(シリア北東部ハサカ県のアルホル避難民キャンプで、AFPのインタビューに応じたフランス人女性とその子ども(2019年2月17日撮影)【2月19日 AFP】)
【「イスラム国は今にも崩壊しようとしている」】
シリアで最後の抵抗を続けるイスラム過激派ISに対しては、アメリカが支援するクルド人勢力主体の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」が攻撃を行っています。
これまでも“最終段階”とか“攻略間近”とか言ってきましたが、いよいよ“完全制圧”が目前に迫っています。
ただ、IS側も住民を“人間の盾”として使う、激しい抵抗を示しています。
****イスラム国の制圧「目前」 トランプ氏、撤収を再表明****
トランプ米大統領は16日、ツイッターで、シリアの「イスラム国」(IS)支配地域の完全制圧が目前に迫ったと強調した上で、完全制圧後にシリア駐留米軍を撤収させる方針を改めて表明した。
IS掃討作戦に参加する有志連合では拙速な撤収による混乱や治安悪化を懸念する声が出ている。(中略)
トランプ氏はツイッターで「イスラム国は今にも崩壊しようとしている。100パーセントの勝利後、われわれは撤収する」とした。【2月17日 共同】
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(本旨とは関係ない話ですが、こうした発表が“ツイッター”で行われるというスタイルがいつから当たり前のことになったのでしょうか?政治指導者がSNSで直接国民に発信し、それに国民が反応するという現代社会にあっては、メディアとか議員といったものの役割もかつてのものとは違ってきます。さらには“民主主義”の在り様も変わってくるでしょう。)
****IS、シリアで住民2000人を人間の盾に 支配地は0.5平方キロ弱に****
シリア東部でクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」が米軍の支援を受けて進めているイスラム過激派組織「イスラム国」残党勢力の掃討作戦で、SDFの報道官は17日、IS側が最後の支配区域である村周辺の道路を全面封鎖し、民間人最大2000人が逃げられないようにしていると明らかにした。米主導の有志連合の報道官はIS側が女性や子どもを「人間の盾」に使っていると指摘した。(中略)
ISは2014年にシリアとイラクにまたがる領域にカリフ制国家の樹立を宣言したが、これまでにそのほぼ全てを喪失。イラクとの国境に近いバグズ村一帯の0.5平方キロ足らずの区域が最後の拠点となっている。 【12月18日 AFP】AFPBB News
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【命からがら脱出した住民を待ち受ける飢えと絶望】
もちろん、ISの面的支配が終わったとしても、IS戦闘員によるゲリラ的テロ活動はなくなりませんし、他の地域に流入する戦闘員の問題もあります。また、米軍が撤収すれば、やがてIS勢力の復活と言う事態も懸念されています。
そうした問題のほかに、現在戦闘で“人間の盾”として使われている住民の生命・安全の問題、命からがら逃げだし難民となった住民保護の問題もあります。
****IS最後のとりでから必死の脱出、住民を待ち受ける飢えと絶望 シリア****
「水をくれ!」。乾ききったシリアの平原に叫び声が響く。野外で夜を明かし、喉がからからになった避難民たちがトラックに駆け寄ると、荷台に積まれた数十本の水はわずか数秒のうちになくなってしまった。
砂漠の低木地帯で寝泊まりしている女性や子どもたちは、少なくとも300人に上る。大半はイラク人で、イスラム過激派組織「イスラム国」が最後の抵抗を続けているシリア東部の村バグズから脱出して来た。
幸運な何人かだけはテントを手に入れたが、ほとんどの人は米軍主導の有志連合が支援するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」が配給した安っぽい毛布の上で寝ている。SDFはわずかながらの水やいくらかの食料も配給している。人道支援団体はここにはいない。
イラクの首都バグダッド出身のファティマさんは、4人の子どもを連れてバグズを脱出した。子どもたちは全員まだ15歳に満たない。「外で寝るのは二晩目だ。バグズは爆撃が激しく、たとえ外であっても、ここで寝る方が安全だ」とAFPに語った。
住むところを失った家族たちは、SDFによる手続き後に、車で6時間ほど北へ走ったところにあるアルホル避難民キャンプまで、トラックで移送されるのを待っている。
辺り一帯のひび割れた地面には、空のボトルや汚れたおむつが散乱している。
頭にスカーフを巻いた10代の少女が、SDFのトラックから米とピーマンが入ったプラスチック製の容器を素早くつかみ取った同じ年頃の少年に近づいて行った。「分けてもらえる?」と、少女は恐る恐る尋ねた。少年は手で食べ物をかき込みながら、向こうへ行けというように手を振る。少女の痩せこけた顔は、静かにすすり泣きながらゆがんだ。
