孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ艦船へロシアの攻撃・拿捕  対外的危機は好都合な面もある両国大統領の事情

2018-11-26 23:10:29 | 欧州情勢

(画像は【11月26日 産経】より 攻撃を受けたのは、上記のような小型艦船のようです。
ウクライナ海軍の発表では、「装甲カッター2隻『ベルジャンシク』、『ニコポリ』が敵から攻撃を受け、操縦不能となった。急襲用タグボート『ヤニ・カプ』も、停止をせざる得なくなった」【11月26日 ukrinform】とのこと。)

【「クリミア橋」開通に伴い緊張が高まっていた海域での事件】
ウクライナ東部の紛争を抱えるウクライナとロシアの間で、ウクライナ海軍の艦船がロシア側から発砲を受けて拿捕される(負傷者も出ている)という、危うい動きが報じられています。

****ロシア、ウクライナ海軍に発砲か クリミアめぐり緊張****
ウクライナ南部クリミア半島とロシアのクラスノダール地方にはさまれたケルチ海峡付近で25日、ウクライナ海軍の哨戒艇など3隻にロシア連邦保安局(FSB)の監視船が発砲し、複数の乗組員が負傷したと、ウクライナ海軍が同日発表した。

一方、ロシア側は「挑発行為があった」としてウクライナを批判し海峡を封鎖、両国の緊張が高まっている。
 
ケルチ海峡は、黒海からウクライナとロシアの両方に接するアゾフ海への入り口にあたる。ロシアは2014年3月にウクライナのクリミア半島を一方的に併合。今年5月には同半島とクラスノダール地方を結ぶ全長19キロの「クリミア橋」を開通させたため、ウクライナ船の通行が制限され、欧州連合(EU)などが懸念を表明していた。
 
3隻は黒海沿岸のウクライナの港湾都市オデッサを出発し、アゾフ海沿いのマリウポリに向かっていた。しかし25日朝、ロシア側の監視船が「領海に侵入した」として3隻のうちのタグボートに体当たりして通行を阻止。

ロシア・メディアによると、ロシア軍はケルチ海峡上空に攻撃ヘリを出動させた。ウクライナ海軍は、3隻が発砲を受けたのは海峡通過を断念し、オデッサ港に戻ろうとしたときだったとしている。3隻は拿捕(だほ)された。
 
アゾフ海沿いのウクライナ東部では一部地域を占拠する親ロシア派武装勢力とウクライナ軍のにらみ合いが続いており、海峡での緊張の高まりが飛び火することも懸念されている。
 
同国のポロシェンコ大統領は同深夜、急きょ防衛、治安関係閣僚を集めて対策を協議した。外務省はロシア側の行為を「国連憲章と国際法に違反する」とし、国際社会の対応を求める声明を出した。(モスクワ=喜田尚)
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今回事件は唐突に起きた訳でもなく、「クリミア橋」開通に伴うロシア側による船舶臨検実施といった緊張状態が背景にあったようです。

****ウクライナの首都キエフで抗議行動 ロシアに海軍艦拿捕され****
(中略)
背景は
アゾフ海はクリミア半島の東にある浅海域。クリミア半島はウクライナ南部に位置するが、一部は親ロ派分離主義者に支配されている。

アゾフ海北岸にあるウクライナの2港、ベルジャンスクとマウリポリは、穀物輸出や鉄鋼生産、石炭輸入においてウクライナに重要な役割を担っている。

ウクライナとロシアが2003年に結んだ協定は、両国の船団による自由航行を保証していた。

しかしロシアは最近、ウクライナの港に出入りする船舶の臨検を始めた。EUは今月前半、問題に対処するため「的を絞った対策」を実施すると通告した。

ロシアによる臨検は、ウクライナ側が3月にクリミア半島で漁船を拿捕した後すぐに始まった。ロシア政府は、ケルチ海峡にかかる橋に対する、ウクライナ過激派による潜在的危機を指摘。安全保障上の理由で検査が必要だと述べている。(後略)【11月26日 BBC】
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【ウクライナ・ポロシェンコ大統領は「戦争状態」導入へ 支持率挽回・野党メディア封じには好都合?】
今回事件を受けて、東部ウクライナの状況も悪化しているようです。
“ウクライナ軍は25日夜、同国東部で親露派武装勢力が一方的に建国を宣言した「ドネツク人民共和国」に大規模砲撃を実施。発砲・拿捕への報復とみられる。”【11月26日 産経】

