孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  入試を悲観して自殺する若者 自殺防止のため、ひもをかけても外れやすい天井扇風機も

2019-07-08 22:58:47 | 南アジア(インド)

(本文とは直接関係のない、タイのカセサート大学でのカンニング防止対策【eedu.jp】 あまりにも面白かったので)

 

【韓国:飛行機の離着陸も自粛】

日本では、ひと頃の「ゆとり教育」や長期的な少子化・若者の現象の影響もあって、昔のように「受験戦争」という言葉を聞く機会は少なくなったようにも。(代わりに、「お受験」なんて言葉が出てきましたが)

 

「受験戦争」に関して、よく話題になるのが韓国における大学修学能力試験(日本のセンター試験に相当)当日、社会をあげての狂騒曲状態。

 

試験時間に遅れそうになった受験生を警察のパトカーが会場に送っていくというのは“当然”のことのようで、英語のリスニング試験が行われる時間帯には“この35分間は非常事態、緊急事態が発生した場合を除き、国内すべての空港で航空機の離着陸が禁止される。また、飛行中の航空機は管制機関の指示に従い、地上から3キロ以上の上空を飛ばなければならない。”【20181113 WoW!Korea】とのこと。

 

さすがに、韓国国内でも“やりすぎじゃない?”“そんなことより、スピーカーの質をよくしろ”との声もあるようです。

 

他にも、官公庁・大企業は始業時間をずらして当日電車や道路が混まないようにするなど。

 

【インド:カースト制の制約を逃れるためにもIT関連名門校に希望者集中 「留保制度」による逆差別も】

全ては学歴偏重社会における“一発勝負”というところからくる騒動ですが、そのあたりの騒動は、韓国だけでなくインドや中国も同じ、あるいは韓国以上のようです。

 

****苛烈な競争ににずみも、若者に自殺者続出****

世界2位、13億超の人口を抱えるインド。「カースト」という不条理な差別をはね返し、IT産業での成功を勝ち取るため、若者たちが熾烈な競争を繰り広げている。

 

「わが校から統一入試6位を輩出!」 「全インド女子1!」。人と牛が行き交う市街地に入ると、子供たちの顔写真と試験のランキングを宣伝する看板が続々と現れる。北西部の地方都市コタ。大小の予備校や進学塾が軒を連ね、「私塾産業の震源地」と呼ばれる。

 

1990年代、最高峰のインドエ科大学(IIT)に合格者を出した私塾が評判を呼び、各地から受験生が殺到。他の塾も相次いで参入し、遠方からの生徒のために寮が続々と建てられた。現在、コタの人口の1割に当たる約15万人が親元を離れて受験勉強に明け暮れる。

 

大手予備校「バイブラント・アカデミー」で学ぶアビラル。バンダユ(16)も、その一人だ。「IITに合格できたら、サイバーセキュリティーの専門家になって、グーグルに就職する。それが目標です」

 

国内23のキャンパスがあるIIT進学には、統一入試で競争率100倍以上の狭き門を突破しなくてはならない。グーグルなど名だたる大企業の幹部らを輩出しており、将来の成功を夢見る若者やその家族にはあこがれの的だ。

 

IT業界への就職熱に一役買っているのが、ヒンドゥー教のカースト制度。バラモン(司祭)、クシャトリヤ(武人)、バイシャ(庶民)、シュードラ(隷属民)の四つの「ヴァルナ(原意は肌の色)」は日本でも知られているが、さらに細かい「ジャーティ(原意は生まれ)」という職業カーストに分かれており、その数は3000とも言われる。

 

カースト差別は憲法で禁止されているとはいえ、農村部などでは世襲の職業以外に就くのを忌み嫌う。しかし、新しい職種のIT業界なら、こうした職業カーストの枠を乗り越えられるのだ。

 

この5年間、インドは年78%の高い経済成長を続ける一方、国民の4割超が20歳未満で、毎月約100万人が労働市場に加わる。若者の就職難が深刻な社会問題になっている。

 

