孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ新大統領 TVドラマが現実に プーチン相手の交渉、黒幕富豪との関係に不安

2019-04-26 22:43:26 | 欧州情勢

(ウクライナ首都キエフの選挙対策本部で、決選投票の第1回出口調査の結果を喜ぶウォロディミル・ゼレンスキー氏(2019421日撮影)【422日 AFP】 前途にはいばらの道が・・・)

 

【現大統領の政敵富豪が作成したTVドラマが生み出した新大統領 富豪の手足に・・・との懸念も】

ウクライナでは331日に大統領選挙第一回投票が実施され、新人でコメディアンのゼレンスキ氏ーが30.2%を、現職大統領のポロシェンコ氏が16.0%を得票し、この2人が決選投票に進出。

 

そして周知のように、421日の決選投票で、ゼレンスキー氏が73.2%を得票する“地滑り的圧勝”で当選を果たしました。

 

ゼレンスキー氏は、63日に正式に大統領に就任し、5年間の任期をスタートさせることになっています。

 

ゼレンスキー氏が政治に関して全くの素人で、素人が大統領になるというTVドラマで人気を博し、ドラマを現実のものとする形で、実際に大統領に就任する・・・・ということで、世界的にも注目を集めていることも周知のところです。

 

“彼の唯一の政治経験はテレビ番組で演じた大統領役だ――それもアメリカのドラマ『ザ・ホワイトハウス』に登場するジョサイア・バートレットのような聡明で強い大統領ではなく、笑いを取ることが狙いの大統領だった。”【423日 Newsweek

 

ドラマ「Servant of the People(直訳:国民のしもべ)」で彼が演じた教師は、政界の汚職について激しい口調で批判。ソーシャルメディアで拡散され、それがきっかけで大統領になるという展開でした。

 

ゼレンスキー氏はこの番組名と同じ名前の政党から立候補して、既成政治の腐敗を批判し、TVドラマと現実をオーバーラップさせることに成功しました。

 

もちろん全てはこれからですが、現在のメディア評価は、一言で言えば“大丈夫か?”といったところでしょう。

 

全くの素人が、また、コメディアンが大統領になることは基本的には問題ありません。特に“ポピュリズム”の流れが顕著な昨今では、イタリアの「五つ星」を主導した人気コメディアンのベッペ・グリッロ氏とか、パキスタン首相に就任した元クリケット有名選手のカーン首相などもいて、素人が政治の主役になることはそう珍しいことでもありません。

 

ただ、ゼレンスキー氏の場合、TVドラマを地で行くという異例の展開、今後の政策について具体策をほとんど語っていないこと、何よりも、東部ウクライナの国際的紛争地域を抱える中で、今後の相手があのロシア・プーチン大統領になることで、“大丈夫か?”という懸念にもなります。

 

もう一つの不安要素は、既成政治の腐敗・汚職を批判して人気を博したゼレンスキー氏ですが、彼自身も富豪のイホリ・コロモイスキー氏との関係が取りざたされており、その点で信用できるか疑わしいとの批判もあることです。

 

更に言えば、議会内に“自前の勢力”がまだ存在していないということも、現実面では大きな障害になるでしょう。

 

富豪コロモイスキー氏との関係については、以下のようにも。

 

****ウクライナのゼレンスキー次期大統領につきまとう「一発屋」の不安****

(中略)そうした中で、まさにゼレンスキーが現政権への対抗馬として浮上したのには、理由がありました。

 

ウクライナを代表する大富豪の一人に、I.コロモイスキーという人物がいます。コロモイスキーはポロシェンコ政権と対立し、プリバト銀行を国有化される憂き目にも会って、現在は外国に身を寄せています。

 

ただ、コロモイスキーはテレビ局「1+1」などの有力マスコミをウクライナに保有しているものですから、自らのメディアを駆使してポロシェンコへのリベンジを開始したのです。

 

そうした中、「1+1」局はゼレンスキーの主宰する「クバルタル95」という番組制作会社と契約を結び、「クバルタルの夕べ」というバラエティ番組と、テレビドラマ「公僕」の放映を開始しました。

 

特に後者は、ゼレンスキー演じる名もない学校教師がひょんなことから大統領になり、国民のために身を粉にして頑張るというストーリーであり、ゼレンスキーのイメージを決定付けました。

