孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

変質する議会制民主主義  仏における直接民主制志向の動き 左右両極台頭で衰退する中道

2019-02-04 23:05:42 | 民主主義・社会問題

(仏パリで開かれた「国民討論会」の集会で市民に話をするエマニュエル・マクロン大統領(2019年2月1日撮影)【2月4日 AFP】)、

【議会は姿が見えず、直接民主主義的な「国民討論会」が脚光を浴びる】
フランス・マクロン政権による自動車燃料税引き上げに対する抗議から端を発した「黄色いベスト運動」は、昨年11月にスタートし、グローバリズム経済における格差やマクロン大統領のエリート主義的言動・金持ち優遇に対する不満を含め、全般的な反政府・反マクロン運動として、今も続いています。さすがに参加者は、このところ減少気味ではあるようです。

****フランス抗議デモ、2週連続減少 12週目、全国5万8千人****
フランスでマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動のデモが2日、12週連続で行われた。同国メディアによると、内務省は全国の参加者が約5万8600人だったとの集計を明らかにした。

前週1月26日の約6万9千人から減り、規模縮小は2週連続。
 
マクロン政権はデモを受け、1月から全国で市民の意見を聴く「国民大討論」に取り組んでいる。政権を支持しない層が固定化する一方、支持率はやや改善するなど政治情勢の緊迫感は多少和らいでいる印象だ。
 
パリではデモ参加者に負傷者が出ていることに抗議するとして約1万500〜1万3800人が参加し、前週より規模が拡大した。【2月3日 共同】
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これまでの改革に対する抵抗に対しては全く譲歩することがなかった強気のマクロン大統領ですが、今回は政権に対する草の根的な批判に危機感を持ち、燃料税引き上げを撤回するという譲歩を示しています。

また、上記記事にもあるように全国で市民の意見を聴く「国民討論会」を開催して、不満の解消に努めています。

この直接民主主義的な「国民討論会」をマクロン大統領は結構楽しんでもいるようですが、抗議運動とその対応の過程で、「議会」の姿が全く見えません。

そのことに関して、議員というプロを排したポピュリズム的な危うさを指摘する声もあります。

****プロ不在のポピュリズム 仏マクロン大統領と国民の「討論」****
18世紀のフランス革命の亡霊が、蘇ったようだ。
 
革命前夜、ルイ16世が民意を知ろうと設けた「陳情書」が、マクロン大統領の下で復活した。全国約5000カ所で、市民は思いのたけを書いている。「黄色いベスト」の抗議運動を取り込もうと、大統領は「国民討論会」も始めた。
 
先週、パリの会場に行くと、大変な熱気だった。500人の定員はすぐ満席になり、約100人が小雨の中で行列を作った。
 
司会者が「何でも話してください」と言うと、早速、「金持ちの課税逃れがひどい」という発言が出た。この後は堰(せき)を切ったように、「政策は国民投票で決めろ」「年寄りにデジタル化を押しつけるな」などの訴えが続く。黄色いベストを着た女性が顔を真っ赤にして、「月1200ユーロ(約15万円)の年金は、3分の1が家賃に消える。生活は限界だよ」と政府を罵倒し、拍手を浴びた。
 
約2時間、ほとんどマイクの奪い合い。とりわけ税制への不満は強かった。
 
マクロン氏は結構、楽しんでいる。各地の集会で国民と膝をつき合わせ、「生活改善のため、改革は絶対必要だ」と説得を試みる。「直接民主主義」を彷彿(ほうふつ)とさせる討議が気に入っているらしい。
 
双方は言いっぱなしで、議論はあまりかみ合わないように見える。それでも討論会を機に、20%台に低迷していた大統領の支持率は、久々に30%を超えた。
 
大統領にとって、国会をスキップして国民と対話することは、権力基盤の強化になるだろう。だが、黄色いベスト運動に煽(あお)られて、手法はどんどんポピュリズム(大衆迎合主義)に近づいていく。
 
国民討論会は3月まで、3000カ所以上で行われ、陳情書やインターネットで意見も募る。政府は4月に国民の意見を集約し、「政治に生かす」と公約した。ネットで寄せられた意見だけで、すでに50万件。どんな法案を作っても、みんなを満足させることが不可能なのは間違いない。
 
目下、最大の敗者は「議会制民主主義」のようだ。いま政界の土俵には、大統領と国民しかいない。国会議員は出番が消え、政党政治が不在になった。

大統領の討論会は最大約7時間、テレビで生中継されるのに、国会審議は全く報道されない。1月の世論調査で「政党を信用する」と答えた人は9%まで減った。
 
議会制民主主義では、国民が選挙で代表を国会に送る。この仕組みの中で、税や年金制度が時間をかけて作られた。

フランスは北欧と並んで、所得格差が小さい福祉大国である。だが、黄色いベスト運動は「国民の声」を大義名分に、官僚や議員などプロの専門性を頭ごなしに否定する。「現状打破」のポピュリズムが広がり、政治は煽られる。
 
