孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  政権による人道物資搬入阻止で、臨界点に近づく政権維持 中ロの立ち位置に差も

2019-02-14 22:49:31 | ラテンアメリカ

(ベネズエラ軍が対コロンビア国境のティエンディタス橋を封鎖するため設置したコンテナとタンク(2019年2月6日撮影)【2月7日 AFP】)

【昨日書いたものの、「投稿する」をクリックし忘れていたようです。ですから、内容は昨日時点のものです】

【政権・反政権派のせめぎあいの最前線となった人道物資搬入阻止】
失政・弾圧を続ける反米・左派のマドゥロ大統領に対し、これまでまとまりのなかった野党勢力を代表する形でカリスマ性のある若手政治家グアイド国会議長が暫定大統領就任を発表、二人の指導者が並立する状態となっている南米ベネズエラの混乱については、
1月26日ブログ“ベネズエラ 若手政治家グアイド氏の暫定大統領就任で反政府運動拡大 政局は流動化
2月2日ブログ“アメリカ キューバ政権転覆まで見据えたベネズエラの反政府運動支援戦略 軍事介入の可能性もちらつかせる
でも取り上げたところです。

弱冠35歳のグアイド氏が今前面に躍り出ているのは、氏の意思もさることながら、ベテラン大物政治家が海外に逃亡したり、当局に拘束・監視されて身動きがとれない・・・といった政治状況がもたらしたものです。(2月2日ブログでも取り上げたように、アメリカの“後押し”もあるのでしょう)

新しい指導者が生まれるとき、時代が動くときというのは、そういうものでしょうか。
もっとも、今のベネズエラで反政府行動の先頭に立つということは、自分および家族の生命・安全を重大なリスクにさらす行為でもあります。

今、マドゥロ政権はコロンビアとの国境の橋を封鎖して、「われわれは物乞いではない」「アメリカによる侵略、混乱助長は許さない」として、反政権派がアメリカに要請した人道支援物資の搬入を阻止しています。

一方、グアイド氏らは物資搬入を求めて、抗議行動を拡大させる意向です。

****支援物資の搬入阻止は「人道に対する罪」 ベネズエラ野党指導者が批判****
ベネズエラ暫定大統領として約50か国が承認している野党指導者のフアン・グアイド国会議長は10日、ベネズエラ軍が人道支援物資の搬入を阻止しているのは「人道に対する罪」だと厳しく批判した。
 
ベネズエラでは先週、コロンビアとの国境に架かる橋を兵士らが封鎖。米国から送られた医薬品や食品が現地に到着したものの、コロンビア側の国境の町ククタに3日にわたって留め置かれている。
 
ベネズエラ側では10日、数十人の医師らが支援物資の国境通過を求めて抗議デモを行った。参加した医師の一人は、ニコラス・マドゥロ大統領はベネズエラの医療を「中世」の水準まで落としたと声を荒げた。
 
グアイド氏は首都カラカスで妻と1歳8か月の娘を連れて教会の日曜礼拝に参加した後、記者団に「この状況に責任がある者たちがいる。(マドゥロ)政権はそれが誰かを知っているはずだ」と強調。「兵士たちよ、これは人道に対する罪だ」と述べ、「ジェノサイド(民族虐殺)も同然だ」と批判した。 【2月11日 AFP】AFPBB News
****************

もちろん、アメリカ側は単に人道目的だけでなく、政治的効果を狙っての支援でしょうが、国内では多くの国民が食べるものを欠き、薬が手に入らない病人があふれ、500万人にも及ぶ国外難民が発生しようというときに、支援物資を止めるという政権側の行為は一般兵士を含む人々の怒りに火をつけ、政権の存続を危うくすることになるかも。

****人道支援物資の搬入どうする? ベネズエラ、深まる対立****
マドゥロ大統領の独裁的な支配への反発が広がる南米ベネズエラで12日、マドゥロ政権の支持派と反政権派がそれぞれ首都カラカスなどで集会を開いた。

反政権派が米国に要請した人道支援物資の搬入を政権は認めておらず、反政権派は集会で「23日を搬入日とする」と宣言。双方のせめぎ合いは今後、さらに激しさを増しそうだ。

反政権派の集会は各地で開かれ、現地報道によると少なくとも10万人以上が参加した。12日はベネズエラの独立戦争で若者が戦ったことを顕彰する「青年の日」。参加者はマドゥロ政権の弾圧で亡くなった学生らを追悼し、政権交代の必要を訴えた。(中略)

