孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  進まぬロヒンギャ難民帰還に加えて、新たな仏教徒ラカイン族難民も発生

2019-02-06 23:24:11 | ミャンマー

(戦闘訓練を行うアラカン軍女性戦闘員 【9周年記念動画】)

【ロヒンギャ問題への対応を変えないミャンマー政府】
ミャンマー政府軍等による虐殺・暴力・放火・レイプなどを逃れてミャンマー西部のラカイン州から隣国バングラデシュに逃れた70万人を超えるイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還が一向に進まないことは、これまでも再三取り上げてきたところです。

帰還が進まない最大の理由は、ラカイン州での治安が安定せず、仮に帰還しても再び暴力にさらされるのではないかとのロヒンギャ難民の不安が払しょくできないからです。

スー・チー氏率いるミャンマー政府は国軍による弾圧・暴力を認めようとしませんので、そうした難民たちの不安も当然のことと思われます。

国軍の責任を認めないだけでなく、ミャンマー司法当局は国軍の暴力を伝えようとしたロイター記者を国家機密法違反の罪で逮捕拘束しています。(スー・チー氏は救済に動く気配がないばかりでなく、逮捕された記者のことを「裏切り者」と呼んでいたとのことですので、この件に関する彼女の認識は司法当局と一致しているのでしょう)

****ロイター記者が上告、ミャンマーでの国家機密法違反****
ミャンマーでイスラム教徒少数民族ロヒンギャに関する極秘資料を不法に入手したとして国家機密法違反の罪に問われ、控訴審で禁錮7年の判決を受けたロイター記者2人の弁護士は1日、判決を不服として上告した。

同法違反の罪に問われているのはワ・ロン記者(32)とチョー・ソウ・ウー記者(28)の2人。昨年9月に一審で禁錮7年の判決を言い渡され、控訴審もこの判決を支持した。

ロイターは「最高裁がワ・ロンとチョー・ソウ・ウーに最終的に正義をもたらし、下級裁判所の誤った判決を破棄し、ジャーナリストの解放を命じるようわれわれは求める」とする声明を発表した。

政府の報道官からはコメントを得られていない。【2月1日 ロイター】
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【仏教徒・武装勢力アラカン軍による警察襲撃で、ラカイン族難民も発生】
ロヒンギャ難民が帰るべきラカイン州では、今年に入ってから仏教徒・ラカイン族武装組織と国軍の衝突が報じられており、新たな衝突拡大で、難民帰還どころか、新たな難民が発生する状況にもなっています。

****ラカイン州から新たな難民流入、バングラデシュがミャンマーに抗議****
ミャンマー西部ラカイン州で治安部隊と武装集団が衝突し、新たに大量の難民がバングラデシュに流入していることについて、同国政府は5日、ミャンマー側に抗議した。関係者が6日、明らかにした。
 
バングラデシュ外務省は5日午後、ミャンマー大使を呼び、ラカイン州からの難民流入について抗議した。同州では2017年8月にミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャへの弾圧を開始して以降、70万人以上が国外へ避難した。
 
匿名でAFPの取材に応じたバングラデシュ外務省高官によると、今回流入した難民はラカイン州の仏教徒やその他の部族の出身だという。具体的な人数は明かさなかったが「数は増えている。すでに国境で待機している人々がおり、彼らはおそらく入国するだろう。(ミャンマーに対して、ラカイン州の)衝突を終息させるために、早急に効果的措置を講じるよう要請した」と述べた。(中略)
 
バングラデシュはすでに、2017年8月以降に流入したロヒンギャ難民74万人の対応に追われている。またそれ以前にも、ラカイン州での衝突のせいで30万人がバングラデシュに逃れていた。
 
ラカイン州では現在、同州の多数派を占める仏教徒が、18か月前にロヒンギャ弾圧に加わった部隊と衝突している。
 
先月4日には、ラカイン人の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」が国境警察の施設を襲撃し、13人を殺害した。 【2月6日 AFP】AFPBB News
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ラカイン州の多数派住民でもある仏教徒ラカイン族(アラカン族)は、歴史的には18世紀まではビルマ本体とは別個の独立王国を有しており、その言語もいわゆるミャンマー語とは全く異なります。

ビルマやイギリスの支配を経て、現在はミャンマーの一部となっていますが、歴史的経緯や文化・言語の違いなどもあって、独立運動が続いており、その武力闘争を担っているのがアラカン軍(AA)という組織です。

ロヒンギャの問題は、現地レベルではイスラム系少数派ロヒンギャと仏教徒多数派のラカイン族の対立でもありますが、そのラカイン族もミャンマー全体からすると少数民族として差別を受ける立場にもあります。

差別を受ける者が、自分らより劣後する位置にある者を更に差別するという構図は、一般的にも多く見られるものですが、ラカイン州においてもそうした構図になっています。

いさかいも懸念されるロヒンギャ難民とラカイン族難民双方を受け入れるバングラデシュも対応に苦慮するでしょう。

アラカン軍(AA)が国際的に注目されたのは年明け早々に起きた襲撃事件でした。

****警察襲撃、13人死亡=仏教徒武装集団―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州で4日早朝、仏教徒ラカイン族の武装集団「アラカン軍」が警察署4カ所を襲撃し、情報省は警官13人が死亡、9人が負傷したことを明らかにした。ロイター通信によると、アラカン軍は警官12人を一時拘束した。

ラカイン州では昨年12月から、ラカイン族による自治拡大を求めるアラカン軍と治安部隊の間で衝突が激化。約2500人が避難する事態になっている。4日はミャンマーの独立記念日だった。【1月5日 時事】 
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最初、“ラカイン州”“警察襲撃”という文字を見て、ロヒンギャの武装組織とされるアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)が事件を起こしたのか・・・と思い、また国軍等の報復が激しく行われるのでは・・・とも懸念したのですが、記事をよく読むと、ロヒンギャではなく、仏教徒ラカイン族の武装勢力の起こした事件でした。

ミャンマー国軍は昨年12月、政府との停戦協定に署名していない少数民族武装勢力が活動する中国との国境地域などでの攻撃を今年4月末まで停止すると発表しましたが、ラカイン州やAAなどは、停戦の対象に含まれていません。

この襲撃事件を受けて、ミャンマー政府は国軍にこれまで以上の取り締まり強化を指示しています。

****ミャンマー政府、軍にラカイン人武装勢力の取り締まり指示****
ミャンマー西部ラカイン州で先週、仏教徒民族ラカイン人の武装集団が警察署4か所を襲撃した事件を受け、同国大統領府は軍に「取り締まり作戦の開始」を求めた。政府報道官が7日明らかにした。
 
ラカイン州ではここ数週、ラカイン人の仏教徒の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」と治安部隊の衝突が発生。急速な暴力の拡大により、一帯では数千人が家を追われている。
 
同州はミャンマーで最も貧しい地方の一つで、民族および宗教上の根深い憎悪がある。(中略)
 
政府報道官は7日、首都ネピドーで記者会見し、「大統領府はすでに、反乱分子を取り締まる作戦を開始するよう軍に指示した」と発表した。
 
国連国連人道問題調整事務所は同日、過去数週間の暴力行為により、約4500人が避難を余儀なくされていると表明した。 【1月8日 AFP】
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このアラカン軍(AA)の9周年記念動画なるものがYouTubeで見られます。(https://www.youtube.com/watch?v=vT3uE9BG31w&=&fbclid=IwAR1s9l5VRfrEQEdVh0zRZuszcxyt0wHM5lkh_HjRqlc6J0A7PecHWsIeZCs

“9周年”ということは、そんな古い組織ではないようです。最近の武装組織は動画による広報・リクルート活動を重視していますので、りっぱな動画をさくせいしていますが、アラカン軍(AA)の動画も、プロによって作成されたと思われるりっぱなものです。

この動画については、「ミャンマーよもやま情報局」でも詳しく解説されています。
そこで注目しているのは、動画に出てくるAA戦闘員が使用している高額な武器です。「武装組織」というより「軍隊」のイメージです。(広報動画ですから、極力そのようなイメージをふりまくように作られているのでしょうが)

資金源は、他の関連組織からだったり、麻薬密売だったり、支援者の寄付だったり・・・と、いろいろあるようです。

別のネットサイトでは、ミャンマーの少数民族問題に深く関与している周辺某大国の関与を疑っているような指摘もありますが、根拠は知りません。

「ミャンマーよもやま情報局」によれば、わずか69人の決起ではじまったアラカン軍は、いまや7000人規模にふくれあがっていろあるようでするそうです。

いずれにしても、ロヒンギャのARASの“竹やり部隊”(“武器は乏しく、わずかな銃器の他は、鉈や鋭くとがらせた竹の棒を使っているという”【ウィキペディア】)とは大違いです。

動画では、ミャンマー奥地の山中を行進するAA部隊が出てきますが、個人的には、タイ奥地の「黄金の三角地帯」も近いメーサローンで見た、台湾から孤立してタイ・ミャンマー国境地域で戦闘を続けた、かつての国民党軍の写真を思い出しました。



国民党軍にしても、麻薬王クンサーにしても、あるいはアラカン軍(AA)にしても、ミャンマー奥地には中央政府の支配の及ばない勢力が昔も今も跋扈しているようです。

コメント
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