孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  失敗しない「本物の男(ムジーク)」プーチン大統領の最大の「罪」は、「普通の人々がどう暮らしているか知らない」こと

2019-04-28 22:37:13 | ロシア

(失敗しない「本物の男(ムジーク)プーチン大統領を描いた壁絵 クリミアのヤルタ市【422日 ロシア・ビヨンド】」

 

【最近のプーチン支持率低下】

ロシアでは年金改革の発表以降、プーチン大統領の支持率がひと頃の80%超から60%台に低下(他国の政権に比べれば、それでも高率ですが)していると言われていますが、そうした政権への不満を示すような「事件」として、下記のニュースが報じられました。

 

****ロシアの主婦、市長選で大金星 選挙運動、ほとんどしていないのに…****

ロシア・シベリアの小都市の市長選で、選挙運動をほとんどしていない主婦が、圧勝するはずだったプーチン政権与党の候補を破る「事件」が起きた。有力な野党候補が選挙から排除されたことに、市民の怒りが表れたとの見方が多い。

 

舞台は、人口約8万人のウスチイリムスクで、現職の辞職に伴って3月下旬にあった市長選。当選したのは、野党自由民主党から立候補したアンナ・シェキナさん(28)だ。得票率は約44%で、政権与党統一ロシアから出馬した市議会議長を約6ポイント上回った。

 

地元紙によると、シェキナさんは大学を中退し、6歳の息子を育てるシングルマザー。定職には就いていない。肩書は主婦だ。「党の義務で仕方なく出馬した」とSNSで明かし、当初は選挙運動もほとんどしていなかった。

 

経済の低迷や年金の受給開始年齢の引き上げが地元の課題で、当初は野党の元市議らが有力とされていた。だが、地元選管は「書類の不備」などを理由に、元市議を含む野党や無所属の8人の立候補を却下。これに反発した票がシェキナさんに集まったようだ。

 

ロシアでは野党の有力候補が立候補を認められず、与党候補が圧勝するケースは珍しくない。

2018年3月の大統領選では、野党指導者のナバリヌイ氏が立候補を認められず、プーチン大統領が過去最高の得票率で当選した。

 

同年秋の沿海地方知事選でも、一度は与党候補の得票率に1・5ポイント差まで迫った共産党候補がやり直し選挙で出馬を拒まれ、プーチン政権が全面支援した与党候補が圧勝した。

 

シェキナさんの当選を「与党に対する市民の反発が、無名候補を勝たせるほど膨らんでいる証しだ」とする政治アナリストの指摘もある。

 

プーチン政権や統一ロシアの支持率は、昨夏の年金改革の発表を機に落ち込み、回復の兆しがない。9月には統一地方選を控え、プーチン氏は人気が低い5人の現職知事を相次ぎ退陣させ、政権幹部を知事選に立候補する知事代行に任命するなど、てこ入れを急いでいる。

 

ロシア中部イルクーツクで民間の選挙監視団体「ゴロス」を率いるアレクセイ・ペトロフ氏は「年金改革や野党候補の排除に対する市民の不満は全国共通だ。無名の主婦の勝利はどこでも起こりうる」と、今後の波乱を予想する。【49日 朝日】

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野党や無所属の8人の立候補を却下した地元選管の対抗への批判などもあって、「与党に対する市民の反発が、無名候補を勝たせるほど膨らんでいる証しだ」「無名の主婦の勝利はどこでも起こりうる」と一般化できるかどうかは疑問ですが、政権への不満が鬱積していることは間違いないようです。

 

そうした不満は、“古き良き時代”(“良き”時代だったかは大いに問題がありますが、往々にして“古い”時代の汚点は記憶の中で薄れていきます)への郷愁にもつながっているようです。

 

****スターリンに肯定的評価、過去最高 ロシア世論調査 現状不満が背景か****

ソ連時代の独裁者で、政敵や民衆ら少なくとも数十万人を銃殺したとされるスターリン元ソ連共産党書記長(1878〜1953年)について、肯定的な感情を抱くロシア人の割合が50%を超えたことが、ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」の定期調査で分かった。

 

スターリンへの肯定的評価が50%を超えるのは、2001年の調査開始以来初めて。

 

ロシアの国際的影響力の低下や経済低迷、不十分な社会保障、格差拡大など現状への不満が、ソ連時代の大国イメージや安定性への憧憬となって回答に反映されたとみられる。

 