フランスだけではない。黄色いベストは西欧で「抵抗のシンボル」になった。デモ隊はドイツやオランダなど各国に出現した。
 
ルイ16世は陳情書を編纂(へんさん)させ、貴族や庶民の代表を「三部会」に集めた。財政危機を乗り切るための討論会だったが、逆に革命への扉を開いた。
 
マクロン氏は先週、仏メディアの記者を集めて、「国民投票も検討中だ」と述べた。さらにポピュリズムに扉を開けば、その先には大きな陥穽(かんせい)が待っている。【2月4日 産経】
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【「国民討論会」を締めくくる「国民投票」】
記事最後に触れられている「国民投票」については、「国民討論会」を締めくくるイベントとして位置づけられています。

*****マクロン大統領、「黄ベスト」収拾へ5月に14年ぶり国民投票か 仏紙****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、自身の政策に対する抗議運動「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」への対応の一策として、今年5月に国民投票の実施を検討していると、仏紙が3日報じた。実施されればフランスでは14年ぶりの国民投票となる。
 
仏週刊紙「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」は、国民投票ではマクロン氏が大統領選で公約に掲げた国民議会の議員数削減の是非が問われると伝えている。また、議員の任期に期数制限を設けてベテラン議員の影響力を抑制する提案の是非も問われるという。
 
黄ベストデモへのマクロン氏の対応をめぐっては、欧州議会選挙が行われる5月26日に国民投票を行うのではないかとの観測がある。
 
マクロン氏は1月31日、国民投票の準備が進んでいるとする週刊誌カナール・アンシェネの報道について問われ、「検討中の課題の一つだ」と答えた。
 
発足から2年8か月のマクロン政権は、燃料税引き上げや生活苦への抗議に端を発する黄ベストデモの暴力化で最大の危機に直面している。

昨年12月、マクロン氏は最低賃金の引き上げや増税の一部撤回などの対応策を発表。さらに今年に入り、政策の選択や政策課題について市民と直に語り合う「国民討論会」を立ち上げ、国内各地で集会を開いている。
 
国民投票は「国民討論会」を締めくくるとともに、直接民主制を求める黄ベストデモへの回答ともなるイベントと目されている。 【2月4日 AFP】
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抗議行動に対し「国民討論会」で不満を聞き、懸案事項を「国民投票」で決する・・・・となると、確かに議会の出番がほとんどありません。

抗議行動自体が、議会を含めた既成政治への不満を核としていますので、そうした不満に応える形で「国民投票」という直接民主主義的手法が検討されているのでしょう。

本来は物事の決定は「様々な関連事項」を検討したうえで冷静・合理的に行う必要がありますが、そうした検討を行うべき“政治のプロ”としての議会・議員が排されると、抗議行動における過激な、声が大きい主張がクローズアップされ、そうした煽られるような雰囲気の中で「国民投票」で決着するというスタイルになると、ポピュリズムの弊害も危惧されます。

もちろん、それは議会・議員が“政治のプロ”としての本来の役割を果たしていない・・・との不満があっての話ですが。

インターネット・SNSの普及によって、国民・有権者は、政党・議員・新聞・テレビといったものを介することなく情報を収集し、発信することができるようになった現代は、19世紀・20世紀的な民主主義の環境とは異なる時代に足を踏み入れています。

ブレグジット、トランプ現象、黄色いベスト運動などは、そうした新しい政治環境における動きでもありますが、本当に冷静・合理的な判断がなされたのか・・・という危うさもつきまといます。

【左右両極の台頭で弱体化する中道 政治はまひ状態に】
既成政治全般を声高に批判するポピュリズ的雰囲気にあっては、右でも左でも、より過激な主張が有権者の心をとらえます。

結果的に、議会にあっても極右・極左勢力が勢いを強め、中道的な政党は凋落し、「様々な関連事項」を検討するよな議論は影をひそめることにもなります。

****中道派の弱体化、世界の政治をまひ状態に  極右・極左が勢いづき、分断が進む ****

この2年間、世界はまず右派のポピュリストの台頭に、そして次に活力を取り戻した左派に揺さぶられ続けた。いずれも物事を不安定化する根深いトレンド、すなわち中道派支持層が減少していることの産物だ。
 
欧州連合(EU)離脱をめぐる英国の混乱や、米国の政府機関閉鎖が示す通り、中道派を支持する層の縮小は各国政府の実行能力を奪っている。さらに移民や貿易、気候変動といった世界共通の課題に立ち向かうのに必要な国際協力もむしばんでいる。
 
とりわけ今週、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に集まる世界のビジネスリーダーにとっては脅威となる。彼らは中道派政党が主導する市場寄りの政策や世界的な市場開放による最大の受益者だからだ。

彼らは次第に左右両極の反政府勢力に対処する必要に迫られている。だがこの両勢力はグローバル化や大手銀行、大手IT(情報技術)企業に対する不信感を除き、ほとんど主張に共通点がない。

