孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  極右ボルソナロ大統領のもとで“どうなる、ブラジル?”

2019-04-27 21:58:59 | ラテンアメリカ

(米ホワイトハウスのローズガーデンで共同記者会見を行ったドナルド・トランプ米大統領(右)とブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領(2019319日撮影)【320日 AFP】 似た者同士の二人です)

 

【多様性強調がお気に召さなかった?】

「ブラジルのトランプ」「ブラジルのドゥテルテ」とも称されるブラジルの極右・元軍人のボルソナロ大統領ですが、就任前から懸念されたように、下記の報道が示すものは今後のブラジルにとって深刻な問題となるように思えます。

 

****ブラジルの多様性を強調したCM、極右大統領の要請で放映中止に****

ブラジルで今月1日から放映されていた多様性を強調したブラジル銀行のCMが、極右のジャイル・ボルソナロ大統領の要請を受けて14日に放映中止になっていたことが分かった。ブラジル銀行が26日、明らかにした。

 

このCMは若い顧客を呼び込むことを意図したもので、黒人と白人、心と体の性別が一致しないトランスジェンダー(性別越境者)、タトゥーを入れたり、髪を染めたりしている俳優らが、陽気な音楽に合わせてセルフィー(自撮り写真)を撮る中、ナレーションでオンライン口座の開設方法を説明する内容だった。

 

有色人種はブラジル人口の大多数を占めているにもかかわらず、広告に起用される例は少ない。

ブラジル銀行のルベン・ノバエス頭取は、「大統領と、このCMを放映中止にすることで合意した」ことを発表したが、理由については詳細を明らかにしていない。また、同銀行のマーケティング部長が辞任した件については、双方で話し合った上でのことだと説明している。

日刊紙グロボによると、ボルソナロ氏はノバエス氏に直接連絡し、CMの放映中止を求めたという。

大統領による今回の干渉をめぐっては、多方面から批判の声が上がっている。 【427日 AFP】

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ボルソナロ大統領はCMのどこが気にいらなかったのでしょうか?

ブラジルは、LGBTなどは否定するキリスト教徒白人の国家だ・・・ということでしょうか?

 

【「あの人にレイプする価値がないのは、あの人がとても醜いからです」】

ボルソナロ大統領の“過激な”あるいは“偏向した”発言は大統領選挙戦の間も話題になっていましたが、そうした考えは就任後も変わらないようです。

 

****「ご存知の通り、私は拷問賛成派です」“ブラジルのトランプ”語録が過激すぎる****

(中略)一方、ボルソナロは軍政時代を肯定する言動や女性蔑視・同性愛嫌悪・人種差別の発言が問題視されてきた。以下は物議をかもした彼の語録である。


拷問

「ご存じのとおり、私は拷問賛成派です。国民も拷問賛成派です。この国では投票で何かを変えることなどできません。投票では何一つ変えられません。変えられるとしたら残念ながら内戦が始まってからです。

軍事政権がやらなかったことをやらなければなりません。3万人くらい殺してね。手始めにフェルナンド・エンリケ・カルドーゾ大統領(当時)からです。無実の人が死ぬこともあるでしょうが、それはやむをえません」(1999年テレビ局「バンデランテス」のインタビュー)(中略)


同性愛

「同性愛の子供を愛するなんて無理です。偽善者にはなりたくありません。自分の息子が口髭をたくわえたムキムキの男と一緒に現れるくらいなら息子に事故死してほしいです。どちらの場合でも私にとって息子が死ぬことに変わりありませんからね」(2011年の『プレイボーイ』誌のインタビュー)

 

レイプ

「私はあなたをレイプしません。あなたにはその価値もありませんから」

2014年、左派の議員マリア・ド・ロザリオに対するブラジル下院での発言。ボルソナロはその後、「ゼロ・オラ」紙の取材を受けて、自分の発言をこう説明した。「あの人にレイプする価値がないのは、あの人がとても醜いからです。タイプではないんです。私があの人をレイプすることは絶対にありえません。私はレイプをするような人間ではありませんが、仮にそうだったとしても、あの人にはその価値がないんです」)

 

女性

「ブラジルの起業家の世界を見ると悲しくなります。労働関連の法律が多すぎるこの国では、会社経営者になると災難なのです。起業家が若い女性従業員を見て、何を思うか知っていますか。『なんてことだ。この女性は指輪をしているぞ。どうせ妊娠して6ヵ月の産休だ』と思うわけです。産休の費用を払うのは誰ですか。雇用者ですよね。

