」と強く警告した。【4月25日 朝日】
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①弾道ミサイル開発への規制②核開発制限の期限の延長③シリアなど周辺国への干渉の阻止、を追加することを目指す・・・・ほとんどトランプ大領の主張を取り込んだものですが、新たな合意が得られる可能性はありません。これが“新提案”と言えるのか・・・・。
(イランがミサイル開発をやめない背景、合意が破棄された場合の、イラン国内、サウジアラビアやイスラエルなど中東への影響については、4月16日ブログ“イラン核合意 5月にトランプ大統領は制裁再開・合意破棄の流れ 懸念されるイラン国内・中東への影響”参照)
イランはもちろん、ロシアも同意しないでしょう。
“仏テレビ「フランス2」は、一貫して核合意に批判的なトランプ氏の説得に失敗したマクロン氏が、新合意という「プランB(代替案)」を出さざるを得なかったとの見方を示した。”【4月25日 毎日】
****イラン、新合意を拒否 マクロン氏、核開発の絶対阻止宣言****
イランのハッサン・ロウハニ大統領は25日、欧米など6か国と2015年に交わした核合意に変更を加える可能性を退けた。
(中略)イランのロウハニ大統領は強硬姿勢を強め、同国は核合意に対するいかなる変更も受け入れないと表明。
熱のこもった演説で、核合意の正式名称であるJCPOA(包括的共同行動計画)を使い、「われわれにはJCPOAと呼ばれる合意がある」「それが継続されるのか、されないのかのいずれかだ。JCPOAが継続されるなら、完全にそのままの形で継続される」と強調した。【4月26日 AFP】
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イランが同意はするはずもない提案ですが、とりあえず“交渉”の場にトランプ大統領を引き留めておくための提案・・・とも思えますが、そんなもので事態が収まるのか?マクロン大統領も見通しは立たないようです。
****トランプ米大統領、イラン核合意を破棄する見込み=仏大統領****
フランスのマクロン大統領は25日、トランプ米大統領は2015年にイランと欧米など6カ国が結んだ核合意を破棄するだろうと述べた。
トランプ大統領は、5月12日までに核合意における欠陥を修正するよう欧州の当事国に求めている。
訪米中のマクロン大統領は記者会見で、この日までに破棄が決定されるかどうかは分からないとした。「米国の判断がどうなるかは不明だが、トランプ大統領の全発言を理論的に分析した結果では、包括的共同作業計画(JCPOA)にとどまるよう全力で努力するとは思えない」と述べた。【4月26日 ロイター】
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【議会演説では一転、トランプ主義を批判 異なる世界観を示す世界の指導者として出現】
ここまでの話は、トランプ大統領が少なくとも現時点では合意破棄の姿勢を崩していないこと、マクロン大統領も説得できなかったこと・・・といった予想された話ですが、意外だったのはマクロン大統領がアメリカ議会で行った演説です。
それまでのトランプ大統領をなんとかなだめようとする姿勢から一転、イラン核合意破棄、保護貿易、アメリカ第一、温暖化否定・・・といった“トランプ主義”をことごとく否定するような極めて“ストレート”なスピーチでした。
一気に権力をつかんだマクロン大統領はさすがに只者ではないことを示すものでもありました。
****マクロン仏大統領、国家主義を攻撃 米議会での演説で****
マクロン氏は、国家主義的、米国単独主義的政策は世界的な繁栄に対する脅威だと述べた。
同氏の言葉は明示的ではないものの、ドナルド・トランプ米大統領の掲げる米国第一主義的政策に対する事実上の攻撃だと広く解釈されている。
マクロン氏は演説で「自由と寛容さ、平等な権利」を掲げる米国とフランスの「壊すことのできない絆」を称賛しつつ、国際貿易やイラン問題、環境問題などでも立場の違いを鮮明にした。
今回の訪米で見せてきたこれまでの温かい愛想のよさとは対照的だった。(中略)
同氏は米国単独主義や孤立主義、国家主義は「恐怖に対する一時的な救済策として魅力的に思えるかもしれない。しかし、世界への扉を閉ざしても世界の進歩は止まらない。それは市民の恐怖をなくすのではなく、あおるのだ」と述べた。
BBCのジョン・ソープル北米編集長はツイッターで、「『我々は単独主義や孤立主義、国家主義を選択できるが、それは市民の恐怖をあおるだけだ』。この言葉は、マクロン氏からトランプ氏への、明示的でないが事実上の非難だ」と述べた。
「我々は、より素晴らしい繁栄への希望に満ちた世界を揺るがすような、急進的国家主義の始末に負えない働きを許さない」とマクロン氏は付け加えた。
マクロン氏はさらに、米国が多国間協調主義を発明したのであり、今それが21世紀の世界秩序を作り出すために再発明される必要があると述べた。
同氏は、西洋諸国が世界で生じている新たな危機を無視するなら、国連と北大西洋条約機構(NATO)は負託に応えたり安定性を保証したりできないだろうとした。
貿易については、マクロン大統領は「商業戦争は適切な答えでない」と述べた。同氏は商業戦争が「雇用を破壊し、物価を上昇」させるだろうとし、「世界貿易機関(WTO)を通じて交渉するべきだ。我々が規則を書いたのだから、それを順守すべきだ」と付け加えた。
トランプ氏は過去に、貿易戦争は良いことで簡単に勝利できると語っている。トランプ氏は米国が不公平な貿易慣行に苦しんできたとし、欧州と中国に新たな貿易関税を課している。
イランについては、マクロン氏はバラク・オバマ前米大統領時代に結ばれたイランとの核合意をフランスが破棄することはないだろうと述べた。トランプ氏はこの核合意を「ひどい」ものだとみなしている。
「イラン核合意は全ての懸念、そして特に重要な懸念に対処していないかもしれない。それは事実だ。しかし、より実質的な何かを持たないまま、核合意を破棄すべきではない」とマクロン氏は述べた。
ただ同氏は、「イランは絶対に核兵器を持つべきではない。今だけではない。今後5年でもない。今後10年でもない。永遠にだ」とも付け加えた。
マクロン氏は環境問題については、「海洋を汚染したり、二酸化炭素(CO2)排出量を減らさなかったり、生物多様性を破壊したりすることによって、我々は地球を殺そうとしている。代替となる惑星Bは存在しないということに向き合おう」と述べた。(中略)
<解説>愛想の良さと不意の攻撃 ジョン・ソープル BBC北米編集長
マクロン氏はトランプ氏を操縦する方法についての特別授業を世界の他の指導者たちに提供した。近くに寄り添い、必要な場面ではお世辞を言う。
しかしそれは、大きな一撃を浴びせることを可能にすることにも使える。(中略)
マクロン氏は巧妙に練り上げられた演説を、友好的すぎると評する声もあった同氏とトランプ氏との協調に触れることから始めた。
しかしその後、攻撃は繰り出された。攻撃は強力なジャブで、トランプ氏の政策方針を直接的な目標にするものだった。自由貿易について、科学の重要性について、不平等について、そしてトランプ氏の米国第一主義的政策について。
そして、マクロン氏はトランプ氏のアメリカを再び偉大にというスローガンを大胆に借用し、環境や米国が脱退した気候変動に関する協定の重要性について語った。マクロン氏は、今こそ地球を再び偉大にするときだと述べた。
演説は、拍手と喝采で何度も中断された。米議会にとって重要な瞬間だった。マクロン大統領は、常にトランプ大統領への愛想の良さを維持しながら、トランプ氏と競合しはっきりと異なる世界観を示す世界の指導者として出現した。驚くべき政治的偉業だ。【4月26日 BBC】
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アメリカ議会でのスピーチには、議員たちのわざとらしいスタンディングオベーションが繰り返されるウザい習慣がありますが、途中から共和党議員には困惑も。
やはりトランプ大統領と良好な関係があるとされる安倍首相は、アメリカ側の意向で今回も“ゴルフ外交”を行いました。もちろん、ゴルフを楽しんだだけでなく、その間、日本の利益のためにトランプ大統領に多くのアピールをしたのでしょう。表に出てこない話を含めて。
ただ、“ゴルフ外交”とか、国内政治における“料亭での談合”とか、国民から見えないところで“寝技”的なものを駆使するような政治に、国民はいささかうんざりもしています。ポピュリズムが台頭する背景としての政治不信を生む土壌ともなっています。
マクロン大統領がアメリカ議会に乗り込んで、トランプ主義のことごとくについて、その誤りを(礼を失さない範囲で)ストレートに指摘する姿勢には、うらやましさを禁じえません。
もちろん、こうしたマクロン大統領・フランスの姿勢は、シリア攻撃に積極的に参加するといったアメリカとの軍事協調をも含んだ総合的な関係から生まれるもので、単純に日米関係にあてはめることはできませんが・・・・。
それにしても、“敵役”トランプ大統領のおかげで、中国・習近平国家主席は自由貿易の守護者となり、マクロン大統領も異なる世界観を示す世界の指導者としての存在をアピール・・・といった昨今です。