 

今回の大統領選におけるゼレンスキーの勝利は、フィクションが現実となるような展開であり、真相は不明ながら、このシナリオをコロモイスキーが完璧に描いていたのだとしたら、驚くべきことです。

 

ゼレンスキーを待ち受けるいばらの道

かくして、ウクライナ国民は既成政治に「ノー」を突き付け、清新な素人候補ゼレンスキーを大統領に据えました。しかし、国民が抱いているのはテレビドラマで作られたイメージであり、ゼレンスキーの実像ではありません。

 

自転車に乗り国民のために奔走する劇中の姿とは異なり、ゼレンスキーは高級車に乗るお金持ちで、実はオフショアやロシアに資産があるとも言われます。国民が、「あれ? 思ってたのと違う」と気付くのに、そう時間はかからないでしょう。

 

ゼレンスキーにとって最も厄介な問題は、前出の富豪コロモイスキーとの関係でしょう。自らの政界進出をお膳立てしてくれた恩人ですが、2人の関係は広く知れ渡っており、露骨にコロモイスキーの便宜を図ったりしたら、ゼレンスキー株は急落します。

 

とりわけ、上述のプリバト銀行の国有化を見直し、コロモイスキーの所有に戻すようなことをすれば、国民は激怒するでしょう。かといって、パトロンを裏切れば報復を受けかねず、このあたりの塩梅が難しいところです。

 

ゼレンスキーに政治経験がないことは、選挙には有利でしたが、就任後には不利になります。先日、EU各国の大使たちがゼレンスキーと面談し、ゼレンスキーがあまりにも無知であることに、大使たちは失望したと伝えられます。

 

ゼレンスキーは、知識が乏しいのに、思い付いたことを不用意に発言してしまう癖があると言われ、就任後に失言を繰り返したりしないか、心配になります。

 

実は、ウクライナの政治制度は、議院内閣制に近く、まず議会(最高会議)で多数派の連立が形成され、その多数派連立が首相を指名するという仕組みになっています。

 

現状でゼレンスキーには議会に自前の勢力がなく、人事や立法などの面でできることは限られています。本年1027日に議会選挙が予定されており、ゼレンスキーの政党である「公僕党」が躍進する可能性はありますが、これから半年間でゼレンスキー・ブームがすっかり下火になり、議会選挙でつまずくことも考えらます。

 

そうなれば大統領と議会がねじれたままで、ウクライナ政治は手詰まりになるでしょう。(後略)【424日 GLOBE+

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まさに、コロモイスキー氏が自分のTV局の自分の番組で作り出したキャラクターを現実の大統領に押し上げた・・・というところです。

 

【プーチン大統領 東部ウクライナ住民へのロシア国籍付与という外交カードで揺さぶり】

ロシア・プーチン大統領は、ウクライナに対し、さっそく強力な揺さぶりをかけてきています。

 

****ウクライナ東部住民、簡単に「露国籍」…反発強まる****

ロシアのプーチン大統領が、親露派武装集団による実効支配が続くウクライナ東部で、一部住民のロシア国籍取得手続きを簡略化する大統領令に24日に署名し、ウクライナで反発が強まっている。

 

ロシアには、ウクライナ大統領選で勝利したコメディー俳優のゼレンスキー氏を揺さぶる狙いもあるとみられる。

 

親露派武装集団は2014年に東部のドネツク州とルガンスク州の一部で「人民共和国」の建国を宣言した。住民は約370万人いるとされる。

 

大統領令により、住民が申請すれば、約3か月でロシア国籍と旅券を取得できる。プーチン氏は「住民は基本的な権利を奪われるなど看過できない状況にある」と人道目的を強調した。

 

ゼレンスキー氏の事務所は24日、プーチン氏の大統領令に関し、「ロシアが侵略国家だと改めて示している」と非難した。【426日 読売】

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東部ウクライナのロシア系住民がロシア国籍を取得するこの意味合いは大きく、将来この“ロシア国籍を有するロシア人の保護”を名目にしたロシアの軍事進攻もあり得ることになります。

 

****ウクライナで新大統領が誕生、揺さぶりをかけるロシア****

(中略)ゼレンスキーは政治経験が全くない人物であるが、選挙戦の中で、記者会見を控えたり、ポロシェンコとの討論も最低限に抑えたりして、綻びを極力出さないようにしてきたのも勝因であろう。

