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(日本進出を目指す「エムプレスト」がシステム開発を担当したイスラエルのミサイル防衛装備「アイアンドーム」がロケット弾を迎撃するためミサイルを発射した様子=10月27日(ロイター)【11月12日 産経】)
【ネタニヤフ政権の停戦受諾に国内極右勢力が反発 総選挙前倒しの方向へ】
全面戦争の可能性も危惧された11日~13日にかけてのパレスチナ・ガザ地区におけるハマス等とイスラエル軍の激しい衝突は、エジプトの仲介もあって、13日には停戦が実現しました。
****ハマス、イスラエルとの停戦発表 ガザ大規模衝突****
パレスチナ自治区ガザ地区で、パレスチナ武装勢力とイスラエルとの大規模な衝突が起きた問題で、同地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスなどは13日、エジプトの仲介による停戦を発表した。ガザでは衝突が激化し、全面紛争に発展する恐れも出ていた。
ハマスをはじめとする武装勢力は共同声明を出し、イスラエル側も攻撃を自粛することを条件に停戦に応じると発表。
ただイスラエルの首相府や軍はこの発表に関するコメントは出しておらず、強硬派のアビグドル・リーベルマン国防相は攻撃中止を支持しないとする声明を出した。
一方、外交官らによると、クウェートとボリビアは同日、国連安全保障理事会に対し、今回の衝突について協議するため非公開の臨時会合開催を要請した。
今回の衝突は、2014年のガザ紛争以降で最悪の規模となった。ガザでは、イスラエル軍による空爆で約24時間のうちにパレスチナ人7人が死亡。またガザからはイスラエル南部に向けてロケット弾や迫撃砲約460発が発射され、27人が負傷、うち3人が重傷を負ったほか、住民数万人がシェルターに避難した。
イスラエルの都市アシュケロンの建物をロケット弾が直撃した際には、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸から働きに来ていたパレスチナ人1人が死亡した。【11月14日 AFP】AFPBB News
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全面戦争が避けられたということで、国際的には歓迎された停戦ですが、上記記事にもあるように、イスラエル国内にあっては極右政治家リーベルマン国防相が停戦に反対するなど、ネタニヤフ首相が停戦を受け入れたことに「テロ攻撃に屈した」との批判的反応も強くあるようです。
停戦に抗議するリーベルマン国防相は14日、辞任を表明し、イスラエルの政治情勢は総選挙前倒しに向けて一気に流動化しています。
****ガザ停戦でイスラエル首相窮地=極右与党離反、総選挙前倒しへ****
パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスとの停戦に応じる決断を下したイスラエルのネタニヤフ首相が、連立与党内からの反発で窮地に立たされている。
極右政党が相次いで離反の動きを見せ、来年11月に予定されていた総選挙の前倒しは不可避の情勢だ。首相は18日の閣議で「(ガザ情勢などで)敏感な時期に選挙に向かうのは、不必要で間違っている」と訴え、可能な限り選挙日程を遅らせる道を模索している。
極右与党「わが家イスラエル」の党首で対パレスチナ最強硬派のリーベルマン氏は14日、停戦受け入れの判断を「テロに屈した」と厳しく批判。国防相を辞任するとともに連立政権からも離脱する方針を示した。
国会(定数120)で5議席を有する「わが家」が抜けると、連立与党の議席数は61に減少。あと1人減れば過半数を確保できなくなる状況に陥った。
ネタニヤフ首相は最大与党の右派リクードの党首で、リクード支持者にも対パレスチナ強硬派が多い。リーベルマン氏がガザ停戦を政局に絡める動きを見せた背景には、選挙を視野にリクードの支持層に食い込もうとする狙いがあるとみられる。
さらに、ネタニヤフ首相は16日、8議席を有する別の極右与党「ユダヤの家」党首のベネット教育相と今後の政権運営をめぐり協議したが、不調に終わった。ベネット氏もガザ停戦に反対していたとされ、地元紙ハーレツ(電子版)によると、ベネット氏は17日、総選挙の前倒しが必要との認識を示した。
首相にとって、ガザ停戦が選挙の争点になるのは痛手だ。当面は政権を維持し、国民の関心がほかに向くのを待ちたいところだが、流れを変えるのは難しい。地元メディアでは、政権はせいぜい1カ月程度しかもたないとの見方が支配的になっている。【11月18日 時事】
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極右政党にとっては、対パレスチナ強硬論を掲げれば、選挙を有利に戦える・・・との目論見があるのでしょう。
国内選挙対策で戦争突入の危機が煽られるというのは困った話ですが、現実政治というのはそういうものなのでしょう。
【パレスチナからのロケット弾攻撃を防ぐ「アイアンドーム」の技術を電力供給調整に活用】
ところで、パレスチナ側からのロケット弾攻撃があるたびに名前が出てくるのが、イスラエル軍のミサイル防衛システム「アイアンドーム」です。
このシステムは、数々のロケット弾攻撃をほとんど無力化していることでわかるように、軍事的には相当な“優れもの”ですが、この「アイアンドーム」に使用されている技術は単に軍事的用途にとどまらないとのことです。
****NYの電力供給を支えるイスラエルの鉄壁防空技術****
(中略)アイアンドームは直訳すると「ドーム型の鉄の天井」ということになるが、その名が示す通り、イスラエル上空にレーダー網を敷き、国外からのミサイルを迎撃して破壊する防衛システムだ。その迎撃成功率たるや、イスラエルによれば、85〜92%にも達するという。
先日、このアイアンドームのコマンド制御システムを開発したイスラエル企業「mPrest(エンプレスト)」の創設者でCEOのナタン・バラク氏と話をする機会があった。バラク氏は今、このアイアンドームを支える同社のスキルを、世界で電力インフラに活用するという別の挑戦に乗り出していると強調していた。
アイアンドームを作り上げた企業が、なぜ電力インフラの世界に進出するのかーー。エンプレスト社の取り組みを探ってみた。
無駄撃ちしないアイアンドームの制御システム
そもそもアイアンドームというのはどういうシステムなのか。
アイアンドームは、2011年に配備が始まった対空迎撃ミサイルシステムだ。開発には、同盟国である米国が13億ドルを提供している。
世界にその名を轟かせたのは、2012年と2014年に起きたパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの紛争だった。ハマスが放ったミサイルやロケット攻撃を見事に迎撃しているシステムとして話題になったのである。
そんなアイアンドームは、可動式の3つのユニットから成る。まずレーダーがイスラエル領内に向けて飛んでくるミサイルを察知し、システムのソフトウェアがその弾道を瞬時に予測する。そしてミサイルユニットから、タミルという名のミサイルが発射され、敵のミサイルなどを捕捉して破壊する。
アイアンドームの凄いところは、捕捉・破壊の技術だけではない。無駄撃ちはしないことにある。どういうことかと言うと、システムがミサイルの落下地点が人口密集地かどうかなど、被害の可能性も瞬時に判断し、人がいないようなエリアにミサイルが落ちる場合には迎撃しない。
これにより、1発が約5万ドルと言われるタミル・ミサイルを発射するコストを抑えることができるという。さらには、迎撃時にはその破片がなるべく地上で二次被害を生まないようにも計算して破壊するらしい。
こうした技術を実現するには、その基幹となるシステムがかなりの正確性と成熟度を保証する必要がある。
エンプレストは、その複雑に組まれた迎撃システムのコマンド制御を担っているのである。実はエンプレストのシステムは、イスラエルだけでなく「英国からアジアを含む世界各国」(バラク氏)にも供給されている。表には出てこないが、世界各地で使われているということだ。
そんなエンプレストが今、電力網の世界に力を入れ始めているというのである。
(中略)確かに同社は、イスラエルでは、農業分野で灌漑などを制御管理するシステムや監視カメラからゴミ、駐車問題など街全体をコマンド制御するシステムなども手がけている。(中略)そして現在、コマンド制御システムを電力グリッドに使うことも始めているということらしい。
ニューヨークやニュージーランドはすでに採用
実はすでに導入している地域もある。例えば、ニューヨーク州だ。
ニューヨークは言わずと知れた世界でも有数の大都市。16の発電所を抱え、その7割は水力発電に頼っている。その電力供給の安定を担っているのが、エンプレストのコマンド制御システムだという。
ニューヨーク州では、2012年と2014年、続けて大規模停電に襲われた。その原因は水力発電の変圧器が機能不全に陥ったからだった。その反省を踏まえ、同州はエンプレストのシステムを導入。
