孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  国内外に批判も、モディ首相の北東部訪問  ばらまき予算に統計不正、露骨な総選挙対策

2019-02-10 23:16:15 | 南アジア(インド)

(インド北東部トリプラ州の州都アガルタラで、式典に臨むナレンドラ・モディ首相(2019年2月9日公開)【2月10日 AFP】)

【市民権法の差別的改正 現地は移民流入を警戒して反発】
インドでモディ首相が黙認する形でヒンズー至上主義が広がっていること、また、昨年12月に行われた5つの州議会選挙で与党・インド人民党(BJP)が大敗したことで、5月までに行われる総選挙の向けての態勢立て直しのために、モディ政権が支持層向けにヒンズー教重視・反イスラムの姿勢を強めていることなどは、これまでも再三取り上げてきたところです。

そうしたヒンズー至上主義的施策のひとつが、不法移民に対し、イスラム教徒以外のみ国籍を与える市民権法改正の提案です。

しかし、この差別的な改正は不法移民流入が多い現地では、更なる移民流入を警戒するヒンズー教徒を含めた住民の反発を招いているとも報じられています。

****インド「イスラム差別」法案が波紋 他宗教の不法移民には国籍****
ヒンズー教徒が約8割を占めるインドで、イスラム教徒以外の不法移民にのみ国籍を与える法律改正案が下院で可決された。

ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相の与党・インド人民党(BJP)の母体組織はイスラム教徒と対立してきた歴史があり、春に予定される総選挙に向け、保守層の支持固めを狙ったとみられる。

イスラム教徒や専門家らは「憲法の規定にある法の下の平等に反し、宗教間の対立をあおる」と批判している。
 
8日に下院で可決された改正案は、2014年末までにインドに不法入国したパキスタン、バングラデシュ、アフガニスタン出身者のうち、ヒンズー教▽シーク教▽仏教▽キリスト教――などイスラム教を除く6宗教の信者に国籍を付与するもの。

バングラからの不法移民だけで2000万人に上るとの見方もあるが、宗教別の人数を含め詳細は不明だ。
 
この3カ国はいずれもイスラム教国で、それぞれ宗教的少数派への差別や迫害が度々問題になってきた。このことを踏まえ、BJP前総裁のシン内相は「(イスラム教徒でない)彼らはインド以外に行く場所がない」と改正の意義を強調する。
 
イスラム教徒からは反発の声が上がる。ニューデリーで38年間暮らすバングラ出身のイスラム教徒の男性(55)は20年以上前にインド国籍を取得。「私は運が良かったが、取得できていない多くの人々もここに生活基盤がある。イスラム教徒というだけで出て行けと言われるのはおかしい」と憤る。
 
ジャダプール大のオンプラカシュ・ミシュラ教授は「宗教で人々の権利を選別するのは明らかな憲法違反」と指摘。さらに「BJPは上院で過半数の議席を持っておらず、実際に改正案を施行できるとは考えていない。ヒンズー教徒のために取り組んでいるという姿勢を見せたいだけだ」と批判する。
 
インドでは、14年のモディ政権誕生以降、勢いを増したヒンズー過激主義者によるイスラム教徒への襲撃や嫌がらせが相次ぐ。

BJPに詳しい地元紙の記者は「改正案の下院可決はBJPの反イスラム姿勢の最たる例だ。過激主義者の行動がさらにエスカレートしかねない」と懸念を示す。
 
一方、BJPの思惑とは裏腹に、不法移民が多い北東部では改正案に反発する動きがヒンズー教徒にも広がる。特にアッサム州では改正案への抗議デモが連日続き、BJPの連立政権のメンバーだった地域政党が連立からの離脱を決めた。
 
アッサムの人々はもともと言葉や生活習慣が異なるバングラからの移民流入に反対してきた。改正案が成立すればイスラム教徒以外のバングラ人の更なる流入を招くとの不満がある。
 
匿名を条件に取材に応じた政府系シンクタンクの専門家は「アッサム州では反移民を主張する武装組織が活動してきた。近年は弱体化していたが、改正案を機に息を吹き返すだろう。『パンドラの箱』を開けてしまった恐れもある」と指摘する。