調査は3月21〜27日、18歳以上の約1600人を対象に実施され、今月16日に結果が公表された。「スターリンにどんな感情を抱くか」との問いに、4%が「称賛」、41%が「尊敬」、6%が「好意的」とし、肯定的な回答が過半数を占めた。「反感」は6%で、過去最低となった。

 

「スターリンはロシアの歴史にどのような役割を果たしたと思うか」との問いでも、70%が「肯定的役割」と答え、過去最高に。「否定的役割」との回答は19%で過去最低だった。

 

ロシアではスターリンについて血塗られた独裁者との印象がある一方、第二次大戦の戦勝をもたらした英雄との評価も存在する。

 

同センターが昨年11月に実施したソ連時代への評価に関する調査でも、66%が「郷愁を感じる」と答え、2004年以来の高水準となっていた。【417日 産経】

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【「彼がこれまでに同じような窮地から脱したのは一度や二度ではない」ことの問題】

一方、プーチン大統領の最近の支持率低下について、ロシア系サイト「ロシア・ビヨンド」は以下のように伝えています。

 

「ロシア・ビヨンド」についてはよく知りませんが、“ロシア・ビヨンドは、2007年に立ち上げられて以来、世界各国におけるロシア理解を促すことを常に使命としてきました。ロシア・ビヨンドは、文化、旅行、教育、言語、ビジネスその他、ロシアのすべてに対し、主要な「玄関」となることを願っています。”とのことですから、おそらく実質的にはロシア当局の監督下にあるサイトと思われます。

 

****一般的なロシア人はプーチンのことをどう思っているか****

ウラジーミル・プーチンの支持率は、長年80パーセントを下回らなかった。近年になって少し落ちただけだ。ロシア人が自分たちの大統領を好んでいるというのは事実なのだろうか。(中略)

 

これ(201712月に開催された、ロシア大統領をテーマにした展覧会「スーパープーチン」展)は政治的な注文によるものか、独特の選挙運動に見えるかもしれない(主催者は大統領に対して「ポジティブ」な姿勢を取っているだけだと主張しているが)。

 

実際、「スーパープーチン」展は選挙の直前に開かれた。だが、これに対して一般のロシア人は拒否反応を示さなかった。国や独立系の社会研究所が公表している支持率によれば、プーチンはロシアで愛されている。その高い支持率は長年揺らいでいない。20184月に下がり始めたに過ぎない。

 

「プーチンはロシア」

「プーチンがいればロシアがある。プーチンがいなければロシアはない」――このフレーズはすぐさま格言となった。

 

フレーズを考えたのは、当時ロシア大統領府第一副長官だったヴャチェスラフ・ヴォロージン(現在は下院議長)だが、「プーチンは国の化身である」というイメージは、彼の周囲だけでなく国民の間でも人気になった。

 

世論調査から判断すれば、平均的なロシア人はそう考えている。こうした国民にとってプーチンは、「安定の才能」の権化であり、ソビエト国家の残骸を集めて再び「偉大な国」にする人物なのである。(中略)

 

「本物の男(ムジーク)」

Мужик」(ムジーク)。現在ロシア人がこの言葉で意図するのは、意志の強い厳格な男(黙って眼窩でビール瓶の蓋を開け、氷点下40度で散歩に出かけるような男)だ。

 

「本物のムジーク」という言葉は、男性にとっては最上の誉め言葉であり、一般的なロシア人はまさにこのようにプーチンを形容する。

 

「勇気」「決断力」「力」「自身」「大胆さ」――これらすべてが、平均的なロシア人が自分たちの大統領に認める性質だ。

 

ロシアがクリミアを併合した当時、プーチンの支持率は長らく80パーセントを下回っていなかった。支持率が史上最高の90パーセントに到達したのは2015年、ロシア軍がテロリストと戦うためにシリアへ向かった年だ。

 

社会学者らの考えでは、どちらの出来事もプーチンをまさに「ムジーク」にした。「クリミアを取って、私たちは国際社会に挑発し、西側の考えに反した行動に出た」と「レヴァダ・センター」社会文化研究部のアレクセイ・レヴィンソン部長は説明する。

 

「人々には、国が全世界を敵に回しているという感覚があった。大勢の人の目には、まさにこのことがロシアを偉大な強国にし[これが本当かどうかについてはこちらの記事をご覧頂こう]、プーチンを恐れ知らずの強力な指導者にしていると映った。」