中道派の崩壊は何年もかけて進行中だが、その形態は国によって異なる。西欧では、既成政党から分派した新興政党が勢いを増したことがきっかけとなった。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のサイモン・ヒックス教授(政治学)によると、2007年~2016年に西欧諸国の社会民主主義(中道左派)政党の得票率は31%から23%に、中道右派政党の得票率は36%から29%に低下した。

受益者は極右・極左
その主な受益者は極右だが、最近では極左もそこに割り込んできた。

ドイツで連立政権を組む中道左派・社会民主党(SDP)と中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)は昨年、どちらも州議会選挙で得票率が大幅に落ち込んだ。一方、反移民・反EUを掲げる新興極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と移民を支持する環境政党「緑の党」が大きく躍進した。

イタリアでは現在、極右政党とポピュリスト左派政党が連立政権を率いている。
 
米国と英国では中道派支持者の衰退が主要政党を両極化させ、党内の亀裂も生んでいる。米共和党と英保守党の内部ではエスタブリッシュメント(既成勢力)とナショナリストの対立が深まるばかりだ。
 
一方で、英労働党のジェレミー・コービン党首は同党を左傾化し、米民主党では進歩主義者と自称民主社会主義者が同じことをしようとしている。彼らはトニー・ブレア元英首相やバラク・オバマ元米大統領なら決して受け入れなかっただろう政府の介入を提言している。(中略)
 
同様の動きは一部の新興国でもみられる。昨年、ブラジルとメキシコでは一度も政権を握ったことのない新興政党の大統領が選出された。ブラジルは極右政党、メキシコは極左政党出身の大統領だ。

逆方向の反動
政治はどのように分断されたのか。10年前まで右派および左派の大半の既成政党は、権力掌握と票獲得のために徐々に中道寄りとなり、その過程でお互いの立場の多くを認め合った。

中道左派はグローバル化と規制緩和を受け入れ、中道右派は社会保障制度を受け入れた。両者ともに移民を支持していた。
 
だがこれが結果的に、自分の選択に満足できない有権者を増大させることになった。LSEの政治学者サラ・ホボルト教授は、欧州ではここ数十年間に政党への愛着が薄れてきたと指摘。

例えばブルカラーの労働組合員は中道左派に投票すると決まっていた一世代前に比べ、有権者ははるかに頻繁に支持政党を変えるようになった。
 
またインターネットの存在が、従来型メディアの寡占状態を打ち破ったのと同様に、従来の政党の牙城を切り崩した。

「何の規制も受けずにメッセージを支持基盤や支持基盤の中のオピニオンリーダーに届けられることが、こうした新興政党の大きな力になった」と、アムステルダム自由大学の政治学者カトリン・デフリース教授は指摘する。
 
政治的忠誠心の後退とより強力な通信技術という組み合わせが、新興の非主流派政治運動の追い風となった。彼らはただ、中道政党は失敗したと主張するだけでよかった。さらに停滞する賃金や金融危機、歯止めのきかない移民流入などが彼らに道を開いた。(中略)
 
「新たな均衡」へ
政治的中道派層の縮小が国家のガバナンス(統治)をより困難にしているなら、国際社会の統治はほぼ不可能ということになる。

たとえある国がもう1カ国と協定締結にこぎ着けたとしても、「自国でそれを確実に履行できる保証が得られなくなっている」とデフリース氏は話す。

イタリアの現政権を構成する左翼と右翼のポピュリストは、EUとカナダが締結した自由貿易協定(FTA)を批准しないと警告している。

ベルギーの首相は反移民政党が連立政権を離脱したのを受け、先月辞任した。議会の過半数を維持できなくなったためだ。辞任の引き金は、国連が採択した移民協定をめぐる対立だった。
 
今後何年かはなお状況が緊迫するだろう。世界の経済システムを下支えする機関が圧力にさらされるためだ。世界貿易機関(WTO)は機能不全に陥るかもしれない。トランプ氏がその正当性に異議を唱えているからだ。

トランプ氏が再交渉した北米自由貿易協定(NAFTA)は、民主党の反対により議会でつぶされる可能性がある。

EUは既に目前に迫った英国の離脱問題に頭を悩ませているが、EU内でもイタリアやハンガリー、ポーランドから異論が出る可能性がある。こうした国々の政府はEUの統合拡大という前提を疑問視している。
 
いつかの時点で中道派と反主流派が同様に自らの立場に適応し、より多くの票を獲得することや共存することを目指せば、政治的安定が戻ってくるだろう。ただ、デフリース氏の指摘するように、イデオロギーの多様性を生み出すこうした勢力が姿を消すことはなさそうだ。「分断化が続くことが新たな均衡だ」【1月22日 WSJ】
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分断された政治状況で議会政治がまひするとき、左右両極は更に既成政治批判を強め、いずれかのポピュリストが大衆掌握に成功したとき・・・というのは大戦前の話ですが・・・・。
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