孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  支持率低下のプーチン政権 早急な国民生活の改善を約束するも、“統計不正”を疑う声も

2019-02-26 22:23:10 | ロシア

(24日、モスクワで「プーチンのいないロシアを」などと叫びながら行進する参加者ら【2月25日 共同】)

【支持率低下に苦慮するプーチン大統領】
クリミア併合で高支持率を誇ったプーチン大統領ですが、さすがにその賞味期限も切れてきたようで、特に年金改革以降の支持率急落が注目されています。

そうした支持率低下の背景には欧米の制裁が続くロシア経済の不調があります。

****プーチン氏人気低下 経済失政に不満、日露交渉に影響も****
ロシアでプーチン大統領の人気低下が鮮明になっている。政権支持率は低下傾向が続き、24日にはモスクワなどで反政府デモも開催された。

背景には経済的な“失政”や強権的な政治手法への不満の強まりがあるとされる。プーチン氏の政権基盤の弱体化が、日露平和条約交渉に影響する可能性も指摘されている。
 
24日、4年前に殺害されたネムツォフ元第1副首相の追悼集会がモスクワで開かれた。集会は野党などが組織。参加者らは「プーチンのいないロシアを」などと訴え、反政府色を帯びたものになった。当局は集会参加者を約6千人と発表したが、野党側は約1万1千人が参加したとした。
 
ネムツォフ氏殺害事件では、露南部チェチェン共和国の治安部隊元幹部ら5人が有罪判決を受けた。しかし野党側は政権周辺に実行を命じた人物がいる可能性があり、捜査は不十分だと政権批判を続けている。
 
露独立系世論調査機関「レバダ・センター」によると、プーチン氏の支持率は、2014年のウクライナ南部クリミア半島の一方的併合を受けて90%近くに達し、その後も80%前後で推移してきた。

しかし、露政府が昨年、財政難を理由に年金支給年齢引き上げを発表すると60%台に急落。年金改革に反対する大規模な反政府デモが起き、同時期に行われた知事選では複数の与党候補が敗北した。
 
さらに、経済制裁や増税に伴う物価値上がり▽国民所得の5年連続減少▽貧困層の拡大▽インターネット上の言論規制の強化−などへの不満も強まっている。
 
支持率の低下傾向が続く中、プーチン氏は20日の年次教書演説で、失業者や貧困層への財政支援の拡大など大規模な内政改革を約束した。

しかし露メディアからは財政難の中での改革の実現可能性について疑問の声が上がり、支持率回復にどれほど寄与するかは不透明だ。

演説を中継したテレビの視聴率も例年の約8%から今年は5・9%に下落し、国民のプーチン氏への信頼度が低下している現状を裏付けた。
 
露国内では、プーチン氏は支持率低迷を打開するため、より強硬な対外政策に出る可能性があるとの見方もある。日露平和条約締結に関わる北方領土交渉についても、世論調査で国民の約8割が島引き渡しに反対している以上、プーチン氏の“譲歩”は期待しにくいとみられている。【2月25日 産経】
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政治指導者としては、時間を要する内政面での成果より、外交面での成果が“手っ取り早い”ということがあって、現在トランプ大統領は北朝鮮からなんとか“成果”を引き出そうとハノイでディールの最中です。

プーチン大統領にとって最近の外交面での成果というと、シリアでの影響力拡大でしょうか。

****ロシア国防省“シリア戦利品”展示列車運行****
ロシア国防省は23日、内戦が続くシリアで過激派組織「イスラム国」などから奪い取った武器などを展示する列車の運行を始めた。軍事介入の正当性をアピールする狙いとみられる。

シリアの反体制派の武装勢力が使用していた車両には、荷台に手製の武器がとりつけられている。

列車にはロシアがシリアの内戦で、「イスラム国」などから奪った武器や車両が展示されていて、23日から約2か月かけてロシア全土を回る予定。列車の運行はプーチン大統領の指示によるもので、ロシア国防省の担当者は、「シリアでテロと戦った成果を紹介したい」と強調した。

ロシアは2015年にシリアのアサド政権の要請を受け、内戦に軍事介入したが、膨大な戦費などへの国民の批判が高まっている。列車の運行は、国民に対し、軍事介入の正当性をアピールする狙いとみられる。【2月24日 日テレNEWS24】
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これは“成果”の誇示というよりは、内政をほったらかししてシリアに深入りしているとの国民不満を懐柔するもののようです。このようなこともしないといけないということは、プーチン政権も相当に苦しいのかも・・・とも思わせます。

【支持率低下の背景には「われわれは待てない」(プーチン大統領)という経済状況】
やはり、政権支持の動向の本丸は内政、特に経済です。

****プーチン大統領、早急な生活改善を約束 年次教書演説****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は20日、年次教書演説を行い、早急な国民生活の改善を約束した。
 
これまでにないほど支持率が下落する中、プーチン大統領は両院議員の前で演説し、「われわれは待てない。この状況を今改善しなければならない」「今年中に(ロシア国民は)良い方向へ変化していると感じるようになる」と述べた。
 
プーチン大統領はまた、生活水準を向上させるとする一連の政策を発表するとともに、新生児をめぐる新たな恩典と大家族に対する減税といった、低下する出生率への取り組みの強化にも言及。「家族の価値を高めるため、あらゆることをしてきたし今後も行っていく」「家族の収入はもちろん増加する」と話した。
 
プーチン大統領はさらに、ロシアは人口統計において「厳しい局面」にあるとし、「根本方針は、より多くの子ども、より少ない税金」だと述べた。 【2月20日 AFP】AFPBB News
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ロシアも日本同様(あるいは、日本以上に)に人口減少に悩んでいますが、ロシアの合計特殊出生率は1999年に1.16まで低下し、その後は回復傾向を示し、2016年には1.75となっています。

プーチン大統領が少子化対策を前面に出しているのも、そうした“成果”(人口減少の流れが止まった訳ではありませんが)があってのことでしょう。

この出生率の回復は、日本にとっても参考になる興味深い問題ですが、今日はパスします。
問題は国民の所得です。プーチン大統領も「われわれは待てない」と言っているように、ここ数年実質所得がマイナスを続けるという深刻な状況にあります。

****面目つぶれたプーチン政権 ロシアが苦しむダブル減****
ロシア国家統計局が1月、2018年のロシア人の実質所得が17年より0・2%減り、5年連続の減少となった-と発表したことが同国に衝撃を与えている。

所得の5年連続減少はソ連崩壊後の混乱が続いた1990年代にも起きていなかった上、プーチン露大統領らの増加予測も外れたためだ。プーチン政権の政治基盤が揺らぐ恐れがあり、日本との平和条約交渉に影響する可能性も否定できない。

■外れた増加予想
露経済紙ベドモスチが国家統計局のデータを分析したところでは、2008年まで増加を続けたロシア人の所得は、ウクライナ南部クリミア半島の併合などで国際的制裁を受けた14年に前年比で0・5%減少。

その後も減少が続いた。背景には、制裁や通貨ルーブルの下落、主要輸出品である石油の国際的な値下がりなどがある。
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実は、露経済発展省は昨年6月、石油価格の回復傾向などを背景に「18年は所得が3・4~3・9%伸びる」との見通しを公表。プーチン氏も12月、「18年の所得は0・5%増となるだろう」としていた。
 
しかし、蓋を開けてみれば0・2%減となり、プーチン氏の面目はつぶれた格好だ。国際社会からはロシアの統計の信頼性を疑う声もあり、実態はさらに悪化している可能性もある。
 
統計によると露国内の平均月収は約3万2千ルーブル(約5万4千円)だが、首都モスクワなど大都市とその他の地域に極端な収入格差があることも大きな問題だ。(後略)【2月12日 産経】
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【プーチン大統領の目標設定を“忖度”した“統計不正”の疑惑も】
そうした中で、2月4日にロシア連邦統計局が発表した2018年の実質GDP(国内総生産)成長率の速報値はやけに高い数値となっています。

上記記事にある実質所得と“生産”に着目した実質GDPの関係については、「実質国内総所得(GDI)=実質GDP+交易利得・損失」という関係があります。
 
国内の実質的な所得を考える場合は、輸出入価格の変動による所得も加味される必要があります。

交易条件が有利(輸出価格>輸入価格)となれば実質所得は増え、不利(輸出価格<輸入価格)になれば実質所得は減るという関係にあります。
(このあたりの話は、経済学落ちこぼれ学生でもあった私は、よくわからないことが多々あります)

****欧州で最も腐敗している国、ロシアがなぜか高成長****
2月4日、ロシア連邦統計局は2018年の実質GDP(国内総生産)成長率の速報値を発表した。今回発表された数字は+2.3%と2013年の+2.5%以来の高い伸びを示した。
 
ブルームバーグのコンセンサス(事前予想平均値)では+1.9%、強気の予想を提示する傾向にあるロシア経済発展省は+2%であったが、今回発表値は誰の予想をも大きく上回るものであった。
 
現地の多くのエコノミストたちはこの数値に疑問を投げかけている。
 
ウラジーミル・プーチン大統領の経済ブレーンの一人でもあるクドリン会計検査院長官、長く経済省でチーフエコノミストを務めたクレパーチVEB副会長らも「せいぜい1.5%」とコメントしている。(後略)【2月8日 大坪 祐介氏 JB Press】
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5年連続のマイナスとなった実質所得との関連性は脇に置くとしても、GDPの数値だけで見ても、予想を上回る高率です。

そのため、“なかには昨年12月の連邦統計局長官の交代が影響しているのではないかとのうがった見方もある。連邦統計局は経済発展省の傘下にあるため、プーチン大統領が昨年5月の施政方針演説で述べた3.5%成長に少しでも近づける忖度が働いているのではないかとの勘繰りである。”【同上】という、“統計不正”と言うか“統計忖度”と言うか、日本でも騒がれているような話がロシアでも起きているのでは・・・という話です。

****ロシアでも浮上した統計忖度疑惑 「プーチノミクス」の虚と実****
(中略)
世界平均を上回るという目標
今日のロシアで、あらゆる政策の出発点となっているのが、プーチン大統領が四期目の任期をスタートさせた当日の2018年5月7日に発令した大統領令「2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題」です(ロシアで頻繁に耳にする「5月大統領令」というのはこれのこと)。

この中でプーチン大統領は経済に関しては、「世界平均を上回るテンポで経済を成長させる」という課題を設定しています。



それでは、世界平均の経済成長率と、ロシアの成長率は、実際にはどうなっているでしょうか? それをまとめたのが上の図です。

世界経済の成長率は、国際通貨基金(IMF)はやや高目に、世界銀行はやや低目に出す傾向がありますので、それぞれを上限・下限として、ピンク色の帯で示してみました。

一方、ロシアの成長率は紺色の折れ線で示してあり、2016〜2017年はすでに確定した実績、2018年以降は2018年10月にロシア政府が発表した公式的な経済見通しによる予測値です。

まず目を引くのが、現状でロシアの成長率が世界平均を大きく下回っていることです。2000年代には、ロシアはいわゆるBRICsの一画として、世界の成長をリードする存在になると期待されていました。

しかし、2008年のリーマンショック後の時代に、ロシアではすっかり低成長が定着してしまい、2014年以降はウクライナ問題に端を発する地政学危機の重しも加わっています。

今日のロシアの潜在成長率は、せいぜい1%台にすぎないのではないかという見方が、ロシア内外の専門家の間で強まっています。

ところが、2018年10月の政府経済見通しは、不自然な二段構えになっています。2019〜2020年については現実的で慎重な見通しが示される一方、2021〜2024年については「5月大統領令」の諸課題が達成され構造改革が進むことで、経済が上向くという想定になっているのです。

現在直面している経済停滞は一時的で、2021年以降は「本来の」軌道である年率3%台に戻るというわけです。

上図に見るとおり、IMFおよび世銀は、世界経済の成長率は今後、概ね3%前後で推移するという見通しを示しています。ということは、ロシアも少なくとも年率3%台の成長に移行しなければ、プーチンが号令をかけた「世界平均を上回る成長」が達成できないことになってしまいます。

上図を見ると、まるでその実現がありきであるかのように、現在の苦境さえ乗り切ればロシア経済は自ずと本来の成長を取り戻すはずだと根拠もなく信じられているようであり、希望的観測との印象が否めません。

2.3%成長の驚き
こうした中、ロシア連邦国家統計局は2月4日、2018年のGDP速報値を発表しました。その数字が、2.3%の成長という、大方の予想をかなり上回るものだったため、関係者に驚きが広がりました。

何しろ、2018年1〜9月のGDPは前年同期比1.5%増とされていたのに、それがいきなり通年では2.3%増になってしまったわけですから、「10〜12月にどれだけ急成長したんだ?」という話です。

上図に見るように、2018年10月時点の政府見通しでは、2018年のGDPは1.8%増という予測でした。実は、建設統計の見直しなどを受け、2019年1月末にロシア政府は2018年の成長見通しを1.8%から2.0%に上方修正していたのですが、2月4日に発表された2.3%はそれすらも超えてきたので、大いに物議を醸すことになったわけです。

現地の専門家はGDPサプライズについて様々にコメントしていますが、詳細の分からない現時点では、そうした議論はあまり意味がないかもしれません。そもそも、2.3%という数字はあくまでも第一報の速報値ですので、これから小さからぬ修正が加えられる可能性もあります。

いずれにしても、プーチン大統領は、現在のロシア経済の実力からすると過大と思われる「世界平均を上回る成長」という号令をかけました。

これまでロシアでは、公式統計が政権当局の思惑に沿って改変されるといったスキャンダルは、ほとんど聞かれませんでした。しかし、今後は、良好な経済指標が発表されるたびに、「かさ上げではないか」、「統計局の忖度か?」という疑念が生じそうです。(後略)【2月26日 GLOBE+】
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日本なら“忖度”でしょうが、ロシアなら不正統計の“指示”だってあり得ます。まあ、そのあたりは下種の勘繰りかもしれませんが。

【国内ネット空間を海外から遮断できる体制へ】
冒頭【2月25日 産経】にある“インターネット上の言論規制の強化”への国民の不満については、以下のようにも。

****ロシアのネット空間、世界と隔離?国会提出の法案が物議****
ロシアの国会で国内のインターネットを外国のネットワークと完全に切り離せるようにする法案の審議が始まり、物議を醸している。提案した与党議員らは、国外からのサイバー攻撃に備えるのが目的としているが、ユーザーは「国家がネットを完全に管理するのが狙いだ」と反発している。

同法案は昨年12月、米国のサイバー戦略への対抗策として議会に提出された。
 
米国は、2016年の米大統領選にロシアがサイバー攻撃で介入したと認定し、否定するロシアと対立が続く。法案を提出した与党、統一ロシアの議員らは、米国のサイバー戦略が「攻撃的な性格を持つ」と主張。海外との通信を政府が遮断できる仕組みを設け、ロシア国内の情報通信網を守るよう求めている。
 
だが、12日の下院の審議では、米国の脅威よりも、政府のネット規制が強まる可能性に野党の質問が集中。「中国のネット検閲システム『グレート・ファイアウォール』を模しているのではないか」といった批判が相次いだ。
 
与党や政府は「同法は規制が目的ではない」などと反論し、激しい議論が繰り返された。法の成立には上下両院での審議を経てプーチン大統領が署名することが必要だが、先行きを不安視する声が相次いでいる。
 
欧州安保協力機構(OSCE)は14日、同法が「人々が世界のインターネットにアクセスしたり、情報のやりとりを制限したりするために使われる可能性がある」とする声明を発表し、議会に法案の修正を求めた。【2月17日 朝日】
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世界各国は国内分断が進んでいますが、国際関係にあっても“壁”とか“○○第一”とか、ロシアのネット分断とか、分断が進行しています。

このロシアのネット規制の話に立ち入ると長くなるので、別機会があればそのときに。
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