孤帆の遠影碧空に尽き

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ミャンマー  国民の期待に応えられていないスー・チー政権 来年総選挙に向けて正念場

2019-04-24 22:21:28 | ミャンマー

(政治家として正念場を迎えているスー・チー氏 画像は【4月3日 NHK】)


【予想どおり、ロイター記者上告棄却】

ミャンマーの最高裁は23日、ミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャに対して行った弾圧を取材中に、国家機密法に違反したとして禁錮7年の刑を言い渡されたロイター通信の記者2人の上告を棄却しました。

 

****ミャンマー最高裁、ロイター記者らの上告棄却 国家機密法違反で禁錮7年****

(中略)ミャンマー国籍のワ・ロン記者とチョー・ソウ・ウー記者は、2017年12月に国家機密法違反で逮捕されて以来、身柄を拘束されている。

 

2人はミャンマー西部ラカイン州で同国軍のロヒンギャ弾圧に関する取材を行っていた際に機密文書を所持していたとして昨年9月、国家機密法違反で禁錮7年を言い渡されていた。

 

2人が出廷しなかった最高裁での判決も、下級審を支持するものだった。人権団体や法律専門家らはこの裁判は不正だらけだと訴えている。

 

ロヒンギャ危機では2人が取材していた残虐な弾圧により、約74万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃れた。 【4月23日 AFP】

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“2人は、ミャンマー治安部隊によるイスラム系住民ロヒンギャへの迫害を取材していた2017年12月、最大都市ヤンゴンで、警察からロヒンギャ関連の機密文書を受け取った直後に逮捕された。18年4月の予審では、検察側証人として出廷した警官が(文書を渡したのは)ワナだったと暴露し、2人も一貫して無罪を主張していた。”【4月24日 読売】と、事件の構図そのものが“疑わしい”ものですが、そのあたりはミャンマーでは無視されているようです。

 

国軍が圧倒的な実権を有する、また、かつては民主化運動の象徴だったスー・チー氏もロヒンギャ問題に関しては口を閉ざしているミャンマーの国内事情を考えれば、国軍の“犯罪”を取材した記者が弾圧されるというのは予想された流れではありますが、落胆を禁じえません。

 

“記者側の弁護士によれば、両記者はこれ以上の上訴は行わない考え。その代わり、大統領からの恩赦を待つ方針だという。同弁護士は今回の判断について報道の自由にとって大きな障壁だと指摘した。”【4月24日 CNN】とのことですが、恩赦の可能性も厳しいものがあります。

 

先日の新年の恩赦でも、二人は含まれていませんでした。

 

“4月17日、ミャンマーは9000人以上の囚人を刑務所から釈放し始めた。ウィン・ミン大統領が同国の元日に際して恩赦を発表したことを受けたもの。国家機密法違反の罪で収監されているロイターの記者2人は恩赦の対象に含まれていない。”【4月17日 ロイター】

 

【ロヒンギャ問題で対応を硬化させる欧米 投資減少で経済失速も】

この問題に対する国際的な見方は厳しく、グテレス国連事務総長は「この2人の記者がラカイン州のロヒンギャ族に対する重大な人権侵害を取材したことで訴追される事態は容認し難い。2人の釈放とジャーナリストの保護強化を推進し、尽力していかなければならない」と述べています。【4月23日 ロイター】

 

こうした欧米社会の厳しい見方を背景に、“欧米企業のミャンマーへの投資意欲がそがれかねない。北米や欧州からの観光客数も下げ止まらない可能性が高い。”【4月24日 日経】とも。

 

民主化期待で急拡大したミャンマーへの外国投資は最近はブレーキがかかっており、ミャンマー経済の減速要因となっています。

 

****スー・チー政権3年 外国投資ピーク時の3分の1に 総選挙控え規制緩和急ぐ****

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)政権の発足から3月30日で3年となった。

 

この間に打ち出した経済改革は成果を出せず、外国投資はピーク時の3分の1に縮小。経済成長は鈍化が続く。政権は2020年の総選挙を控え、規制緩和などを急ぎ始めた。

 

「ミャンマーは経済の門戸を開き、国際基準に合うよう規制緩和に取り組んでいる」。スー・チー氏は2月下旬、西部ラカイン州タンドウエで開いた投資セミナーで経済改革の推進を強調した。

 

16年3月、長年の軍人出身者主導の支配が終わり、民主化指導者のスー・チー氏を実質的なトップとするNLD政権が発足した。直後には米国が経済制裁を解除するなど、経済開放に弾みがつくと期待された。

 

だが実態は期待どおりには進んでいない。3月初旬のミャンマー南部のダウェー経済特区。整地された土地だけが広がる。15年にタイ建設大手が開発権を得たが工事は一向に進行していない。地元の企業関係者は「政権は本気で取り組むつもりがあるのか」と疑問の声をあげる。

 

ミャンマー投資委員会の外国投資認可額は18年4月から19年2月で34億ドル(約3700億円)と前年同期比35%減。3年連続の減少でピーク時の3分の1の水準だ。

イスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害問題を受け欧米が投資を控えていることが響いている。

 

欧州商工会議所のフィリップ・ローウェリセン事務局長は「当局が問題の深刻さを認識し、問題解決に取り組む姿勢をみせることが重要だ」と指摘する。(後略)【4月1日 日経】

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欧米から投資を呼び込むためにはロヒンギャ問題での譲歩が必要ですが、国軍の抵抗だけでなく、ロヒンギャを強く嫌悪する国民世論を考えると、それは国民支持を失うことにもなりかねません。(スー・チー氏自身も、ロイター記者を“裏切り者”呼ばわりしていることからすると、ロヒンギャを擁護するような欧米的認識は持っていないようにも見えます)

 

【成果を示せないスー・チー政権 かつての勢いを失った与党NLD】

2020年には総選挙があります。市民の間で生活向上が実感できないことへの不満が強まっており、このままではNLD政権は過半数を維持できない可能性もあります。

 

昨年11月の国会と地方議会の補欠選挙でも、スー・チー氏率いる与党NLDにはかつての勢いが見られませんでした。

 

****ミャンマー補選、与党が4議席失う 地方に失望の声****

ミャンマーで国会と地方議会の補欠選挙が3日に行われ、国営テレビは4日夜、計13議席中12議席の当選者を発表した。

 

前回2015年の総選挙で計11議席を得たアウンサンスーチー国家顧問率いる与党・国民民主連盟(NLD)は計6議席にとどまった。

 

経済成長の鈍化や民主化の停滞でNLD人気が失速した形で、20年の総選挙でも苦戦する可能性が出てきた。(中略)

 

一方、軍事政権の流れをくみ、前回総選挙で大敗した野党・連邦団結発展党(USDP)は議席がなかったが、今回は上院1議席を含む計3議席を得た。

 

16年に発足したNLD政権だが、旗印に掲げた民主化のための憲法改正は進まず、少数民族武装勢力との和平も停滞する。

 

少数派イスラム教徒ロヒンギャの問題などで外国投資や欧米からの観光客も減少し、地方を中心に「期待はずれだ」との声が上がっている。

 

一方、USDPは「(テインセイン)前政権時代は国民が幸せだった」などと不満票の取り込みを狙った。

 

ミャンマーでは軍政時代に定められた憲法の規定で国会の4分の1の議席が軍に割り振られている。有権者のNLD離れが続けば、20年の総選挙で国会の単独過半数を維持できなくなる可能性が高まる。【2018年11月4日 朝日】

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経済成長の鈍化だけでなく、上記記事にもあるように少数民族武装勢力との和平も停滞しています。

スー・チー氏としては、少数民族問題に関しては、少数民族の権利擁護に前向きだった父アウン・サン将軍の志を継いで取り組む意向を見せていましたが・・・。

 

****スー・チー氏父の像に抗議=ミャンマー少数民族暴徒化****

ミャンマー東部カヤ州で12日、アウン・サン・スー・チー国家顧問の父、故アウン・サン将軍の銅像設置に抗議する少数民族のデモ隊が暴徒化し、警察が催涙ガスや放水で鎮圧に当たった。地元当局者によると、抗議行動には約3000人が加わり、約10人が負傷した。

 

アウン・サン将軍は、多数派のビルマ民族からは英国の植民支配と闘った「建国の父」と慕われているが、少数民族はビルマ民族による支配の象徴とみている。【2月12日 時事】

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経済問題、少数民族問題で停滞するなかで、せめて憲法改正で動きを見せたいという焦りにも似た思いもあってのことでしょうが、今年1月、スー・チー与党は軍の反対を振り切る形で憲法の改正に向けた委員会の設置を決めています。

 

****スーチー与党、改憲へ動き 軍との緊張高まる可能性****

ミャンマー国会は29日、軍事政権下で定められた憲法の改正に向けた委員会の設置を決めた。

 

アウンサンスーチー国家顧問の与党・国民民主連盟NLD)は軍の政治関与を定める憲法が「非民主的だ」として、改憲を掲げてきたが、2016年に政権に就いて以降は、軍との関係を考慮して国会での改憲動議を封印してきた。今後、軍との緊張が高まる可能性がある。

 

地元メディアによると、NLDの上院議員が29日、上下両院の議員によって構成される憲法改正委員会の設置を緊急提案した。改憲をめざす動きに、軍人議員は強く反発。NLD議員らの賛成多数で可決したが、多数の棄権票が出た。

 

NLDは軍も参加する少数民族武装勢力との和平協議の中で軍の賛同を取り付けたうえで改憲を実現する戦略を描いていた。だが、和平協議が進展しない中、NLDは来年に迫った総選挙に向け、改憲への姿勢を国民にアピールする必要に迫られていた。

 

