孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリアの軍事基地へのミサイル攻撃 イランの影響力拡大を警戒するイスラエルによるものか

2018-04-09 22:36:14 | 中東情勢

(シリア中部にあるT4・ティヤス空軍基地の衛星写真(2018年)【4月9日 BBC】)

複数の国籍(イラン人やヒズボラか)の戦闘員14人が死亡
シリアの反体制派拠点(東グータ地区にある都市ドゥーマ)で4月7日、毒ガス攻撃によって49人もの死亡者が出たと医療支援団体が伝えています。

これに対し、アメリカ・トランプ大統領は、「化学兵器を使った攻撃で女性や子供を含む多くの人が死亡した。ロシアのプーチン大統領とイランには『動物』のアサド(大統領)を支援している責任がある。大きな代償を支払わなければならない」と投稿、アサド大統領とともに、アサド政権を支えるロシア・プーチン大統領を名指しで直接批判する異例の姿勢を示していました。【4月9日 ロイターより】

また、ルドリアン仏外相も声明で「(マクロン)大統領の表明通り、フランスは化学兵器との戦いで責任を果たす」と述べています。マクロン氏大統領2月、シリアでの化学兵器の使用が確認されれば空爆で応じると再度警告しています。【4月9日 時事より】

こうしたシリア・アサド政権に対する再度のミサイル攻撃あるいは空爆も・・・という緊張が高まるなかで、シリア中部の軍事空港に9日早朝、ミサイルが数発撃ち込まれ、戦闘員少なくとも14人が死亡したとのこと。

****シリアの軍事空港攻撃、戦闘員14人死亡 イラン部隊****
シリア中部の軍事空港に9日早朝、ミサイルが数発撃ち込まれ、戦闘員少なくとも14人が死亡したことが分かった。

犠牲者にはシリア政府を支援するイランの部隊も含まれているという。英国に拠点を置くNGO「シリア人権監視団」が明らかにした。
 
国営シリア・アラブ通信(SANA)は今回の攻撃で複数の死傷者が出ていると報じたが、具体的な死者数は明らかにしていなかった。
 
シリア人権監視団のラミ・アブドル・ラフマン代表によると、攻撃された軍事空港はシリア政府を支援するロシアとイラン、レバノンのイスラム教シーア派原理主義組織ヒズボラが拠点にしているという。
 
同NGOは、誰が攻撃を行ったのかは確認できていないと述べた。
 
ただ2月以降、イスラエルがシリア中部の軍事基地に対して複数の空爆を行っている。イスラエルは2011年のシリア内戦勃発以降、たびたびシリア国内に空爆を仕掛けており、標的にはイランやヒズボラの関連施設やシリア政府の化学兵器施設も含まれている。
 
イスラエル軍の報道官は、コメントを拒否している。
 
一方、フランス軍はシリアへの空爆は行っていないと否定している。【4月9日 AFP】
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当初、シリア国営メディアはアメリカがこのミサイル攻撃を行ったとみられると報じました。

状況が状況だけに、アメリカ・トランプ政権が早めの対応をとったのか・・・、それにしてもロシア軍もいる可能性が高い基地を攻撃するのは・・・事前の連絡はとったのだろうか?、トランプ大統領はシリアから撤退したがっていたけど、これで更に難しくなったのか・・・とか思ったのですが、アメリカではないようです。

****シリア軍基地にミサイル攻撃=国営メディア―米国は関与否定****
シリア国営メディアは9日、中部ホムス郊外にある軍基地にミサイル数発が撃ち込まれたと伝えた。同メディアは「米国による攻撃とみられる」とし、数発を迎撃したと報じている。現場周辺では大きな爆発音が聞こえ、複数の死傷者が出ているという。
 
米国防総省はホムスの基地へのミサイル攻撃報道について、「米軍は現時点でシリアで空爆を行っていない」と述べ、関与を否定した。その上で「化学兵器を使用した者の責任を問うため、状況を引き続き注視しながら、外交努力を支援する」と語った。【4月9日 時事】 
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前出【AFP】にもあるように、フランスも否定しています。

