孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス国鉄、大規模スト突入 一方で進む通勤・働き方改革  重なる“スト権スト”の記憶

2018-04-05 23:02:05 | 欧州情勢

(ストライキ初日、ごった返すリヨン駅のホーム(2018年4月3日撮影)【4月5日 AFP】 大混乱のようにも見えますが、市民の側にも新たな対応が)

仏マクロン政権の改革方針に反対するフランス国鉄 6月末までの3カ月間の大規模ストへ
3月19日ブログ“フランス 概ね好評なマクロン大統領の「第3の道」を探る改革路線 徴兵制に「間違いを犯す権利」も”でも取り上げたように、フランス・マクロン大統領がすすめる改革路線は、難航が予想された労働法改正もこれまでのところ既得権益を失う労働界からの反発もさほど大きくは広がらず、概ね順調に推移してきました。

(3月19日ブログ表題にもある“徴兵制”については、本文中でも紹介したように、マクロン大統領は最近は“国民皆兵”ではなく“国民奉仕”という言葉を使っており、兵役にこだわらない姿勢に転じています)

しかし、特に労働市場の改革は、働く者の“痛み”に直結するだけに、フランスでも、日本でも、その他の国でも、大きな抵抗を伴います。

マクロン大統領は、EU加盟諸国が2020年までに旅客鉄道市場を開放しようと準備を進める中、フランス国内での列車運行費用が他国に比べて3割増になっていると指摘し、フランス国鉄(SNCF)は抜本的改革を要すると訴えています。

その一環として、これまで認められてきた終身雇用と早期退職の特権を、新規雇用者に付与しない計画を示しています。

労組側は、こうした既得権益を奪う改革に反対すると同時に、今回の改革が政府が否定しているSNCF民営化の第一歩になると危惧しており、2日から3か月に及ぶ大規模なストライキに突入しています。(完全に列車を止めるのではなく、5日間のうち2日、列車を一部運休するという内容のようです)【4月2日 AFPより】

フランス労働運動にとっても、マクロン大統領の改革にとっても、山場を迎えています。

****仏国鉄、大規模スト 運転士の77%、職務離脱****
仏マクロン政権の改革方針に反対するフランス国鉄(SNCF)の大規模ストが3日、仏国内で本格化した。6月末までの3カ月間、週2日のペースで決行される見通しで、大きな影響が出そうだ。
 
3日は高速鉄道TGVの87・5%が運休。運転士の77%が職務から離脱し、交通機関が仏全土でマヒした。パリ近郊の道路では通勤時間帯に大渋滞が発生し、パリのサンラザール駅では運行状況を確認する客であふれた。
 
きっかけは、マクロン政権が3月に明らかにした国鉄改革法案だ。6兆円以上の借金を抱え、遅れの常態化や運行トラブルが頻発する国鉄の効率化を狙った。
 
フランスの鉄道員は、蒸気機関車時代の1920年代から、「つらい肉体労働の代償」として、鉄道の無料パスの支給や終身雇用などで手厚く保護されてきた。改革法案では「鉄道員」の新規採用をやめ、「特権」の見直しを狙う。
 
労働者の権利を手厚く保護するフランスは長年、交通機関のストにも寛容な国柄だった。ただ、直近の仏紙の世論調査では51%が改革を支持。スト支持の46%を上回っている。
 
仏政権にとって国鉄は鬼門だ。95年にはジュペ首相(当時)が改革を試みたものの、ストなど激しい抵抗を受けて撤回を迫られた。【4月4日 朝日】
*******************

フランス国鉄だけでなく、大学、ゴミ収集、エネルギー関連、エールフランスなどで多方面で同調する形でストに入っています。

****仏全国スト、大学でも抗議拡大 試されるマクロン大統領の改革案****
国鉄職員が3か月間にわたる大規模ストライキに突入し交通に大きな混乱が生じているフランスでは、エマニュエル・マクロン大統領(40)の抜本的改革案に対する抗議運動が大学にも広がっている。
 
4日、首都パリと南東部リヨンの2大学で、マクロン大統領の入学者選抜計画に反対する学生らが校舎を封鎖し、座り込みデモを開始した。国内各地の大学ではここ数週間、同様の授業ボイコットが続いている。(中略)
 
一方、南部マルセイユでは元港湾労働者や郵便配達人、学生などさまざまな立場の人々が集まり、マクロン大統領は公共サービスを廃止しようとしているとして抗議の声を上げた。
 
エールフランスやごみ収集業者、エネルギー関連業者の従業員らも3日、国鉄ストに同調して独自にストを敢行。改革への不満を訴える声が一層高まっている。
 
投資銀行出身のマクロン大統領は、経済成長と累積財政赤字の削減を目指した大改革によってフランスを再建すると約束している。

昨年秋には労働法の改正を断行したが、国内ではデモが相次いでおり、今回の大規模ストはマクロン氏の決意を問う試金石とみられている。【4月5日 AFP】
***********************

政権対労組の歴史 英サッチャー政権対炭鉱労組 そして日本の“スト権スト”】
今回のマクロン政権と労働界の対決は、故マーガレット・サッチャー英元首相が1984年に臨んだ炭鉱組合との一大決戦に比する見方もあるそうです。

赤字の炭鉱を閉鎖し、補助金支出を削減、財政赤字を改善するのが、サッチャー政権の施策(174抗のうち採算のとれない20抗を閉鎖し約2万人の合理化計画案)ですが、質素・倹約・勤勉と言うプロテスタントの価値、つまり企業家精神の復活を意図するサッチャー元首相は、「労働組合の社会主義が、企業家精神を破壊する」という考えで、積極的に組合弱体化を進めたとも見られています。

1年に及ぶ闘争で、ピケをはるストライキ派と反ストライキ派で暴力抗争となり死者も出る混乱が続きましたが、結局は“鉄の女”サッチャーが勝利、イギリス労働運動の転換点となりました。

今の日本ではストライキはほとんど見られず、労働者の権利としては空文化しているような感もありますが、数十年前は日本でもストライキはさほど珍しいものではありませんでした。

さすがに“総資本対総労働”と言われた三井三池争議(1959年)は記憶にありませんが、民営化される前の国鉄では、毎年のように“順法闘争”(規則などを完全に励行することによって、合法的にストライキと同様の効果をねらう闘争戦術 結果的に多く運休が発生)が繰り返され、1973年には怒った乗客が暴動を起こす事態にもなりました。

そうした一連の労働運動の山場となったのが、1975年(昭和50年)11月26日から12月3日に実行された“スト権スト”でした。

一般的に“スト権スト”とは、ストライキ行為を法令により禁止されている労働者が、ストライキを行う権利を求めて(禁止を不当とする立場から見れば、権利を「奪還」しようとして)行うストライキ行為ですが、1975年のそれは国鉄労組(正確には公共企業体等労働組合協議会(公労協)でしょうか)が行ったストライキです。

約1週間ほどの混乱は、私個人にとっては、大学の講義が休講となる“ラッキーなもの”に過ぎませんませんでしたが(キャンパスに掲示された休講の案内を眺めていた記憶があります)、日本の労働運動にとっては、その後の衰退を予見する分水嶺ともなりました。

当時は比較的リベラルとされた三木内閣で、組合指導者にも一定に期待があったのでしょう。
また、組合側には、自分たちが列車を止め続ければ国民生活は大混乱し、内閣など吹っ飛ぶ・・・という思いもあったのでしょう。

TVでは、官房長官の海部俊樹氏が組合側代表と論議する場面も。一歩もひかず、弁舌鮮やかな海部氏は、その後の首相への道の足掛かりを築きます。

周知のように、このスト権ストは結局何も成果を得ることなく、組合側の敗北に終わります。

単に成果が得られなかったということだけでなく、国鉄を1週間以上止めたのに、国民生活にはほとんど影響なく、生鮮食料品はトラックで輸送され、物価も上昇しなかった・・・という物流における国鉄の位置の変化、“時代の変化”を明らかにすることにもなりました。

そして、その後の国鉄分割・民営化へと進むことにもなりました。

また、単に国鉄労組の問題にとどまらず、ストライキを振りかざす戦術への国民批判が高まり、その後の日本における労働運動の在り方を決定づけたようにも思えます。このスト権スト以来、労働側は春闘において連戦連敗を繰り返し、組織率は低下の一途をたどります。

カーシェアリング、テレビ会議、在宅勤務・・・ストライキで加速する新たな通勤・仕事様式
こうした“昔話”をしているのは、今回のフランス国鉄の3か月に及ぶ大規模ストに関しても、似たような現象も垣間見えるからです。

現在の日本と異なり、公共部門でのストライキが頻発するフランスでは、一般国民も“スト慣れ”していますし、一定にストライキへの理解もあると言われています。

ただ、大規模ストライキとなると市民生活には大混乱が起きます。結果“仏政権にとって国鉄は鬼門だ。95年にはジュペ首相(当時)が改革を試みたものの、ストなど激しい抵抗を受けて撤回を迫られた。”【前出】という話にもなります。

しかし、今回は1995年とは様相が異なるとの指摘も。

****仏ストライキの影響軽減に新ビジネスやスマホが貢献****
フランスの鉄道組合はかつて、鉄道網の遮断によって国全体を機能停止させることができた。しかし今月3日のストライキで労働者たちが職場を放棄した際には、通勤客や企業の苦境を軽減するために新たなテクノロジーが一役買った。
 
1995年、仏国内の公共交通網の運転士や職員らがストライキを行った際には、通勤客は3週間近くにわたり地獄のような交通渋滞に直面し、企業も従業員の欠勤や労働時間の損失に頭を痛めた。パリっ子たちの中には、市内のあちこちの道路沿いに立ち、親指を立ててヒッチハイクをしたことを思い出す人たちもいる。
 
それから20年以上が経ち、インターネットや携帯電話、新たな働き方などが普及した現在では、通勤客や旅行者は鉄道の大規模な混乱が起きる前により多くの情報を入手し、それに備えることができるようになった。
 
フランス国鉄では、運行が大幅にキャンセルされることを旅行者に数日にわたって警告した後、ウェブサイトと携帯アプリでリアルタイム情報を発信。こうした対応が、各駅での乗客の不満軽減に一役買った。
 
結果として、3日朝の通勤ラッシュの時間帯には、かつての大規模ストライキのようにホームが通勤客でごった返すこともなく、大半の駅で驚くほど秩序が保たれていた。

南仏ニースの駅でAFPの取材に応じた若い眼鏡技師の女性は「大混乱になっているかと思った。みんなそう予想していたのに」と語った。

■カーシェアリング初体験のきっかけに
通勤客の中には、車の運転者と相乗りを希望する人をつなぐサービスを提供している業界大手の「ブラブラカー」や「カロス」など、新しいタイプのカーシェアリング会社を利用する人たちもいた。こうしたサービスは、携帯電話を使ってほんの数秒で予約できる。
 
今回のストライキ中、大都市周辺ではこの新サービスが渋滞緩和に一役買った。朝のラッシュ時には平常よりも混雑したが、記録的な渋滞に比べればはるかに少なかった。

カロスの共同創設者であるオリビエ・ビネ氏はAFPの取材に対し、「新たな利用者が急増した」と話し、「弊社の利用者数に関して言えば、ストライキ前に比べて4倍に増えた」と続けた。
 
ビネ氏によると、38万人のドライバーがライドシェア(相乗り)を申し出ており、このサービスの利点を発見した多くの新規ユーザーが長期ユーザーとなることに同社は期待を寄せている。

ビネ氏によると3月22日の鉄道ストでは「数千人がカーシェアリングを初めて体験し、そのうちの50%はストがないときでも頻繁に利用を続けている」という。
 
一方、ブラブラカーの広報担当者はAFPの取材に対し、3月30日には同社のウェブサイトの閲覧者が140万人に上り、新規登録ユーザーは過去最高を記録したと語った。

■ストに感謝?
スト当日、会社に出勤することをあきらめ、ノート型パソコンとインターネットを使って自宅で仕事をすることを選ぶ人たちもいた。1968、86年、95年の大規模ストライキのときには想像できなかった手段だ。
 
エマニュエル・マクロン大統領率いる中道政権は、こうした仕事の仕方を推奨しており、昨年には従業員が会社に対してオフィス以外の場所で働きたいと申し出る権利を認める新たな労働法案を可決している。

仏国内の複数の都市でシェアワークスペースを提供しているスタートアップ各社は、この機会を利用して従業員や企業に自社のサービスを売り込んだ。
 
マクロン大統領が率いる政党・共和国前進の一部議員らは、企業経営者に対し、ストライキの「明るい側面」を見るよう呼び掛けている。

下院議員のジャンルネ・カズヌーブ氏はツイッターに、「SNCFでストライキが起きるたびに遠隔勤務や電話・テレビ会議、コワーク(仕事場の共有)など、少しずつだがわれわれのワークライフをいっそううまくオーガナイズできる新たな仕事様式が開発されてきた。私たちはむしろ感謝の言葉を口にすべきだ」と投稿した。【4月5日 AFP】
**********************

日本のスト権スト同様、フランス国鉄がいくら列車を止めても、人々の生活様式が“新しい時代”に入っていることを確認させる結果になるだけなのかも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする