(1968年の「下放」青年の様子 習近平氏が今の中国若者にこういう場面を期待しても無理でしょう。ただ、その「無理さ」が余計に習近平氏の心中にあるものを急き立てるのかも 画像は【2016 年 5 月 16 日 WSJ】)
【夏休みのボランティア活動?】
中国国内政治関連で最近気になったニュースは、下記の文革当時の「下放」の再来をも思わせる施策に関するものです。
****1千万人の若者よ、農村へ 中国共産党の派遣計画が物議****
中国共産党の青年組織、共産主義青年団(共青団)が、2022年までに1千万人以上の若者を農村に派遣する計画を発表し、議論を呼んでいる。習近平(シーチンピン)指導部が進める農村の脱貧困や都市部との格差是正に役立てる狙いだが、毛沢東時代の苦難を思い出す人が多いようだ。
共青団が3月下旬に全国に通知した文書によると、農村の現代化を目指す習指導部の政策を実践するため、リーダーとなる青年を育てることが目的だ。
具体的には、農民の思想やマナーの向上を目的とするプログラムに10万人以上▽貧困地区などに文化や科学、衛生などの知識を普及させる夏休みの学生プログラムに1千万人以上▽農村での起業プログラムに10万人▽農村の共青団幹部となる人材に1万人以上――などの目標を立てた。
だが、中国では1966年から76年の文化大革命で多くの若者が農村に送り込まれ、厳しい労働をさせられた歴史がある。
その一人だった習氏は当時の経験が政治を志す土台になったと公言しているが、ネット上では「文化大革命の再来だ」との批判や「都市で仕事が見つからない学生の就職対策では」などの声が出ている。
共青団側は「文革当時とは全く別物だ」「学生はボランティアであり、夏休みの活動は1カ月以内」と釈明に追われている。
党幹部が輩出した共青団は「民衆から遊離している」と習指導部に「貴族化」を批判された経緯があり、農村での活動計画はこうした批判に応える狙いもあるとみられる。【4月14日 朝日】
******************
****「下放」の再来か…中国、地方部に若者数百万人の派遣検討****
中国で、農村部に数百万人の若者たちを「ボランティア」として派遣する計画が進められている。だが50年前に毛沢東が苛烈な文化大革命期に取った措置の再来を懸念する声が上がっている。
中国共産党の文書によると、同党の青年組織でエリート養成機関の「中国共産主義青年団(共青団)」は、「スキルを高め、文明を広め、科学や技術を促進する」ために、2022年までに1000万人超の学生を「地方部」へ派遣することを公約したという。
11日付の国営紙「環球時報」が、共青団の文書を引用して伝えたところによると、派遣の目的は、そうしなければ大都市での生活に魅かれてしまう若者たちの才能を地方部に伝えるためだという。
同国中部・湖南省の町の副町長は環球時報に対し、「私たちは地方における伝統的な開発モデルを刷新する一助として、科学や技術に携わる若者が必要だ」と述べた。
学生たちは夏季休暇の間、地方部で暮らすことを要請されることになるが、共青団は、どうやって若者にボランティアへ参加させるかは明らかにしなかった。
共青団によると、最優先の派遣先は以前の革命時の拠点となった場所や、極度の貧困に悩まされている地域、また少数民族が暮らす地域だという。
その一方、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」では、懸念を示すユーザーの反応がみられた。
多くの人々は、大学が10年にわたって閉鎖され、毛沢東によって「若い知識人」たち数百万人が地方部の低開発地域に派遣された1966年から76年まで続いた文化大革命の混乱を想起。「また始まるのか?」「もう40年前に実施された」との投稿もあった。 【4月14日 AFP】
***********************
夏休み時期の「ボランティア」・・・・どうでしょうか?
