【トランプ大統領 リビアのハフタル将軍支持にまわる?】
分裂状態にあるリビアで、東部を実質支配する実力者、ハフタル将軍が暫定政府支配下の首都トリポリに向けて進軍を開始したという件は4月7日ブログでも取り上げました。
ハフタル将軍は東部・南部の(リビアの生命線である)石油施設を支配下におさめることに成功し、ロシア・フランス・エジプト・サウジアラビア・UAEなどの支持も背景に、今後の統一協議においては優位な立場を固めつつある・・・・と見られていただけに、なぜこの時期に国際批判が集中するであろう(国連は一応暫定政府を支持していますので)首都進軍にあえて踏み切ったのかを訝る向きもあります。
そうした軍事行動も短期に成果を得られれば、それはそれでハフタル将軍にとっては価値のあることですが、戦況の方がどうなっているのか、情報が少なくよくわかりません。
今日の報道では、暫定政府側の反撃開始も報じられています。もし長期化するようならハフタル将軍にとっては“誤算”にもなります。
****リビア国民合意政府、首都奪取目指すハフタル氏勢力に反撃開始 空爆も****
国連の支持を受け、国際的に承認されているリビアの国民合意政府は20日、首都トリポリ奪取を目指している元国軍将校の実力者ハリファ・ハフタル氏率いる軍事組織「リビア国民軍」に対する反撃を開始した。
国民合意政府のムスタファ・メジイ報道官は、「われわれは新たな攻撃を開始した。今朝、部隊を前進させる命令が出された」と述べた。
ハフタル氏のリビア国民軍は今月4日、国民合意政府が拠点としている首都トリポリを奪取すべく攻勢を開始した。ハフタル氏はトリポリの国民合意政府を承認しておらず、リビア東部を拠点とする別の政権を支持している。
トリポリでは過去数日間戦闘が下火になっており、戦況はこう着状態にあったが、20日はトリポリ市内の複数の地区でロケット弾や銃撃の音が響いた。
国民合意政府のリダ・イッサ報道官は、首都南方のワジラビ、サワニ、アインザラの各地区で、大規模な攻撃作戦を開始したと述べた。またモハマド・グヌヌ軍事報道官は、首都トリポリの南西約100キロのガリヤンなどで、ハフタル氏のリビア国民軍に対する空爆を7回実施したと明らかにした。
世界保健機関によると一連の戦闘でこれまでに少なくとも213人が死亡し、1000人以上が負傷した。国際移住機関は2万5000人以上が避難を強いられたとしている。 【4月21日 AFP】
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一方、“国際批判が集中する”と書きましたが、アメリカ・トランプ大統領は、ハフタル将軍支持に態度を変えたかも・・・・という報道もあります。
****トランプ氏、リビア武装勢力に協力姿勢 政策を変更か****
米ホワイトハウスは19日、トランプ大統領が北アフリカ・リビアの武装勢力「リビア国民軍」(LNA)のハフタル司令官と電話で協議したと発表した。
LNAは暫定政府が支配する首都トリポリの攻略に向けて軍事作戦を続けているが、トランプ氏はこれまでの米国の立場とは一転して協力姿勢を示した。
発表によると、電話協議は15日に行われ、トランプ氏は「テロとの戦いや石油資源の保護においてハフタル氏の重要な役割を認め、安定的で民主的な政治体制への移行について議論した」と述べた。
米国はポンペオ国務長官が7日、LNAの軍事作戦に反対し、進軍停止を求める声明を出しており、政策を変更した可能性もある。
シャナハン国防長官代行は19日、「軍事的な解決は、リビアが必要とするものではない」と述べ、LNAの軍事作戦については批判的な見方を示した。ただ一方で、「我々はテロ対策でのハフタル氏の役割を支援する」と述べ、リビアの治安の安定という観点から協力する意向であることを強調した。(後略)【4月21日 朝日】
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【トランプ大統領の「ゆるやかな独裁」】
リビアの状況は、現段階では情報が少ないこともあって、また別機会に。
今日の話題は、トランプ大統領の方。
トランプ大統領が“独裁者”“強権的支配者”と国際的にみられている指導者が“好き”あるいは“馬が合う”ことは、かねてより指摘されているところです。プーチン大統領、習近平国家主席、金正恩委員長等々。
一方で、“民主主義”を尊重する西欧指導者、とりわけ、民主主義の何たるかを説教するようなメルケル首相は“大嫌い”とも。