 

失敗しない人物

プーチンのような人物が、失敗をすることがあるだろうか。おそらくある。だが(平均的な)ロシア人はこれを信じない。大統領の任期中、プーチンの支持率は滅多に国内危機の影響を受けていない。伝統的に、全打撃を被るのは大統領の「指令を遂行しない」内閣だ。

 

世論調査によれば、プーチンの最大の「罪」は、彼が「普通の人々がどう暮らしているか知らない」ことだ。プーチンはインターネットをしないことで知られている(携帯電話すら持たない)。必要な情報はすべて、毎日秘書が用意するファイルから得ている。

 

そんなわけで、「もしプーチンが何か知らなければ、それは彼に話が通っていないからだ」というのが国民に広く浸透した考えだ。

 

プーチンの支持率が落ちたのは5回だけだ。うち4回は最近の5度目の下落に比べれば些細なものだ。

最近の支持率低下は、大多数の専門家の考えでは、プーチンが国民にとって非常にデリケートな問題である年金改革を公式に支持したことと関係している。

 

だが、支持率の低下はあくまで一時的なものだろう。「彼がこれまでに同じような窮地から脱したのは一度や二度ではない」と「ペテルブルグ政策」基金の会長である政治学者、ミハイル・ヴィノグラードフ氏はラジオ放送「モスクワのこだま」で語っている

 

全ロシア世論調査センターのデータによれば、20193月、大統領の支持率は過去最低を記録した。32.7パーセントのロシア人しか彼の政策を支持しなかったのだ。

独立系のレヴァダ・センターの調査では、信任率はこれを上回る64パーセントだった。

 

とはいえ、支持率は一般的な水準に下がったに過ぎないとレヴィンソン氏はロシア・ビヨンドに語る。クリミアの事件やジョージア(グルジア)での五日戦争の前の支持率も同様だった。

 

「この安定的な水準でプーチンの支持率は長年維持されてきた。ロシア国民の3分の2が、国家の統一といったものの象徴として大統領を支持する必要があると考えている。いつか支持率をこの水準よりも下げる理由が見つかるかもしれないが、ここ20年間私たちは一度もそれを目撃していない。今のところ人々にはプーチンという焦点が必要なのだ」とこの社会学者は考えている。【422日 ロシア・ビヨンド】

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どうでもいいことですが、“眼窩でビール瓶の蓋を開け”というのは、どうやるのでしょうか?

“氷点下40度で散歩に出かけるような男”というのも笑えますね。ロシア人の「本物の男(ムジーク)」のイメージというのは、そういうものなのですね。そして、プーチンこそ・・・という話です。

 

閑話休題

“(クリミア併合とシリア出兵の)どちらの出来事もプーチンをまさに「ムジーク」にした”“彼がこれまでに同じような窮地から脱したのは一度や二度ではない”“クリミアの事件やジョージア(グルジア)での五日戦争の前の支持率も同様だった”・・・・そこが、国際社会が危惧するところでもあります。

 

プーチン大統領は、支持率低下を食い止めるために、国際的な紛争を新たに引き起こすのではないか・・・。

一昨日ブログで取り上げたウクライナのコメディアン大統領などは格好の相手でしょう。

 

【「普通の人々がどう暮らしているか知らない」ロシア指導層】

今日取り上げるのは、もう一つの興味深い指摘。“プーチンの最大の「罪」は、彼が「普通の人々がどう暮らしているか知らない」ことだ”という点です。

 

最近、プーチン大統領自身ではありませんが、大統領報道官の市民生活困窮を理解していない発言が話題となりました。

 

****ロシア、新しい靴を買えない家庭が3割強、それを「理解できない」大統領報道官****

<ロシア連邦統計局の調べで、ロシア生活の現状が明らかになったが、これを聞いた大統領報道官が、「理解できない」と発言して問題に......