■最後のとりでからの脱出
SDFは、IS最後の支配地域となったバグズを包囲しており、ここ数週間、バグズは食料も水も医薬品も不足し、危険な状況となっている。脱出できた人の話によると、ISは残っている住民を人間の盾として使い、食料をため込み、住民が逃げ出さないよう見張っている。
「狙撃手が撃とうが、爆撃されようが、私たちはとにかく迷うことなく歩いた」。まだ歩き始めたばかりの子ども2人を連れて逃げてきた女性、フダーさんは言う。「子どもと服を抱えて、3時間も4時間も、とにかく歩き続けた。すごく喉が渇いていたが、水を持って来ることはできなかった」。毛布も持ってきたが重すぎて、バグズを出たところで道端に置いてきてしまったと言う。
野外で寝泊まりする家族たちの横を1時間ごとに、荷台に新たな避難民を乗せてきたトラックが通り過ぎる。そのたびに、泣き叫ぶ子どもたちの口に砂ぼこりが入る。
ルガヤ・イブラヒムさんは、決して置いてくることができない大事なものをバグズから運んで来た。2日前、迫撃砲の攻撃に遭い、右足を骨折した上に爆弾の金属片が足のあちこちに残った8歳の息子マーン君だ。
姉妹と一緒に子どもたちを連れてバグズを脱出したとき、一家は木でその場しのぎの担架を作り、マーン君を乗せた。「肩に担いでは下ろし、下ろしては担いで、運んだ」とイブラヒムさんはAFPに語った。この一家もイラク出身で、さらに北の避難民キャンプへ移送されようとしていた。
だが、一家が乗り込もうとしていたトラックの運転手は、木製の担架を置いていくように言った。「そんな物を置く隙間はないよ。担架から下ろして、よじ登ってくれ」と怒鳴った。 【2月18日 AFP】
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戦闘は、特にその最終段階は、いつも悲惨です。
【対応が厄介な欧州出身のIS戦闘員およびその妻子 引き受けに消極的な欧州出身国】
IS支配が最終段階になって、改めて問題が表面化しているのが、欧州などからISに参加してい戦闘員およびその妻子の処遇の問題です。
トランプ大統領は、出身国が引き取るように要請していますが、欧州各国は引き取りに消極的な姿勢を見せています。
****トランプ大統領「IS戦闘員 欧州各国が引き取って裁判を」****
アメリカのトランプ大統領は、シリアで拘束された過激派組織IS=イスラミックステートの戦闘員について、ヨーロッパの各国が引き取り、裁判にかけるよう求めました。
トランプ大統領は、過激派組織IS=イスラミックステートについて16日夜、ツイッターに「イギリス、フランス、ドイツ、それにほかのヨーロッパの同盟国に、シリアで拘束した800人以上のISの戦闘員を引き取り、裁判にかけるよう求めている」と書き込みました。
そのうえで、「われわれは多くを費やしてきた。各国ができることをすべき時が来た。われわれはISに完全に勝利したあと撤退する」とツイートし、ヨーロッパ各国に負担を求めるとともに、改めて、シリアからアメリカ軍を撤退させる方針を強調しました。
アメリカ軍のシリアからの撤退をめぐっては、ドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で、ドイツのメルケル首相が「性急な撤退だ」と懸念を示すなど、ISが再び勢力を拡大することを防ぐため慎重な対応が必要だとする声がヨーロッパ諸国から上がっており、アメリカとヨーロッパの間の溝があらわになっています。【2月17日 NHK】
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トランプ大領の主張は当然の話ではありますが、欧州側にはおいそれと引き受けられない現実的理由があります。
裁判にかけるといっても証拠は海のかなたで判然としない、漫然と長期拘留すれば人権問題になる、釈放すれば自国の治安を脅かしかねない・・・。
****ポストIS?のシリア情勢等****
(中略)ポストISに関するアラビア語メディアの報道次の通り
トランプは何度か欧州諸国に対して、数100名とされる欧州出身のIS戦闘員を引き取るように促したが、これに対して欧州諸国は消極的な立場を示している。
独外相は、彼らを引き取る条件は、彼らの身分を確保し、裁判にかけられることが保証されていることであるが、そのための情報も少なく、刑事責任に関する調査が必要であるが、現状ではそれは難しく、そうであれば彼らの引き取りは極めて困難と言うことだとTVで発言した。(中略)
確かに外国における、テロリストの取り扱い問題は難しい問題で、アフガニスタンで捕虜となったアルカイダ要員の取り調べ、その後の長期間にわたるガンタナモ基地での抑留に、欧州諸国等では人権問題という批判をしていたが、今や本質的に同じ問題に直面しているということか?