そして、変圧ポイントにセンサーを付け、機器の状態やフローなどの記録をビッグデータとして集約し、数多くの施設や電力網そのものを広域に常時管理するシステムを構築している。
そしてAI(人工知能)が、修理やメンテナンスが必要な箇所を前もって警告したり、今後問題が起きそうな変圧器を先に予測するなど、電力供給の安定化を支えている。
バラク氏は、電力網のような基幹インフラには、「アイアンドームと同様、いくつものシステムがからみ、問題点の察知が必要となる強固で絶対的に安全が求められるシステムが必要なのです」と話す。(中略)
今世界では、発電は主に原子力や火力、水力に頼っているが、今後は、太陽光や風力、地熱やバイオマスなど再生可能エネルギーによる発電もかなり増えていくことが予想される。
また日本では2020年から、送配電部門が分社化される予定になっている。つまり、公共インフラである電力の送配電網を様々な電力会社が公平に利用して商売を行えるよう、電気事業者と送配電部門を分離し、新たな発電事業者たちが参入することを可能にする。
そうした電力源をまとめてコントロールして、安定供給するシステムとして、エンプレストは自社のシステムが有効だと主張している。
しかも、今後、インフラが今以上にデジタル化されれば、利便性の反面、サイバー攻撃などのリスクも増える。ただそこは世界でもサイバーセキュリティ意識の高い国として知られるイスラエルだけに、侵入を許さないなどサイバー攻撃対策も十分に行なっていると、バラク氏は話す。
(中略)電力供給の安定、そしてセキュリティ対策は不可欠だが、それ以前に電力インフラは供給過程などのちょっとしたミスでも大規模な停電を起こしかねない。最近では、台風の影響で大規模停電が各地で発生したことは記憶に新しいが、そうした事態はいつでも発生しかねないのである。
そこに、迎撃成功率9割を超すエンプレストの緻密な技術への「信頼」が貢献するというわけである。アイアンドームで実績を積んだテクノロジーが電力網を支えるーーそんな話が世界各地から聞こえる日が来るかも知れない。
【10月31日 山田 敏弘氏 JB Press】
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電力は常に需要と供給が同量にならなければ「周波数」が安定せず、最悪の場合は大規模な停電が起きる・・・ということで、9月6日午前3時8分ごろ、北海道南西部地方を震源とする最大震度7の揺れを観測した地震で、震源に近い石炭を燃料とする苫東厚真発電所(厚真町)が緊急停止、これを契機として北海道全域に及ぶ大規模停電が長期間続いたことは記憶に新しいところです。
こういう電力需給調整に、ミサイル防衛システム「アイアンドーム」で培われた技術が役立つ・・・という話のようです。
実際、上記エンプレスト社は日本進出の準備を進めているようです。
****イスラエルの対空防衛システム開発企業が日本進出へ****
イスラエルの対空防衛システム「アイアンドーム(Iron Dome)」の指揮統制システムを開発した同国のIT企業「エムプレスト」が日本への事業進出に向けて準備を進めていることが11日、分かった。同社幹部が明らかにした。
2019年にも進出したい考えで、防衛分野で培ったノウハウを生かして電力設備の効率化やスマートシティー(環境配慮型都市)などでのシステム受注を目指す。
同社が開発したロケット弾攻撃を想定したアイアンドームのシステムでは、センサーが感知した飛来物体のデータを集約。その中からロケットを認識して着弾点を推測し、地対空ミサイルを発射して撃ち落とす機能などを持つ。
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同社はこうした技術を活用し、電力関連設備の最適な運用による省エネ化や、農業分野では灌漑(かんがい)などの効率化を図るシステムなどを開発している。
日本での事業進出に関しては日本企業との共同事業を想定していて、パートナー企業を探しているという。日本で実績を積み上げ将来的にはアジア市場で進出拡大を図りたい考えだ。【11月12日 産経】
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【親アラブの中国をも引き付ける先端技術 アメリカとの蜜月を背景に輸出拡大を】
「アイアンドーム」に代表されるように、イスラエルの先端IT技術は非常に高い水準にあって、その魅力は親アラブの立場にある中国をもイスラエルに引き寄せています。
****親アラブの中国、イスラエルに急接近 狙うは先端技術****
中国が「中東のシリコンバレー」とも言われるイスラエルとの関係を深めている。中国は歴史的にパレスチナと親交が深く、イスラエルも中国との関係が悪化している米国の事実上の同盟国。それでも実利で一致し、貿易や投資額は増加。米中の対立が深まるなか、「蜜月関係」は強まっている。
習近平(シーチンピン)国家主席の盟友と言われる王岐山(ワンチーシャン)国家副主席が22〜25日、イスラエルを訪問した。中国指導者のイスラエル訪問は、2000年の江沢民国家主席(当時)以来18年ぶり。
ネット通販大手・アリババ集団の馬雲(マーユン)(ジャック・マー)会長らも同行し、力の入れようがうかがえた。イスラエルも「最も重要な中国の要人」と歓迎した。(中略)
中国は1988年にパレスチナをいち早く国家として承認した親アラブ国だが、92年にイスラエルとも国交を結んだ。ネタニヤフ氏が2013年に訪中し、習氏と会談して以降、急速に関係を強化している。
中国政府側の統計によると、17年の両国の貿易額は前年から約15%伸びて130億ドル(約1兆4600億円)。シルクロード経済圏構想「一帯一路」の後押しもあり、中国の対イスラエル投資は70億ドル(約7800億円)を超え、港湾建設など大型インフラ事業も次々と落札している。
最近は特に先端分野への投資が増えており、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や小米科技(シャオミー)はイスラエルに研究開発センターを設立している。双方の大学や研究機関の協力も相次ぐ。
中国が狙うのは先端技術だ。イスラエルは、サイバーセキュリティーや人工知能、ロボット、医療機器、バイオテクノロジーなどの分野で世界の先端を走る。
低価格製品を輸出する「世界の工場」から脱却を図りたい中国は、イスラエルとの協力で独自技術の開発を強化する狙いがある。「知的財産が中国に盗まれている」と主張する米国との協力が見通せなくなった今、イスラエルの技術への期待はさらに高まっている。【10月30日 朝日】
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イスラエルとしては、こうした先端技術による防衛装備品やサイバーセキュリティー技術の輸出に力を入れていますが、やはり対中国となると、アメリカとの関係で微妙なものもあるようです。
****イスラエル、トランプ政権との蜜月テコに防衛・サイバー輸出の拡大へ 対中連携に懸念****
イスラエルでは、イスラム原理主義組織ハマスによるロケット弾攻撃から夜が明けた13日、防衛装備品やサイバーセキュリティーの技術展示会「HLS(国土安全保障)&サイバー」が商都のテルアビブで開かれ、イスラエル企業約175社が出展し各国の民間企業や政府関係者が訪れた。
イスラエルはトランプ米政権との蜜月をテコに防衛・サイバー技術の輸出拡大を目指す。(中略)
多数のロケット弾攻撃を受けても国が混乱に陥らないのは、対空防衛システムなど軍や民間企業が防衛技術を開発し「被害を最小限にしている」(政府関係者)ことが背景にある。そして政府は、直面する脅威への対応で高めてきた技術力を輸出して経済の押し上げを図る戦略だ。
特に不特定多数からの脅威にさらされるサイバー分野のセキュリティー技術では、定評のあるイスラエル企業へのニーズがある。
展示会に参加したサイバーセキュリティー会社の一人は「最大の市場は米国。米国でうまくいけばそこから世界に出られる」と話す。すでに米政府関連機関から受注していて、新たな市場開拓を目指すという。(中略)
イスラエル首相府の元高官は「米国はイスラエルにとって近い関係の国で、トランプ米大統領とネタニヤフ首相の良好な関係は防衛・サイバー輸出を後押しする」と指摘する。
ただ、輸出拡大を図る中でも課題が出てきている。市場規模が大きい中国に関しては、覇権を強める同国への不信感から投資の受け入れや技術提供はすべきでないという意見がある。
ベンチャー企業が増え続けることで人材確保も徐々に難しくなっており、政府にも新たな対応が求められている。【11月19日 産経】
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上記記事が最後に指摘している人材確保が困難になっている問題、その対策としてパレスチナ人雇用を進めている状況については、11月14日ブログ“イスラエルと日本 政治的障壁を超える「人手不足」という経済的要請 政治打破の一歩か、さらなる悪化か”でも取り上げたところです。