ロシア・シリアはイスラエルによる攻撃と非難
となるとやはり、例によってこの種の軍事行動について否定も肯定も一切コメントしないイスラエルが行ったのか・・・という話になります。

ロシアとシリア・アサド政権は、イスラエルによる攻撃と非難しています。

****シリア空軍基地への空爆、イスラエルが実施=シリアとロシア****
シリア中部ホムスに近い軍用飛行場が空爆を受けたことをめぐり、シリア政府と同盟国のロシアは9日、イスラエルが空爆を実施したと述べた。

空爆はT4と呼ばれているティヤス空軍基地が標的となった。英国に拠点を置くシリア人権監視団は、複数の国籍の戦闘員14人が死亡したと明らかにした。

複数の国籍とはこの場合、イラン人やイランが支援するイスラム教シーア派の民兵を意味する。

シリア国営通信は軍事筋の話として、イスラエルによるT4へのミサイル攻撃を防空警備システムが迎撃したと報道。ミサイルを発射したのは、レバノン領空を飛ぶイスラエルF15戦闘機だと伝えた。

ロシア国防省は、発射されたミサイル8発のうち5発が迎撃されたが、3発が空軍基地の西側に到達したと明らかにした。(後略)【4月9日 BBC】
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上記記事の“イスラム教シーア派の民兵”とはヒズボラのことでしょう。

以前からシリア問題について取り上げているように、ISの脅威が相対的に小さくなった一方で、北部トルコ国境沿いのクルド人勢力支配地域・アフリンへのトルコの侵攻、クルド人勢力を支援するアメリカと、政府軍を支援するロシアの直接衝突の危険、イランの勢力拡大を防止するためのイスラエルの本格参加・・・という混乱拡大要因が大きくなっていました。

アフリン地区はトルコが制圧し、東ダマスカス・グータ地区の反政府勢力拠点はほぼロシア支援の政府軍が制圧するという状況で、イスラエルが対イラン・ヒズボラで行動を起こしたというのは“さもありなん”といったところです。

2月の無人機攻撃・イスラエル戦闘機撃墜事件以降高まっていた緊張
イスラエルのイラン・ヒズボラ敵視は今に始まったことではありませんが、2月の無人機攻撃・イスラエル戦闘機撃墜事件以降、特に緊張が高まっていました。

****イスラエル軍機撃墜、イランとの緊張激化で戦争か****
<イランがシリアの軍事拠点からイスラエルに無人機を飛ばしたのがきっかけで報復合戦に。今や仲裁すべきアメリカの姿もない>

イランの無人機が、イスラエル北部のシリアとの国境付近に飛来したのを察知。領空侵犯してきた無人機を、待ち構えていたイスラエルのアパッチ攻撃用ヘリコプターが撃墜した。

すぐさま報復に転じたイスラエル空軍は、シリア領内にあるイラン施設や無人機関連施設を空爆した。

イスラエルの情報筋によれば、攻撃には長射程で最先端のスタンドオフ型のミサイルを使用したため、イスラエル軍の戦闘機はシリア領空に入る必要はなかった。

だがイランと手を組むシリア政府軍は、イスラエル軍の戦闘機に向けて空前の規模の対空ミサイルを発射。イスラエル北部を飛んでいたF16戦闘機の1機が撃墜された。パイロット2人はパラシュートで脱出したが1人は重体。イスラエル軍の戦闘機が撃墜されたのは1982年以降で初めてだ。

平和の虚構が崩れた
これを受け、イスラエルはさらに大規模な報復措置として、シリアにあるイラン関連の軍事施設4カ所やシリアの防空施設少なくとも4カ所を含む計12カ所を空爆。F16戦闘機を砲撃した全ての施設を破壊した。

イスラエルの情報筋によれば、今回の攻撃はシリアの防空施設を狙ったものとして、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻以降、最大規模かつ最も成功した作戦例になったという。

当時のイスラエルは、対立するパレスチナ解放機構(PLO)を支援したシリア空軍に向けて空爆を繰り返した。

イスラエル住民は今、自分たちが平和と思ってきたものは虚構だったのかと、自問自答している。何かが根底から変わってしまったのか、と。答えはその通り、だ。

イランがイスラエルに無人機を飛ばしてきたのは大きな変化だ。目的が攻撃だったか単なる偵察だったかはわからないが、それは大した問題でない。

重要なのは、ここにきてイランがイスラエルと直接対決するという戦略的な決断を下し、戦い方を変えてきたことだ。

イランがシリア領内にイスラエル攻撃用の前線基地を作るのは絶対に許さないと、イスラエルは公言してきた。だがイランはシリアの軍事拠点化を断固進めるつもりだ。今後、対立が激化するのは必至だ。

今回のイスラエル軍機撃墜は、驚きを持って受け止められた。イスラエル空軍は自国の戦闘機が無敵だと信じていたわけでは決してないが、実際に撃墜され、しかも現場がイスラエル上空だったことに驚きを隠さない。F16戦闘機に搭載されている高度防御システムの一部が作動しなかったのは明らかだ。

もちろん、100%の防御システムなどもともとあり得ない。それでも、イスラエル軍機を数十年ぶりに撃墜したシリア政府軍はこの「快挙」を祝っている。

イスラエルの情報筋によれば、無人機は敵のレーダーに映りにくい準ステルス仕様で、イランが2011年に撃墜して捕獲した米軍の最新鋭の無人偵察機RQ170型を複製したものだという。イランは無人機をほぼ無傷で回収できたので、そこから軍事機密も入手できたはずだ。

もう1つ特筆すべきは、アメリカの不在だ。1950年代以降、中東でアメリカが今ほど影響力を失ったのは初めてだ。

イスラエル軍機が撃墜された日の朝、ドナルド・トランプ米大統領は無関係のツイートに明け暮れていた。代わりに米国務省の報道官が声明を出し、イスラエルの自衛権を支持すると言っただけだ。【2月13日 Newsweek】
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イスラエル軍は、自国空域を侵入したドローンは、今回攻撃対象となったティヤス空軍基地から飛ばされていたと主張しています。【4月9日 iRONNAより】

イランの核開発を危惧し、イランへの強硬姿勢を強めるイスラエルは、同様にイランを敵視する仇敵サウジアラビアとも関係を強め、イラン嫌いのアメリカ・トランプ大統領とともにイラン包囲網を形成しようとしていることは、これまでも取り上げてきたところです。

国連安保理での駆け引き
ロシアは、今回のイスラエルによるミサイル攻撃を国連安保理に持ち込んだようで、国連安保理では、アサド政権による化学兵器使用問題と今回の問題が同時並行する形にもなっています。

****シリアに関する2の安保理会合!!****
al arabiya net とal jazeera net は、9日(NY時間)シリアに関する2つの安保理会合が開かれると報じています。

一つはアサド政権の化学兵器使用問題に関してで、会合を要請したのは米、英、仏、ポーランド、オランダ、スウェーデン、クウェイト、ペルー、象牙海岸の9国の由。

これに対して、ロシアはシリアに関して国際の平和と安全が脅かされていることに対する審議を求めた由(こちらの方の共同要請国はない模様)

国連外交筋によると、今月の議長国であるペルーが、午前に9か国要請の化学兵器問題を審議し、午後にロシアの要請を審議することを示唆したが、ロシアが自分の方が先に要請したとして、ロシアの要請の方を先議するように要求した由

(al arabia net によると、2つの要請は数分違いで出されたとのことで、このような手続き問題で、安保理常任理事国同士が激しく争うのは、冷戦時代の米ソ対立を彷彿とさせます)

米等の要請は15国のメンバーのうち9国がおこなったものですから、仮に先議権争いが採決に付されれば、手続き事項ということで、拒否権は適用されないはずで、先議権を得ることになるでしょう。

しかし、そこまで対立しますかね?