また、ウクライナ政府は事実上の加戒厳令体制導入を決定しています。

****ウクライナ艦船をロシアが銃撃 数人負傷、政府が戒厳令を導入へ****
(中略)ウクライナ政府は26日未明に国家安全保障防衛会議を開き、全土に60日間「戦時状態」を導入することを決定した。事実上の戒厳令に相当し、同国の最高会議の承認を経て導入される。

戦時状態下では政府と軍の権限が強化され、政党やメディアの活動は大幅に制限される。来年春に予定されるウクライナ大統領選を前に、支持率低迷に苦しむポロシェンコ大統領が政権延命策に動いた可能性がある。【11月26日 共同】
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ウクライナでは来年3月に大統領選挙が行われますが、東部の状況が進展しないなかで、汚職が蔓延し、経済問題でも活路が見いだせないポロシェンコ大統領の人気は落ち込んでいます。

そうした状況で、ティモシェンコ元首相が支持率を伸ばしている・・・という件は、9月2日ブログ“ウクライナ  謀略渦巻くなかで和平に進展なし 大統領選への好位置につけるティモシェンコ氏”でも取り上げました。

最新の数字は把握していませんが、9月段階での支持率では、やはりティモシェンコ元首相がトップで、ポロシェンコ大統領は一桁となっています。

****大統領選世論調査:決戦投票候補は、ポロシェンコとティモシェンコ****
仮にウクライナ大統領選挙が次の日曜日にあるとしたら、決戦投票に勝ち上がるのはペトロ・ポロシェンコ現大統領とユリヤ・ティモシェンコ祖国党党首となる。

3つの分析センター(キーウ(キエフ)国際社会学研究所、ラズムコフ・センター、ソツィス)が2018年8月30日から9月9日にかけて共同で実施した世論調査の結果でわかった。

調査の結果、ティモシェンコは回答者の11%の指示を、ポロシェンコは7.1%の支持を得た。次点は、人気タレントのヴォロディミール・ゼレンシキーで6.7%であり、人気歌手のスヴャトスラウ・ヴァカルチューク(6.5%)とアナトーリー・フリツェンコ「国民の立場」党党首(6.3%)が続く。

なお、23.4%は、回答が困難だと答え、15%は投票に参加しないつもりだと答えた。(後略)【9月14日 ukrinform】
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こうした政治状況にあっては、一定に対外的危機がおき、その対応で強い姿勢をアピールすることは、(ロシアとの本格的衝突にならない限り)現職大統領にとっては好都合な面があります。

また、事実上の戒厳令で、野党勢力・メディアの政府への批判的活動を封じることもできます。
もちろん、いかに“謀略渦巻く”ウクライナであっても、今回事件を画策した訳でもないでしょうが・・・・。

【「小さな戦争」を望むプーチン大統領】
支持率が急落しているロシア・プーチン大統領についても同じような状況があります。

****支持率低下のプーチン、「小さな戦争」画策か?****
ロシアの独立系テレビネットワークRTVIのジャーナリストTihon Dzyadko が、Project Syndicateのサイトに「不人気なプーチンの危険」という論説を10月31日付けで寄せ、プーチンの人気に陰りが見えること、およびプーチンは人気回復のために何かをやりかねないことに警告を発している。論旨は、次の通り。

7か月前、プーチンは77%の得票率で4期目の再選を果たした。しかしロシア世論調査センターによると、今大統領選が行われたとすると、プーチンは47%しか得票できず、決選投票を余儀なくさせられるという。これはロシアと世界にとり危険である。

プーチンは2000年生活水準を上げ、ロシアを世界的強国とするとの約束で選ばれた。幸運にも石油価格が急騰した。彼は名前を変えたソ連の復活のために働き始めた。米国の世界的指導力と西側の民主化に対抗しようとした。

最初からプーチンはメディア検閲で権威を強めようとし、石油価格上昇を含め、すべての成功を自分の成果と称した。

失敗は、プーチンのせいではない。2007年、経済成長が鈍くなり、社会的格差が広がったとき、プーチンはミュンヘン安保会議で米国による世界経済の支配を非難し、バルト諸国へのNATO拡大はロシアに向けられていると示唆した。

