孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア 政府軍優位のもとで相変わらずの混戦模様 イラン対イスラエルの緊張が高まる懸念も

2018-04-30 22:44:02 | 中東情勢

(シリア・ダマスカス南部で、ヤルムークのパレスチナ難民キャンプに潜伏するIS戦闘員を標的にした政府軍の空爆を建物の屋上から見る人々(2018年4月28日撮影)【4月30日 AFP】)

反体制派拠点を潰す政府軍
IS支配崩壊後のシリアでは、従来からの政府軍と反体制派の争い、IS残存勢力に対するアメリカ・クルド勢力等の掃討に加え、北部トルコ国境付近ではクルド勢力とトルコの衝突、東部ではアメリカが支援するクルド勢力とロシアが支援する政府軍の対立、さらにはシリア各地で勢力を広げるイラン・ヒズボラに対するイスラエルの攻撃・・・と、各勢力・周辺国入り乱れての多彩な戦闘・対立が同時進行しており、それらは互いに関連しあってもいます。

これらの対立・衝突のうち、クルド人勢力とトルコの衝突については、アフリン地区をトルコが制圧した後、エルドアン大統領は「次はマンビジュだ」と、米軍が駐留するマンビジュ方面への戦線拡大を公言していましたが、さすがに、アメリカとの軍事的衝突ともなるマンビジュ侵攻は“今のところは”聞いていません。

政府軍と反体制派の戦いは、化学兵器使用がされたとして英米仏が政府軍基地をミサイル攻撃するという展開はあったものの、基本的には政府軍優位の状況は変わらず、首都ダマスカス近郊の東グータ地区を政府軍が制圧し、反体制派を残った最大拠点イドリブへと追いやっています。

政府軍は、ダマスカス南部・ヤルムークのパレスチナ難民キャンプに潜伏するIS戦闘員を標的とした連日の空爆によって、この地からも反体制派をイドリブへ追放することに成功しています。

*****空爆1週間、シリア政府がパレスチナ難民キャンプの避難認める****
シリア政府は、1週間にわたり空爆を続けていたダマスカス南部のパレスチナ難民キャンプ、ヤルムークからの避難を認めることで反体制派と合意した。シリア・アラブ通信が29日、報じた。
 
ヤルムーク難民キャンプの一部と周辺地区は、2015年からイスラム過激派組織「イスラム国」が掌握しており、シリアとイラクの大半で支配地域を失ったISにとって都市圏としては最大の牙城となっている。
 
シリア政府軍は首都南部からISを追放するため、1週間にわたってヤルムークへの空爆を続けていた。(中略)

SANA(国営シリア・アラブ通信)は、シリア北西部の反体制派支配地域への「テロリスト集団」の移送を30日に開始すると伝えたが、ISには言及しなかった。
 
これに先立ちシリア政府と反体制派は、同じくダマスカス南部のヤルダ、バビラ、ベイトサヘムの各地域でも、反体制派の戦闘員らの撤退で合意していた。SANAによると、反体制派の戦闘員らは家族を伴って同地を離れるか、武器を政府軍に引き渡して留まるかを選ぶことになるという。【4月30日 AFP】
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明確な反体制派戦闘員家族以外の住民でも、残ると政府軍によって反体制派協力者として拷問等をうけるとの恐怖からやむなくイドリブ等に移住する者も少なくないようです。

いずれ、反体制派が各地から集まるイドリブに対する政府軍による激しい制圧作戦が実行されるものと思われます。

東部では米ロ衝突の危険性も
一方、シリア東部のデリゾールではロシアを後ろ盾とする政府軍が、アメリカの支援を受けるクルド人勢力を攻撃し、意図的あるいは偶発的な米ロの衝突といった事態も懸念されています。

****政権軍、クルド勢力と交戦=シリア東部で攻勢****
シリア国営メディアによると、アサド政権軍は29日、東部デリゾール県でクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が支配していた複数の村を制圧した。

