孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ネット上に氾濫する「フェイク情報」規制と「表現の自由」の難しいバランス

2019-07-11 21:59:19 | インターネット SNS

(カイロのタハリール広場で、「ムバラク政権打倒」の気勢を上げる市民たち=2011年2月、越田省吾撮影【7月3日 GLOBE+】 「アラブの春」においてはSNSが大きな役割を担ったとされています。)

 

【「テロ対策」を大義名分とするSNS規制の流れ】

現代社会においてソーシャルメディアが圧倒的な存在感をもって多くの人々の生活・思考・行動に影響を与えていることは今更の話で、その結果、ソーシャルメディアに氾濫するフェイク、悪意に満ちたヘイト、情報操作を意図した国家・特定のグループによる陰謀的な情報など、深刻な問題が表面化しているのも、これまた今更の話です。

 

 

既存のメディアによる「報道」には公正さ・正確さが要求されるのに対し、ソーシャルメディアの情報は「表現の自由」と「市民参加」の実現という観点から、多くの制約の枠外にあります。その結果、冒頭で述べたような深刻な問題を引き起こすところともなっています。

“政治的分断を深め、ヘイトを拡散することに役立っている”とも指摘されるソーシャルメディアですが、「表現の自由」や「市民参加」という面を考えると、その規制は難しい問題をはらんでいます。

 

そうしたなかで、“テロリストに悪用されるのを防ぐ”という観点からの規制が急速に広まっています。

 

****テロのSNS悪用阻止へ=官民が国際会議、宣言採択―仏****

ニュージーランド(NZ)のクライストチャーチで起きた銃乱射テロから2カ月となる15日、インターネット交流サイト(SNS)がテロリストに悪用されるのを防ぐ取り組みを検討する国際会議がパリで開かれた。

 

各国首脳や大手IT企業トップらが「クライストチャーチ宣言」を採択し、テロを助長する危険思想や暴力的な投稿の拡散防止へ向けた官民協力を確認した。

 

会議はフランスのマクロン大統領とNZのアーダーン首相が共同議長を務めた。アーダーン氏は声明で「クライストチャーチのような悲劇を起こさないための具体的な措置を講じた」と強調。

 

マクロン氏は「自由で開かれたインターネット環境を構築しなければならないが、われわれの価値観と市民も守られるべきだ」と主張した。

 

宣言で各国政府は、テロや暴力的な過激主義に立ち向かい、適切な法整備に努める方針を確認。IT企業側は、テロリストや過激主義者の投稿とネット上での拡散を阻止し、危険な投稿の「即時かつ永久的な削除」を約束した。ただ、法的拘束力はない。

 

宣言は英国やカナダ、欧州連合(EU)欧州委員会など10の国・機関のほか、フェイスブック(FB)やグーグル、アマゾンをはじめとする大手IT企業が採択。会議に出席しなかった日本やスペインなども支持を表明した。一方、中国や米国は加わっていない。【5月16日 時事】

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上記のような流れを受けて、SNSなどのネット上の「フェイク情報」に国家が罰則をもって厳しく取り締まる傾向が進んでおり、そのひとつ、シンガポールの規制が注目を集めました。

 

ただ、いったい何を持って誰が「フェイク」と判断するのか? “テロ対策”を大義名分にして政権側にとって都合の悪い情報は「フェイク」とされ、言論弾圧に利用されるのではないか? との警戒・不安もあります。

 

****フェイク情報に厳罰、波紋 シンガポール、禁錮刑科す新法****

フェイクニュース」をネットで発信・拡散し、削除しない人や組織に厳罰を科す新法がシンガポールで成立した。同種の動きは他国でも広がっており、政治権力による言論抑圧につながりかねないとの批判が出ている。

 

 ■「閣僚が判断」に批判

シンガポールで成立したのは、「オンラインの虚偽情報・情報操作防止法」。「全部または一部が虚偽、もしくは誤解を招く情報」を発信した人や組織に政府が削除や訂正を要求でき、要求に応じなければ個人でも禁錮刑や罰金刑を科される。虚偽かどうか判断する権限は閣僚に与えられる。

 

国会で野党は「民主主義を守るためでなく、絶対的な力を行使したい政府のための法律だ」と反論したが、与党などの賛成多数で5月8日、可決した。

 

東南アジアのニュースを報じるネットメディア「ニューナラティフ」のピンジュン・サム氏(39)は「政府の気に入らない情報は何でもフェイクニュースとみなされかねない」と指摘する。(中略)

  

「フェイク」とされる情報やニュースへの規制は、表現の自由を重んじる欧州でも始まっている。選挙で候補者に関するウソの情報が広がったことなどが背景にある。

 

ドイツで昨年から本格運用が始まったフェイクニュース規制法では、苦情を受けたSNSの運営会社が、内容の違法性を判断したうえで投稿を一定期間内で削除することが義務づけられた。

 

フランスでも昨秋、選挙の際の虚偽報道を防ぐための法律が成立。ロシアでは今年3月、不正確な情報を拡散した個人や法人に罰金を科す新法ができた。

 

 ■市民の検証「支援を」

米国ではトランプ大統領が、自身に批判的な新聞やテレビ局を「フェイクニュース」と非難。日本でも菅義偉官房長官が記者会見での東京新聞記者による質問を「正確な事実に基づかない」と批判した。

 

「最悪のシナリオは、公的権力がフェイク情報対策を口実に、言論統制に乗り出すこと」。日本新聞労働組合連合(新聞労連)の南彰・中央執行委員長は、こう懸念する。

 

南氏は、ファクトチェックはメディアが担うべきで、「権力が介入する余地をなくしていく必要がある」と考えている。新聞労連としてもネット上の流言、政治家の発言などの真偽を確かめる記事を書く記者への支援を検討したいという。

 

元NHK記者で、NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ」副理事長の立岩陽一郎氏も「情報の真偽を判断するのは政府ではなく、主権者である国民、市民でなくてはならない」と指摘する。(後略)【6月8日 朝日】

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【「表現の自由」という“きれいごと”より国家の利益という“本音”重視へ】

シンガポールは、もともと政府監視が厳しい国家ですから、このような恣意的運用の恐れもある「フェイク情報」規制が出てきたことは、それほど驚くことでもありません。

 

驚くべきは、こうしたシンガポールの対応に「言論の自由」を普遍的価値観としてきた欧米諸国からほとんど批判がなかったことでしょう。

 

それだけ、ネットの情報への対応についても、また、基本的価値観と現実的利害に関する政治の姿勢という面でも、世界は大きくかわりつつあるようです。

 

****世界で進むSNS規制 いま何が起きているのか、専門家に聞いた****

いま世界では、テロ防止や犯罪抑止という理由で、政府がSNS規制の法律をつくったり、また規制に向けた議論が起きたりという例が相次いでいます。

 

この先、どんな未来が待ち受けているのか。「個人の自由やプライバシー」と「政府による監視」の関係をどう考えればいいのか。中東諸国はじめ諸外国のネットコントロール事情に詳しい山本達也・清泉女子大学教授に話を聞きました。

 

――フェイスブックなどのSNSが一般に普及して10年ほどになります。世界各地でいま、SNSを含むネット空間に対する政府のコントロールが目立ちますが、過渡期なのでしょうか。

 

2008年ごろからツイッター、フェイスブック、ユーチューブなどのソーシャルメディアが世界的に普及し、非民主主義国の一部では政府と国民との力関係が逆転する現象が起きました。

 

フェイスブックがアラビア語にも対応するようになり、エジプトでSNSを駆使した若者たちによる反政権運動が08年に起こります。それが11年の『アラブの春』の原動力となり、アラブ各地での民主化運動へとつながっていきました。

 

インターネットが登場したころ、ネットが普及していけば、人々が世界に向かって言いたいことを主張でき、政治は悪いことができなくなり、社会がよくなるのではないか。そんなバラ色の未来を描いていたような気がします。ひょっとしたら我々は過度な希望をもちすぎたのかもしれません。 

 

――ネットというツールを得て我々の暮らしは劇的に変わりましたが、社会はそれほど良くなっていない、と。

 

国際的な共同調査である『世界価値観調査』のデータを分析すると、興味深い結果が出ました。『アラブの春』後、エジプトではすべての世代において、非民主的であっても強いリーダーを持つことが好ましい、ととらえる人が大きく増えました。

 

隣国のリビアやシリアのようになるくらいなら、非民主的な大統領でも強いリーダーの方がまし、という考えなのでしょう。

 

エジプトでは最近、ネット活動家の投獄や反体制運動の非合法化、昨年8月の『反サイバー犯罪法』成立などネット規制が強化されています。(中略)

 

SNSというツールを手にして社会の変革を起こした体験があるにもかかわらず、国民はそれを自らの意思で手放そうとし、想像していた社会とは違った方向に進んでいるのです。 

 

――2013年に米国家安全保障局(NSA)による個人情報の大量収集の事実を、エドワード・スノーデンが内部告発し、民主主義国でも自由でオープンなネット空間が確保されていたわけではなかったことが判明します。

 

それまでネットと政権の距離を巡る考え方は、非常にシンプルな構図でした。政権にとって不都合な情報をアクセス及び発信できないよう規制したい非民主主義国と、ネット空間は自由でオープンな社会インフラであるべきだという先進民主主義国です。最近はそれほど単純ではなくなってきています

 

今年4月にスリランカでテロが発生した直後、同国政府はSNSを遮断しましたが、欧米メディアなどでテロ対策のためのネット規制に賛否の声がありました。欧米で規制に賛成する声もあったことは、時代の変化を象徴しています。

 

テロリストによる衝撃的な映像がSNSを介して拡散していき、テロリスト自ら動かなくても勝手に恐怖感を植えつけていく。リクルートも容易になります。それに加担するのはよくないということでしょう。

 

どの国でも本来、政府の本音は政権批判や不都合な事実は封じ込めたい。テロ対策という大義名分ができたことで正当化され、堂々と規制ができるようになってきています。 

 

■ネット規制のハードル下がった

――国家が民主的、非民主的問わず、世界は規制を許容し、国民もある程度、望んでいるということですか。

 

ネット空間の自由度はエジプトに限らず、世界的に後退傾向にあります。昨年ニュージーランドで起きたモスク銃乱射事件では犯行の様子がフェイスブックで中継され、NZでも規制の議論が進んでいます。

 

こうした二次被害の恐れが、プライバシーを最大限確保したい、自由や表現も守りたいという先進民主主義国の原理的な価値を上回るようになり、社会が規制を許容する方向に動いているのです。

 

そのような社会では監視や通信傍受、規制をする側の政府の方が、国民よりも圧倒的に有利な立場になっていきます。イギリス政府も今年4月、ネット上のテロに関する情報拡散の制限などを提言する白書を出しました。

 

――民衆が規制を許容する背景には、テロ以外の要因もあるのではないでしょうか。

 

一種のSNS疲れもあると思います。より長く、より頻繁にアクセスさせて中毒的にする工夫を凝らして企業が利益を追求していることに、人々が嫌悪感を抱き、距離をおこうとしているのです。(中略)

 

■「きれいごと」よりも「本音」

――シンガポールでは5月、「偽ニュース防止法」が成立しました。政府が偽ニュースと判断すれば、SNS投稿やフェイスブックメッセンジャーなどの会話内容なども対象に、偽情報発信者やオンラインプラットフォーマーを罰することができ内容です。

 

街中に監視カメラがたくさん設置されていて、もともと政府の監視が強いシンガポールで、このような法律ができたことに違和感はありません。むしろ驚いたのは国際社会から批判がほとんどでなかったことです。

 

一昔前にそんな法案を通そうとしたら米国をはじめ、国際世論が黙っていなかった。隔世の感があります。

 

きれいごとや理想を掲げられることが大人の国家であるという暗黙のルールが、アメリカ第一主義を掲げるトランプ政権の誕生とともに消え、本音は包み隠さず、国益を最大に打ち出すことへのためらいがなくなったのだと思います。【7月3日 GLOBE+】

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【進むIT企業による「自主規制」 仏では企業に義務付け、「表現の自由の(規制の)民営化」とも】

国家規制という介入を避ける意味合いからも、SNS側による「自主規制」的な動きも広まっています。

 

****ユーチューブ、「憎悪表現」「至上主義」動画を禁止へ****

米IT大手グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」は5日、人種などに基づく差別を助長・賛美したり、十分に立証されている暴力的な事件を否定したりする動画を禁止すると発表した。

 

暴力的な事件には、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)や2012年に米コネティカット州のサンディフック小学校で起きた銃乱射事件などが含まれる。

 

憎悪表現や暴力を含むコンテンツをめぐってより厳格な規制を求める声が高まる中、IT大手各社はこうした投稿を削除する措置を相次いで発表している。(後略)【6月6日 AFP】

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****トランプ支持者のネットフォーラムを隔離、暴力推奨し規定に違反****