そうした“好み”からすれば、ハフタル将軍とも肌が合うのでしょう。
トランプ大統領が“独裁者が好き”なのは、そうした政治指導者の方が決断がしやすく、“取引”がしやすいということがあるのでしょう。民主主義的な手続きは面倒で、スムーズな“取引”ができないということでしょう。
単に、海外の“独裁者が好き”というだけでなく、トランプ大統領自身の政治姿勢が“独裁的”だとのちょっと変わった視点からの指摘も。
トランプ政権では多くの高官がクビになったり、自ら辞めていることは周知のところですが、そうした状況にトランプ大統領が困っているかと言えば、そうではなく、逆に実質的権限のない“代理”を置くことで、すべて自分自身が決定する体制に持っていけるので喜んでいる・・・とのことです。
****独裁者トランプ:大統領は代理がお好き****
「(政府高官の)代理はいいね。(自分が)すぐに決断を下せるから。物事を柔軟に対応できる」
ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)は今月6日、ホワイトハウスの南庭に止まったマリーンワン(大統領専用ヘリコプター)に乗り込む直前、記者団に言い放った。
トランプ政権が誕生して約2年3か月。閣僚を含めた政府高官の多くが職を辞した。
トランプに直接解雇された人たちも少なくない。首都ワシントンにある大手シンクタンク、ブルッキングズ研究所がまとめた数字によると、政権発足以来の離職率は66%に達する。
要職が空席になればすぐに次の要人が指名されるはずだが、トランプ政権内ではいま代理が幅を利かせている。
代理はもちろん正規の長官や高官が決まるまでの「一時しのぎ」だが、トランプにとっては好都合なのだ。
というのも、行政府のトップに君臨する大統領として、空席を埋める代理に対して絶対的な力を発揮しやすい状況をつくれるからだ。
各省庁の正規の長官や高官はトランプに指名された後、上院で承認手続きを踏まなくてはいけない。
だが代理という立場の人間であれば、省庁の利害よりもトランプの利害を比較的容易に推し進めることができる。
長官が決めるべき案件を、トランプが特権的に決めることさえ可能だ。それが冒頭の発言につながっている。
代理としてトランプに仕える筆頭はパトリック・シャナハン国防長官代理である。
年末、ジム・マティス前国防長官が事実上トランプに更迭された後、今年1月1日から代理を務めている。
3か月半も正規の国防長官が不在というのは、トランプが故意に人選をしないとも思われても致し方ない。トランプが米軍を思うように仕切りたいとの意識の表れとも受け取れる。
そのほかにも国土安全保障長官、国連大使、連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官の職も空席のままだ。
さらに大統領の最側近である主席補佐官も代理のままである。
代理を務めるミック・マルバニー氏は行政予算管理局(OMB)の局長も兼任していて、51歳という年齢もあり、トランプにとっては「使いやすい」人物なのである。
要職を空席のままにしておくのは本人が認めるとおり、「すぐに決断を下せるから」である。しかし中・長期的な政治的因果関係を考えると、トランプ政権を危機的状況に陥れないとも限らない。
そんなトランプ政権の周辺で浮上している言葉が「独裁」である。
独裁者というと、すぐにスターリンやヒトラーという人物が浮かびもするが、いまのトランプが実践しているのは「ゆるやかな独裁」と呼べる政治的方向性だろう。
少なくともトランプは民主的選挙で選出された大統領である。
だがビル・クリントン政権時代の労働長官で、ハーバード大学教授も務めたロバート・ライシュ氏は最近、トランプをはっきりと「独裁者」と呼ぶ。
民主主義のルールを守っていないと糾弾している。
「大統領は国家が非常事態に陥った時にだけ非常事態宣言を発令できますが、議会が(壁建設)予算を計上しないだけで同宣言を発令するのは独裁者の行為です。これは民主主義にとって、脅威です」
ライシュ氏は民主党支持者であり政権外部の人間だが、実はトランプ政権内部からも厳しい声が伝わってきている。
昨年9月、トランプ政権の高官がニューヨーク・タイムズ紙の投稿欄に匿名で意見を載せた。それは「ゆるやかな独裁」を実践するトランプの傍若無人ぶりを暴く内容だった。
「大統領とのミーティングでは話題がすぐに外れたり突然終わってしまったりします。暴言を繰り返し、衝動的な決定を下すこともよくあります」
「また不完全で、情報不足のまま政治決断を下すこともあります。あまりに無謀なので、再検討が必要になることがよくあるのです」
好例がメキシコ国境の封鎖宣言である。
トランプは3月29日、ツイッターで衝動的といえるほど、メキシコ国境を封鎖すると宣言したのだ。メキシコからの不法入国者が減らないことに苛立っての書き込みだった。
「メキシコ政府が不法入国者を阻止できないのであれば、翌週には国境の大部分を封鎖する予定だ」
米国大統領が述べる発言でないことは誰の目に明らかだった。
年間約4億人が行き来する国境を思いつきで封鎖することがいかに理不尽で、両国に経済的・政治的に不利益をもたらせるかを配慮していない。
国境封鎖の時期や場所、方法論には全く触れずにツイッターで感情的に言い放っただけだった。
すぐに議会や財界から強い反発があった。
米国・メキシコ両国の1日の貿易総額は約1700億円で、不法入国者と貿易不均衡に怒りを覚えたとしても国境封鎖は解決につながらない。
周囲が大統領を説き伏せるまでにほぼ1週間かかる。そして4月4日、トランプは自説を撤回して「国境封鎖は今後もないだろう」と述べた。
独裁的で情緒的な言動について、前出の政府高官がさらに書いている。
「大統領はこの国の健全さを損なうようなやり方を続けています。背景にあるのは大統領の規範のなさです」
「一緒に働いたことのある人であれば、すぐにトランプが物事を決断する時に自分の規範・原則をもっていないことに気づきます」(中略)
前出のライシュ氏は民主主義と独裁制について、民主主義は「意思決定のプロセス」が重要であるが、独裁制は「結果」だけを重視することだと述べる。
結果が得られるのであれば、手段は選ばない手法が独裁であり、単独で何でも決定してしまう今のトランプは「ゆるやかな独裁」を始めていると言えるかもしれない。これが今のトランプの姿である。【4月15日 堀田 佳男氏 JB Press】
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【“情報不足のまま政治決断を下す” “突然変わる”】
トランプ大統領の実績については、中国への対決姿勢など、これまでの政権でなせなかった成果を出しているとの高い評価もあります。
そのあたりの評価は今日のところは脇に置くとしても、単独で何でも決定してしまう「ゆるやかな独裁」にあって、“突然変わる”“情報不足のまま政治決断を下す”というのは、どうも事実です。
****「最高」→「完全に誤り」トランプ氏、報告書を一転批判****
トランプ米大統領は19日、ツイッターで、詳細が公表されたマラー特別検察官による「ロシア疑惑」報告書が「いかれた報告書」だと非難した。3月に出た概要でロシアとの共謀や司法妨害が「証拠不十分」と結論づけられた際は「素晴らしい報告書」と持ち上げていたが、態度を一転させた。
18日午前に400枚超の報告書が公開されると、トランプ氏は「結託なし、司法妨害なし。ゲーム・オーバー」と勝利宣言。同日午後にフロリダ州の別荘に移り、19日はゴルフをした。
しかし、報告書には、トランプ氏があの手この手で捜査を止めようとする詳細が記されており、米メディアがこぞって報じた。すると、トランプ氏は19日のツイッターで「いかれたマラー報告書にある陳述は、トランプ嫌いの怒れる18人の民主党員によって書かれた。でっち上げで完全な誤りだ」と批判を開始。
マラー氏による捜査についても「これは起こるべきではない、違法に始まった捏造(ねつぞう)だ。巨大に膨れあがった、時間とエネルギーとカネの無駄だ」などと複数回にわたってツイートした。
ただ、報告書を受け取ったバー司法長官が3月下旬に4ページ分の概要を公表し、トランプ氏の疑惑を「証拠不十分」と結論づけた時には、上機嫌になった同氏は「マラー報告書は素晴らしい。最高だ」と持ち上げていた。野党・民主党が報告書の開示を求めると、「何の問題もない」と余裕の姿勢を見せていた。【4月20日 朝日】
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報告書の評価は別にして、弾劾にもつながりかねない大問題ですから、(ゴルフする時間があったら400枚に目を通せといった、文書嫌いな大統領への無理な注文はしませんが)せめて内容はよく聞くとかして把握してから物を言えばいいのに・・・・と思うのですが。
もちろん、アメリカの政治体制はトランプ大統領の“独裁”を許すようなものでもありませんが、何度も繰り返されれば・・・・。