(インドの首都ニューデリーの駅で、同国初の準高速列車「バンデバラト・エクスプレス」の開業記念式典に出席したナレンドラ・モディ首相(左から2人目、2019年2月15日撮影)【2月17日 AFP】)
【国産の準高速列車の運行開始直後に牛と衝突 その背景にはヒンズー至上主義も】
インドは日本の新幹線技術を導入した高速鉄道建設の計画がありますが、個人的には老朽化により事故が多発する在来線の安全性向上、効率化の方が急務のように思われます。
インドの鉄道に対しては、日本政府が安全性の向上を支援していますが、昨年も通勤列車が線路上の人々に突っ込んで60人が死亡するなど、鉄道事故が多発しています。
最近の事故では、下記のようなものも。
****インドで列車脱線、6人死亡 「原因は線路の破損」報道****
インド東部ビハール州で3日未明、列車の脱線事故が起き、鉄道省によると、乗客6人が死亡、複数の負傷者が出た。
ロイター通信によると、現場は州都パトナの近郊で、11両編成の急行列車が脱線した。AP通信によると、事故原因は調査中だが、線路の破損が原因だったとする現地報道もあるという。
現場には数百人の地元住民が駆けつけ、救助隊員らの作業を手伝うなどしたという。
同国では、2016年に北部ウッタルプラデシュ州で起きた脱線事故で127人が死亡するなど、整備不良などが原因で鉄道事故が頻発しているという。【2月4日 朝日】
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こうした状況のなかで、モディ首相の肝いりで、在来線を利用して時速160キロで走る国産の準高速列車の運行が始まっています。
****インドで初の国産高速鉄道 時速160キロで運行****
経済成長が進むインドで初めてとなる、在来線を利用して時速160キロで走る国産の準高速列車の運行が始まり、インド政府は今後、日本の新幹線技術を導入する高速鉄道計画に加え、在来線の高速化も進めていく方針です。
運行が始まったのは、首都ニューデリーとヒンドゥー教の聖地で国内外から多くの観光客が訪れる北部のバラナシの約750キロの区間です。
列車は、車両やモーターなどほぼすべてが国産で、インドでこれまでで最速となる時速160キロで走り、運行区間を従来に比べて5時間ほど短い、8時間で結びます。
15日はモディ首相が出席して記念式典が行われ、「この列車は、発展したインドの象徴だ。さらなる進歩に向けて全力で取り組んでいく」と述べて、技術の進展に自信を示しました。
インドでは、急速な経済成長に伴って、人の移動や物流にかかる時間を短縮させる需要が高まっていて、インド政府は、国を挙げて鉄道の高速化を進めています。
インド西部では、日本の新幹線技術を導入した高速鉄道を建設する計画で、これに加え、より多くの人が利用する在来線についても主要都市を発着する複数の路線で高速化を進めていく方針です。【2月15日 NHK】
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以前インドを旅行した際には、ニューデリーとバナラシ間は16時間ということで寝台夜行を利用しました。
8時間というのは、座って行くにはちょっと長すぎる中途半端な感もありますが、改善ではあるでしょう。安全に運行されるなら。
しかし、この“安全”が極めて怪しく、開業直後に早くも事故を起こしたようです。
しかも、インドらしく“牛と衝突”とのこと。
****インド初の準高速鉄道、開業直後に牛と衝突 立ち往生****
運行が始まったばかりのインド初の準高速鉄道で16日、列車が線路内に立ち入った牛と衝突し、立ち往生した。
インド最速をうたう準高速列車バンデバラト・エクスプレスは、ナレンドラ・モディ政権の重要政策「メーク・イン・インディア」の一環として建造された。15日にはモディ首相が出席して開業記念式典が行われ、ニューデリー発バラナシ行きの一番列車が走ったばかりだった。
インド鉄道によると、翌16日に同列車がニューデリーに戻る途中、牛と衝突。4両への電力供給が止まった上にブレーキ装置が故障し、立ち往生した。しかし、「無事に」ニューデリーに到着し、17日の営業運転開始には間に合った。
インドで道路や線路に牛が立ち入るのはよくあることで、今回事故が起きた北部ウッタルプラデシュ州で特に多い。
