孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  ブレグジット決定以来の混迷を終わらせる国民投票再実施

2019-02-05 23:23:17 | 欧州情勢

(dzubanovska/NiroDesign/tiero/iStock【2月4日 WEDGE】)

【瓢箪から駒の2016年国民投票からの迷走】
3月29日のEU離脱期限が目前に迫るイギリスの迷走・混乱については、1月30日ブログ“イギリス 迷走するブレグジット 問題点と今後を簡単に整理”で、焦点となっている“バックストップ問題”などを整理する形でとりあげました。

離脱の混乱に備えて、エリザベス女王を退避させる計画もあるとか。

***EU離脱、暴動備え女王退避へ 英政府計画と報道****
英国の欧州連合(EU)離脱問題を巡り、複数の英メディアは3日、英政府がEUとの「合意なき離脱」に伴う市民生活の混乱や暴動といった非常事態に備え、エリザベス女王ら王室関係者をロンドンから秘密の安全な場所へ退避させる計画を立てたと伝えた。
 
メイ政権がEUとまとめた離脱合意案は先月の下院採決で、歴史的大差で否決され、このままEUと何の取り決めもなく3月末の離脱期日を迎える恐れが強まっている。
 
ただ、サンデー・タイムズ紙などによると、女王らの退避は万一に備えた措置で、英政府筋は計画が実施される事態は「起こりそうもない」とみているという。【2月4日 共同】
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前回ブログで紹介した“EU離脱サバイバルキット”同様、そこまでの混乱は起きないとは思いますが。

現在の混乱の原因である2016年の国民投票の実施自体が、当時のキャメロン首相の思惑とは異なるものだった・・・・とも。

****キャメロン氏、英国民投票は実現しないと想定していた=EU大統領****
1月21日、欧州連合(EU)のトゥスク大統領は、EU離脱の是非を巡る国民投票実施を決断したキャメロン前英首相(写真)について、実施を約束した当初は2015年の総選挙で自身の保守党が単独過半数を獲得するとは考えておらず、連立相手の阻止で投票は実現しないと想定していたとの見方を示した。(後略)【1月22日 ロイター】
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キャメロン前首相は、保守党内のユーロ懐疑派をなだめて、反EUの英国独立党(UKIP)に支持者が流れることを阻止する狙いで国民投票実施を掲げたものの、どうせ過半数は取れないから連立協議の結果、国民投票を実施することはない・・・と考えていたとのこと。

トゥスクEU大統領がキャメロン氏に『どうして国民投票を決断したのか。余りにも危険でばかげている』と質問した際に、上記のような答えが返ってきたとのことです。キャメロン氏側は否定していますが、当時の政治状況からすれば十分にあり得る話でしょう。あるいは、現在の混乱のもとともなった自身の行為に対する言い訳でしょうか。

15年の総選挙で保守党は予想外に単独過半数を獲得し、16年に実施した国民投票でEU離脱が決定。
事態はあれよあれよという間に思わぬ方向に転がり、現在に至っています。(得てして現実はそういうものでもありますが)

【三つの選択肢】
今日は、メイ首相の今後の選択肢、特に再度の国民投票実施についての記事をいくつか。

メイ首相の今後の選択肢としては、合意なき離脱(ハードブレグジット)、国民投票再実施、そして離脱期限を延長してEUおよび英議会を説得の三つがあります。

****ブレグジット秒読み ヨーロッパの岐路****
(中略)しかし、その先が見えない。シナリオはいくっかあるが、混乱は必至だ。

例えばボリス・ジョンソン前外相らが主張するように、「ハードブレグジット(合意なき離脱)」を選ぶ道もあり得る。

しかし経済への大きな痛手を伴うため、議会の支持は得られないだろう(1月29日に英議会は合意なき離脱を拒否するとした提案を可決した)。

イングランド銀行(日銀に相当)の18年11月の報告によれば、ハードブレグジットなら失業率が7.5%に上昇し、
住宅価格は30%ほど下落、通貨ポンドも下落し、経済は今年末までに8%ほど縮小する。
 
2つ目のシナリオは国民投票の再実施。その可能性は大いにあるし、今度こそ国民は残留を選ぶだろうと予想する人もいる。前回の投票結果で株価の下落という痛手を被ったからだ。
 
だが離脱強硬派のナイジェル・ファラージュは、再投票が実施されても自分の支持者が残留派を圧倒すると自信満々だ。「有権者の決意は固く、さらに大差で離脱が決まる」と本誌に寄稿した。

