(米ジョージア州の石炭火力発電所【11月28日 共同】)
【トランプ大統領 地球温暖化にる経済的損失について「信じない」】
アメリカ・トランプ大統領はパリ協定離脱を表明するなど、温暖化防止には否定的な立場をとっていますが、アメリカ政府(NASA=航空宇宙局やNOAA=海洋大気局など13の省庁)は、逆に温暖化に伴う巨大な経済的損失に関して警鐘を鳴ら報告書をまとめています。
****米政府報告書、気候変動に警鐘 トランプ氏主張と矛盾****
米政府は23日、気候変動とその影響に関する報告書「第4次全米気候評価」を発表した。気候変動に伴う米経済の損失は今世紀末までに数千億ドルに達し、最悪のシナリオでは国内総生産(GDP)の10%以上を失う可能性があるとしている。(中略)
米海洋大気局(NOAA)環境情報センターの技術サポート部門責任者、デービッド・イースターリング氏は、(中略)「世界の平均気温は近代文明が経験したことのない高さと上昇ペースになっている」と指摘。こうした温暖化傾向は人間の活動によってしか説明できないと述べた。
温室効果ガスの大きな削減が実現しない場合、産業革命以前と比べて気温が今世紀末までに5度以上上がるという。
報告書は13の連邦機関から集めたチームがまとめた。代表的な科学者300人を含む1000人の支援を受けそのうち約半数は政府外からの支援だった。
報告書の内容は、気候変動をでっち上げだとするトランプ大統領の主張と食い違っている。トランプ氏は21日、一部の国民にとってこの100年で最も寒い感謝祭になるとの見通しに触れ、「地球温暖化はどうなったんだ?」ツイートしていた。
報告書によると、気候変動に伴うコストは年間数千億ドルに上る可能性がある。米南東部だけでも、異常な暑さで2100年までに5億時間の労働時間が失われるとみられている。
農家に対する影響は特に大きく、高温化や干ばつ、洪水により全米で作物の量や質が落ちるという。熱ストレスによる生産性の低下、海洋の酸性化に伴う貝類の死滅での経済損失も指摘されている。
健康面では、高温化による死者が増加する見通しで、中西部では2090年までに早死にする人が年間2000人増えるとしている。蚊やダニを媒介する病気の増加、ぜんそくやアレルギーの悪化、食品や水由来の疾病リスクも挙げられている。特に夏の高温は、子どもや高齢者、経済的困窮者などの病気や死亡を招く恐れがあるという。
自然への影響では、山火事で年間焼失する面積が2050年までに現在の6倍に増え、ハワイやカリブ海では高温により安全な飲み水が脅かされると指摘。海面上昇や高潮も発生し、華氏100度(摂氏約37.8度)を超える日が増加する。
今世紀中頃には北極の海氷が夏の終わりに全て解け、永久凍土の融解を誘発。さらに多くの二酸化炭素やメタンガスが放出される結果となり、温暖化を加速させる可能性があるという。
報告書は政策担当者に情報提供する目的で作成され、対応策に関する具体的な提言は記載されていない。ただ、米国が直ちに化石燃料の使用や温室効果ガスの排出を削減すれば、多くの人命を救い経済的に巨額の利益を得られる可能性を示唆している。【11月24日 CNN】
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この米政府報告書に対し大統領は「信じない」とのことです。
****“温暖化で深刻な経済的影響” トランプ大統領「信じない」****
アメリカのトランプ大統領は、政府がまとめた報告書で地球温暖化によって経済的に深刻な影響が出る可能性があると指摘されたことについて、「信じない」と述べ、地球温暖化対策に否定的な立場を改めて鮮明にしました。(中略)
トランプ大統領はホワイトハウスで26日、これについて記者団から問われ、報告書の一部を読んだとしたうえで、経済的な影響については「私は信じない」と述べました。
そのうえで報告書について「アメリカについて言及したものだが、中国や日本などアジアの国も含めるべきだ。われわれはかつてないほど環境にやさしいが、地球のほかの場所もやさしくなければならない」などと持論を展開しました。(後略)【11月27日 NHK】
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どうして、この場面で中国と並んで日本の名前があげられるのかよくわかりません。
それにしても、13省庁がまとめた報告書を「信じない」で一蹴するというアメリカ大統領制という政治体制(トランプ大統領個人の問題か?)も日本的感覚でよく理解できなものがあります。
「信じない」理由はなんでしょうか?
トランプ大統領は27日、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ等の金融政策を「間違っている」として、「FRBは間違いを犯している。なぜなら自分には直感がある。自分の直感は時として、誰かが頭で考えて話すことよりも多くのことを教えてくれる」【11月28日 ロイター】と述べています。
温暖化を「信じない」理由も“直観”でしょうか?今年の感謝祭が寒かったからでしょうか?
確かに温暖化については、異論もありますが、多くの科学者・専門家が支持する説を否定するなら、せめてその根拠を示してもらわないと困ります。トランプ氏個人の“直感”で、地球全体の将来を決めてもらっても困ります。
【より厳しい対応が求められるなかで、CO2総排出量が4年ぶりに増加】
トランプ大統領の“直観”はともかく、国連はパリ協定目標達成に向けて以下のように発表しています。
****温室ガス30年に25%減必要 パリ協定目標達成で分析****
今世紀末までの気温上昇を2度未満に抑えるパリ協定の目標達成には、2030年の世界の温室効果ガス排出量を17年と比べ25%削減する必要があるとの報告書を国連環境計画が27日、公表した。
横ばいだった世界の排出量が17年は増加に転じたとみられ、このままではパリ協定の目標達成は極めて難しいと指摘している。
12月2日からポーランドで開かれる国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議で排出削減目標の引き上げも議論される予定で、各国に地球温暖化対策の強化を呼び掛けた。
20年に始まるパリ協定は産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指す。【11月28日 共同】
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気温上昇を1.5度未満に抑えるためには、2030年の世界の温室効果ガス排出量を、現在よりも55%削減しなければならないそうです。
しかし、現実には上記記事にもあるように、“世界の排出量が17年は増加に転じた”とのことで、目標達成は非常に困難にも思われます。
****世界のCO2総排出量、4年ぶりに増加=国連****
環境問題に取り組む国連総会の補助機関、国連環境計画(UNEP)は27日、2018年度版の「排出ギャップ報告書」を発表した。
UNEPは報告書で、世界の二酸化炭素(CO2)総排出量が4年ぶりに増加したと説明。気候変動に対する国際的な取り組みが、目標とする水準に達していないと指摘した。
報告書は、2017年の排出量増加について、経済成長が要因と説明。一方で、各国による炭素排出量の削減努力は行き詰まっているとの見方を示した。
2015年に採択された、気候変動に関する「パリ協定」が定めた目標を達成するには、世界のCO2排出量を2020年までに減少へと転じさせるのが重要となると、報告書は書いている。
しかし専門家は、2030年までに減少傾向に変えることさえ、現時点では難しいと指摘する。(後略)【11月28日 BBC】
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気温上昇抑制に関する目標達成のためには、より厳しい温室効果ガス排出抑制に取り組む必要があるとされています。
****地球温暖化、対策上回る速度で進行 国連報告書が警告****
国連環境計画は27日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で定められた目標達成に向けた進捗に関する年次報告書を発表し、現状の温室効果ガス排出量と目標達成に必要な水準との間の差は広がり続けており、人類は気候変動対策でますます遅れをとっていると警告した。
これまでの気温上昇幅はわずか1度だが、世界各地では大規模な森林火災や熱波、ハリケーンが増加の一途をたどっている。
このままのペースで行けば気温上昇幅は今世紀末までにおよそ4度に達するとの予測もあり、科学者らは文明の基盤を揺るがす事態になると警鐘を鳴らしている。
今年で9回目の公表となる「排出ギャップ報告書」によると、産業革命以前からの気温上昇幅を2度に抑えるためには、2015年のパリ協定で定められた炭素削減量を2030年までに全体で3倍に、1.5度の上昇幅を目指すなら5倍に増やす必要がある。
同報告書は、国家レベルでの取り組みが最も不足していると指摘。UNEPの同報告書担当者、フィリップ・ドロスト氏はAFPに対し、「各政府は、自国が決定する貢献を見直し、目標を引き上げる必要がある」と語った。【11月28日 AFP】AFPBB News