参加しないと、表だって、あるいは水面下でペナルティーが課されるようなものは「ボランティア」とは言いませんが・・・。
どう見ても、文革時の「下放」とイメージがだぶります。
計画した共青団は、胡錦涛前国家主席や李克強首相の出身母体で、習近平主席に対抗する勢力でしたが、最近ではすっかり習近平主席によって牙を抜かれてしまったとも言われています。
【朝日】記事の最後にあるような話であれば、習近平主席におもねるような感じにもとられます。
【文革の歴史を徐々にあいまいにしようとする動き】
文革時の「下放」が想起されるのは、否定されたはずの甚大な混乱・犠牲を出した「文化大革命」について、近年再評価ともとられるような動きがあるからです。
****中国の教科書「文化大革命」を削除へ ネット流出で騒動****
(2018年)3月から中国の中学校で使われる歴史教科書から、中国が混乱に陥った政治運動「文化大革命」の項目が削除される見通しだ。文革を発動した毛沢東の過ちを認める表現が削られるとみられる。
中国では政治的な問題を巡る発言への締め付けが強まっているが、改訂の是非を巡り批判や疑問の声が上がっている。
中国は昨秋から順次、「歴史」「国語」「道徳と法治」の教科書の改訂を進めている。以前は複数の出版社の教科書が使われていたが、この3科目は「重要で特殊な教育機能がある」として教育省が統一して監修するようになった。新たな教科書では、愛国意識を養い、共産党が国を発展させた歴史を詳しく教えることに重点を置いている。
注目を集めているのは、中学2年生向けの「中国歴史」。現行版は「文化大革命の十年」という独立した項目を設け、全国の学校や工場が閉鎖され、知識人らが迫害されたなどと説明している。ところが10日、新版とみられる内容の一部がネット上に流出、文革の項目がなかったことから騒動になった。
出版社側はすぐにコメントを発表。文革については別の項目の中でしっかり採り上げ、マイナス面にも触れるとした。
しかし、流出した新版の内容では、現行の「毛沢東が誤って認識」との表現や「動乱と災難」という見出しが消える一方、「世界の歴史は常に曲折を経て前進してきた」との説明が追加されている。
改訂には、習近平(シーチンピン)国家主席の意向が反映された可能性もある。習氏は2013年の毛沢東生誕120周年座談会で、文革の誤りを指摘しつつ「個人の責任だけでなく、国内外の社会的、歴史的な原因があった」と主張。「世界の歴史を見れば、どの国や民族もみな曲折に満ちている」と、毛への批判を和らげようとするような発言をした。
「今さら覆い隠してどうするのか」
文革を研究してきた北京大学の印紅標(インホンピアオ)教授が朝日新聞のインタビューに応じ、この問題について語った。
◇
中国で、文革の歴史を徐々にあいまいにしようとする問題は、昨日や今日に始まったものではない。教科書の言葉はより穏やかなものとなり、マイナス面の内容は減ってきている。理由は三つあると思う。
まず文革は共産党の過ちであったということ。党のイメージの問題がある。党の統治の威信や合理性に影響するからだ。
二つ目は、団結のためだ。ある期間までは悪いことはすべて(毛沢東の周りにいた)林彪や江青がやったとして団結が保てたが、弊害が大きくなっている。
最後に、文革研究は共産党の制度上の問題につながっていくということ。中国国内で研究が制限される一方、海外では学術的なもの以外に、反共の人々も文革を研究している。こうした人々に文革の歴史が利用されるのを恐れているのだ。
しかし、私には理解できない。1980年代、共産党は文革の歴史について自ら過ちを正し、人民の支持を得た。それを今さら覆い隠してどうするのか。
将来、国内の人々は何も分からず、国外の人々だけが文革について語るようになれば、私たちは文革についての発言権を外国に渡してしまうことになる。愚かな政策だと思う。
どの民族も、過ちを犯すときがある。日本の侵略戦争やソ連のスターリン時代の問題などたくさんある。中国では文革がそうだ。
問題はいかにそれを正しく認識するかだ。真剣に過去に向き合い、過ちを繰り返さないようにするならば、現在の人々が恥じることはない。歴史を直視し、過ちをきちんと認めることができれば、私たちは必ず尊重されるはずだ。(後略)【2018年01月12日 朝日】
*****************
若い方は「文化大革命」と聞いてもピンとこないかもしれませんが、TVなどでリアルタイムな情報を見聞きする機会がった私などは、子供のころで何が起きているのかはわからないながらも、大勢の紅衛兵が「造反有理(上への造反には、道理がある)」のスローガン」を掲げて行進する様子、政治家や知識人などが三角帽子を被されて引き回される様子などに、なんだかすごいことが起きているという強烈な印象を持ちました。
****文化大革命****
1966年、共産党内の路線対立を背景に、毛沢東主席が階級闘争の継続などを訴え大衆を動員して始めた政治運動。「紅衛兵」と呼ばれた若者らが毛と対立する政治家や知識人などを攻撃し多くの犠牲者を生んだ。76年に終結するまで、国全体が混乱。共産党は81年の決議で「指導者が誤って引き起こし、党と国家、人民に深刻な災難をもたらした内乱」と総括した。【同上】
********************
“文化大革命中、各地で大量の殺戮や内乱が行われ、その犠牲者の合計数は数百万人から1000万人以上ともいわれている。”
“毛沢東の1927年に記した
「革命は、客を招いてごちそうすることでもなければ、文章を練ったり、絵を描いたり、刺繍をしたりすることでもない。そんなにお上品で、おっとりした、みやびやかな、そんなにおだやかで、おとなしく、うやうやしく、つつましく、ひかえ目のものではない。革命は暴動であり、一つの階級が他の階級を打ち倒す激烈な行動である。」
という言葉が『毛主席語録』に掲載され、スローガンとなって、多くの人々が暴力に走った。”【ウィキペディア】
この「文革」混乱期にとられた施策が、都市青年を農村に送り込む「下放」であり、“紅衛兵運動から下放収束までの間、中華人民共和国の高等教育は機能を停止し、この世代は教育上および倫理上大きな悪影響を受け、これらの青少年が国家を牽引していく年齢になった現在も、中華人民共和国に大きな悪影響を及ぼしていると言われる。”【ウィキペディア】とも。
1981年には文化大革命をリードした「四人組」に対する有罪判決が出され、また、中国共産党は文化革命が「中華人民共和国の創設以来、最も厳しい後退、党、国、そして国民が被った最も重い損失を負う責任がある」と宣言しました。
中国政治・共産党に関するイメージを二つあげるとすれば、個人的には、この「文化大革命」と「天安門事件」です。
【文革時代にストックホルム症候群的な思いを抱く(?)習近平氏】
その、数百万人から1000万人以上の犠牲者を出したとされる文革が再評価されるということが注目されるのは、そうした動きをリードする習近平氏自身が文革で下放され、父親は迫害を受けるという経験をもつ、まさに文革の時代を基盤とする人物であるからです。
かねてより、習近平氏は文革に対するノスタルジーともとれるような、肯定的発言もしています。
****教科書改訂で毛沢東の文革再評価、習政権の狙い****
「誤った認識」は「必要な苦労」へと改変
(中略)
習近平が文革について、非常に深い思い入れを持っていることはかねてから指摘されていた。
習近平が愛用するスローガンやキメ台詞には「党政軍民学、東西南北中、党が一切を指導する」といった文革時代に使われたものが多く、習近平が下放された先の陝西省北部の梁家河の経験を美化するようなラジオドラマを作らせたりもしている。
また、毛沢東時代の前半30年、後半30年ともに過ちはなかったという発言もしており、毛沢東を完璧な英雄だと見ているようでもある。
文革で苦労した習近平一家
多くの知識人にとっては、悪夢であり、中国が最も野蛮であった暗黒期という認識の文革時代だが、いわゆる本当の意味での知識人ではなかった習近平にとっては、思春期に毛沢東思想にどっぷりつかったときの精神的刷り込みの方が強烈であった。
あるいは自分が毛沢東のようになるつもりであり、そのために毛沢東のやったことは全部正しかった、と言いたいのかもしれない。
習近平は本気で、文革時代は貧しくとも皆が清廉であった理想の時代、とか思っているかもしれない。
いずれにしろ、習近平が理解している唯一の権力とは、毛沢東そのものであり、習近平が知る権力掌握、権力維持の唯一の方法は階級闘争であった、といえる。
文革時代、習近平の父親の習仲勲は迫害に遭い、習近平自身も下放先で苦労しているはずだ。なのに、なぜここまで文革と毛沢東に対して強い思い入れをもちうるか、については、米国のニューヨーク市立大学政治学教授の夏明がラジオ・フリー・アジアの取材に次のように分析している。
「習近平とその取り巻きたちは、彼らのなじんでいるロジックで中国の歴史と未来を見ている。つまり彼らの思想形成期は中国史上最も暗黒で貧しく野蛮な人類の悲劇の中で形成された。
習近平ら50年代生まれのイデオロギーと思想、世界観は一種のストックホルム症候群(人質が犯人に過度の好意や共感を持つこと。無意識の生存戦略)的なもので、迫害時代のいけにえのようなものではないか。
あの時代にのみ理解可能な生命の意義、あの時代の枠組みでのみ解釈できる生存の価値というものがあり、それに一種の懐かしさを覚えるのだ。
習近平のいかなる行動、思想もあの時代の結果として培われたもので、あの時代を超えるものにはならない。……我々にとってより大きな悲劇は、そういうあの時代が生んだ指導者が、50年前の思想をもって、未来を見ていることだ。すでに歴史が過ちであったことを証明している毛沢東のやり方を維持して、未来の新時代の人々の上に用いようとしていることだ」(後略)【2018年9月26日 福島 香織氏 日経ビジネス】
*********************
中国最高指導者が混乱・暴力の暗黒時代にストックホルム症候群的な思いを抱いているとすれば、それは13億中国人民だけでなく、中国との密接な関係が不可避である日本や世界にとっても不幸なことです。
【進まぬ「天安門事件」再評価】
本来、再評価すべきは「文化大革命」ではなく、「天安門事件」という民主化運動のはずですが、天安門事件の再評価の兆しは未だ見られません。
****中国、民主化要求警戒=天安門事件30年控え―胡耀邦氏命日****
中国で学生らによる民主化運動を武力弾圧した天安門事件のきっかけとなった胡耀邦元共産党総書記の死去から15日で30年を迎えた。
習近平指導部は、開明派として知られる胡氏を追悼する動きが民主化を要求する運動や政権批判に発展することを警戒しているもようで、緊張したムードが漂っている。
香港の人権団体・中国人権民主化運動情報センターによると、胡氏の親族が15日、江西省共青城にある胡氏の墓地を参拝した。当局が慎重な行動を要求したため、一部の親族は15日を避け、事前に参拝。宿泊するホテル周辺では数十人の公安当局者が親族の活動を監視しているという。
海外の報道機関は12日に近親者による追悼集会が北京で行われたと報じたが、官製メディアは伝えていない。【4月15日 時事】
***************