「敵意の政治」が英国を分断
保守党がメイを解任し、EUとの新たな合意を模索する指導者を選び直すという展開もあり得る。英BBCによれば、メイと対立する保守党議員は再度、党酋不信任の投票に待ち込めるだけの署名を集めつつあるという。
 
しかし最も現実昧があるのは、メイがEUを説得し、3月29日の離脱期限を数か月延長してもらうというシナリオだろう。

時問を稼いでEUとの交渉を再開すれば、議会を通しやすい協定案を作成できるかもしれない。英ノッティンガム大学の政治学者クリストファー・スタッフォートも「厄介な問題に関する協定を大幅に変えるにはEUとの協議を再開」するしかないと言う。
 
メイを悩ませる議会の分断は路上にも広がっている。メイが辛抱強くEUと協定を交渉していたときも、議会の外には連日極右団体が集結し、EU残留派議員に罵声を浴びせていた。

12月にはロンドンでイスラム教徒排斥を訴える活動家のトミー・ロビンソンが、極右政党イギリス独立党の支持者数千人を率いてメイ首相への抗議活動を行い、彼女を「売国奴」と罵った。
 
「これは混じり気のない敵意の政治、ポピュリスムの政治だ」と、英バーミンガム大学の政治学者アレックス・オ
ーテンは嘆く。「ブレグジットは人々を『われわれ』と『彼ら』に二分するメンタリティーを解き放ち、そのメンタリティーがわれわれ民主主義を分断している」(後略)【2月12日号 Newsweek日本語版】
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【英国民のみならず世界に安堵感をもたらす国民投票再実施】
(私もそうですが)「ブレグジットなんて馬鹿なことは止めた方がいい」と考える人々の間では、国民投票の再実施を求める声が強くあります。

前回の投票は問題点が国民に明らかにされないままに、一部の大きな声に扇動された結果である。再度投票を行えば、現在の混迷を目の当たりにした国民は必ず残留を選ぶ・・・という認識があっての主張です。

****Brexit、再度の国民投票はあるのか****
2019年1月15日、メイ首相がEUとまとめ上げたBrexit合意案が、英国議会で、大差で否決された。この敗北の後、メイ首相がどういう行動をしているのかは定かではない。各政党と協議して、議会が同意出来る離脱の案を探るということであったが、そのような案が短期間のうちに見つかる筈もない。
 
そもそも、野党労働党のコービン党首は、メイ首相との会談を拒否している。1月17日、彼はメイ首相に手紙を書き、協議の前提として、メイ首相が「no-deal Brexit」の可能性を排除することを要求した。(中略)

メイ首相は、コービン党首に返書を送り、「no-deal Brexit」を排除する権能は政府にはないという当然の回答をした。

メイ首相は、依然としてメイ首相の纏めたBrexit合意が唯一テーブルの上にある案であり、何等かの修正をするとしても、これを呑まなければ「no-deal Brexit」だという瀬戸際政策を暫く続けるのではないかとの印象である。

それは、議会と同時にEUをも相手とする瀬戸際政策であり、あわよくばEUから何等かの譲歩を取り付けたい(「backstop」を離脱協定から削除せしめられれば最善)ということであろう。こういうやり方にコービン党首が反発している訳である。
 
メイ首相は、時期を失しないうちに、3月29日の離脱時期の延期を、EUに要請すべきであろう。議会では保守党のニック・ボールズ議員が、「no-deal Brexit」の阻止を狙って政府に離脱時期を延期することを法的に強制する法案を提案していると伝えられる。議会に言われて延期を要請するのでは、外交権の喪失と言わないまでも失態である。
 
その上で、英国は、再度の国民投票に向けて動かざるを得ないのではないか。他に出口はないだろう。

1月18日付の英Times紙は、「心の底から我々は英国が残ることを望んでいる」という書簡を掲載した。ドイツのクランプ=カレンバウアーCDU党首による土壇場の訴えである。

彼女だけでなく、SPDや緑の党の首脳、財界首脳、ロック・スターやピアニストも署名している。書簡には、「我々は英国がいなくなると寂しい。伝説的な英国人のブラック・ユーモアが聞けなくなり、仕事帰りのパブでのエールの一杯がなくなると寂しい。ミルク入りのティー、道路の左側をドライブすることがなくなると寂しい」というくだりもある。

英国としては、今になって思い止まるのは決まりが悪いかもしれない。国民投票には大きなリスクもある。しかし、このような状況では、今一度、国民が残留を決めるしかないのであろう。
 
世論は変わって来ているのだと思う。国民投票の実現には、野党労働党の賛成も必要かもしれない。1月17 日、コービン労働党党首は、演説して「来週労働党が提案する案が拒絶され、英国が“no-deal”の惨事に直面するとなれば、国民投票を含む他のオプションを検討する」との趣旨を述べ、なかなか煮え切らない。

しかし、いずれ彼も決断せざるを得ないだろう。それ以外、良い出口は見つかりそうもない。
 
実際、2016年の国民投票でのBrexit可決以降、英国内では、政治も、経済も、先が見えない混乱状態である。安定性や将来の希望が見えなければ、国民も、EU離脱の問題を身に染みて感じ、世論は、EU残留に傾くのではないか。そういう調査結果もある。
 
それの1つの表れが1月15日の下院の議決結果である。メイ首相のEU離脱案が否決されることは予想されていたが、これほどの大差は、まさにメイ首相の敗北だった。
 
既に3年目に入るが、英国での再国民投票は、おそらく英国民のみならず、EU諸国が歓迎するものとなろう。そしておそらく世界各地でも安堵感がもたらされるかもしれない。【2月4日 WEDGE】
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****英EU離脱、国民投票「再実施」に支持高まる****
国民投票で欧州連合(EU)離脱が決まってから2年余りを経てなお、英政治家は望ましい離脱の形を巡り、合意できずにいる。今では最初の投票結果を覆しかねない2度目の国民投票の実施を求める議員が増えている。
 
新たな国民投票を支持しているドミニク・グリーブ議員(保守党)によると、下院で投票やり直しを支持する議員は約150人に上る。野党の労働党やスコットランド国民党(SNP)のほか、一握りの保守党議員も含まれる。
 
それでも2度目の国民投票を行う法案の通過に必要な約320票にはほど遠い。
 
しかも、英国民が何について投票するのか明確になっていない。投票では、英国のEU離脱(ブレグジット)を決めた2016年の投票結果の取り消しを望むかを問う可能性がある。

あるいは、テリーザ・メイ首相がEUとの間で合意した離脱条件を支持するか、もしくは合意なしの離脱を望むかを問うことになるかもしれない。
 
ますます多くの議員が、議会の行き詰まり打開に国民投票が必要だと考えるようになっている。議会はいかなる離脱条件にも合意できずにいるようだ。
 
EU離脱を巡る2度目の国民投票を実施する案について、メイ首相は繰り返し反対を唱え、英国の民主主義への大きな打撃になると述べている。メイ氏は17日、議会で「(投票は)再び国を分断するリスクを冒すことになる」とし、「団結を取り戻す努力をすべきだ」と呼び掛けた。
 
2度目の国民投票を支持する向きは、16年の投票ではEUを離脱することで実際に何が起こるか英国民は分かっていなかったと指摘。条件が明らかになりつつある今、再び国民に問うべきだとしている。
 
EUとの合意条件に反対して先日閣僚を辞任したジョー・ジョンソン議員(保守党)は「約束されたブレグジットとは異なる」とし、「だからこそ、2度目の投票が必要なのだ」と言明した。 
ジョンソン氏はEU残留を希望している。兄のボリス・ジョンソン前外相はEU離脱派の代表格だ。
 
16年の国民投票では、EU離脱への賛成票が52%、反対票が48%だった。ウェブサイト「What UK Thinks」が最近の6つの世論調査を平均したところ、現在はEU残留の支持率が53%となっている。

ただ、調査会社は世論が決定的に変わったと結論付けることには注意を促している。賛否いずれも他方を大幅に引き離すほどではなく、大抵の調査は誤差の範囲が3〜4ポイントあるためだ。コムレスの直近の調査では、EU離脱の是非を問う第2回国民投票への支持率が40%となった。
 
離脱条件でEUからさらなる譲歩を引き出そうと奮闘しているメイ首相は、EU離脱案の議会採決を来年1月中旬に行うとしている。
 
トニー・ブレア元首相は、議会でブレグジットの選択肢が尽きれば、英国最大の貿易相手であるEUとの経済関係に関する合意なしで3月に離脱することを回避するため、議会は2度目の国民投票を支持せざるを得なくなるとの見方を示している。「不可能なものを排除すると、残ったものが答えになる。それがいかに起こり得ないようなことであってもだ」とブレア氏は話す。【2018年12月20日 DIAMOND online】
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労働党は昨年の党大会で、再投票をEU離脱をめぐる選択肢の一つと明確化させていますが、コービン党首など労働党執行部はこれに消極的であり、残留派は国民投票再実施の修正案を(離脱協定に関する多くの修正案が審議された)1月29日の議会に出すことはできませんでした。

