孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「汝殺すなかれ」という日本的常識が通用しない社会

2019-04-20 23:13:57 | 国際情勢

(マリの首都バマコで、オゴサグ村襲撃事件とフランス軍の駐留をめぐって政府に抗議するデモの参加者ら(2019年4月5日撮影)【4月19日 AFP】 虐殺事件だけでなくフランス軍駐留も問題となっているようです)

【マリ 土地争いから160人を虐殺】

当然のことながら、世界各地では日本の常識では考えられないような事件が多々起きています。

 

ここ2,3日のニュースから、そうしたものを拾うと、まずアフリカ・マリで起きた下記の事件。

 

****マリ内閣総辞職、160人死亡の民族間衝突で政府対応に非難****

狩猟民族が牧畜民族の村を襲撃して160人を殺害した事件をめぐって政府批判が高まっていた西アフリカのマリで18日、内閣が総辞職した。

 

大統領府の発表によると、スメイル・ブベイ・マイガ首相と全閣僚の辞任を、イブラヒム・ブバカル・ケイタ大統領が承認した。

 

マリでは、情勢が不安定な中部モプティ州で民族間の衝突が激化しており、政府の対応に批判が集まっていた。

 

特に先月23日、狩猟民族のドゴン人がブルキナファソとの国境に近いオゴサグ村を襲い、土地利用をめぐって長年対立してきた牧畜民族フラニの村人160人を虐殺した事件では、マイガ政権への退陣圧力が高まっていた。

 

首都バマコでは今月5日、数万人規模のデモが行われ、襲撃事件の増加防止策が不十分だと政府を非難。17日には与野党の議員が共同で、マイガ政権は社会不安を抑え込めていないとして内閣不信任決議案を提出していた。

 

マリでは北部の広大な砂漠地帯を2012年に国際テロ組織「アルカイダ」系のイスラム過激派組織が掌握。20131月にフランス主導の軍事作戦が開始され、過激派の大半は掃討されたものの、今なお国土の広域が無法地帯と化しており、政府は治安の回復・安定化に苦慮している。 【419日 AFP

************

 

アフリカでは、農耕・牧畜・狩猟(今でも狩猟民族というものが存在するのですね・・・・)を生業とする民族・部族が、(民族・部族対立も絡めて)その土地利用を巡って争うというのは、そう珍しい話でもありません。

 

ただ、160人という虐殺の数にちょっと驚きました。

内閣不信任案や総辞職という話は別にして、襲撃した人々はそうした大量殺りくをどのように考えているのでしょうか?

 

日本では、「殺してはいけない」というのは社会の大前提ですが、そうした常識が全く通用しない社会も多々あります。マリのこの地域もそうしたなかのひとつのようです。

 

おそらくは事件が起きた地域は、これまでもいろんな小競り合いがあり、「殺すか、殺されるか」というジャングルの掟が支配する社会(まさに「無法地帯」)なのでしょうが、それにしても・・・・という感も。

 

【バングラデシュ セクハラを訴えた女性を校長が焼き殺す】

もうひとつ印象に残った事件は、セクハラを訴えた女性を校長が焼き殺したというバングラデシュの事件。

 

****校長からセクハラ受けた女子学生、通報後に火を付けられ死亡 バングラ****

バングラデシュで、校長からのセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を警察に通報した女子学生が、複数の人物に火を付けられて後に死亡する事件があった。警察が19日、発表した。女子学生の襲撃を指示したのは、セクハラを行った校長だったとみられている。

 

10日に病院で死亡したのは、イスラム神学校に通っていたヌスラット・ジャハン・ラフィさん。先月下旬に警察に行き、校長からセクハラを受けたと通報した。

 

そのもようを撮影し、後に広まった動画には、地元警察署長がラフィさんの訴えを受理しながらも「大したことではない」と受け流している様子が捉えられている。

 

ラフィさんはその後、複数の人物に学校の屋上に呼び出され、警察へのセクハラ通報を撤回するよう脅迫を受けた。ラフィさんがこれを拒否すると、襲撃犯らはラフィさんに灯油をかけ、火を付けた。

 

警察は事件に関連し、ラフィさんの同級生3人を含む17人を逮捕。うち1人が、襲撃を命じたのは校長で、「ラフィさんに通報を取り下げるよう圧力をかけ、もし拒否したら殺すよう命じた」と供述した。

 

警察幹部の話では、逮捕者のうち5人が、火を放つ前にラフィさんをスカーフで縛り、自殺に見せかけようとした疑いもあるという。

 

ラフィさんは体表の8割にやけどを負った。死亡する前に自ら動画を撮影し、「先生が私を触った。息絶えるまでこの犯罪と闘う」と校長への非難を繰り返していた。

 

事件を受けて国内各地で抗議デモが発生。シェイク・ハシナ首相は、関与者全員を訴追すると約束した。 【419日 AFP

******************

 

性的暴行の訴えを警察がまともに取り上げない(そのくらいは“問題とするような話ではない”ということなのでしょう)ということは、隣国のインドなどでも見られる傾向で、女性への暴力が社会問題となっています。

 

ただ、今回事件では首謀者が校長で、生徒ら使って被害者女性を焼き殺してしまうというあたりが驚きです。

 

マリの場合は内閣総辞職に至り、バングラデシュの事件でも国内各地で抗議デモが発生しているということで、国民の多くはこうした事件を“とんでもないことだ”と認識はしているようで、そのことはひとつの救いでしょうか。

 

【サウジアラビア 「戻れば殺される」】

もうひとつ、日本的価値観からすれば非常識な事件を。

 

****「戻れば殺される」サウジ姉妹、ジョージアに逃亡 保護訴える*****

旧ソ連のジョージアに逃亡したサウジアラビアの姉妹2人が、国際社会に保護を求めている。超保守国家サウジで抑圧され、逃亡する女性が後を絶たない。

 

姉妹はツイッターの「@GeorgiaSisters」というアカウントで、サウジ当局にパスポートを無効にされたため「ジョージアに足止めされている」と主張。

 

2人が掲載したパスポート写真によると、姉妹はそれぞれ28歳と25歳だという。

 

姉はツイッターに投稿した動画の中で、「私たちは危険にさらされている」「サウジに戻れば殺されてしまう」と訴え、「どこか安全な国に亡命申請したい」と助けを求めた。

 

国連難民高等弁務官事務所は姉妹の状況を「注視している」と発表した。

 

これに対しジョージア内務省の報道官は18日、AFPの取材に対し、姉妹から「ジョージア当局への接触はこれまでのところない」「亡命申請はされておらず、いかなる種類の支援の求めもない」としている。

 

サウジ国民がジョージアに旅行する際、ビザ(査証)取得は不要となっている。

 

女性に対する制約が最も厳しい国の一つであるサウジアラビアからは、家族の虐待を逃れようと20歳と18歳の姉妹が中国・香港で潜伏生活を送り、先月安全な第三国にたどり着いた。また今年初めにも、ラハフ・ムハンマド・クヌンさんがカナダで難民認定され、劇的な逃亡劇に世界中が注目した。 【418日 AFP

******************

 

記事にもあるように、この種の事件はサウジアラビアでは時折目にします。

 

いまだ血が流れている訳ではありませんが、前述のようにマリでも、バングラデシュでも事件を厳しく批判する大きな世論が起きているのに対し、サウジアラビアの場合は、(公式コメントがどのようなものになるかは別にして)「姉妹を連れ戻すことのどこが悪い。当然のことではないか」というのが指導層や多くの人々の意識であるという点で、問題の根は深いとも言えます。

 

【身近な世界でも・・・】

なお、マリやバングラデシュの事件は、日本とは隔絶した遠い世界の出来事のようにも思えますが、暴力で問題を解決しようとする姿勢は(国内的には支持を得ている)フィリピン。ドゥテルテ政権の麻薬関連容疑者の超法規的殺人にも通じるものでしょう。

 

更に言えば、力の論理を前提にしている社会という点では、アメリカ・銃社会も・・・と言えば、いささか飛躍が過ぎるでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする