(ロヒンギャ難民キャンプ【4月7日 HARBOR BUSINESS Online 】)
【治安が回復しないミャンマー・ラカイン州】
最近、あまり関連報道を目にしなくなったミャンマー西部・ラカイン州からのロヒンギャ難民は今どうしているのか?という話。
ラカイン州では、イスラム系ロヒンギャの武装勢力(“武装”とは言っても、““武器は乏しく、わずかな銃器の他は、鉈や鋭くとがらせた竹の棒を使っているという”【ウィキペディア】というレベルですが)と国軍等の治安当局との衝突に加え、もともとミャンマー全体から見ると少数民族になる仏教徒ラカイン人の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」(こちらは宣伝動画で見る限り、りっぱな武装軍隊のようにも見えます)と治安当局の衝突が起きていることは以前も取り上げました。
(2月6日ブログ“ミャンマー 進まぬロヒンギャ難民帰還に加えて、新たな仏教徒ラカイン族難民も発生”)
現状に関する報道は目にしていませんが、3月段階では、ラカイン人「アラカン軍」の活動は続いているようです。
****警察署襲撃、9人死亡 ミャンマー西部、1月も襲撃事件****
ミャンマー西部ラカイン州で(3月)9日深夜、警察署が襲われ、警察官9人が死亡した。同州では1月、仏教徒の少数民族武装勢力アラカン軍(AA)が警察施設を襲撃し、警察官13人を殺害しており、治安部隊との緊張が高まっていた。
10日の時点で犯行声明はないが、地元メディアは国軍などの情報として、AAのメンバー約100人による襲撃とみられると伝えている。
地元メディアによると、襲撃があったのは同州の州都シットウェーの北約50キロの村。複数の警察官が負傷、行方不明になっているとの情報もある。
同州ではAAが自治権拡大を求め、国軍など治安部隊と衝突を繰り返しており、これまでに約1万人の住民が避難。1月の襲撃以降、国軍は同州で兵士を増員していた。
同州からは少数派イスラム教徒ロヒンギャ約70万人がバングラデシュに難民として逃れている。ミャンマー政府は難民帰還を進めようとしているが、国際機関などは治安悪化を理由に「帰還を急ぐべきではない」などと忠告している。【3月10日 朝日】
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現状はよくわかりませんが、少なくとも現地ラカイン州の状況は治安が安定する方向ではなく、むしろ新たな衝突で新たな難民が発生する状況にもあります。
【再びロヒンギャ「ボート難民」も】
ロヒンギャについても、最近は耳にしなかったボートによる海外漂着も3月、4月に報じられています。
****ロヒンギャ41人が漂着 マレーシア、先月に続き****
マレーシア北部ペルリス州の海岸に8日、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ41人が漂着した。同州の海岸では3月にも子どもを含むロヒンギャ34人が保護されている。地元警察が発表した。
発表によると、今回漂着したロヒンギャは14〜30歳。タイで1人当たり4千リンギット(約10万9千円)を支払って船に乗ったが、同州沿岸で放置され、海岸にたどり着くまでに6人が行方不明になったという。
警察はこの他に約200人がタイ海域の船上に残されているとみている。【4月8日 共同】
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【「連れ戻され、殺されるなら自分で死ぬ方がいい」】
こうした状況で、バングラデシュに逃れた70万人超のロヒンギャ難民帰還はまったく動いていません。
治安も安定しない、そもそも自分たちを焼き討ちし、暴行し、レイプし、殺害した国軍等はその責任を認めてもいないし、当然責任も追及されていないという状況では、多くのロヒンギャ難民が帰還したがらないというのは、これまた当然の話です。
無理やり帰還させられるなら死んだ方がまし・・・と、自殺をはかる難民もいるようです。
ミャンマー・バングラデシュ両国政府も、あまりこの問題に積極的に取り組んでいるようには見えません。
****ロヒンギャ「帰りたくない」 ミャンマー当局へ不信感 バングラへ避難1年半*****
バングラデシュに逃れていたミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの帰還が始まらない。ミャンマー当局への不信感があるためだ。約70万人が逃れて1年半が過ぎ、難民生活は長期化している。(コックスバザール=染田屋竜太)
■連れ戻され殺されるなら…自殺図る