要するに社会に放てば、再びテロに携わる可能性が非常に強いと思われる危険分子を、裁判にかけると言っても、外国での出来事で、証拠の収集等が困難である場合に、彼らをどう扱うかの問題。
証拠が十分ないとして無罪釈放するのは、常識的にも反社会的と考えられる場合に、どうするかという問題(後略)【2月18日 「中東の窓」】
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【米軍撤退、トルコのクルド人勢力攻撃で事態悪化も】
この問題、今後事態が更に悪化しかねない状況が懸念されています。
ISが完全制圧されたとしてトランプ大統領が米軍を撤収すれば、クルド人勢力をテロ組織として敵視するトルコがクルド人勢力への攻撃を始めることも。
現在、捕虜となったIS戦闘員などはクルド人勢力が拘束していますが、トルコとの戦闘が始まれば、それどころではなくなり、IS戦闘員が再び野に放たれるという事態も想定されています。
****欧州出身IS戦闘員の取り扱い(今後の時限爆弾?)****
(中略)どうやらこの問題は今後関係者、特にシリア民主軍等のクルド勢力にとって極めて深刻な問題となる可能性が出てきた模様です。
al arabiya net は、クルドの対外関係幹部がロイターにたいして、現在シリア民主軍が交流しているIS戦闘員は800名、妻たちが700名、児童が1500名いるが、毎日さらに10名の戦闘員が拘束されている(要するに捕虜または投降した者)として、シリア民主軍としては彼らを釈放するつもりはない(中略)が、もしトルコ軍が北部シリアに進攻して来たら、彼らが逃走する可能性が十分あると指摘した由。
また、これら戦闘員を収容すべき十分な収容所(または監獄)の施設は現地には存在しないとも指摘した由。
そのうえで、これらIS戦闘員は、いわば時限爆弾であり、国際社会が、現実的に、その問題の解決に乗り出すべきであると強調した由。
他方、同ネット及びal sharq al awsat net は、欧州諸国はいずれも、このような危険な人物を引き取る用意はないとして、引き取りを拒否の意向を表明している由。
これまでドイツ、仏等は引き取り拒否の姿勢を示していたが、デンマークも同じで、また英も国民の声明を危険にさらすわけにはいかないとして、消極的な姿勢を示したいる由
デンマーク外相か誰かが言ったように、この問題は現地で解決してほしいと言うのが本心なのでしょう。(中略)
しかし、特に現在でもトルコが進攻の構えを捨てていないことからすれば、上記クルド勢力の警告は十分現実味のある話です。
更に、仮にトルコの侵攻などと言うことが生じなくとも、今後これらの、特に戦闘員をどうするかは、現実の深刻な問題になると思います。
まさかいくら過激なテログループのメンバーと言っても寒空で、テントもなしにほおっておくわけにもいかず、彼らの家族も含めての食糧、医療の手当てなど、いったい誰がするのか?
(国連が押し付けられたら、いったいどの機関がするのでしょうかね?家族程度なら、UNHCRがやる可能性はあっても戦闘員まではどうでしょうか? そうなるとやはり本職の国際赤十字と言うことになるのでしょうか?)