 

ウクライナ問題で多大な犠牲を払ってきた両国

このような新人大統領を緊張関係にあるロシアはどのように見ているのか。

 

ウクライナにとって、最大の政治課題はウクライナ東部とクリミアの問題をロシアと議論し、解決することである。選挙前から、ロシアはポロシェンコとは交渉しないが、新大統領とは交渉の用意があると主張していた。

 

また、ゼレンスキーの当選を受け、ロシアのドミトリ・メドヴェージェフ首相は歓迎の意を表し、ウクライナとロシアの関係修復のチャンスはあると語った。

 

当然ながら、ゼレンスキーもウクライナ東部の問題解決を公約しており、ゼレンスキーはこれまでの、ドイツ、フランス、ロシア、ウクライナの四カ国による交渉である「ノルマンディー方式」に、英国、米国を加えて交渉を仕切り直す方針を提案している。

 

またゼレンスキーは、東部の分離派の住民をウクライナに統合し(ポロシェンコとは違う路線である。ポロシェンコ時代、分離派地域の住民に年金や社会福祉は提供されなかった)、分離派の捕虜になったウクライナ兵や1811月にロシアに拿捕され拘留され続けているウクライナ軍海兵の釈放も早期に行うと公約している。

 

しかしロシアは、クリミア併合とウクライナ東部の混乱状態の保持のために、多大な犠牲を払ってきた。ロシアに有利な形でなければ、決して交渉は妥結しないであろう。

 

他方で、犠牲を払ってきたのはウクライナも同じであり、ウクライナ国民もロシアへの譲歩には反対するはずだ。そのため、交渉での問題解決は極めて困難な状況であるのだが、そこにロシアはつけ込む可能性が極めて高いと考えられてきた。

 

ウクライナ東部住民、ロシア国籍の取得が容易に

そして、ロシアの最初の揺さぶりの第一手がすでに切られた。424日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がある大統領令に署名したのだ。

 

親露派分離主義勢力がその一部を実効支配しているウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州の住民が、極めて簡素な手続きでロシア国籍を取得できるようにするというものである。この意味は極めて大きく、ゼレンスキー政権に対する強烈な揺さぶりとなる。

 

そもそも、ロシア国籍を取得するのは容易ではなく、通常は、ロシア人との婚姻やロシアにおける就労希望など、明確な理由が必要とされ、言語試験などのハードルもあり、その取得には数年かかるのが普通だ。(中略)

 

しかし、今回の大統領令によれば、東部2州の住民は国籍取得のための申請書と個人データを提出すれば、たった3カ月以内の審査で国籍付与の可否が決まるという。そしてこの簡素化の決定は、国際法の基準に則った人権保護のためであるという。(中略)

 

このロシアの手法は、すでにジョージア国内の未承認国家(国家の体裁を整えながらも、国際的な国家承認を得られていない主体)であるアブハジア、南オセチアで確立されたものだ。

 

ロシアは、旧ソ連の未承認国家を、ロシアが旧ソ連圏を影響圏として維持するための外交カードとして利用してきた。

 

未承認国家の政治利用が最も顕著なのがジョージアの事例であり、ジョージア北部に位置し、ロシアと接するアブハジア、南オセチアに対し、ジョージアとの紛争中から惜しみなく支援をし、それらが未承認国家化すると、ロシアのパスポートを発行し、「ロシア人」を作り上げていったのである。(中略)

 

未承認国家の住民にとって、ロシアのパスポートの意味は大きい。未承認国家のパスポートでは海外に行くことはできないが、ロシアのそれがあれば、海外旅行が可能になる。しかも、ロシアから年金や社会保障も得られるのである。

 

とりわけ、ウクライナ東部の住民は、現在、ウクライナから年金や社会保障を得られておらず、ロシアから支援された「人民共和国」から少額の支払いを受けているに過ぎない。そういう状態であれば、ウクライナ東部の住民がこの大統領令を歓迎するのは当然である。

 

しかし、この大統領令は、ウクライナ東部が事実上のロシアの一部になってゆくことを意味する。

 

しかも、国際法的にはウクライナの中にあっても、「ロシアの自国民」がウクライナ国内にいるということは、ロシアにとって大きな政治的カードになる。ロシアのハイブリッド戦争において、「自国民保護」は重要なキーワードであり、それを錦の御旗にして、ロシアはジョージアやクリミアに侵攻してきた。

 

今回の大統領令は、ウクライナが東部を実質的に失っていくプロセスになり得、また、ロシアの侵攻の口実を生み出すものであり、新政権にとっては極めて大きな打撃である。

 

問われる新大統領の手腕、その実力は?

ロシアの揺さぶりがこれで終わるとは思えない。ゼレンスキーは最初から厳しい試練に晒されたが、これからの彼の手腕が注目されるところである。

 

それでは、ゼレンスキーはどのような人物か。(中略)

 

ゼレンスキーが大統領選挙への出馬を表明したのは2018年の大晦日であり、それは電撃的な発表とみなされているが、実は、ドラマに出てくる政党と同名の「国民の奉仕者」という政党を2017年末に登録していた。

 

また、2018年の春から外交や経済の専門家と接触していたことから、出馬の準備は実はかなり前から始めていたと言えそうである。

 

不安の声も……

ゼレンスキー最大の勝因は、現職のポロシェンコに対する失望があまりに大きかったことであった。(中略)

 

とはいえ、ゼレンスキーに不安の声が多いのも事実だ。

ゼレンスキーは、専用車で公道を優先通行する特権を放棄したり、飛行機移動も民間機を利用したりすると、大統領特権の多くを放棄すると宣言して、庶民派をアピールしつつ(ただし、実は大変な資産家である)、汚職を廃絶してウクライナを改革し、親欧米路線を追求してゆくと宣言しているが(ただし、EUNATOの加盟の際には国民投票を行うとも述べている)、彼の政策には具体性が欠けていることが懸念されている。

 

また、ゼレンスキーが18日に発表した20人の政策チームは3040歳代の若手が中心で、一部を除き、ほとんどが無名である。

 

さらに不安視されているのが、議会が機能不全に陥る危険性である。政権運営には最高議会の協力が不可欠だが、ゼレンスキーの政党「国民の奉仕者」の議席数はゼロであり、ポロシェンコ派が最大会派を形成しているため、政策を提案しても、容易に承認されない可能性は高い。

 

実は財閥の手足に過ぎない?

最後に、クリーンなイメージを打ち出してきたゼレンスキーが、実は財閥の手足に過ぎないのではないかという懸念もある。ゼレンスキーのバックにいると言われているのが、総資産額11億ドルを所有すると言われるオリガルヒのイホル・コロモイスキーである。

 

彼は、金融、鉄鋼、メディア、エネルギー、投資と非常に多くの分野に進出しており、ゼレンスキーが出演するテレビ局「1+1」も所有している。

 

(中略)ゼレンスキーとコロモイスキーの関係の深さは周知の事実であり、ゼレンスキーがコロモイスキーの手足になるのではないかという懸念が持たれていることは間違いない。

 

なお、ゼレンスキーは通常はロシア語話者で、公用語のウクライナ語は苦手であるため、勉強中であるという。

プーチンにとっては赤子の手を捻るようなもの?

 

このように、今後の政権運営には不安の声も多いものの、ポロシェンコへの失望が国内外であまりに高かったことが、相対的にゼレンスキーへの期待値を高めている。欧米諸国もゼレンスキーの当選を歓迎し、多くの欧米首脳が早期の首脳会談を望んでいるという。

 

しかし、ウクライナの今後の命運を握るのは、やはり隣の大国・ロシアである。老練な政治家・プーチンにとっては、ゼレンスキーとの交渉は赤子の手を捻るようなものであるかもしれない。

 

ロシアは、ウクライナ東部の問題につけ込みながら、ウクライナに揺さぶりをかけ、ひいては欧米に対して圧力をかけてゆく可能性が極めて高い。

 

新大統領の誕生が、ウクライナにとって起死回生の契機になるのか、ウクライナにとってさらなる試練をもたらすものになるのか、今後の動向が注目される。【426日 WEDGE

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東部ウクライナの問題は、ウクライナ一国の問題にとどまらず、欧米とロシアの関係を通じて国際政治全体に影響します。

 

今世界が感じているのは、そのような極めて敏感な地域で、極めて“微妙”な人物が大統領になる・・・という不安です。

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