憲法では、軍人枠のほか、外国人の家族がいると大統領になれないことなどが定められており、NLDは改憲を旗印に15年の総選挙に臨み、大勝した。ただ、改憲には国会の4分の3超の賛成が必要で、軍が態度を変えない限り、不可能だとされている。【1月31日 朝日】

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しかし、軍が反対する状況で、今後の見通しはたっていません。

 

【20年総選挙は、スー・チー氏の政治家として正念場】

来年総選挙までに、経済・少数民族問題・憲法改正などで、どれだけの実績を示せるか、スー・チー氏は正念場を迎えています。

 

****ミャンマー 民主化勢力による政権発足から3年 正念場のスー・チー氏****

2016年、ミャンマー民主化のリーダー、アウン・サン・スー・チー氏が国民の圧倒的な支持を集め、国の事実上のトップになって3年。

 

政権誕生の際には「国民の融和」と「国全体を豊かにすること」を理想に掲げたが、国民の間からは怒りが噴出している。

 

長年内戦を続けてきた少数民族の武装勢力と政府軍との和平交渉には大きな進展がみられない。また欧米各国との関係が冷え込む中、高い成長を続けていた経済にも暗雲が立ちこめている。来年行われる総選挙を前に、スー・チー政権は今、大きな岐路に立たされている。

 

各地で相次ぐ少数民族によるデモ

100を超える民族が暮らすミャンマー。スー・チー氏は、すべての民族が平等で、共存できる国にすることが、民主化と安定を実現する上で大きな課題だとしてきたが、理想の言葉とは裏腹に、各地でデモが相次いでいる。

 

今年2月、ミャンマー東部の町で、地元の少数民族・カレンニ族による数千人規模のデモが勃発した。デモが起きたきっかけは、スー・チー氏の父親で、ミャンマーの建国の父とされるアウン・サン将軍の銅像が、この町に建設されたことだった。

 

建設を進めたスー・チー氏率いる政権側の目的は、民族の自治と共存を掲げたアウン・サン将軍の建国の理念を広めることだった。

 

しかし少数民族の人たちは、銅像は、むしろ多数派のビルマ族の支配の象徴にしか見えないと受け止めたのだ。

 

デモを主導した一人、ディーディーさん(38)は、軍事政権下だった子どもの頃から住民が暴行を受けるなど、抑圧を目の当たりにしてきた。そのため、前回の選挙では、自分たちを平等に扱ってくれると信じてスー・チー氏を支持した。

 

しかし今は、スー・チー氏の姿勢に疑問を感じている。「私たちは相変わらず無視され、2等市民のような扱いを受け続けている」(ディーディーさん)。ディーディーさんは次の選挙では、地元の少数民族政党の支持に回ろうと考えている。

強まる国際社会からの非難

スー・チー氏の政権は国際的な非難にもさらされている。国連は、軍主導の治安部隊が、少数派のイスラム教徒・ロヒンギャの迫害に関与した疑いがあるとして、ミャンマー政府に対して事実の解明など、責任ある対応を求めている。

 

これに対してミャンマー政府は「一方的な非難だ」と反論している。

 

こうした事態を受けて、経済支援を通じてミャンマーの民主化を促してきたEU=ヨーロッパ連合は、これまでの方針を見直そうとしている。2013年から関税を免除してきた優遇策の撤廃を検討しているのだ。

 

実際に撤廃された場合、打撃が及ぶとみられているのがミャンマーの製造業をけん引している縫製産業だ。輸出のおよそ半分はヨーロッパ向け。

 

ミャンマー縫製産業協会の事務局長は「免税措置のおかげでヨーロッパ向け輸出は急増してきた。雇用に影響が出かねない」と述べ、優遇策が撤廃されれば、経済成長にブレーキがかかるかもしれないと懸念を示している。

 

国民に広がる不安 正念場のスー・チー氏

妹とともにミャンマー最大の都市ヤンゴンに出稼ぎに来ているヌエ・ニさん(26)は、縫製工場の工員で、ひと月の給料は日本円で約2万円。寮で生活しながら、給料の大半を実家の家族に仕送りしている。

 

そんなヌエ・ニさんは、これまではスー・チー政権を支持してきた。この3年で給料が大幅に増え、豊かさを実感している。しかし、海外からの投資に影響が出てくれば、会社から解雇されてもおかしくない今の状況に不安も感じている。

 

ヌエ・ニさんは、取材班のインタビューにこう語った。「参入する外国企業が増えて、ミャンマーの経済が続くことを願っている。来年の選挙で誰に投票するかは、まだ決めていない」。

 

国民の多くが、理想と現実の隔たりに気づき始めるなか、スー・チー氏は積極的に地方を回り、国民に理解を求めている。「国の繁栄と安定、平和という最初の目標を達成するためには、あらゆる問題において、お互いに妥協しなければならない」(アウン・サン・スー・チー氏)。

 

ミャンマー民主化のシンボルとして、これまで期待を一身に集めてきたスー・チー氏は、を迎えている。【4月3日 NHK】

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