バングラデシュ南東部コックスバザール郊外。竹の骨組みをシートで覆った無数に並ぶ簡易住居の一つを訪ねた。電気のない難民キャンプはどの家も薄暗い。
「連れ戻され、殺されるなら自分で死ぬ方がいいと思った」。ディル・モハマドさん(60)が声を絞り出した。ここでの生活が1年半を超えた。
昨年11月。殺虫剤を水に混ぜ一気に飲んだ。1週間後に始まる予定だった難民帰還の第1陣リストに自分の名前があった。「知らないところで準備が進んでいた」。気を失い、キャンプの医療施設で一命を取り留めた。
帰還を拒むのは、ミャンマー側から逃れる時の光景が目に焼き付いているからだ。「村が焼かれ、遺体が転がっていた。(ミャンマー)軍の仕業だ」
約70万人が難民になる発端は、2017年8月のロヒンギャ武装組織アラカン・ロヒンギャ救済軍(ARSA)による警察襲撃事件だった。
これに対し軍や警察が掃討作戦を実施。ミャンマー側は否定するが、国連などによると多数のロヒンギャが殺され、家を焼かれたとされる。
両政府は昨年11月、難民約2千人の帰還を始めるとしていた。だが別の帰還対象者のヌルル・アミンさん(50)は「用意された10台ほどのバスに乗る人はいなかった」と振り返る。帰還は先延ばしになった。
「今の状況で帰りたい人はいない」とアミンさんは言う。難民の多くが帰還の条件とするのは、ミャンマー国籍の付与、掃討作戦をした治安部隊の訴追、そして帰還後の安全確保だ。
ミャンマー政府は、国内居住歴が確認できた難民には国籍申請資格のある身分証を渡すとしている。だが、同じく帰還リストに名前があったモヌ・マジヒさん(49)は「信用できない」と言う。
ロヒンギャの住んでいたラカイン州では、仏教徒らが帰還に反対。約200人が死亡した12年の仏教徒との衝突で国内避難民になった10万人超のロヒンギャですら、州内の避難民キャンプから戻れないでいる。「ましてや国外に逃れた我々が戻って、安心して暮らせるはずがない」とマジヒさんは吐き捨てた。
■両政府、鈍る動き
両政府とも、難民帰還に向けた動きは鈍くなってきている。バングラデシュ政府の難民帰還担当責任者シャムサッド・ドウザ氏は「事態が進んでおらず、取材には応じられない」と話した。
昨年末に総選挙を控えていたバングラデシュは「難民問題に触れると厄介だ」(与党幹部)と目立った動きをしなかった。だが与党は選挙で大勝した後も、帰還を進める気配がない。
ミャンマー側は「帰還難民用の住宅建設が順調に進んでいる」と説明する。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などは、難民を一時帰還させ、まず現状を見てもらって本格的に戻るかどうか判断させるようミャンマー政府に求めているが、政府は明確な回答をしていない。
キャンプで支援をする国際機関職員からは「数年は多数の難民がキャンプ生活を続けると覚悟した方がいいかもしれない」との声が上がる。日本政府もミャンマー政府とUNHCRを仲介して帰還準備を進めようとしているが、現地の仏教徒らに帰還への根強い反対があり、難しいという。
■「仲間守るため」銃を持った 武装組織メンバー名乗る難民
ARSAのメンバーと名乗る難民がキャンプ近くで取材に応じた。ラカイン州北部出身の男性(49)は2012年、前身組織に加わった。
その年「アタウラ」と名乗る男が村に現れ、「我々は仏教徒に迫害されてきた。仲間を守るため立ち上がろう」と呼びかけ、多くの村人が賛同したという。アタウラはARSAのリーダーとされ、サウジアラビアなどで戦闘訓練を積んだとみられている。
男性は数カ月に1度、近くの山や丘で数十人とともに戦闘訓練を受けた。5、6丁の自動小銃AK47を交代で使い、教師役から撃ち方を教わった。
17年8月、アタウラが男性の村近くに「戦闘員」を集め、「我々の尊厳を守れ」と呼びかけた。ARSAが政府を攻撃するらしいと聞いたが、同月の警察襲撃には加わらなかった。男性は「我々は自分の身を守っているだけだ。テロリストではない」と話した。
ARSAの影響は若者に広がる。16年に加入した男性(19)は、政府機関で「ロヒンギャは高等教育を受けられない」と言われ、大学入学を阻まれたのがきっかけ。「民族で差別するのは間違っている」と話す。キャンプでは仕事もできず、イライラが募る生活を送る。「ARSAは特別じゃない。ロヒンギャを守りたいと思えば誰でもメンバーなんだ」と訴えた。
◆キーワード
<ロヒンギャ> 多くがバングラデシュとの国境地帯に暮らすイスラム教徒。仏教徒が9割近くを占めるミャンマーでは、バングラデシュからの移民とみなされている。大半が国籍を与えられていないため、移動の自由が制限されるなど差別や迫害につながっているとされる。【4月10日 朝日】
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ミャンマー政府が難民帰還に消極的なのはわかりますが、バングラデシュ政府もあまり急いでいないのはよくわかりません。難民保護は資金的にも大きな負担になるはずですが。
国際的な難民支援のカネを中間搾取している訳でもないでしょうに。
【インド政府 4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じる】
なお、ロヒンギャに関しては、インド政府がインド国内に暮らすロヒンギャをミャンマーに引き渡す動きがあるとの報道が以前ありました。
その後の動きについては知りません。
****インド、ロヒンギャ7人をミャンマーに強制送還 国連の警告無視****
インドは(2018年10月)4日、国連の警告を無視してイスラム系少数民族ロヒンギャの男性7人をミャンマーに強制送還した。
国連は、国軍がロヒンギャに対する「ジェノサイド(大量虐殺)」を行っているとされるミャンマーに7人を送還すれば、迫害を受ける恐れがあると警鐘を鳴らしていた。
入国法違反の罪で2012年から身柄を拘束されていたこの7人は、インド北東部マニプール州の国境検問所で、ミャンマー当局に引き渡された。
7人の強制送還を阻止するためインド最高裁に不服が申し立てられていたが、最高裁は4日、これを却下し、ロヒンギャを不法移民とする判断を支持した。
人権団体フォーティファイ・ライツのジョン・クインリー3世氏は、ロヒンギャ7人をミャンマーに強制送還するとしたインドの決定について、「残酷で、命を拷問などの迫害や死の危険にさらす恐れがある」と指摘した。
インド政府は過激派組織とのつながりを理由に、ロヒンギャを安全保障上の脅威と位置づけている。政府は昨年、4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じた。
最高裁は、政府の国外退去命令を違憲とする申し立てを審議している。
国連は、インド国内に登録されたロヒンギャの数を1万6000人としている。【10月5日 AFP】
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****インドのロヒンギャも難民化、バングラ国境で31人拘束****
インドの警察当局は(1月)22日、バングラデシュ国境でどちらの国にも受け入れられなかったために立ち往生していたイスラム系少数民族ロヒンギャ31人を拘束したと発表した。
インドには約4万人のロヒンギャが生活しているが、政府はここ数週間、ロヒンギャの逮捕とミャンマーへの引き渡しを実施。国連や人権団体の激しい非難を受けている。
ロヒンギャはミャンマーで、国連が「民族浄化」と非難する暴力と迫害を受けているため、引き渡しを逃れようとするインドのロヒンギャが大量に移動を始めた。バングラデシュには数週間で1300人のロヒンギャがインドから流入している。
今回、拘束された子ども17人を含む31人は、インド側国境にある有刺鉄線のフェンスを越えたがバングラデシュに入国できず、3日間にわたって立ち往生していた。最終的にバングラデシュの国境警備隊が一行の身柄をインド当局へ引き渡した。
インドの警察当局によると、31人が拘束されたのは同国北東部トリプラ州で、「不法入国」の容疑に問われているという。政府へもロヒンギャ31人が国内で勾留されていることを伝えたという。さらに国連難民高等弁務官事務所へ報告する予定だと説明した。
一方、バングラデシュはこれまで南東部の大規模な避難キャンプにロヒンギャ難民約100万人を受け入れている。うち75%が2017年8月のミャンマー軍による弾圧から逃れてきたロヒンギャで、彼らは軍による殺害やレイプ、放火などを証言している。
人権侵害が続いているとの懸念から、ロヒンギャのミャンマー帰還計画はこう着状態にある。 【1月23日 AFP】
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“インド政府は過激派組織とのつながりを理由に、ロヒンギャを安全保障上の脅威と位置づけている。政府は昨年、4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じた。”というのも随分乱暴な話に思えるのですが、トランプ大統領の移民排斥に見られるように、現代ではこうした異質な者の不寛容は、ごく“当然”のことのように実施されるようになっています。