モディ首相の就任後、右派与党・人民党は、ヒンズー教徒が神聖視する牛の食肉処理目的の売買を禁止。これを受けてウッタルプラデシュ州では野良牛が急増し、危機的状況に陥っている。
1日2300万人が鉄道を利用するインドは、英植民地時代に建設された鉄道網が老朽化しており、その改善に懸命に取り組んでいる。(後略)【2月17日 AFP】
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開業直後云々という点では、イギリスで営業運転が始まった日立製作所の都市間高速鉄道車両で、技術的な問題により最大数十分の遅れが出たり、水漏れが発生したりするトラブルが起きるというトラブルもありましたので
日本も上から目線の話はできませんが、問題は“牛”です。
記事にもあるように、モディ政権下で牛を神聖視するヒンズー至上主義の台頭し、結果、野良牛が増えて事故を誘発するということで、この準高速鉄道のトラブルは単なる鉄道事故以上の問題をはらんでいます。
なお、インドの街中には野良牛がたくさんいますが、以前ガイド氏に聞いた話では、病気になった牛の面倒を見るのが嫌がる持ち主が放置した結果だ・・・とのことでした。インドの牛に対する思いも、いささか怪しいところがあります。
日本が受注した高速鉄道の方は、工事のための道路などが未整備なこと、土地収用が進まないことなど、難航が予想されています。
受注競争に敗れた中国のメディアがさかんにそうしたことを“心配”してくれていますが、日本メディアも下記のように取り上げていますので、難航は間違いないでしょう。
****インド「夢の乗り物」開業は前途多難 高速鉄道計画 沿線未整備、反対運動も****
インド政府は英領からの独立75周年となる2022年開業を目指し、日本の新幹線技術を使った高速鉄道計画を進めている。
年内にも本格着工を目指すが、沿線約500キロを視察すると、本体工事以前に道路などのインフラ整備から必要な現状が垣間見えた。「夢の乗り物」が大地を走り抜けるまでの前途は多難だ。
◆現実とギャップ
(中略)しかし、駅予定地まで結ぶ道は乗用車がすれ違うのがやっとで、本格工事の前に大型車が通れるように拡幅が必要だ。人々の夢と現実の落差を考えずにはいられなかった。
(中略)公社は、発電施設や工場が集積する地域を通るため商用客の利用を見込むが、住民の反対運動もあり、計画通りに進むか危ぶまれている。
◆野党の関与示唆
マハラシュトラ州パルガル地区の農業、ニルマル・パティルさんは「土地があれば孫の代にも収入が続く」と土地収用に反対する。周辺は水牛が水田を耕すような地域で、開発の手が及んでいない。医療過疎地でもあり、公社は診療所の建設など、恩恵を目に見える形で示して説得を続ける。
鉄道はモディ首相の地元グジャラート州を通る計画で、公社関係者は反対運動への野党の関与を示唆する。来年の下院選を控え、インド人記者は「結果次第で開業時期がどうなるか分からなくなる」と声を潜めた。【2018年12月25日 SankeiBiz】
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【密造酒事故頻発の背景には貧困問題】
最近のインドの社会面ニュースをもうひとつ。
****密造酒で104人死亡、当局が200人超を拘束 インド***
インド北部のウッタルプラデシュ州とウッタラカンド州の複数の農村で、密造酒を飲んだ住民が体調不良で病院に運ばれ、両州では7日以降、104人が死亡した。地元メディアが報じた。現在も病院で治療を受けている人がおり、犠牲者は増えるおそれがある。
地元メディアによると、警察当局は密造酒販売などの容疑で200人以上を拘束し、流通経路などを調べている。インドでは市販の酒を買うことのできない貧困層の人々が、安い密造酒を飲んで死亡する事故が度々起きているが、今回は被害者の人数が多いという。
ウッタルプラデシュ州政府は9日、遺族に見舞金を出すことを明らかにした。【2月10日 朝日】
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密造酒事故も、鉄道事故同様に頻発していますが、こちらの問題は“市販の酒を買うことのできない貧困層の人々が、安い密造酒を飲んで死亡する事故が度々起きている”というように“貧困”です。