新しい靴を買えない家庭3割強、地方では下水もない

ロシアでは、3家族のうち1家族は新しい靴さえも買えないほど貧困にあえいでいるということが、このほどロシア連邦統計局の調べで明らかになった。

 

しかしこれを聞いた大統領報道官が、「この数値はどこからきたんだ?」といぶかしげに記者に聞き「理解できない」と発言したため、外国メディアは「庶民の現実を把握していない」と指摘している。

この統計は、ロシアの生活水準を調べるために2011年以来、年に2回実施されているもの。今回は20189月にロシア全土で6万世帯を対象に調査が行われた。

英ザ・タイムズ紙によると、統計局が発表した数値は、ロシアの家庭のうち35.4%は1シーズンに靴1足しか持てないほど貧しいというものだった。

 

また、家計のやりくりが苦しいという家庭は79.5%に上った。年に1週間以上の旅行(友人や家族の家に滞在する場合も含む)に行かれると答えた家庭は約半数だった。

また英公共放送BBCは、肉か魚を毎日ではなく1日おきにしか食べられないと答えた家庭は10%に上り、12.6%の家でトイレは共同か屋外にしかないと答えたと報じている。

さらに都市部を除く地方で限定すると、38%が屋外トイレしかなく、下水がまったく完備していない世帯の割合は約20%に達した。

自国の貧困を信じられない?大統領報道官
ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者とのブリーフィングでこの統計について、「ロシア政府はこのデータを理解するのに苦労している」と打ち明けた。

 

「なんで靴なんだ?なんで3家族のうち1家族?この数値はどこから来たんだ?」と記者に問いかける一幕もあった。さらに、統計局に説明してもらいたいとも加えたという。

ザ・タイムズは靴の項目について、「ロシアは季節によって寒暖差が大きいため何足か靴を持っている必要がある。(たとえば)モスクワは降雪、豪雨、猛暑になることもあり、気温はマイナス25度からプラス35度と幅広い」と説明している。

ロシアの英字日刊紙モスクワ・タイムズによると、ロシア連邦統計局はこの調査について、「妥当な生活や貧富」に関する回答者の考えを主観的に反映したものだと説明。統計には総体的に考慮されるべき要素がいくつかあり、靴の項目もその1つだとしている。


BBC
は、統計結果を理解できないとしたペスコフ報道官の発言について、「官僚は庶民の現実を把握していないことを示唆しており注目を集めている」と伝えている。

庶民との格差についてBBCは、ペスコフ報道官が履いているブーツは、ロシアの月額最低賃金の倍近い金額だと指摘している。

またザ・タイムズは、ペスコフ報道官が2015年の自身の結婚式で6000万円近い腕時計をしていたため(同紙によると当時の同報道官の年間給与は約1350万円)、その金はどこから来たのか疑問視されていたと報じている(同報道官は妻からのプレゼントだと話しているとのこと)。【412日 Newsweek

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この種の調査は伝統的に行われており、内容的には新しいものではありませんが、大統領報道官の反応によって注目されるところとなったようです。

 

「各シーズンに対応した2足目の靴を家族全員に買えるか」「一年中いつでも果物が買えるか」「使えなくなった家具を買い換えられるか」「誕生日や新年にお客を自宅に呼べるか」「急な出費に対応できるか」など、実際のロシア国民の生活レベルを知ることのできる質問が並んでいます。【425日 徳山 あすか氏「靴も買えないロシアの庶民生活、格差は極限に」より】

 

(ロシアの冬には犬でも靴が必要だ。写真はロシア・モスクワで、保護靴を履いた犬と飼い主(2019130日撮影))【同上】

 

ロシアでは国民の6割以上が「ダーチャ」と呼ばれる郊外のセカンドハウス(別宅)を保有しています。

ダーチャはソ連時代、ほぼ国民全員に与えられ、かつて食糧不足の時代には、ダーチャで野菜や果物を作り、家計の足しにしていたとも。

 

ロシア人にとって夏をダーチャで過ごすことは、贅沢でもなんでもなく、至極当たり前のことのはずですが・・・。

 

“「別宅や親戚、友人宅などを含めて、1週間、自宅以外で過ごせるか」と質問したところ、49.1%が「無理」だと回答したのだ。年金生活者のみの世帯では63.8%が「無理」だった。”【同上 徳山 あすか氏「靴も買えないロシアの庶民生活、格差は極限に」】

 

ペスコフ報道官の話では“「調査についてはもちろん、(ウラジーミル・)プーチン大統領にも報告されています」”【同上】とのことですが、6000万円近い腕時計を着用するペスコフ報道官も、ネットもしない、携帯も持たないプーチン大統領も、質問項目の意味合いも、国民の困窮も理解できないでしょう。

 

失敗しない「本物の男(ムジーク)」の最大の問題かも。

 

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