孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジ・ムハンマド皇太子 国際的孤立回避のアジア歴訪 民主化なき成長、中国との共通点と差異

2019-02-18 22:43:45 | 中東情勢

(パキスタンのイムラン・カーン首相(右)の出迎えを受けたサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(2019年2月17日撮影)【2月18日 AFP】)

【カショギ氏殺害事件によるムハンマド皇太子への国際批判】
カショギ氏殺害事件では、サウジアラビア・ムハンマド皇太子に対し国際的に厳しい視線が向けられています。

****米下院 サウジ支援停止決議案可決 トランプ氏と対決姿勢****
米下院は13日、イエメン内戦でのサウジアラビアへの支援停止をトランプ政権に求める決議案を採決し、決議案は248対177の賛成多数で可決された。

サウジのジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏が殺害された事件でサウジのムハンマド皇太子の関与の疑いが濃いにもかかわらず、トランプ大統領はサウジへの協力姿勢を崩していない。

決議案は議会の権限を誇示し、トランプ氏と対決する姿勢を示した。
 
決議案は、議会が承認していない戦争で米軍撤収の権限を議会に与えた1973年成立の戦争権限法を根拠に、サウジ支援の停止を求めた。(後略)【2月14日 毎日】
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****カショギ氏殺害、「公表していない情報ある」 トルコ大統領****
サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が昨年10月にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館内で殺害された事件で、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は15日、テレビ局Aハベルのインタビューで、事件についてまだ公表していない情報があると明らかにした。(中略)

カショギ氏は米紙ワシントン・ポストにコラムを寄稿し、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子を激しく批判してきた。サルマン皇太子は事件への関与を全面否定している。

エルドアン大統領は、トルコ政府は「事件を国際的な裁きにかける決意だ」と述べ、米国に支援を呼びかけた。 【2月16日 AFP】
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【国際的孤立回避を目指す皇太子のアジア歴訪 巨額投資でパキスタンでは歓迎】
こうした厳しい情勢・国際的孤立を回避すべく、ムハンマド皇太子は現在アジア諸国を歴訪しています。

****サウジ・ムハンマド皇太子、アジア諸国を歴訪 孤立脱却狙う****
サウジアラビアの事実上の最高実力者、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(33)が17日からパキスタンなどアジア諸国への歴訪を開始した。

昨年10月に起きたサウジ人記者ジャマル・カショギ氏殺害事件で皇太子自身の関与が疑われ、欧米諸国からサウジ王室への非難も高まる中、アジア諸国の支持を取り付けることで「孤立脱却」を図る狙いがあるとみられる。
 
皇太子は17日にパキスタンを訪れた。18日以降はインド、中国を訪問。産油国の潤沢な資金力を背景に、各国にインフラ整備やエネルギー開発分野での経済協力を打ち出す。

欧米企業がサウジへの投資に慎重な動きを見せる中、アジアの大国との良好な関係をアピールできるメリットがある。

当初予定していたインドネシア、マレーシア訪問は延期されたと伝えられているが、理由は不明。(後略)【2月18日 毎日】
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最初の訪問国パキスタンはもともとサウジアラビアと非常に関係が強く、パキスタンの核開発はサウジ側の資金提供で行われ、将来的にはサウジへの核兵器譲渡が密約されている・・・とも言われている国ですが、ムハンマド皇太子の今回訪問も大いに歓迎されたようです。やはり“カネの力”がものをいうようにも・・・。

****サウジ皇太子がアジア歴訪開始 パキスタンで2.2兆円の投資合意****
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は17日、アジア歴訪の最初の訪問国パキスタンに到着し、首都イスラマバードでイムラン・カーン首相と会談した。

訪問に合わせ、サウジからパキスタンへの総額で最大200億ドル(約2兆2000億円)相当の投資案件が署名された。

今回の歴訪では、サウジ人ジャーナリストの殺害事件で招いた国際的孤立からの脱却を目指している。
 
ムハンマド皇太子はイスラマバード近郊の軍用空港でカーン首相らの温かい出迎えを受けた。国際収支が危機的な状態にあるパキスタンにとって、サウジ側と締結した合意文書と覚書計7件は歓迎すべき救済となる。
 
一方、ムハンマド皇太子は、昨年10月にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館内でサウジ人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が殺害された事件をめぐって国際的に厳しい圧力にさらされている。
 
皇太子は18日までパキスタンに滞在。続いてインドに移動し、ナレンドラ・モディ首相らと会談する予定。その後、21、22両日に中国を訪れる。 【2月18日 AFP】
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“首都イスラマバードで17日、「私たちは兄弟だ。苦楽をともにしてきた」と述べた皇太子に対し、パキスタンのカーン首相は「困っている時、サウジは常に助けてくれる友だ」と謝意を述べた。”【上記 毎日】とも。