最終的には社会保障から出ますが、それでも仕事のリズムが崩れてしまうわけです。その女性がようやく職場に復帰したと思ったら、またすぐに1ヵ月のバカンスをとるわけです。結局、その年は5ヵ月しか働かないのです」(201412月の「ゼロ・オラ」紙のインタビュー)

 

宗教

「神は万物の上におられます。この国に世俗的国家の歴史などありません。この国はキリスト教の国家です。嫌なら出ていけばいいのです。少数派は多数派に従わなければなりません」(2017年、パライバ州の集会での発言)

 

人種

「この前、キロンボ(アフリカ系逃亡奴隷が作ったコミュニティ)に行ってきました。そこに住むアフリカ系の子孫たちは、体重がいちばん軽い人でも7アローバ(約100㎏)ありました。そんな人たちが、何もせずにダラダラしているんです。子孫を残す役にも立たないと思ってしまいました。

そんな人たちに年間10億レアルを超える額が使われているんです。(私に権限があったら)先住民やキロンボのための土地は1センチも与えません」(2017年、リオデジャネイロのユダヤ系団体のイベントでの発言)

 

どうなる、ブラジル?【20181027日 クーリエジャポン】
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“どうなる、ブラジル?”・・・・どうなるのでしょう。

 

【支持率35%は“岩盤支持層”?】

確かに人には自分と異なるタイプのものに対する拒否感・嫌悪感といったものはあります。

しかし一方で、そうした感情が自分勝手なもので、他人・相手にはまた別の立場・考え・価値観もあり、それは尊重しなければならないという理性的判断もあります。

 

ボルソナロ大統領のような人の場合は、そうした理性によるブレーキが外れており(そうしたブレーキは“ポリティカル・コレクトネス”として軽蔑の対象となります)、感情のおもむくままに発言・行動することになります。

 

そして、これまで政治・社会から多くの恩恵を受けてこなかったと感じる多くの国民がそうした“正直な発言・行動”に共感を抱き、政治的に支持することになります。

 

かつては、そうした共感は酒を飲みながらの与太話や、ネット上の匿名のうっぷん晴らしに限られていたのが、今は大ぴらにその共感を表明してかまわない・・・という空気になっています。(そうした空気の変化を大きく推し進めたのがトランプ大統領でしょう)

 

ボルソナロ大統領の国民支持については、以下のようにも。

 

****ボルソナロ政権 支持35%、不支持27****

ブラジル世論調査・統計機関(Ibope)は24日、ジャイル・ボルソナロ氏(PSL=社会自由党)が今年11日に大統領に就任してから初めて、全国工業連合(CNI)の要請によって同機関が実施した世論調査の結果を公表した。

 

同日付で伝えた伯メディアによると、201941215日に全国の126の自治体で実施、市民2000人から話を聞いた同調査では、回答者全体の35%がボルソナロ政権について「非常に良い/良い」と評価した。「普通」と答えたのは31%、「非常に悪い/悪い」との回答は27%、「分からない」および無回答は7%だった。

同機関は今年3月、全国工業連合の依頼を受けずに行った大統領の支持・不支持に関する調査の結果を発表した。その調査では回答者全体の34%が「非常に良い/良い」と回答、「普通」は34%、「非常に悪い/悪い」は24%、「分からない」および無回答は8%だった。

同機関によると、ボルソナロ大統領に対する市民の評価は、大統領就任(1期目)後の最初の3月のものとしてはフェルナンド・コロル氏以降の歴代大統領の中で最も低い。

 

歴代大統領の就任3カ月目の支持率は、19903月に大統領に就いたコロル氏は45%、951月に就任したフェルナンド・エンリケ・カルドゾ氏は41%、031月就任のルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ氏は51%、そして111月就任のジルマ・ルセフ氏は56%だった。

今回の調査ではどれだけの市民がボルソナロ大統領に信頼感を抱いているかについても探った。結果は「信頼している」が51%、「信頼していない」が45%、「分からない」および無回答が4%だった。【425日 サンパウロ新聞】

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歴代大統領の中で最も低い”ということではありますが、3月調査でも4月調査と同じような数字であり、このあたりの数字がボルソナロ氏の“岩盤支持層”を示すものなのかも。

 

アメリカ・トランプ大統領でもわかるように、“岩盤支持層”の支持は、個々の政策の評価やスキャンダルなどではほとんど動きません。

 