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気温が4度上昇したら、日本・アメリカを含む多くの地域で破壊的な変化がおきるでしょう。そうなると、氷河・氷床・凍土の融解や森林の枯渇などを伴って、事態は加速度的に、かつ、手が付けられないペースで悪化していくようにも想像されます。(いつも言うように、そのとき私はもう生きていませんので・・・・、怖いもの見たさで、どんな世界になるのか見てみたい気も・・・)
【止まらないアマゾン森林破壊 「ブラジルのトランプ」就任でさらに加速か】
(ブラジル北部のアマゾンで違法に火が放たれ、燃え広がる熱帯雨林(2009年9月15日)【8月13日 GLOBE+
】)
さらに、懸念される情報も報じられています。
以前から指摘されているところですが、アマゾンの熱帯雨林破壊が止まらないようです。
新たな問題は、そのブラジルの大統領に「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボウソナロ氏が就任することです。
ボウソナロ氏は環境対策においても「ブラジルのトランプ」のようです。
****「サッカー場100万面」相当の森林、1年で消失 ブラジル****
ブラジルの森林破壊が空前の規模に達しており、たった1年間でサッカー場100万面に相当する面積の森林が失われた。環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)が明らかにした。
ブラジル政府の特別調査機関によると、森林破壊は2017年8月~2018年7月に前年同期比で14%近く拡大し、7900平方キロの面積の森林が消失したという。
グリーンピースのブラジル支部で公共政策コーディネーターを務めるマルシオ・アストリーニ(Marcio Astrini)氏は、AFPの取材に「たった1年でサッカー場およそ100万面に相当する森林が破壊されたことになる」と語った。「森林が違法に伐採されているという知らせが伝えられるのは、毎年のことだ」
ブラジルのジャイル・ボウソナロ次期大統領が環境保護規制を緩和するという公約を実行に移せば、事態はさらに悪化する可能性があると、アストリーニ氏は指摘する。
さらに、ボウソナロ次期大統領がテレサ・クリスチーナ氏を農牧・食料供給相に指名したことも、懸念材料となっている。農業関連産業による国会でのロビー活動の先頭に立っているクリスチーナ氏は、牧草地や農地を増やすために、森林伐採の拡大を支持しているからだ。
■アマゾン森林破壊「想像絶する事態に発展する恐れ」も
地球上に残る熱帯雨林の半分以上を占めるアマゾンの熱帯雨林は550万平方キロの範囲に及んでおり、そのうちの約60%がブラジルにある。
だが、アマゾン熱帯雨林は違法伐採および農業、特に大豆のプランテーション(大農園)や牛の牧草地などによる脅威にさらされている。
2004年~2012年には、官民双方で規制を課したことにより、ブラジルの森林破壊のペースは減速していた。だが、ボウソナロ次期大統領は「自然保護地域、先住民保護区を廃止し、環境犯罪を捜査して罰するための権力を弱める」意向を表明していたと、アストリーニ氏は指摘する。
「ボウソナロ次期大統領がこれらすべてを実行し、罪を罰する力を弱めるとすれば、アマゾン森林破壊は想像を絶する事態に発展する恐れがある」と、アストリーニ氏は続けた。【11月28日 AFP】
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植物は光合成によって二酸化炭素を吸収し、酸素を排出します。同様に呼吸によって二酸化炭素を排出します。その差分が炭素として固定され木が成長していきます。
木が枯れることで固定された炭素は大気中に放出されますが、通常の森林では新しい木々が育つことでその放出分は再吸収されていきます。しかし、森林破壊によって森林面積が減少すると、伐採(最終的には製品に使用した木材の焼却)による炭素放出だけが進行するということになります。
なお、いつもやり玉にあげられるブラジルのために付加すれば、アマゾンの森林が減少しているのはブラジルだけでなくペルーも同様です(ペルーは“サッカー場20万面分”)。だから構わないという話にもなりませんが。
****ペルーのアマゾン、森林破壊が加速度的に進行中 環境当局****
南米ペルーのアマゾン地域では、2001年から2016年までの間に200万ヘクタール近くの森林が消失し、年間12万3000ヘクタール以上のペースで森林が減少していることが、同国環境省が8日に公表した統計データで明らかになった。
環境省の森林保全計画を統括するセサル・カルメット氏はAFPの取材に対し、農業、畜産、違法伐採、鉱物違法採掘、麻薬密売などが森林破壊の主な原因となっていると語った。(中略)
環境情報サイト「モンガベイ」によると、2017年にも急速な森林破壊が続いており、「サッカー場20万面分に相当する」14万3000ヘクタールに及ぶアマゾンの森林がペルーの地図から消え去ったことが衛星画像で明らかになっているという。(後略)【5月9日 AFP】
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