【インドとは、テロ対策と安全保障でパートナーシップを強化】
今日18日の訪問予定になっているインドでの反応に関する報道はまだ目にしていませんが、サウジアラビアの資金力に期待するのは、パキスタンとカシミールで避難の応酬をしているインドも同様です。

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報道によると、皇太子が表明したパキスタンへの巨額投資案件の中には、パキスタン南部の港湾都市グワダルでの石油化学施設開発などが含まれる。グワダル港には中国も巨額援助をしており、インドが「中国とパキスタンが港を軍事拠点化するのでは」と警戒する地域だ。
 
ただ、インドのモディ首相は、記者殺害事件後にアルゼンチンで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議で各国がサウジと距離を取る中、皇太子と会談している。中東の大国であるサウジと友好関係を維持したい思惑は、対立するパキスタンと同じとみられる。【上記 毎日】
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カシミールでのイスラム過激派(インドは背後にパキスタンがいると主張)に悩むインドにとっては、テロ対策でもサウジアラビアと共通利害があるとか。

****テロ対策と安全保障でサウジと急接近するインド****
ウジアラビアのムハンマド皇太子は近々、インドを訪問する。それを機に両国の安全保障および戦略的なパートナーシップは新たな段階に入るだろう。
 
インドにとって以前からサウジアラビアは重要な貿易相手国だ。インドは子不ルギー需要の20%をサウジアラビアからの原油輸入に依存している。安全保障面での協力強化で、両国の結び付きは一層深まることになる。
 
イスラム教過激派の脅威、じわじわと進むアメリカの影響力低下、そして中国の台頭を背景に、インドはペルシヤ湾岸諸国と新たな関係を築こうとしてきた。

モディ首相は合同軍事演習、情報の共有、テロ対策、マネーロンダリング(資金洗浄)対策など多岐にわたる安全保障上の課題でサウジアラビアとの協力強化に努めてきた。(中略)
 
「特別な友好国」扱いに
両国の間でテロ対策が重要課題として浮上したのは近年の現象だ。ペルシヤ湾岸諸国は以前、「インド学生イスラム運動」や「インディアンームジヤヒディン」など、多くのインドのテロ組織にとっての安全な避難先だった。

湾岸諸国には移民が多く住み、南アジアのイスラム教徒は出稼ぎや商用で日常的にサウジアラビアを訪れるため、テロ組織のメンバーは捜査当局の目を逃れやすい。彼らはそれを利用してテロ資金を調達している。
 
サウジ当局もそうした動きに気付き取り締まりを強化。テロ容疑者の逮捕では、既に両国の協力体制が奏功している。(中略)
 
両国関係では昨年にも大きな進展があった。サウジ政府は、イスラエルのテルアビブに向かうエアーインディアの直行使が自国の領空を通過することを認めたのだ。

サウジアラビアはイスラエルとは国交を結んでいないため、これは特例的な措置であり、インドを特別な友好国と見なしたことになる。
 
サウジアラビアがイスラム原理主義を広めようとしたことがテロ組織の台頭につながったと言われているが、ムハンマド皇太子はこれに反発。サウジアラビアは冷戦時代に西側の要請で自由主義ブロックを守るため、中東での影響力拡大に努めてきただけだと反論している。
 
従来は原油貿易で結ばれていたインドとサウジアラビアだが、この10年でテロ対策と安全保障を軸にした関係に大きく変容した。今後、テロリストのネットワーク粉砕を目的とする協力関係はますます深まるだろう。【2月19日号 Newsweek日本語版】
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【“強引”な手法で改革を進める皇太子 背景には急速に進むエネルギー革命への危機感】
ムハンマド皇太子がカショギ氏殺害事件を含む強引な手法で国内の経済・社会「改革」を推進しているのは周知のところですが、その“強引さ”はムハンマド皇太子の資質の問題の他に、来るべき大きな変化に対する強い危機感もあってのことと推察されます。

****再生可能エネルギーが世界秩序を変える****
新エネルギーの静かな革命が進むなか産油国に代わって中国がエネルギー大国に?

(中略)この新たに生まれるエネルギー地政学の地図は、過去100年間に支配的だったものとは根本的に違って見えるだろう。
 
19世紀は石炭が工業化を進める力となり、20世紀には石油が国の同盟関係の構築を後押しした。そして再生可能エネルギーの静かな革命が、21世紀の政治を一変させるだろう。
 
あまり言われていないが、再生可能エネルギーは予想以上のスピードで世界のエネルギーシステムを変容させている。
 
近年、技術の進歩とコストの低下により、再生可能エネルギーは競争力のある電源となってきた。価格動向からすれば20年までに、太陽光と風力の平均発電コストは、化石燃料価格の下限と同じくらいになりそうだ。
 
この静かな革命には、もう1つ重要な要素がある。気候変動に対抗することが不可欠だという合意だ。これが投資家や国際世論を動かし、野心的な再生可能子不ルギーの導大目標につながった。
 
現在のところ世界の人口の約80%が、エネルギーの輸入が輸出を上回る「純輸入国」に住んでいる。だが将来的には、エネルギー生産は分散されていくだろう。

水力やバイオエネルギー、太陽光、地熱、風力などの再生可能エネルギーはほとんどの国で、何らかの形で生産可能だ。

化石燃料は産地が偏在しているが、再生可能エネルギーなら世界中でずっと均等にアクセスできる。

力を失うエネルギー外交
再生可能エネルギー経済において、大半の国はエネルギー自給のレベルを高めることができる。エネルギーの安全保障はより強化され、自国の戦略的優先事項を決定するときの自由度が大きくなる。(中略)

立ち回りのうまい国々は、自国向けの将来のエネルギー供給を確保するだけでなく、エネルギー経済の新たなリーダーになる好機をつかんでいる。

再生可能エネルギーの超大国となるべく、先頭に立っているのが中国だ。太陽電池パネル、風力タービン、電気自動車の生産や輸出、導入では世界トップであり、17年には世界の再生可能エネルギー投資の45%以上を占めた。(中略)

もちろん、エネルギー生産の変化だけで国際関係がひっくり返ることはない。ただし、「エネルギー外交」がこれまでのような力を持つことはなくなる。

近い将来、石油やガスといった化石燃料の輸出国が新エネルギー時代に向けて経済を再構築しない限り、その世界的な影響力は低下していくだろう。(後略)【2月19日号 Newsweek日本語版】
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インドの次の訪問国は中国ということで、新旧エネルギー大国の戦略をそれぞれの胸の内に秘めながらの会談ともなります。

【皇太子の改革は、あくまでも現行王制の秩序維持が大前提 中国との共通点と異なる点】
経済・社会「改革」を進めるムハンマド皇太子ですが、あくまでも現在の絶対的な王制という政治秩序は維持しながら・・・という条件が付いており、秩序を脅かす民主化・人権の要求は厳しく弾圧されています。

****サウジ政府、女性の位置追跡できる携帯アプリ批判に反論****
サウジアラビア政府は16日、同国の携帯用アプリ「Absher」について、男性ユーザーが女性親族らの位置を追跡できる機能があるとの人権団体などからの批判に対する反論声明を発表した。
 
Absherは、サウジ政府が国民向けに提供するスマートフォン用無料アプリ。米グーグルのモバイルOS「アンドロイド」と米アップルの「iOS」に対応しており、旅券や査証(ビザ)の更新など電子化された政府サービスを容易に利用できる。
 
だが、男性が女性や少女の現在地を追跡できるのは人権侵害に当たると、人権団体などが批判。米上院のロン・ワイデン議員は、Absherは「女性の権利を侵害する慣行を促進するものだ」とツイッターで批判し、アップルとグーグルに提供アプリからAbsherを外すよう求めた。
 
こうした批判に対し、サウジアラビア内務省は16日の声明で、Absherの目的は「女性や高齢者、特別な介助を必要とする人たちを含め、サウジ社会を構成する全ての人々」にサービスを提供することだと主張。

批判はAbsherの問題化を意図した「組織活動」だと断じ、Absherを「政治問題化する企て」を拒否すると言明した。
 
一方、アップルのティム・クック最高経営責任者は先週、米公共ラジオとのインタビューでAbsherについて尋ねられ、そういうアプリは聞いたことがないと答えた上で、実態を調べると語った。
 
サウジの女性は法律によって、旅券を更新する場合や出国する際には、夫か男性近親者の同意を得なければならない。

■国際社会の厳しい目が向くサウジ

サウジアラビアに関しては、昨年に起きたジャーナリストのジャマル・カショギ氏殺害事件以来、国内の人権状況をめぐって国際社会から厳しい目が向けられている。
 
2017年に即位したムハンマド・ビン・サルマン皇太子は短期間で実権を握り、社会や経済面での改革促進を確約して国際的な注目を集めた。

だが、サウジでは依然として人権活動家や女性権利活動家らが多数、身柄を拘束されており、彼らの所在や法的立場に関する情報はほとんど公表されていない。 【2月17日 AFP】
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サウジアラビア同様に民主主義・人権に対する“欧米的”配慮のないままに、急激な成長を達成した中国の事例は、サウジアラビアにとっては大いに参考になるのかも。

中国が民主主義・人権を弾圧しながら守るのは「共産党一党支配体制」であり、サウジアラビアは「絶対王政」です。

ただ、このような「中国モデル」が顕著な経済的成果を達成できた背景には、生存すら脅かされるような厳しい貧困から何としても脱却したいと願う13億人民の「ハングリー精神」がありましたが、石油の恩恵にどっぷり浸り、勤労意欲も喪失しているサウジアラビア国民に、同じ成果を期待するのは無理があるように思えます。

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