いずれにしてもいつまでもクルド人任せにはしておけないでしょうね。【2月19日 「中東の窓」】
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【扱いが微妙な“妻子”】
戦闘員は“犯罪者”としての扱いになりますが、その妻子となると、その扱いは更に微妙になってきます。
****IS拠点から救出されたフランス人女性たち、帰国を望むも訴追を恐れる****
シリアでイスラム過激派組織「イスラム国」の壊滅に向けた作戦が大詰めを迎える中、ISの拘束下から救出されたフランス人女性2人がシリア国内の避難民キャンプでAFPの取材に応じた。2人は、母国で公正な目で見てもらえるのなら帰国してもいいと語った。
シリア北東部のクルド人実効支配地域にあるアルホル避難民キャンプでインタビューに答えてくれた2人は、目以外の全身を黒い衣装で覆い、1人は子ども3人を連れていた。取材はクルド人兵士の立ち合いの下で行われた。
この避難民キャンプには、過去数か月間に米軍が支援するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」に救出され、収容された外国人女性がおよそ500人収容されている。女性たちは周辺の村々でISに拘束されていた。(中略)
■「ISに脅されていた」
フランス政府は、ISに属していた可能性のある女性や、その子どもたちの送還に二の足を踏んでいる。
フランスでは2015年以降、ISが犯行を主張する攻撃が相次ぎ、多くの犠牲者が出ている。このため、こうした女性たちの帰還は慎重さを要する問題であり、ISが弱体化してからも行動を共にしていた男女については、さらに懐疑的な目が向けられる。
もう1人の30代だという女性は、夫と3人の子どもたちと共に今月初めにIS最後の拠点から脱出したと明かした。かすかにフランス南部のなまりがある女性は、IS戦闘員たちと意見は合わなかったが何も言えなかったと語った。リヨン出身の女性も、IS戦闘員に脅され、喉を切り裂くとかレイプするなどと言われたと証言した。
米軍の支援を受けたSDFがIS最後の拠点に進軍し、爆撃や食糧不足に見舞われる日々が数週間続いた頃、女性は密航業者に50ドル(約5500円)を支払って、息子らと共にIS拠点から脱出した。
女性たちは2人とも、帰国する用意はできていると語った。だが、リヨン出身の女性は、信仰するイスラム教の慣習を続けられることと、子どもたちと密接な関係を維持できることを、帰国の条件に挙げた。
女性は数年前に爆撃で2歳と6歳の子どもを失っている。だが、報復は考えていないと断言した。「私の子どもたちは殺された。だからといって誰かを殺すということはありません」
■「IS国家」の実態に失望
女性たちは2人とも、IS支配下では穏便に暮らし、夫たちも戦闘員ではなく一般的な仕事に従事していたと述べているが、2人の証言が事実であるとの確証はまだ得られていない。
ISは2014年にシリアとイラクの広域を制圧し、「カリフ制国家」の樹立を宣言した。だが、2人はそこでの生活の実態に次第に失望していったという。
「IS戦闘員は、罪のない大勢の人たちを訳もなく証拠もないまま処刑していました」と、リヨン出身の女性は語る。処刑の対象はイスラム教徒も例外ではなく、女性の夫も殺害されたという。
しかし、その一方で2人は、2015年に仏パリで起きたイスラム過激派による風刺週刊紙シャルリー・エブドの本社襲撃やバタクラン劇場襲撃事件に関して、ISを非難する考えはないと述べた。「あの襲撃は、フランス軍がシリアで行った空爆への報復なんです」と、リヨン出身の女性は襲撃犯を擁護した。
■「子どもたちがすべて」
2人は、もしも自分たちがフランスに帰国して逮捕されたら、幼い息子たちは自分たちから引き離されて養護施設に入れられるか、里親の元へ送られるだろうと恐れている。
女性は「息子たちも離れ離れにされて、私たちが望んでいた教育と反する価値観の中で育つことになるでしょう」と危惧し、「フランスには、例えば同性愛など、私たちの宗教に反することがたくさんあるから」と付け加えた。
自分たちが訴追され裁判にかけられた場合、2人は短期刑で済むことを期待している。リヨン出身の女性は「ISという組織が犯したあらゆる罪ではなく、個々の事例として公正に裁かれることを望みます」と述べた。
30代の女性も、子どもたちと面会できるよう、交通の便の良い刑務所での短期の禁錮刑が望ましいと語った。「子どもたちは私のすべてなんです」。女性の夫は、すでに身柄を拘束されている。 【2月19日 AFP】
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女性の言い分は、自分たちに都合のいいような言い様にも聞こえますが、ではどうするのか?
“個々の事例として公正に裁く”とは言っても、どうやって立証するのか?
子供の権利も絡んでくると、更に厄介な問題です。