反政権派の集会に参加を訴えるビラの文句は「軍に呼びかける。人道支援物資の搬入を勝ち取ろう」だった。物資搬入をてこに、政権を支え続ける軍を切り崩す狙いがうかがわれる。兵士やその家族も食料不足に直面しているとされる。

政権派は集会で、この日が独立戦争にちなむ記念日のため、「人道支援を装った米国の侵略を許さない」と愛国心に訴えた。マドゥロ氏は演説で「我々は偉大な独立運動の指導者シモン・ボリバルの子孫だ。私たちが求めるのは平和だ。軍事侵攻は追い払おう」と語った。

参加者らは「必要なのは支援物資ではなく、経済制裁の解除だ」などと記したプラカードを掲げた。

ベネズエラの会計検査当局は11日、グアイド氏が国内外から不正な資金を受け取ったとして捜査を始めたと明らかにした。違法とされれば、グアイド氏は最長15年間、政治的権利が停止されるという。

検察も「外国勢力の介入に加担した」などとしてグアイド氏の捜査を始め、裁判所は資産凍結や出国禁止を命じた。検察や裁判所は政権派だ。

マドゥロ政権は、これまでも野党政治家を勾留するなどして反政府活動を抑え込んできた。ただ、今回は米国や欧州などがグアイド氏を支持。政権の思惑通りにグアイド氏の動きを止められるかは微妙な情勢だ。

一方、軍の士官による離反表明が続いており、マドゥロ氏の苦境は深まっているとの見方もある。スペイン語メディアでは、マドゥロ氏がキューバやロシアへの亡命を検討しているとの報道が相次いでいる。

米メディアの取材にホワイトハウス高官は「(マドゥロ氏や側近が)どのように、いつ国を去るか話し合う用意はできている」と語った。【2月13日 朝日】
********************

【地裁学的しがらみもあるロシア 経済重視の中国】
これまでのところ国際社会も政権支持と反政権派支持で二つに割れていますが、政権を支持する国中心は、資金面でマドゥロ政権を支えてきたロシアと中国です。両国以外にも、キューバ、シリア、イランなど反米諸国以外に
、トルコ・ギリシャといった国が政権側を支援しています。

トルコはベネズエラとの経済関係・アメリカ牽制といった事情があるようですが、エルドアン氏の“クーデターへのアレルギー”もあるのでは。ギリシャは中国との強い関係があるようです。

EU主要国はグアイド氏承認の流れにありますが、イタリアのポピュリスト政党「五つ星」は、EUが介入すべき問題ではなく、ベネズエラ国民が決めるべき問題として、連立政権の意見が割れているようです。

いずれにしても政権支持国の中心はロシア・中国ですが、両国の事情は異なるようにも思えます。

ロシアは、かつてのキューバ危機に代表されるように、アメリカの裏庭である中南米になんとかくさびを打ち込もうとしてきました。ベネズエラ支援もその流れにある対応です。

経済的な権益もあるでしょうが、そうした地政学的な「対アメリカ」戦略の一環として、なんとかベネズエラ・マドゥロ政権を維持してアメリカをけん制する足場を保持したいという思いが強いのではないでしょうか。

****ロシア、ベネズエラ政府・野党間の対話促進に向け準備****
ロシアは12日、ベネズエラの政府・野党間の対話を促す準備があるとの認識を示した。

ロシアはマドゥロ現職大統領を支持している。マドゥロ大統領はベネズエラ軍を含む国家機関への支配を維持しているが、米国などほとんどの西洋諸国は暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長を承認している。

タス通信によると、ロシアのリャブコフ外務次官は「ベネズエラ政府との交流を維持しており、状況打開に向けたプロセスを容易にするために尽力する準備がある」と述べた。

またロシアがベネズエラに対し危機解決に向けた提案を行ったとしたが、詳細は明らかにしなかった。

ロシアのラブロフ外相は12日、ポンペオ米国務長官との電話会談で、米政府はベネズエラへの内政干渉を避けるべきと伝えた。またベネズエラの状況に関し、国連憲章に沿った協議を行う準備があるとした。【2月13日 ロイター】
*****************

「対アメリカ」の地政学的しがらみのあるロシアに対し、中国は多額の融資がどうなるのかという経済的な問題優先でしょう。もし野党側が引き続き返済を保証するなら、それはそれで・・・といった感もあるのでは。

アメリカと激しくぶつかる場面が多いこの時期に、敢えてベネズエラでアメリカと対立するのはむしろ避けたいのでは。

****中国がベネズエラ野党と協議、マドゥロ氏退陣にらみ****
中国はこれまでのベネズエラへの投資を守るため、野党党首のフアン・グアイド氏側と協議を行っている。中国が関係を重視していたニコラス・マドゥロ大統領への退陣圧力が強まる中、政権交代に伴うリスクを低減する狙いがある。関係筋が明らかにした。
 
