
(【4月11日 日経】)
【アメリカに有利な条件ならTPP復帰も】
アメリカ・トランプ大統領が、昨年離脱を表明した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への復帰について、改めて言及してることが報じられています。
****トランプ米大統領、TPP復帰検討を指示 通商代表らに****
トランプ米大統領は12日、米議会議員らとの会合で、米国が昨年離脱を表明した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への復帰を検討するよう、通商代表部(USTR)のライトハイザー代表とクドロー国家経済会議(NEC)委員長に指示した。同席した議員が明らかにした。
トランプ氏は今年1月、スイス・ダボスの国際会議に際し、TPP復帰を検討する意向を表明。ウォルターズ大統領副報道官は今月12日の声明で、大統領は1月と同様の趣旨で「より有利な協定が交渉できるのかどうか見直すよう(政権幹部に)指示した」とした。
会合に参加した共和党のサス上院議員(ネブラスカ州)は「よいニュースだ」との声明を発表。サス氏は「中国の不正に対抗する最善策は自由貿易を信じる、ほかの太平洋11カ国を率いることだ」と指摘した。
ただ、トランプ政権で1月のTPP復帰検討の表明後、「再交渉に必要な準備作業は何ら進められていない」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)とされ、トランプ氏の発言の真意は不明だ。
ホワイトハウスで開かれた同日の会合は、農業が盛んな州選出の共和党議員や州知事が参加した。
米政権が発動した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限に対して、中国政府は、米国産の豚肉などに関税を課す報復措置を実施。農業や畜産業界がトランプ政権の政策を批判していた。
11月の中間選挙を控え、支持基盤への悪影響を懸念する農業州の議員らを前に、トランプ氏が輸出拡大につながるTPP復帰検討に唐突に言及した可能性もある。【4月12日 産経】
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もっとも、復帰を検討とはいっても、内容がより良くなった場合に限るとのこと。
****TPP復帰「より良くなったら」トランプ氏****
アメリカのトランプ大統領は復帰の検討を指示したTPP(=環太平洋経済連携協定)について、内容がより良くなった場合に限るとあらためて強調した。
トランプ大統領は12日、政府高官らに対し、離脱したTPPへの復帰を検討するよう指示した。しかしその後、ツイッターで、TPPへの復帰は「オバマ政権時代よりも内容が大幅に良い場合に限る」と記した。
TPP復帰に前向きだとの期待感も出る中、トランプ大統領はアメリカに有利でなければならないとクギを刺した形。
一方で、復帰の可能性を示唆した背景にはアジア太平洋地域の国々との連携により、貿易問題で対立する中国をけん制する狙いもあると見られる。【4月13日 日テレNEWS24】
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今になってTPP復帰に改めて言及する意図・真意は・・・例によって不明です。
一応、中国との貿易摩擦が強まる状況で太平洋11カ国を自陣側に取り込みたい意向、中間選挙を前にして支持基盤の農業・畜産業界に輸出拡大可能性をアピールしたいという思いなどが指摘されています。
【11か国側には「もうこりごりだ」との思いも】
トランプ大統領がどこまで本気なのかはわかりませんが、TPP11か国の側には、アメリカ・トランプ大統領にこれ以上振り回されるのは御免だ・・・との思いもあります。
****アメリカ抜きTPP11が米政権に突き付ける「復帰の条件」****
<トランプ政権は復帰の可能性をちらつかせているが、他の11カ国は長く厳しい交渉に派もうこりごり>
TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を決めて1年以上。トランプ政権は、自国の望む条件でのTPP復帰を示唆し続けている。
ムニューシン財務長官も先頃、他の貿易交渉が全て決着することと、TPPの条項がもっとアメリカの利益に沿った内容に書き換えられることを条件に、TPP復帰の可能性を排除しない意向を示した。
しかし、アジア・太平洋諸国の雰囲気は変わり始めている。1年前はアメリカの参加を熱望していた国々が、今はアメリカ抜きでの貿易体制の確立に力を注いでいる。
アメリカを除く11カ国のTPP協議参加国は、アメリカが強引に押し込んだ22項目(著作権の保護期間延長など)の効力を凍結した「スリム版」のTPPで合意し、3月8日にチリの首都サンティアゴで署名式も済ませた。
このいわゆる「TPP11」は、各国の国内での批准手続きを経て、早ければ年内にも発効する可能性がある。
参加国の多くは、アメリカを呼び入れるために長く厳しい交渉をやり直すことに前向きでない。チリのバチェレ前大統領(3月11日まで在任)は、アメリカが復帰を望むなら現在の協定を丸のみすべきだと述べていた。
アメリカの復帰を望む日本政府ですら、協定を全て交渉し直そうと考えるべきではないと米政府にクギを刺している。
参加国は続々と増える?
多くの参加国は、元のTPP協定案に国内世論の同意を取り付けるために散々苦労した。国民に不人気な条項が(アメリカの要求により)盛り込まれていたからだ。
ところが、トランプ政権の発足早々にアメリカが協定から出て行き、残された11カ国は再び1年間にわたり厳しい交渉を重ね、ようやく新しい協定をまとめたのだ。
「11カ国は、現在の協定案を変更するつもりはない」と、米通商代表部(USTR)在籍時にTPP交渉でも活躍したウェンディ・カトラーは言う。「もうこりごりだと思っている」
アメリカ抜きのTPP11は、元の12カ国のTPPに比べれば規模はだいぶ小さい。参加国が世界貿易に占めるシェアは、13〜18%程度にとどまる(アメリカが加わっていれば40%に達する見通しだった)。
しかし、アメリカの強硬な主張により協定案に盛り込まれた22の条項が凍結されたことで、多くの国にとって受け入れやすい協定になった。
それに、この修正版TPPへの参加国はさらに増える可能性もある。韓国、タイ、フィリピン、インドネシア、台湾、コロンビア、さらにはイギリスまでもが参加を検討している。
この点は見過ごせない。もし参加国が増えれば、11カ国にとっては、アメリカを含めた12カ国のTPPより大きな経済的恩恵を得られる可能性がある。
ピーターソン国際経済研究所の推計によれば、11カ国にインドネシア、韓国、タイ、台湾、フィリピンが加わった「TPP16」が発足すれば、参加国が得る経済的恩恵は年間4860億ドルに達する可能性がある。アメリカを含めた元の12カ国のTPPの場合は同4650億ドルだ。
もちろん、日本やベトナムなど、アメリカと自由貿易協定を結んでいない国は、アメリカをTPPに引き戻したいだろう。それに、地政学上の理由により、アメリカをTPPに加えたいと考える国もある。
それでも、アメリカが自国の望む条件でTPPに復帰するのは簡単ではなさそうだ。【4月6日 Newsweek】
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当初はアメリカの参加を前提にしていた各国で、アメリカ抜きのTPPなんて・・・といった感もありましたが、交渉の過程で方向性も定まってきて、新たな参加希望国も出来る・・・・といったことで、“これで行こう”という流れににもなっています。
そこに、再びアメリカが割って入ろうとする、しかもアメリカに都合のいい条件で・・・・というのは、一般的感覚からすれば、「いい加減してくれ」といったところでしょう。
【トランプ大統領の狙いは日米FTA TPP発言は時間稼ぎ?】
ただ、日本の立場としては、アメリカとのこの種の協定がないことの経済的問題に加え、中国に対抗した国際的枠組みを構築するという狙いからしても、やはりアメリカの参加は実現させたい思いもあるでしょう。
その日本に対し、トランプ大統領の厳しい発言が目立ちます。
「中国や日本が市場で何年も通貨安誘導を繰り広げ、米国はばかをみている」(2017年1月31日)
「日本の安倍首相や他の人たちに言っておきたい。彼らはいいやつで私の友人だが、『こんなに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」(2018年3月22日)
トランプ大統領は安倍首相と親密な関係があるとは言われていますが、本音では日本のことが相当気にいらないようです。(就任前から言われていたことですが)
特に今年3月の発現など、ディール好きの大統領とは言え、同盟国に対する発言とも思えないものです。
トランプ大統領はTPP復帰に言及すると同時に、日本に対しては、アメリカにより有利な日米自由貿易協定(FTA)を強く求めています。
****トランプ氏「打撃与えてきた日本と協定を」FTA念頭か****
トランプ米大統領は米国時間の12日深夜、ツイッターで「我々に貿易で何年も打撃を与えてきた日本との間で、協定をまとめるべく動いている」と投稿した。
トランプ氏はこの日、閣僚らに対し、環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰に向けて再交渉すべきか検討するよう指示していた。
ツイッターでは「TPPに加わるのは、オバマ大統領のときよりずっといい取引になる場合だけだ」と説明。「(米国を除くTPP加盟国)11カ国のうち6カ国とは、すでに二国間協定がある」とした。
日本との「協定」は、日本側が拒んできた日米自由貿易協定(FTA)が念頭にある可能性がある。【4月13日 朝日】
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TPP復帰と日米自由貿易協定(FTA)・・・・トランプ大統領が求めているのは後者であり、TPP復帰云々はそのための、アメリカ抜きのTPP11の発効を遅らせたいという“時間稼ぎ”に過ぎないとの指摘も。
****「TPP復帰“検討”を指示」はトランプの時間稼ぎ****
大統領貿易促進権限の延長のため自由貿易派に配慮
トランプ大統領がTPP復帰の検討を指示した真意は何なのか?
まず国内事情だ。
大統領が貿易交渉を行うなうために不可欠とされるTPA=大統領貿易促進権限が7月1日で期限切れになる。
その3年延長のために議会が反対しないように対策を講じる必要がある。
特に上院の勢力図は与党共和党51×民主党49と拮抗しているので、共和党議員の数人が延長反対に回ったら、トランプは7月以降、あらゆる貿易交渉ができなくなってしまう可能性に直面している。
しかも今年2月には、その上院の共和党議員25人がTPP復帰を求める連名の書簡をトランプに出している。
トランプは上院にTPAの延長を拒否されたら「二国間交渉でアメリカに有利な取引をする」どころではない。
すべての国に相手にされなくなってしまう。TPAを持たない大統領と合意しても、米議会が批准する可能性はほぼゼロだからだ。
実はTPP交渉もオバマ前大統領がTPAを持っていなかった間は遅々として進まなかった。ことろが、2014年の中間選挙で共和党が上院の多数も制したことが転機となり、2015年に期間3年のTPAが付与され、その1年後にTPPが合意に至ったという経緯がある。
アメリカ抜きのTPP11の発効を遅らせたい
次に対外的な狙い。
当然、来週に迫ってきたシンゾー・ドナルド会談を見据えている。
答えから言ってしまえば、アメリカ抜きのTPP11の今年中の発効を邪魔したいのだ。
トランプ政権の基本方針は、二国間交渉でアメリカに有利な取引を実現すること。
もっと直截に言ってしまえば、アメリカの経済力と軍事力を梃子に“不平等条約”を押し付けようということだ。
それは米韓FTAの経緯と合意内容から透けて見える。
ところが、TPP11が発効してしまい、インドネシアやタイ、フィリピンなども新たに加わってくると、加盟国の結束と総合力が強まり、アメリカへの当初合意内容での復帰圧力が高まる。
同時にTPP11加盟各国はアメリカと二国間交渉に入ることへの抵抗を強める。TPP11より不利になる取引はしたくないからだ。
それは日本にとっても同じだ。
今すぐではないが、いずれ日米FTA交渉を始めるためには、当面、TPP11が発効しないでくれる方が良い。TPP11の一番の推進役である日本の総理との会談を控え、「TPP復帰の『検討』をするからTPP11の推進はちょっと待ってくれ」と時間稼ぎをする。それがトランプの狙いだ。
今年になってから2回、トランプはTPP復帰の可能性を示唆した。
最初は1月のダボス会議の際。自由貿易派の牙城で反トランプの風当たりを弱めるためだ。2回目は3月のTPP11の署名式の直前に揺さぶりをかけてきた。
だが、トランプの貿易政策や交渉への姿勢は何も変わっていないことを肝に銘じたい。
今シンゾーを追い詰めるのは得策ではない
だったら、最初から「日米FTA交渉を始めよう」と安倍総理に要求すればいいじゃないか!と思われるかもしれない。(中略)
ただし、トランプは今、北朝鮮や中国との大勝負を抱えているし、ロシアや中東ともこじれている。そうした中で、シンゾーに「日米FTA交渉を始めよう」と要求して大っぴらに追い詰めるのは得策ではないと判断しているのではないか。
それよりも、拉致問題や中距離弾道ミサイルへの日本の懸念はちゃんと聞く。だから「TPP11の推進はスローダウンしてくれ」という取引の方がありそうだ。
シンゾーが「アメリカのTPP復帰の検討を見守りたい」と応じるのかどうか注視したい。【4月13日 風間晋氏 FNN PRIME】
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【北朝鮮問題で無視されたくない日本は、米圧力に対し難しい立場】
その“シンゾー・ドナルド会談”は17~18日。また、ゴルフ外交なども行われるようですが・・・。
*****日米首脳会談で円高懸念 FTAや為替に言及あるか ****
17~18日の日米首脳会談に市場の関心が集まってきた。米朝首脳会談を控え日本の立場への理解を得ておこうというのが日本側の考え。
問題は米側が取引材料として日米自由貿易協定(FTA)締結に向けた早期の交渉開始を求めかねないことだ。日本の為替・金融政策に批判的な発言が飛び出す展開も警戒している。いずれも円買い材料になるかもしれない。
日米首脳会談は米フロリダで開催する。「5月または6月初旬に開く」(トランプ米大統領)という米朝首脳会談の開催を前に、日米間で対北朝鮮政策の擦り合わせをする場になりそうだ。
米朝間の話し合いの中で日本の利益が軽視される事態を避けたい――。それが安倍晋三首相の基本的な考えだろう。北朝鮮の非核化の議論を巡り、日本の安全保障への配慮を忘れないよう求める可能性が高い。
通商問題もテーマになる公算が大きい。日本側は米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置について、日本を適用対象から外してほしいと考えているためだ。
焦点は、こうした日本側の要請に対して、取引を好むとされるトランプ氏がどんな対日要求を示すかだ。「トランプ大統領は日米FTAで対日貿易赤字を削減できると考えており、交渉を要求する可能性が高い」(第一生命経済研究所の桂畑誠治氏)との見方がある。
直近2月に米国のモノの対日貿易赤字額(通関ベース)は、対中国、メキシコの赤字に次ぐ第3位の規模。
苦戦が予想される秋の議会中間選挙での敗北を避けるため、米政権は保護主義的な通商政策に傾いている。中国やメキシコに加え、日本への姿勢も厳しくなって不思議はない。3月には、日本が米国をだましていたなどとするトランプ氏の発言もあった。
日本は対米FTAの交渉開始を受け入れるのは難しい立場にある。ただ、それならば対北朝鮮政策での日本の考えに理解を得られるのか不安も出てくる。(中略)
「予測不能」ともいわれるトランプ氏の出方を、市場参加者は注視している。【4月11日 日経】
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一連の不祥事で、三選どころか“6月退陣説”まで囁かれるようになった安倍首相が、どのような“約束”をして帰ってくるのか。
どんな“約束”をしても、その核心部分は公にはされない可能性も。(外交の常ですから、“隠ぺい”とは言いませんが) 安倍首相が「アメリカのTPP復帰の検討を見守りたい」と発言したとして、(FTAなどとの関連で)どのような文脈でそのようなやり取りがなされたのかが後日問題にもなります。
この問題は、トランプ大統領就任前から懸念されていたもので、いよいよ表面化するかも・・・というところでしょうか。