【“ウマが合う”トランプ大統領】

当然のように、ボルソナロ大統領とトランプ大統領は“ウマが合う”ようです。

 

****米ブラジル首脳、協力強化で合意=将来のNATO加盟も****

トランプ米大統領は(3月)19日、ブラジルのボルソナロ大統領とホワイトハウスで会談し、外交や経済分野の関係強化で合意した。トランプ氏は会談後の共同記者会見で、安全保障面の協力拡大に向け、ブラジルが将来、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する可能性に言及した。

 

トランプ氏は会見で、ブラジルを「NATO非加盟の主要同盟国」に位置付けると表明した上で「NATO同盟国となる可能性も考えられるかもしれない」と付け加えた。中南米諸国はNATOに加盟しておらず、どういう形の同盟関係を想定しているかは明らかでない。

 

会談冒頭、両首脳は互いの名前を記したサッカーのユニホームを交換。ブラジルで左派政権が続き、長く疎遠だった米ブラジル関係の再構築を目指す姿勢をアピールした。

 

極右のボルソナロ氏は昨年の大統領選で、インターネット交流サイト(SNS)を駆使する発信手法や攻撃的発言で、トランプ氏になぞらえられた。【320日 時事】

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フランス外務省副報道官は“NATO設立を定めた北大西洋条約は「地理的な適用範囲を(北大西洋地域に)明確に定めている」と指摘し、可能性を否定した。”【320日 時事】とのこと。「冗談じゃない!」といったところでしょう。

 

アマゾンに関しては、環境保護とか先住民権利とかいいたものの制約を外して開発を推し進めるというのが、ボルソナロ大統領の考え方ですが、このあたりでもトランプ大統領と共鳴しています。

 

****ブラジル大統領、アマゾン地域で「米国と共同開発望む」****

ブラジルのボルソナロ大統領は8日、トランプ米大統領に対し、ブラジルのアマゾン地域の共同開発プログラムへの米国の参加を望んでいると伝えたことを明らかにした。詳細には言及しなかった。

 

ボルソナロ氏はラジオ局Jovem Panのインタビューで、アマゾン地域の先住民族保護区の画定を改めて批判し、地域の開発を妨げるとして法的に無効にする可能性を示唆した。

ボルソナロ氏は3月にワシントンを公式訪問している。

 

同氏はアマゾン地域などで鉱業への土地開放を進めるべきとの考えで、道路整備などインフラ改善を支持しているが、環境保護団体は、一段の森林破壊を招く恐れがあるとして反対している。【49日 ロイター】

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ボルソナロ大統領とトランプ大統領のタッグというのは、怖いものがあります。

 

「悪い奴らはどんどん殺せ!」といった考え方もトランプ大統領やフィリピン・ドゥテルテ大統領と共通するものです。

 

****ブラジル警察、窃盗団11人を射殺=大統領「いい仕事した」****

ブラジル・サンパウロ市東方のグアラレマで4日未明、銀行の現金自動預払機(ATM)を爆弾で破壊して現金を奪おうとした武装窃盗団と警官隊の間で激しい銃撃戦が発生し、窃盗団11人が死亡した。

 

容疑者は少なくとも25人。自動小銃で武装し、警察署に隣接した銀行と、約300メートル離れた別の銀行の襲撃を計画していた。事前に察知していた州警察が特殊部隊で迎え撃ったという。
 

ボルソナロ大統領は「11人の悪党が死に、罪のない人は誰一人傷つかなかった。いい仕事だった」と警察をたたえた。【45日 時事】

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また、極右と言われるだけに“左翼”嫌いで、独自の考えを有しているようです。

 

****ブラジル大統領「ナチスは左翼」=訪問のイスラエル側と別見解****

イスラエルを訪問したブラジルのボルソナロ大統領は2日、ヒトラーが率いたナチス党について正式名(国家社会主義ドイツ労働者党)を根拠に、左翼運動だったことは「間違いない」と述べた。

 

エルサレムのホロコースト記念館(ヤド・バシェム)を視察後、記者団に語った。軍人出身で極右の大統領は強硬な反共・反社会主義者として知られる。

 

記念館側はナチスの勃興について「ドイツでは(第1次大戦敗戦の)不満と共産主義の脅威が急進的右翼集団台頭の温床となり、ナチス党などを生んだ」と説明。「人種的な反ユダヤ主義などと反共産主義が結びついた」としており、左翼とする大統領の考えとは相いれない。【44日 時事】 

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思いがけず日本が引き合いに出される発言も。

 

****「大統領と大臣は無知」 ブラジルで教育改革巡り論争****

南米ブラジルのボルソナーロ大統領は26日、自身のツイッターで、国公立大学での哲学や社会科学分野への予算削減の計画を明らかにした。教育相は、日本を例に挙げ、「役に立つ学問」への資金投入の必要性を説明。

 

研究者らは「大統領と大臣の無知が明らかになった」と反発している。

 

ボルソナーロ氏は計画について、「獣医学、工学、医学のような社会にすぐに還元される分野に予算を集中させるのが目的だ」とし、「政府の役割は、納税者のお金を大事にすることだ」とツイートした。

 

「社会を改善し、家族がよい生活を送れるように、若者には読み書き計算を教え、その後に収入につながることを教えるべきだ」ともつづった。削減額は決まっていない。(中略)

 

日本では2015年、国立大学の人文社会科学系学部について「廃止や社会的要請の高い分野への転換」をうながす文科相通知が出され、強い批判を招いた。(中略)

 

ボルソナーロ氏は大統領就任前、「ブラジルの教育機関に浸透したマルクス主義のゴミと闘う」などと述べ、教育改革を進めると表明していた。【427日 朝日】

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このあたりは、日本政府の本音をストレートに表現したものでしょう。

 

【無責任な言動の犠牲になるキューバ人医師2500人】

思いつきで発言するボルソナロ大統領の無責任さを示すものとしては、下記のような話も。

 

****「ブラジルのトランプ」に騙された2500人のキューバ人医師****

昨年大統領選に立候補し、「ブラジルのトランプ」の異名をとったジャイル・ボルソナロはブラジルに派遣されているキューバ人医師が報酬の25%しか受け取れず、75%はキューバ政府の歳入になっていることを批判。

 

それはあたかもキューバの独裁者の奴隷のようなものだと指摘。彼が大統領になった暁には、キューバ人医師がブラジルの医師試験をパスすれば同国で医師として働くことができて、しかも報酬はすべて医師に支払われると公約していた。(中略)

 

ボルソナロのキューバの政治体制と医師派遣制度を痛烈に批判した姿勢を前に、キューバ政府は自国のプライドを傷つけられたと感じて、即刻ブラジルから医師団の撤退を決定。

 

ボルソナロが大統領に就任する今年11日までにブラジルで医療活動をしている全ての医師に対しキューバに引き揚げることを指示。その為にキューバ政府は帰国させる為の飛行機も手配した。

 

キューバ人医師の間では、ボルソナロが公約していた報酬の全額を稼ぐことが出来るということと、更に自由のないキューバに戻るよりもブラジルに残った方が生活の向上も図ることができると考えて、ブラジルに在住していた8332人のキューバ人医師の内の凡そ2500人がキューバ政府の指示を無視してブラジルに留まることを決定したのである。その一部の医師は家族も呼び寄せた。(参照:efe.com

 

ところが、3か月が経過した現在、ボルソナロが公約したことは全く守られておらず、残留したキューバ人医師の大半が職場を失い収入がなく生活に困っているという状態に陥っているのである。(参照:elnuevoherald.com

 

キューバ人医師が抜けたこともあって、ブラジル政府は新たに8517人の医師を募った。ところが、採用されたのはブラジル人医師だけであったという。

 

まだ、過疎地の800のポストが埋まっていないが、キューバ人医師がそれに応募しようとしても、医者の資格などを証明する書類をキューバから取り寄せねばならないことになっている。キューバを脱出した彼らがそれをキューバの関係当局に申請してもそれを手に入れることは困難である。

 

当初、ボルソナロはブラジルの医師の試験をパスするだけで医療活動をすることが出来ると言っていたのだ。キューバから医師の資格証明書などを取り寄せる必要性などには全く触れなかった。(後略)【415日 白石和幸氏 アゴラ】

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ボルソナロ大統領としては単にキューバを批判したかっただけで、その後左翼国家キューバの人々がどうなろうが知ったことではないのでしょう。

 

上記のような言動にかかわらず、おそらく今後のボルソナロ大統領の支持を左右するのは、経済動向でしょう。

景気さえよくなれば、多くの国民は上記のような言動にはあまり関心を払わない・・・というのも現実です。

 

 

 

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