 ◇ヒンズー至上主義とイスラム教徒
インドのイスラム教徒は全人口約13億人のうち約14%で、宗教別ではヒンズー教徒に次ぐ。

19世紀後半以降、インドを植民地としていた英国が、独立運動を妨害する目的でヒンズー教徒とイスラム教徒の対立をあおる政策を取った。

インド独立の父、マハトマ・ガンジーは宗教間融和を訴えたが、インド人民党(BJP)の母体のヒンズー至上主義団体「民族奉仕団」(RSS)はこれに反発し、1992年の北部のモスク(イスラム教礼拝所)破壊を主導した。2002年には西部でRSSのメンバーらとイスラム教徒が衝突し、イスラム教徒を中心に1000人以上が死亡した。【1月14日 毎日】
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モディ首相は、バングラデシュからの不法移民が多い北東部を訪問していますが、上記市民権法改正に対する現地の強い反発を受けているようです。

****インド北東部で首相訪問に合わせ抗議デモ、国籍に関する法改正案めぐり****
インド北東部で9日、ナレンドラ・モディ同国首相の訪問に合わせ、激しい反発を巻き起こしている国籍に関する法改正案への抗議デモが2日連続で行われた。

同国北東部のアッサム州、アルナチャルプラデシュ州、トリプラ州を訪れる予定のモディ首相は8日、最初の訪問地であるアッサム州の州都グワハティに到着すると、強い侮辱とみなされている黒旗による抗議で迎えられた。
 
デモ参加者は黒旗を振ったり、モディ首相をかたどった人形を燃やしたりしたほか、一部の学生は州政府庁舎前で、全裸姿で抗議した。
 
モディ首相率いる右派与党・人民党は、1955年に制定された市民権法の改正を提起。アフガニスタンやバングラデシュ、パキスタンといったイスラム教徒が多数を占める隣国から逃れてきたヒンズー教徒や宗教的少数派らにインド国籍を与えるというもの。
 
3300万人の人口を抱えるアッサム州では、少数民族および先住民と外部からの移住者との間で、数十年にわたり緊張関係が続いており、移住者には、隣国バングラデシュから流入してきたイスラム教徒やヒンズー教徒が多数含まれており、改正案は同地で激しい反発を受けている。
 
ただモディ首相は、改正案がアッサム州とその近隣州に害をもたらさないように政府が取り計らうと主張している。
 
アッサム州の一部グループは外部からの移住者の阻止を望んでいる一方、人権団体は政府の改正案の対象にイスラム教徒が含まれていないと非難。人権団体によると、世俗主義を公式に掲げるインドで、宗教が国籍取得の基準とされるのは今回が初めてだという。
 
同国では4月から5月にかけて総選挙の実施が見込まれており、専門家らによると、上院の承認を待つ市民権法の改正により、BJPは北東部諸州で大きなダメージを受けると予想されている。 【翻訳編集】AFPBB News
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【中国を刺激する首相の北東部訪問】
この北東部は対外的には隣国・中国と領有権を争っている地域でもあり、このモディ首相の北東部訪問は中国の激しい反発も招いています。(もちろん、インドからすれば首相が“国内”を訪問することは当然のことであり、中国からとやかく言われる筋合いではありません)

****中印関係が再び緊張か=インド首相の国境地帯訪問に中国が猛反発****
中国政府・外交部(中国外務省)は2019年2月9日付で、「インドの指導者」が、中印両国が領有権を主張しインドが実効支配している「アルナーチャル・プラデーシュ」を訪問することに「断固として反対する」などと猛反発するコメントを発表した。

コメントは「中国政府がいわゆる『アルナーチャル・プラデーシュ』を従来から認めておらず、インドの指導者が中印国境の東部分に行って活動することに断固として反対する」と猛反発した。

外交部が言う「インドの指導者」が、モディ首相であることは明白だ。(中略)

インドでは同国北東部のアッサム州で12月末、鉄道用としては同国最長の4.9キロメートルのドホーラサディヤ橋が完成し、モディ首相も開通式に出席した。同橋の建設はアルナーチャル・プラデーシュでの中国に対する防衛力強化の目的があるとされる。

中国外交部は9日のコメントで、「中国側はインドに、両国関係の大局から出発し、中国側の利益と関心を尊重し、両国関係の改善する動きを大切にし、争議を激化し国境問題を複雑化するいかなる挙動もしないよう求める」と主張した。

中印両国の間にはネパールがあるが、ネパールの東方と西方では両国が直接接する国境地帯がある。そして、西部国境のカシミール地区でも東部のアルナーチャル・プラデーシュでも領有権を巡って対立している。

西部国境のカシミール地区では当初、パキスタンも加わる「三つ巴」の意見対立だったが、中国とパキスタンは互いの実効支配地域の領有権を認め合う形で対立を解消させたので、領有問題は中国対インド、パキスタン対インドの構図になった。

アルナーチャル・プラデーシュについては中印の対立が続いている。中国側はアルナーチャル・プラデーシュの名称も正式には認めておらず蔵南(「チベット南」の意)と呼んでいる。【2月10日 チャイナレコード】
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【政権奪還に向けて変身した(?)ラフル・ガンジー国民会議派総裁】
国内外の激しい反発があるなかで、モディ首相が敢えて北東部を訪問したのは、おそらく総選挙対策でしょう。

モディ首相・インド人民党が昨年末の州議会選挙でつまずきを見せたことで、モディ政権発足以来影が薄くなっていた国民会議派・ラフル・ガンジー総裁に久しぶりにスポットが当たっています。

これまでのネール首相の血筋を引く“両家の御曹司”というひ弱なイメージを払拭して、“どぶ板選挙”も辞さない政治家に変身している・・・・とか。

****インド、“御曹司”ガンジー氏率いる国民会議派伸長****
5月までに行われるインド総選挙に向け、ラフル・ガンジー総裁率いる野党・国民会議派が勢いを増している。

インド屈指の政治家一族の御曹司で、頼りなさも指摘されたラフル氏だが、農村を精力的に回るなどして支持を拡大。「リーダーとして重要なタフさが出てきた」(現地政治評論家)とも評され、モディ首相のインド人民党(BJP)が牙城としてきた州まで揺るがす勢いだ。
 
「職がない若者と貧困にあえぐ農村が、あなたの専制と無能から解放されることを懇願する」
ラフル氏は20日のツイートで、こうモディ氏を批判。経済成長の恩恵が行き渡っていない現状を「失政」と厳しく指弾した。
 
会議派への追い風が鮮明となった昨年12月開票の国内5州の州議会選でも、ラフル氏は精力的に動いた。
会議派関係者によると、ラフル氏は、演説でも外交やマクロ経済といったテーマを避け、脆弱(ぜいじゃく)な収入源が社会問題化する農村を徹底して回る“ドブ板選挙”を展開。「BJPへの不満の高まりをラフル氏がすくい上げた」と会議派広報のプリヤンカ・チャトルベディ氏は分析する。
 
ラフル氏は、インド独立の父マハトマ・ガンジーの子孫ではなく、初代首相だったネールの系統だ。ネールの娘、インディラが後に下院議員となるフェローズ・ガンジーと結婚したことが、ガンジー姓を名乗るきっかけだ。フェローズとマハトマ・ガンジーに血縁関係はなく、ネールの血統は「ネール・ガンジー家」と呼ばれる。
 
インド政治史で存在感を見せるネール・ガンジー家だが、その歩みは平坦(へいたん)ではなかった。
首相となったインディラ、その後継となった息子ラジブはともに暗殺された。ラジブの弟サンジャイも政治家だったが航空機事故で死亡。栄光と悲劇性から「インドのケネディ家」との異名を取る。
 
ネールから数えて第4世代に当たるラフル氏への期待も当然高かったが、その経歴と行動に頼りなさが付きまとった。
 
会議派副総裁として臨んだ2014年総選挙は事実上の首相候補として戦ったが、モディ人気に太刀打ちできず惨敗。会議派は前回選挙(09年)の206議席から5分の1近い44議席にまで減らした。

15年には突然、「党の将来を熟考するため時間が必要」などとして約2カ月間姿をくらまして批判の声が上がった。「ただ、ここ1年ほどで良家の御曹司的な線が細い印象を払拭しつつある」と話すのは、政治評論家のサンジャン・クマール氏だ。
 
クマール氏は、「経済政策への期待に押されたモディ人気が失望に変わりつつあるが、都市中間層を軸にBJPへの支持も厚い」と指摘。「下院選は両党ともに過半数が取れず、他党との連立が焦点となる可能性がある」と述べている。

印国政与党BJPへの逆風を受けて、モディ政権は低所得者層などへの優遇政策を矢継ぎ早に発表しており、支持拡大に躍起だ。
 
政府は8日、貧困層に雇用や入学で10%の優遇枠を割り当てる憲法改正案を国会に提出し、可決された。これまでの優遇制度は低位カーストや特定の少数民族を対象にしていたが、貧困層も対象とすることで票の掘り起こしにつなげたい狙いがある。特に「上位カーストの貧困層」に狙いを絞った施策と指摘される。
 
10日には、年間売上高が400万ルピー(約613万円)以下の事業者に対して、物品サービス税の支払い免除を発表。家族を含めると1億人以上といわれる小売り事業主への優遇策も打ち出した。
 
既にモディ政権は昨年7月に政府が農家から買い取る農産物の最低保証価格を引き上げたほか、9月に貧困層向けの健康保険制度を導入。これに対し野党側は「選挙向けのバラマキ政策だ」との批判を強めている。【1月23日 産経】
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【モディ政権の“ばらまき”と統計数字隠し】
選挙が近づくと政権側は“ばらまき”で有権者にアピールするというのは、どこの国も同じですが、インド・モディ政権もかなり露骨なようです。

****インド総選挙へ「ばらまき予算」 中間層を念頭****
インド政府は1日、一定の土地を持たない農民には年6千ルピー(約9200円)を給付することなどを盛り込んだ2019年度の予算案を発表した。中間層を念頭にした所得税免除枠の拡大も含む「ばらまき予算」。5月までに予定される総選挙に向けモディ政権がなりふり構わぬ施策に出始めた。
 
与党インド人民党は、総選挙の前哨戦とされた昨年末の五つの州議会選で敗退。その背景には物価上昇や若者の失業などに伴う農民や中間層の不満の高まりがあると指摘されていた。
 
19年度予算案の目玉の一つとされる農民への給付は約1億2千万人が対象になるという。農村での就業機会拡大への予算も6千億ルピー(約9200億円)に増やした。

さらに、中間層向けに所得税免除となる年収を50万ルピー(約77万円)に大きく引き上げた。(後略)【2月2日 朝日】
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“ばらまき”の一方で、政権に都合の悪い数字は隠す・・・というのも多くの国・政権で行われるところです。
日本でも統計調査の問題が論議を呼んでいますが、インドではもっと露骨です。

****インド統計機関トップが抗議の辞任、雇用統計発表の先延ばしで*****
インドの統計機関トップが、雇用に関する報告書の発表を政府が遅らせていることに抗議し、辞任を表明した。
専門家の多くはこの報告書が、ナレンドラ・モディ首相の政権下で失業率が上昇したことを示すと予想している。

同国では5月に総選挙が実施されることになっており、こうした統計結果は、数百万人規模の雇用創出を掲げて2014年に政権の座に就いたモディ氏にとって痛手となる可能性がある。(中略)

各紙報道によると、2011〜12年度以来となる全国標本調査機構の報告書は、2016年にモディ政権が突然実施した高額紙幣の廃止政策を契機とした雇用喪失を反映している可能性がある。
 
高額紙幣廃止の狙いは大規模な地下経済を白日の下にさらすことにあったものの、実施方法に不備があり何百万人もの低所得層に不必要な苦しみを与えたとの批判を招いた。(中略)

独立系調査機関のインド経済モニタリングセンターによると、昨年12月の同国の失業率は7.4%に上昇し、15か月ぶりの高水準となった。また、高額紙幣廃止のあおりで、18年には1100万人が失業したとしている。 【2月3日 AFP】AFPBB News
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モディ首相が「明日から500ルピー札と1000ルピー札が使えなくする」と突如断行した高額紙幣廃止政策の目的は大きく2つあったと考えられています。1つ目が「ブラックマネーの撲滅」、2つ目が「電子決済の普及」です。

しかし、実際に不正な手段でお金をため込んだ人達は知恵を絞り様々なルールの抜け穴を探し、迅速にそれを実行したため、「ブラックマネーの撲滅」はあまり効果をあげなかったようです。ただ、不正蓄財に対し、こういう取り組みをおこなったことは世論的には評価されているようです。

また「電子決済の普及」についても、高額紙幣廃止直後に、商店はもとより、小さな屋台でもあっという間に電子決済が使用可能となる広がりを示しましたが、“数カ月の間は現金取引が全取引数の6割程度にまで減少したが、2年経った現在は、すべての取引に占める現金取引の割合は事件前の水準である9割弱にまで戻ってしまっているからだ。ダウンロードされた電子決算アプリも長い間使われなくなってしまっているようだ。”【1月29日 WEDGE】とのことで、目的を達成したとは言い難いようです。

なお、【WEDGE】は、“総括すると、政府の目的そのものは達成できなかったかもしれない。ただ、インド国民は必要であれば日本では考えられないダイナミックな「うねり」を市場に生じさせる柔軟性を有していることを実証した。”とも評していますが、それはモディ首相の功績ではありません。

高額紙幣廃止政策の効果は上がっていない一方で、その混乱で多数の失業者が発生したということになると、モディ首相も選挙前には隠したくなるでしょう。
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