突然、すべてのロシアの問題は西側が始めた新冷戦のせいにされた。2008年のコソボ独立、ロシアのジョージア戦争はプーチンの「包囲された要塞」の物語を強化した。

しかし2013年、プーチン支持率は記録的低さになった。そこでプーチンは大砲を持ち出した。ロシアはウクライナに侵攻し、クリミアを併合した。プーチンの支持率は85%にもなり、ロシア人の大多数にとり、プーチンの権威は絶対的になり、彼の決定は受け入れられるようになった。

プーチンは、ニコライ2世の内務大臣プレーブの助言、「革命を避けるには、小さな勝利の戦争が必要である」に従っている。

プーチンの「小さな戦争」は、彼の立場を強め、反対派を黙らせたが、クリミア併合に対し課された厳しい制裁のため、長期的な結果は深刻である。

この制裁のため、ルーブルはドルに対し半分に減価し、物価は上がり、生活水準は落ちている。財政難からロシア政府は定年退職年齢を引きあげたが、90%がそれに反対し、プーチンの緊急アピールも幅広い支持の獲得につながっていない。

プーチンの18年の統治が何かを教えてくれたとすれば、彼の支持率の低下は誰にとっても良いニュースではないということである。

ロシア人は疲れているかもしれないが、プーチンはそうではない。もし彼が彼の権威が弱まっていると感じれば、彼は他人の犠牲において勝利を収める時だと決定するかもしれない。

出典:Tihon Dzyadko,‘The Danger of an Unpopular Putin’(Project Syndicate, October 31, 2018)
 
この論説は、プーチンの人気が低迷し始めていることを指摘している。正しい観察である。

ロシアでは、生活水準が低くなってきており、国民の不満は高まってきている。その上、平均寿命66歳のロシア人男性の年金開始年齢を65歳にするとのメドヴェージェフ首相の提案は、政府への信頼感を著しく傷つけた。

ロシア人は「生活第一」である。国威が発揚されているので、生活上の不満は我慢する、ということにならない。プーチンの「西側が悪いのだ」という宣伝にもロシア人はあまり納得していない。

特に、サッカー・ワールド・カップで多くの西側の人々がロシアを訪問したが、彼らは、ロシアを包囲し困らせようとしている敵のイメージからはほど遠い人々であり、政権の「西側に包囲されたロシア」との宣伝は有効性がなくなっている。(中略)

Dzyadkoが予想する「小さな戦争」をプーチンが画策することはあろうが、バルト諸国はすでにNATO加盟国であるから、「小さな戦争」では済まなくなる。

モルドバ、ジョージアで何かやっても、ロシア人の熱狂的支持を得るのは難しい。あまりいい「小さな戦争」の候補は見当たらない。

ただ、プーチンはそういうことを画策する人であるとの指摘は的確であるので、注意しておく必要はある。【11月20日 Wedge】
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ポロシェンコ大統領が国内世論・支持率アップを重視してウクライナ東部での戦闘をエスカレートさせると、プーチン大統領が“喰いつく”かも・・・という危険性もあります。

なお、ヘイリー米国連大使がツイッターで明らかにしたところによれば、国連安保理は今回事件を受けて26日午前11時(日本時間27日午前1時)、緊急会合を開くことになっているようです。

【暗礁に乗り上げているウクライナ東部問題】
4年以上にわたり衝突が続くウクライナ東部の状況については、以下のようにも。

****ウクライナ、東部の苦難 政府軍と親ロシア派、武力衝突4****
(中略)
15年2月の停戦合意はロシア、ウクライナと仲介役のドイツ、フランスの4カ国首脳によるものだ。東部に特別な自治を認めるなど正常化への道のりも示した。

だが、ロシアとウクライナ双方が相手の不履行を批判し、実施は暗礁に乗り上げている。打開策の国連平和維持軍導入案も権限をめぐる両国の対立で進まない。

背景には、独仏など当初ロシアに強い姿勢をとった欧州の主要政権の足元が難民危機で揺らいだこともある。各国で親ロシア路線の右翼政党が躍進。エネルギーをロシアに依存する現実があり、EU加盟国の対ロ政策も一枚岩ではない。

ウクライナでは国民の失望でポロシェンコ大統領の支持率が低迷し、自ら打開に動く余地はなくなった。

合意履行を話し合う4カ国の首脳会談は16年10月を最後に開かれていない。【9月12日 朝日】
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