ソーシャルニュースサイトのレディットは26日、ドナルド・トランプ米大統領の支持者らが集まる人気フォーラムを「隔離」したと明らかにした。ユーザーらが暴力を扇動するなど、規定違反を繰り返したためだとしている。

 

レディットによると、問題とされたのは「ドナルド」と名付けられたフォーラム(サブレディット)。「規定違反行為が繰り返され」、そのたびに暴力を推奨、扇動する投稿を削除しなければならなかったため、対応をとったとしている。直近では、オレゴン州の警官や公人に対する暴力を推奨する書き込みがあったという。(中略)

 

 一方、これに先立ちトランプ氏は同日、米経済ニュースチャンネルFOXビジネスとのインタビューで、ツイッターが自身の投稿を検閲し、国民へのメッセージ発信を困難にしていると非難した。(後略)【6月27日 AFP】

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****特定宗教ヘイト、削除へ ツイッター方針、禁止対象を拡大****

ツイッターは9日、ヘイトスピーチ対策強化の一環で、「特定の宗教グループ」を非人間的に扱うツイートは、今後削除していく方針を明らかにした。これまでは「特定の個人」の人間性を否定する内容を規約違反としてきたが、「集団」に対象を広げる。まずは「宗教グループ」を対象とし、今後、「性別」や「人種」、「国籍」などにも広げていく考えだ。(後略)【7月10日 朝日】

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****偽医療情報の拡散防ぐ、FBとユーチューブが投稿のランク付けアルゴリズムを修正****

米紙ウォールストリート・ジャーナルが2日、誤解を招く恐れのあるがんの代替療法の情報が交流サイト最大手のフェイスブックと動画投稿サイトのユーチューブに氾濫していると報じたことを受け、フェイスブックとユーチューブは同日、そうした情報の拡散を防ぐ対策を取っていると明らかにした。

 

フェイスブックは、「誇張した、またはセンセーショナルな健康関連の主張」と、そのような主張に基づいて商品を売ろうとするアカウントを減らすため、投稿のランク付けのアルゴリズムを修正したと明らかにした。ユーチューブも独自に同様の対応策を取っていると述べた。(後略)【7月3日 AFP】

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多くのユーザーは検索情報の上位にランクされる情報しか通常目にしませんから、どのような情報がユーザーの目に触れやすい形で提供されるかというアルゴリズムは非常に影響が大きく、かつ、ブラックボックスです。

 

****ネットの暗部に視聴者誘導、ユーチューブの落とし穴****

陰謀説や特定の主義主張に偏った意見が「おすすめ」に現れる

 

動画共有サイト「ユーチューブ」は新しいテレビだ。ユーザーは15億人を超え、そこで視聴を薦められる動画は、世界中で人々の考え方に影響を与える。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が調査を実施したところ、より中立性の高いコンテンツが強調されるように変更したとのユーチューブの説明にもかかわらず、「おすすめ」動画の多くは賛否の分かれるテーマや誤解を招きやすいもの、あるいは虚偽の内容だった。(後略)【2018 年 2 月 9 日 WSJ】

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一方、国家が主導して、IT企業に「自主管理」させる取り組みを進めるのが、先述の「クライストチャーチ宣言」を主導したフランス・マクロン大統領です。

 

****仏でヘイト投稿規制法成立へ 企業に罰則つき削除義務****

グーグルなどのIT企業に、ネット上で憎しみや差別をあおる投稿の削除を義務づける法案を賛成多数で可決した。上院第1党の野党共和党もおおむね賛成で、9月にも成立する見通しだ。

 

削除すべき投稿の判断を企業に委ね、怠れば処罰するしくみで、表現の自由を脅かす懸念も出ている。

 

ヘイト投稿規制法案では、FB、ユーチューブといったIT企業がフランスで提供するサービスで、明らかに違法なコンテンツがあった場合、閲覧者の通報から24時間以内に削除するよう義務づける。

 

通報は投稿で傷つけられる当事者でなくても可能で、メッセージだけでなく動画や写真も対象だ。

 

企業の違反には最大125万ユーロ(約1億5千万円)の罰金が科される。通報しやすいよう、専用のクリックボタンを画面に表示させるなどの工夫も事業者に義務づける。(後略)【7月10日 朝日】

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Bの幹部が今回の法案について「表現の自由の(規制の)民営化のようなものだ」と懸念している”【同上】とも。

 

「表現の自由」を担保しながら、悪意の「フェイク情報」がネット上に氾濫する現状をどのように改善するのか・・・難しい問題です。

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