また、仮にシリアの化学兵器使用を非難する決議案を用意していれば、9票は確実に得るのでしょうが、実質事項には拒否権があり、ロシアの拒否権行使はほぼ間違いないと思われます。

いずれにしても、先ほど報告したホムス近くの軍事飛行場に対する攻撃があったために(アラビア語メディアはいずれもロシア軍も含めてやったのはIDF(イスラエル国防軍)だとしていると報じていますが)事態は更に緊迫化し、ロシアとアサド政権は、もしかすると化学兵器問題で守勢一辺倒になるところを救われたともいえるのでしょうか?

まあ、こうなってくると安保理が果たして今晩2つの会合をするかどうかも解らなくなってきた感じがします。
とりあえず【4月9日 「中東の窓」】
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確かに、“ロシアとアサド政権は、もしかすると化学兵器問題で守勢一辺倒になるところを救われたともいえる”というのはあるかも。

イスラエル 2007年のシリア原子炉施設破壊を認めることでイラン・ヒズボラへ警告
もっとも、イスラエルはそんことはお構いなしでしょうが。
2月の無人機攻撃のときも、イスラエルのネタニヤフ首相は、ドイツでの「ミュンヘン安全保障会議」最終日の討議で演説し、敵視するイランについて「世界にとって最も大きな脅威だ」と主張。イスラエルは自国を守るため、「ためらわず行動する」と明言しています。【2月18日 時事より】

先述のように、通常はイスラエルはこの種の軍事行動については一切コメントしない主義ですが、そのイスラエルが3月、“慣例”に反して、2007年のシリア原子炉への自軍の攻撃を認めています。

あえて公表することで、“イランなど周辺国による核兵器開発や軍備増強に警告を発した”と思われています。

****2007年のシリア原子炉施設破壊 イスラエルが情報公開で認める****
シリア東部で2007年、原子炉とみられる施設が空爆により破壊された事件について、イスラエルは21日、機密情報を公開して同国軍が破壊したことを初めて認めた。

対象は北朝鮮が建設に協力していた原子炉で、07年のうちに稼働する可能性があったとしている。ロイター通信などが伝えた。
 
イスラエルのリーベルマン国防相は21日、「ここ数年、わが国の敵たちの(攻撃にかられる)欲求が増している」と述べた。原子炉空爆を認める情報を公開することで、イランなど周辺国による核兵器開発や軍備増強に警告を発した形だ。
 
イスラエルは宿敵イランの核兵器開発に強い懸念を抱いており、トランプ米大統領と同様に、欧米など6カ国とイランが締結した15年の核合意に懐疑的な立場を取る。先月には隣国シリアで、イランの軍事拠点だと主張する施設の空爆に踏み切った。
 
公開された情報によると、イスラエル軍のF16戦闘機8機が07年9月5日深夜から6日未明にかけ、シリア東部デリゾール近郊で建設中の原子炉を空爆した。

イスラエルは同年3月、シリアが北朝鮮からプルトニウムが抽出できる原子炉を調達し、建設しているとの情報を入手。核兵器を獲得する試みだという判断を下していた。
 
軍は標的の施設を空爆し、破壊する様子を撮影した映像も公表した。
 
イスラエル軍は1981年、サダム・フセイン政権下のイラクでも原子炉を破壊している。【3月21日 産経】
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「自国を守るため、ためらわず行動する」イスラエルですが、こういう場合、アメリカには事前に通知があるのでしょうか?

また、今回のイスラエルの攻撃(多分)を受けて、トランプ大統領の「大きな代償を支払わなければならない」云々はどうなるのでしょうか。化学兵器問題はまた別ということでしょうか。ロシアが安保理でシリアへの攻撃を問題にしている中では、やりづらくなった・・・ということもあるのでしょうか?
コメント (1)
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