【国民投票再実施を支持するUKIP元党首のファラージュ氏】
国民投票再実施を支持する意外な人物も。

「国民投票の再実施でいいじゃないか(どうせ離脱派が圧倒的に勝利するけど)」と以前から主張している人物が、離脱を扇動した張本人でもあるイギリス独立党(UKIP)元党首のファラージュ氏です。

****メイ首相は「悲惨なほど交渉力なく頑固一徹」 EU離脱混迷の責任は... ナイジェル・ファラージュ(イギリス独立党元党首)****
<2度目の国民投票になれば、前回以上の大差で離脱派が勝利する――。国民投票で離脱派の急先鋒だったナイジェル・ファラージュはこう予想する>

テリーザ・メイ政権は去る1月15日の採決で、決定的な敗北を喫しただけではない。政府の提案がこれほどの大差で否決されたのは前代未聞だ。

イギリスのEU離脱に向けてメイのまとめた協定案は230票(下院定数の3分の1を超える数だ)の大差で否決された。否決は予想どおりだったが、その票差は大方の予想をはるかに上回るものだった。まさに「大惨事」、いやそれ以上に悲惨な事態だ。

イギリスがこのような事態に陥ったことの責任は、どう見てもメイ首相にある。彼女自身が、今のイギリス政治における最大の問題だ。悲惨なほど交渉力が足りないのに頑固一徹な彼女が、国民に潔いEU離脱をもたらす障害となっている。まともな人間なら、とっくに職を辞しているはずだ。

この2年間の交渉を通じて、メイはEU官僚にずっと主導権を握られていた。彼女の指導力不足は明らかで、まるで和平交渉に引き出された敗軍の将。破綻した政治的プロジェクトに見切りをつけると民主的な投票で決めた独立国の指導者には見えなかった。(中略)

唯一の打開策は再投票か
これ(離脱協定)は彼女のEU側への服従を象徴する例だった。こうした失敗が、EU残留派の議員たちに付け込まれる隙を生み出した。残留派はこれで勢いづき、事あるごとにEU離脱に向けたプロセスに割り込み、骨抜きにしてきた。2度目の国民投票という要求が噴き出したのもこの時だ。

皮肉なもので、メイがEU側とまとめた協定案に対しては離脱派の議員も残留派の議員も一致して反対した。だから、あの無惨な結果となった。(中略)

その本質において、メイの提案は降伏文書以外の何物でもなかった。それも当然。そもそも彼女は2016年の国民投票で離脱反対の票を投じている。「2度目の国民投票が行われたら離脱と残留どちらに票を投じるか」と問われたときも明確な答えを避けている。

イギリスは今、前例のない領域に足を踏み入れている。史上初めて、議会が国民の意思を受け入れることを拒んでいるのだ。2016年の国民投票では1740万人強が離脱を支持した。残留派に130万票の差をつけての勝利だ。そして2017年の総選挙では二大政党がいずれもEU離脱の実現を公約し、圧倒的な支持を得たのだった。

確かに今は、下院議員650人の過半数が離脱を望んでいない。しかし2017年の時点では、500人近い議員がリスボン条約第50条の適用を支持していた。3月29日の期限までに離脱協定が成立しない場合、イギリスにはEU法が適用されなくなるとする条項だ。つまり、合意なしなら自動的にEU離脱が実現するのだ。

残念ながら、今の議会が自動的離脱を認めるとは思えない。むしろ第50条の発動延期を求め、その間に政府がEUからさらなる譲歩を引き出すことを望むだろう。しかしEU側の譲歩は期待できない。

一方で残留派は国民投票のやり直しを要求し続けるだろう。しかし世論調査機関ユーガブの最近の調査でも、2度目の国民投票の実施に賛成する人は8%にすぎない。

仮にもリスボン条約第50条の発動が延期され、2度目の国民投票が実施されたとして、それでも筆者の予想では、イギリスの有権者は前回よりもさらに断固たる決意で、より大差をつけてEU離脱を支持するだろう。もしかしたら、それが本物のEU離脱を実現する唯一最善の道かもしれない。【2月12日号 Newsweek日本語版】
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離脱を扇動したUKIPは、離脱が現実のものとなったことで存在意義を失い失速・凋落、また、ファラージュ氏は過激化・極右化する党の路線に反発してUKIPを離党しています。

ファラージュ氏としては、再び政治的に復活するためには国民投票の再実施が“唯一最善の道”なのでしょう。

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