中国の外交官はここ数週間に、ワシントンでグアイド氏の複数の代理人と協議を行った。背景には、中国がベネズエラにおける石油開発案件の先行きに加え、未返済となっている200億ドル近い債務について懸念していることがある。(中略)

米陸軍士官学校のR・エバン・エリス氏(中国の中南米戦略の専門家)は「中国は政権交代のリスクが高まっているのを認識しており、新政権との関係を悪化させたくないと考えている」と指摘。「中国は安定を望むものの、卵を他のかごにも分散する必要性に気付いている」と述べる。
 
今回の動きは、ベネズエラの債権者の間で不安が広がっている兆候を浮き彫りにする。ベネズエラは過去20年近くにわたり、石油供給と引き替えに中国やロシアから融資を受けることで、重要な支援を得てきた。

ベネズエラの対外関係は、マドゥロ氏の前任、故ウゴ・チャベス元大統領の時代に花開いた。チャベス氏は反米路線を掲げ、キューバやイランに加え、インドとも関係を強化した。
 
だがこうした国々とベネズエラとの関係は、マドゥロ氏が大統領に就任した2013年以降、冷え込んでいく。マドゥロ政権下で同国経済は縮小に向かい、数年にわたる汚職の横行や誤った管理が響き、石油生産は半分未満に急減した。
 
そこに米国が先月、ベネズエラの石油業界に制裁を発動。ほぼ唯一の資金源を絶たれたマドゥロ氏の苦境が一段と鮮明になり、石油生産はさらに落ち込んだ。(中略)
 
グアイド氏も公の場で、中国やロシアに歩み寄る姿勢を表明。政権交代が安定回復に向けた経済改革の先駆けとなるとの考えを示しているほか、ベネズエラは世界最大の石油輸入国である中国との関係を維持すべきと述べている。
 
前出のエリス氏は、マドゥロ政権の崩壊は中国にとってもプラスになると指摘する。「グアイド氏は米国の制裁解除を促し、石油供給も再開される可能性があり、最終的には、中国にとってグアイド氏はメリットばかりだ」という。【2月13日 WSJ】
*****************

上記【WSJ】は記事のなかで“グアイド氏側との接触について、中国外務省はコメントの要請に応じていない。だが中国は足元、グアイド氏側との協議が行われていることを示唆しており、中国の利益が尊重されることを望むとの立場を示している。中国外務省の耿爽報道官は今月1日、グアイド氏側との接触に関するうわさについて、中国政府は「関係者すべてと、さまざまな手段を通じて緊密な接触を続けている」と説明。その上で「今後の状況にかかわらず、われわれの協力が損なわれることはない」と述べている。”としていますが、中国は、上記報道を否定しています。

****中国、ベネズエラ野党と協議との報道を否定****
中国外務省の華春瑩報道官は13日、中国の外交官がベネズエラでの投資を守るために同国の野党と協議を行ったとの報道について、「偽ニュース」だと述べた。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、中国の外交官が、ベネズエラでの石油プロジェクトや200億ドル近い債務について懸念を持ち、米ワシントンでグアイド国会議長の代理人と協議を行ったと報道。グアイド氏はベネズエラの野党指導者で、暫定大統領を宣言した。

華報道官は記者団に対し「報道内容は誤っている。偽ニュースだ」と述べた。(後略)【2月13日 ロイター】
*******************

ただ、多額の債権の行方がわからないというこの時期に、野党側と協議しないという方が奇妙なようにも思えますが。

いずれにしても、こうした話が出てくること自体、強権支配を維持してきたマドゥロ政権もいよいよ最終局面に近づいているのかな・・・という感があります。

【軍事介入も否定しないトランプ大統領】
アメリカは、“米下院外交委員会のエンゲル委員長(民主党)は13日、ベネズエラへの軍事介入は選択肢にないとした上で、議会は同国への軍事介入を支持しないとの考えを強調した。”【2月14日 ロイター】とのことですが、トランプ大統領は“「すべての選択肢を検討中だ」と警告した。「わが国の軍も注目し、協力している」と語ったが、具体的な部隊派遣に関しては「そのうち分かる」と述べるにとどめた。”【2月14日 時事】ということで、例によって、よくわかりません。

“トランプ流ディール”なのでしょうが、アメリカの軍事介入については中南米では強い拒否感がありますので、下手な動きは南米諸国の反政権派支持の流れに水を差すことにもなります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする