孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル 政権維持のネタニヤフ首相 入植地併合の意味するところは? トランプ和平提案の不安

2019-04-12 22:18:43 | 中東情勢

(“言動はまるで双子のように似通っている”ネタニヤフ首相とトランプ大統領 2018125日、スイス・ダボスで 画像は【2018128日 東洋経済online】)

 

【占領地を巡るイスラエルにおける国民的合意】

接戦となったイスラエル総選挙は、汚職問題を抱えるネタニヤフ首相が、ゴラン高原のイスラエル主権を認めるといったアメリカ・トランプ政権の援護射撃、ヨルダン川西岸の入植地の併合といった右派へのアピールなどが奏功する形で、全体としては政権を維持する結果となっています。

 

もし、接戦となったガンツ氏の勢力が勝利していたら、パレスチナ問題への取り組みが変わったのか?・・・という点で言えば、柔軟な方向への若干の姿勢の変化はあったかもしれませんが、現在の枠組みについてはあまり変化はなかったかも・・・とも推察されます。

 

“「青と白」もイランに対しては強硬姿勢で臨み、パレスチナとの間では「分離」政策を進める−といった与党側と大差のない政策を打ち出している。政権を取ったとしても、パレスチナ問題での大幅な進展は望めないとの見方が大勢だ。”【48日 産経】

 

“ガンツ氏は和平に前向きな姿勢を示す一方、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領した土地にパレスチナ独立国家を建設するパレスチナ側の構想を支持するかどうかについては態度を明確にしていない。”【48日 ロイター】

 

****イスラエル総選挙はネタニヤフ首相問う「国民投票」****

占領地を巡る国民的合意を構築したが、長期政権にうんざりする有権者も

 

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が5期目の政権を目指す今回の総選挙は、同氏が公職に就いてきた20年間の成果と一連の汚職疑惑をめぐり、指導者としての資質を問う国民投票の様相を呈している。ただ結果がどうなろうと、同氏の右傾化政策によって決定的な変容を遂げたイスラエルの状況は変わらないだろう。

 

投票日を9日に控え、最終盤の世論調査は情勢が流動的であることを示している。ネタニヤフ氏への主要な挑戦者であるベニー・ガンツ元軍参謀総長率いる政党連合が、有権者の現政権への嫌気と、汚職疑惑に狙いを定め、与党リクードを若干上回る議席を確保しそうだ。

 

しかしリクードの連立パートナーとなり得る複数の右派小政党が健闘しており、ネタニヤフ氏の首相続投を可能にするとみられている。そうなれば、首相在任期間は建国の父であるダビド・ベングリオン氏よりも長くなる。

 

通算13年にわたり首相を務めるネタニヤフ氏はイスラエルの政治地図と世界での役割を変化させ、かつては社会主義的だった同国の右傾化を後押しし、それによって利益も得てきた。

 

パレスチナ国家樹立を支持するユダヤ系イスラエル人の割合が過去20年間で最も低くなっている現在、同氏の対抗勢力は方向性を大きく変えることに関心を示していない。(中略)

 

「もうたくさんだ、ビビ(ネタニヤフ氏の愛称)」。先週放映が始まったガンツ氏のテレビ広告では、こんなスローガンが使われ、医療や交通渋滞などに関する一般市民の不満が取り上げられている。ネタニヤフ氏が無視してきたと野党が主張する問題ばかりだ。

 

「私はベンヤミン・ネタニヤフ氏が国のために多くのことを行ったと思う」。ガンツ氏は先週のイベントでこう述べて首相の軍経験をたたえ、同氏の兄が戦死していることに触れた。「だが、われわれが言っているように、もうたくさんだ」

 

ネタニヤフ氏は2009年、当時のバラク・オバマ米大統領から圧力を受け、入植活動の凍結に合意し、パレスチナ国家樹立への支持を表明した。しかし政治家になるかなり前には反対の主張をしており、2015年の選挙以降は国家樹立を許さないと言明してきた。

 

ガンツ氏はパレスチナ国家について話すことを避ける一方、安定と「パレスチナ人からの分離プロセス」についてアラブ諸国の指導者らと話し合いたいと述べ、国家樹立に希望を持たせようとしている。

 

イスラエルをユダヤ人国家だと正式に規定した法律が昨年成立して物議を醸したが、同氏はこれを修正したいと述べていた(ネタニヤフ氏は同法を支持)。人口の20%を占めるアラブ系イスラエル人は、同法は自分たちを二級市民にするものだと反発している。ガンツ氏の党の綱領は、平等を定めた基本法を成立させるとしている。(後略)【48日 WSJ】

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パレスチナへの厳しい対応はイスラエル国内の総意ともなっており、反ネタニヤフ勢力としても、この問題での大きな方向転換は掲げられない状況です。

 

ただ、元軍人のガンツ氏としては、多くの友人を戦争で亡くした経緯もあって、イスラエルが再び戦争に巻き込まれるような事態は避けたい・・・という視点から、若干の姿勢の差異があったというところでしょう。

 

【「平和でも戦争でもない」環境における“緩慢な併合”による領土拡張の既成事実化】

いずれにしても、ネタニヤフ首相を主軸とする右派の勝利で、ネタニヤフ首相の対パレスチナ強硬路線は今後も継続することになります。

 

****ヨルダン川西岸入植地、併合意向 ネタニヤフ首相、続投なら****

イスラエルのネタニヤフ首相は6日、9日にある総選挙を経て首相を続投することになった場合、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区にある入植地を、イスラエルに併合するという考えを語った。地元テレビのインタビューに答えた。

 

接戦の選挙戦で保守派の支持を固める狙いとみられるが、パレスチナの反発は必至で、「2国家共存」がさらに遠のくことになる。

 

イスラエルは1967年の第3次中東戦争で西岸地区を占領後、入植を進めてきた。占領地への入植は国際法違反だとされるが、すでに40万人以上のイスラエル人が西岸地区の入植地に住んでいる。

 

ネタニヤフ氏はインタビューで、首相に再選された場合の政策について「(西岸地区の入植地に)イスラエルの主権を適用する。(入植者は)誰一人として追い出さないし、パレスチナに主権は渡さない」と明言した。これまで、入植地の拡大を進める一方、西岸地区の併合は明言していなかった。

 

この発言について、パレスチナ解放機構(PLO)高官は「トランプ政権をはじめ、国際社会が免責を続ける限り、イスラエルは国際法に違反し続ける。我々は自らの権利を求めていく」とする声明を出した。

 

イスラエルの占領地をめぐっては、トランプ米大統領が3月、シリア領ゴラン高原に対する主権を認めることを表明している。【48日 朝日】

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この入植地併合路線は、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」を困難にし、最終的にすべてのパレスチナ自治区をイスラエルに併合し、1つの国家「大イスラエル」の中で両民族が共存していくという形に近づくものです。

 

しかし、1つの国家「大イスラエル」となると、そこに居住するパレスチナ人にどのような権利を与えるのか?という問題が生じます。

 

もし、ユダヤ人と同じように等しくイスラエル人として扱うということになると、「大イスラエル」内ではアラブ人の人口比率が次第に増大し、「イスラエルはユダヤ人国家」という右派主張が崩壊することにもなります。

 

他方、パレスチナ人の権利を制約すれば、イスラエルは民主主義国家ではなく、アパルトヘイト国家になってしまいます。

 

したがって、現実問題としては「大イスラエル」の実現は困難と思われており、イスラエル保守派にあってもそのような認識があります。(だからこそ、「2国家共存」という考えがイスラエル側にもあった訳ですが・・・)

 

では、どうするのか・・・。

 

****2のアパルトヘイトに現実味、イスラエル総選挙、与党続投へ****

9日のイスラエル総選挙はネタニヤフ首相率いる右派「リクード」と中道連合「青と白」が大接戦を繰り広げたが、連立協議の枠組みは右派勢力が優位に立ち、首相の続投が濃厚となった。

 

首相はパレスチナ自治区の入植地併合など強硬方針を表明。イスラエルとパレスチナの「2国家共存」は絶望的となり、パレスチナ人が“二級市民”となるアパルトヘイト化が現実味を帯びてきた。

 

首相在任、史上最長に

(中略)首相が連立交渉をうまく運んだのは、右派に向けて大盤振る舞いをしたからだ。首相は選挙直前の6日、新政権を発足させたあかつきには、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区の入植地をイスラエルに併合するという方針を発表した。パレスチナ側は強く反発し、西岸全域の併合につながると懸念を表明した。

 

1993年の「オスロ合意」で確定したパレスチナ自治区の西岸には、パレスチナ人約260万人が居住。ガザ地区と合わせれば450万人のパレスチナ人が自治区で暮らしている。イスラエルはこの間、国際社会の批判を無視して西岸への入植活動を推進、現在は40万人のユダヤ人が住むまでになっている。

 

しかし、この入植地拡大は中東和平交渉にとっては大きな障害だ。国際的に認知されている和平の方式はイスラエルとパレスチナによる「2国家共存」だ。

 

だが、ユダヤ人入植地は将来のパレスチナ国家の建設地である西岸一帯に拡大しており、いざ国家を樹立しようとしても、ユダヤ入植者を他の場所に移す必要に迫られるなど極めて困難な状況になってしまう。

 

しかも、ネタニヤフ首相の入植地の併合方針は、入植地をなし崩し的にイスラエルの領土にしてしまうということに他ならず、事実上「2国家共存」の否定である。

 

このままでは、最終的にすべての自治区をイスラエルに併合し、1つの国家「大イスラエル」の中で両民族が共存していくという形に近づく。

 

“緩慢な併合”

しかし、この方式は大きな問題を抱えている。選挙権などユダヤ人と同等の基本的権利をパレスチナ人に与えるのか、という問題だ。

 

権利が付与されなければ、パレスチナ人はかつての南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)と同様、差別された“二級市民”に成り下がってしまう。支配者と被支配者に分断されれば、抵抗と抑圧が生まれ、暴力の連鎖よる治安悪化は避けられない。

 

そしてイスラエルは名実共に民主国家の地位を捨てなければならなくなるだろう。

 

だが、パレスチナ人に平等の権利を付与すれば、出生率の違いなどから、パレスチナ市民の人口が増え「ユダヤ国家が事実上、乗っ取られてしまう」(ベイルート筋)。ネタニヤフ氏もこうしたジレンマを十分に認識しているはずだ。

 

ネタニヤフ氏がやろうとしているのは「“緩慢な併合”による領土拡張の既成事実化ではないか」()。つまりは、和平交渉を停滞したままに放置する一方で、徐々に入植活動を推進。パレスチナ人を「平和でも戦争でもない」環境に置いておき、問題を顕在化させずに併合を思い通りにできるというわけだ。

 

だが、こうしたイスラエルの身勝手な振る舞いが続くと考えるのはあまりに楽観主義的すぎるだろう。「平和でも戦争でもない」環境は、怒りと不満が充満すれば、すぐに爆発してしまう。

 

抑圧された西岸の若者たちがより過激化した原理主義組織ハマスにこぞって合流しかねない。長期的なイスラエルの安全保障にとって大きな脅威になりかねないリスクをはらんでいる。

 

トランプ、プーチン氏利用し挽回

ネタニヤフ氏が今回の選挙戦序盤で苦戦を強いられたのは検察当局が3月、収賄など3件の容疑で首相を起訴する方針を発表し、批判が高まったからだ。

 

主な容疑は同国の通信大手ベゼクに便宜を図った見返りに、同社傘下のニュースサイトで同氏を好意的に報道するよう要求したというものだった。

 

だが、首相はトランプ米大統領、プーチン・ロシア大統領との親密な関係を誇示して劣勢を挽回した。

 

特に首相の勝利はトランプ大統領のおかげと言っても過言ではない。大統領自身も、首相やイスラエルに肩入れすることが自らの再選につながると判断したのは間違いあるまい。

 

大票田の大統領の支持基盤、キリスト教福音派が強くイスラエルを支持しているからだ。大統領はネタニヤフ氏の要請に応え、手始めにイスラエルが嫌っていたイラン核合意から離脱した。

 

次いで係争の聖地エルサレムをイスラエルの永遠の首都と認め、昨年5月米大使館を同地に移転。

 

この325日には、イスラエル占領下のシリア領ゴラン高原のイスラエルの主権を認める文書に署名した。

 

一方で、パレスチナ自治政府に対しては厳しく接し、ワシントンの自治政府事務所の閉鎖、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対する資金拠出停止に踏み切った。

 

こうした2人の言動はまるで双子のように似通っている。トランプ氏がロシア疑惑で追及を受け、「政治的魔女狩りだ。ロシアとの共謀はない」と主張してきたのに対し、首相も「魔女狩りだ。(収賄など)ないものはない」と否定、両者がメディアを「フェイクニュース」と罵るところも同じだ。

 

トランプ政権は選挙の熱気が沈静化するのを待って新たな中東和平提案を発表する見通しだ。トランプ氏の娘婿クシュナー上級顧問が中心となって策定した提案だが、イスラエルの主張をそのまま反映した内容にはならないと見られ、ネタニヤフ氏が米国の提案に従うのか、注目されるところだ。【411日 WEDGE

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【「イスラエル批判=反ユダヤ主義」という認識のトランプ政権の出す和平案とは?】

トランプ大統領の「新たな中東和平提案」・・・かねてより「世紀の取引」とも称されているものですが、上記記事には“イスラエルの主張をそのまま反映した内容にはならないと見られ”とはありますが、これまでの流れを見る限り、イスラエルの主張を基本的に受け入れ、パレスチナ側には死活的に重大な譲歩を強いるような内容になるのでは・・・と考えます。

 

****米国、イスラエル・パレスチナ紛争解決案を「間もなく」公表へ****

ポンペオ米国務長官は10日、トランプ政権がイスラエルとパレスチナの紛争解決に向けた提案を「間もなく」公表すると述べた。

長官は上院で「われわれは一連の提案について取り組んでおり、間もなく発表するだろう」と語った。

イスラエル国内の主要テレビ3局が10日報じたところによると、9日に実施されたイスラエル総選挙で、現職のネタニヤフ首相の5期目続投が確実になった。最終的な結果は12日までに確定する見通し。【411日 ロイター】

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鬼が出るか蛇が出るか・・・といったところですが、公表されれば、アメリカ・トランプ大統領はパレスチナ支援停止なども前面に出して、強引にパレスチナ側に認めさせようとの対応にでるのでは・・・とも懸念されます。

 

一方、アメリカにあっては、「イスラエル批判=反ユダヤ主義」という風潮がトランプ政権によって広まっているとも。

 

****対イスラエル不買運動は「反ユダヤ主義」? パレスチナ活動家の米入国拒否****

米当局が、イスラエルに対する抗議の不買運動を呼び掛けている著名なパレスチナ人活動家の入国を拒否したことが分かった。米政府高官からは、不買運動を「反ユダヤ主義」とみなす発言も出ている。

 

米入国を拒否されたのは、米ハーバード大学やニューヨーク大学、シカゴのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)などで講演が予定されていたオマル・バルグーティ氏。パレスチナ問題をめぐり対イスラエル制裁や不買を呼び掛ける「ボイコット、投資引き揚げ、制裁」運動の共同創始者だ。

 

バルグーティ氏は10日、米講演ツアーに出発しようとした際、テルアビブのベングリオン空港で搭乗を拒否されたという。

 

米非営利団体「アラブ系米国人協会」によると、バルグーティ氏は20211月まで有効な米入国ビザを保有している。しかし、入国の権利を認めないとの通達が米当局からあったと空港職員に告げられたという。

 

バルグーティ氏はイスラエルについて、「数十年にわたって軍事占領体制を敷き、アパルトヘイト(人種隔離)や民族浄化を続けているのみならず」「マッカーシズム(赤狩り)じみた理不尽な抑圧政策を、米国や、世界各地の外国人嫌いの右翼連中に外注する傾向が強まっている」と非難する声明を発表。

 

今回の渡米では、米国在住の娘の結婚式にも出席予定だったと明かし、「傷ついたが、思いとどまりはしない」と述べた。

 

BDS運動は、パレスチナを占領するイスラエルに対し、パレスチナ人の窮状を改善するよう圧力をかけるため経済、文化、学問の各分野で展開されているボイコット運動。

 

パレスチナ自治区ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地を産地とする商品の不買運動も、その一つだ。イスラエルはBDS運動に激しい怒りを表明している。

 

米ドナルド・トランプ政権に先ごろ任命されたエラン・カー反ユダヤ主義対策特使は11日、バルグーティ氏の入国拒否については話すことはないとしつつ、BDS運動について「誰でも好きなように買い物をする権利がある。イスラエルという国を経済的に抑圧する組織的な運動があるならば、それは反ユダヤ主義だ」と記者団に述べた。

 

トランプ大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を強く支持し、保守色の濃い同首相から距離を置く民主党の政治家らを反ユダヤ主義的だと批判している。 【412日 AFP

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当然ながら、国家としてのイスラエル批判と反ユダヤ主義は全く別個のものですが、トランプ政権にあってはそのような認識はないようです。

 

そのトランプ政権の提示するイスラエル・パレスチナ紛争解決案ですから・・・。

単に期待できないというだけではなく、いったん公表されたら、トランプ政権は力づくでその容認をパレスチナに迫るであろう・・・という点で、新たな問題を惹起する恐れがあります。

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