デリゾール県の大半はかつて過激派組織「イスラム国」(IS)が占領していた。その掃討作戦で米国の支援を受けたSDFと、ロシアが後ろ盾の政権軍が衝突するのは異例。軍事的緊張が高まる恐れがある。【4月29日 時事】 
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2月8日にも、この種の攻撃に対しアメリカが反撃し、結果、多数のロシア人民間軍事会社戦闘員が死傷した件は、4月17日ブログ“ロシア 政府の陰の組織として活用される民間軍事会社を調査していたジャーナリストが転落死”でも取り上げたところです。

今回もアメリカ等の有志連合は反撃の空爆を実施し、政府軍か制圧した地域を奪還したようです。
こうした軍事行動は、常に米ロの衝突という危険性をはらんでいます。

****シリア情勢(デリゾル等****
・・・・29日にはシリア東部のデリゾル近辺で、政府軍とシリア民主軍との激し戦闘が行われ、米軍機等有志連合が介入したし、また仏がエジプトに対してシリアへの派兵を要請したかどうかの議論も起きており、シリア情勢は国際化し、混迷の度を深めている気がします。
取り敢えずのところ

・al arabiya net は、29日政府軍と同盟の民兵はデリゾル近辺でユーフラティス川の東岸のシリア民主軍(YPG主体)を奇襲攻撃し、6つの村落を奪取したと報じています・

・この事件に関し、al qods al arabi net は、その後米軍機等有志連合空軍が政府軍等を激しく空爆し、シリア民主軍との間で激しい戦闘があり、その結果政府軍等は占領地から追い出され、シリア民主軍がこれらの地域を奪還したと報じています

またシリア民主軍は、戦闘地域に大量の増派部隊を送り込んだ由

・他方具体的な時期は不明だが、ロシア機はデリゾルの東のISの家族や女性のキャンプ地を攻撃し、女性4名が死亡し、複数が負傷したよし。死亡した女性の中にはモロッコ人IS幹部の妻の仏人が含まれている由

(具体的に上記戦闘のあった地域と、このIS家族キャンプ地の位置関係は不明だが、おそらくかなり狭い地域で米、ロシア機が活動しているとすれば、偶発事故を避けるために非常に密接な連絡があるのではないでしょうか)(後略)【4月30日 「中東の窓」】
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シリア国内のイラン拠点を攻撃するイスラエル
更に、中部ハマでは、イランを標的としたイスラエルの攻撃とも推測されるミサイル攻撃があったようです。

****シリア、ミサイル攻撃受け親政府派勢力26人死亡 NGO****
シリア中部ハマ県で29日深夜、政府軍基地にミサイルが撃ち込まれ、一晩で親政府派勢力のイラン人戦闘員ら26人が死亡した。在英NGO「シリア人権監視団」が30日、明らかにした。
 
シリア人権監視団によれば、戦闘員らはハマ県にある第47部隊の基地に対するミサイル攻撃によって死亡した。攻撃を仕掛けたのは「恐らく」イスラエルとみられるという。
 
国営シリア・アラブ通信は夜間に、ハマおよびアレッポ両県にある政府軍基地が「敵側のミサイル」による攻撃を受けたと報じていたが、死傷者の有無や、攻撃主体の国については明言していなかった。
 
シリア政府と同盟国のイランは、今月9日にイスラエル軍がシリア中部にある軍事基地を空爆したと非難しており、緊張が高まっていた。【4月30日 AFP】
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イスラエルはかねて、イランからの武器搬入を警戒していました。

****イランからシリアへ貨物機、武器搬入か 米・イスラエルが警戒****
米情報当局が最近、イランとシリアの間で確認された複数の貨物便に注目しているとの情報をCNNが入手した。シリアでアサド政権軍やイラン軍部隊が使うための武器を運んでいた可能性があるとして、米国とイスラエルが懸念を示している。

航空機追跡サイトによると、イランとシリアの間では今週、シリア空軍の貨物機が少なくとも2回飛んだ記録がある。米当局はこのほかにも、イランの貨物機少なくとも1機の飛行などを確認したという。

シリアへ武器が運び込まれるのは珍しいことではない。しかし一連の貨物機は米国が今月13日、アサド政権軍の施設を空爆した後で発着したために、米当局の注意を引いたとみられる。

また、イランとイスラエルの間ではこの数週間、シリア領内でのイランの活動をめぐって激しい非難の応酬が続いている。イランがアサド政権を支援する一方で、イスラエルは敵対国のイランがシリアに拠点を設け、自国を脅かしていると主張してきた。

イスラエルは今月、シリア中部ホムスでイラン軍が対空ミサイルや無人機の基地として使っていたとされる施設などを空爆。イラン側はこれを非難し、報復を予告している。

イスラエルは2月にも、シリア軍に戦闘機を撃墜され、イラン軍の無人機に領空を侵犯されたとして、シリアにあるイラン関連とされる施設などに報復攻撃を仕掛けていた。

米当局は、新たにシリアへ運ばれた武器の中に、イスラエル機の撃墜に使われたような対空ミサイルが含まれている可能性もあると懸念している。【4月25日 CNN】
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いつもどおり、軍事行動に関するイスラエル側からの発表はありません。

5月半ばにはロシア主導の和解協議も それより核合意破棄等による緊張の高まりの懸念が
IS後のシリアでは、上記のような各勢力・関係国入り乱れての乱戦模様で、ぐつぐつ煮立った鍋のようでもあります。いつ、ふたが吹き飛ぶのか・・・。

トルコは、おいそれとは米軍駐留地域には手をださないでしょうし、米ロの衝突も両国とも極力回避しようとするでしょう。(ただ、偶発的衝突の危険性はあります)

イラン対イスラエルの方は、5月にトランプ大統領のイラン核合意廃棄ということになれば、一段とヒートアップする可能性があります。

アサド政権を支援してシリアでの優位な地位を手にしたロシア・プーチン大統領も、これ以上の混乱拡大でシリアの泥沼に引きずり込まれるのは避けたいところでしょう。

5月半ばにはロシア主導の和解協議が再開されるようです。
ロシア・イラン・トルコの三か国大統領は4月4日にトルコ・アンカラで会談を行っています。

****ロシアなど3国仲介のシリア和解協議、5月半ばに再開へ****
ロシアとトルコ、イランの3カ国外相が28日、シリア内戦をめぐってモスクワで会談し、3国の仲介でカザフスタン・アスタナで続くアサド政権と反体制派の和平協議の次の会合を5月半ばに開くことを決めた。英米仏によるシリア攻撃後初めて。

欧米はアサド政権による化学兵器使用疑惑を受け、和平協議と距離をおく姿勢を強めるが、3カ国の外相は「事実上唯一話し合いが進むプロセスだ」と意義を強調した。
 
3カ国の外相は会談後の記者会見で、会合に向けて捕虜の解放や行方不明者の捜索をめぐる作業グループを立ちあげることを明らかにした。
 
ロシアのラブロフ外相は、アスタナでの和平協議の目的は(1)緊張緩和地帯の維持(2)人道支援(3)政治対話――などにあると協調。「協議を批判する人々には別の目的がある。世界のすべてのことを自分たちが決めているかのように見せかける目的だ」と話し、米国などを批判した。
 
米英仏は今月14日、アサド政権が首都ダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマで化学兵器を使用したとして、シリア国内の3地点をミサイル攻撃。同政権を支援するロシアやイランを強く非難した。

これにロシア、イランは強く反発した一方、米英仏と同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコは「適切な対応だった」としている。【4月29日 朝日】
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現状では、この協議で和解が進むことは期待できません。
5月半ばという時期は、アメリカ・トランプ大統領のイラン核合意に対する判断が示される時期でもあり、そちらの影響の方が懸念されます。

また、5月14日には、在イスラエル大使館のエルサレム移転に合わせ、トランプ大統領が同地を訪問する可能性も、メルケル首相との共同記者会見で言及されています。

5月半ばには、核合意破棄、アメリカ在イスラエル大使館のエルサレム移転ということで、火種には事欠かないシリア・中東情勢の緊張が一段と高まることも予想されます。
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