インド社会に詳しい大東文化大学教授の篠田隆(68)は、一昔前の日本の状況とも重なると言う。「良い大学に入って、良い会社に勤め、高い給料をもらうことが重視される。学校教育の序列化が進み、著名大学を出ないと名の知れた民間企業は相手にしない。だから教育産業がビッグビジネスになっているのです」

 

2010年開校のバイブラントの塾生は現在、1618歳を中心に約7000人。週6日、IIT出身の講師陣から、効率よく短時間に解答するテクニックを1日4時間みっちり伝授される。授業の後も多くの塾生が寮の自室で8時間以上は勉強する。4週おきに受ける模擬試験の順位に一喜一憂する。

 

年間の授業料は、インドの一人あたりの年間所得に匹敵する約2000ドル(22万円)で、これに寮費が加わり、一般家庭に重くのしかかる。それでも、パイプランド代表、ニティン・シャイン(49)は言う。

「母親が付き添って寮に住み込み、父親が仕送りを続ける。子供の将来の成功のため、家族がスクラムを組んで闘うのです」

   

外れやすい扇風機に

IIT入試には本人の夢だけでなく、家族の期待も重くのしかかる。成績が伸びずプレッシャーに耐えられなくなり、自殺する子供たちが相次いでいる。政府当局の統計によれば、15年には約2600人が試験の成績不振を理由に自殺した。

 

天井の扇風機にひもをかけて首をつるケースが後を絶たないため、天井から外れやすくした機種が売り出された。

 

受験生のデバンシュ・ビシュワカルマは、東部の田舎町からコタの大手塾に入ったものの、156月に自ら命を絶った。 18歳だった。基礎学力が足りず、塾でテクニックを習っても勝てない。そんな悩みが遺書につづられていたという。

 

伯父のプリトビラージュ・ビシュワカルマ(57)は悔やむ。「おいは模擬テストの点数をいつも気にしていた。親に経済的な負担をかけたくない。そんなプレッシャーも感じていたと思います」

 

評価ゆがめるカーストの残照

ゆがんだ「評価」に希望を見いだせず、国を捨てる若者が後を絶だない。

 

インドでは、貧困や格差を解消するために大学入試や公務員採用などに際して、被差別カーストの人々などを対象に優先枠がある。

 

「留保制度」と呼ばれ、政治と結びつき徐々に対象粋が拡大。上位カースト出身者がこの枠に阻まれて大学入試や公務員採用で高得点を取っても合格が難しくなっている。

 

西部プネー出身のアトレー・シュレヤス(23)は、最上位のバラモンの家に生まれた。外国でも人気のインドのロースクールをめざしたが、猛勉強のかいもなく不合格。「点数は8割を超えていた。僕の半分以下で優先枠の生徒が合格したと知ったときはショツクでした」

 

希望の大学に入れなかった上位カーストの学生の多くが、米国やカナダの大学院に進学。現地で就職して、永住する人も多い。アトレー自身も17年から埼玉大学教養学部に留学し、居酒屋でアルバイトをしながら大学院をめざす。

 

「競争はけっして悪くない。でも、頑張っても正当に評価されない社会はおかしい。このままだと、インドから優秀な人材がどんどん出て行ってしまうと思います」【7月 GLOBAL+

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「一つの求人に数千人が群がるのが現代のインド社会。熾烈な競争がスタートする年齢は年々、早まっている」【同上】という状況で、インドの失業問題、特に若年層の失業は大きな社会問題になっています。

 

****インド、201618年に500万人以上が失業=調査****

インドのベンガルールにある私立アジム・プレムジ大学が16日発表したリポートで、2016─18年に職を失ったインド人は少なくとも500万人に達し、都市部に住む若い男性が最も打撃を受けていることが分かった。

インドでは、5月19日に総選挙が終了する予定で、モディ政権は雇用を含む経済業績の擁護に躍起となっている。(中略)

2016年11月にモディ首相が脱税抑制と電子取引促進のため高額紙幣を突然廃止したことで中小企業が打撃を受け、レイオフの波が発生した。さらに、17年に「物品サービス税(GST)」が導入されると、一部企業にとって困難が増幅する結果となった。

リポートによると、失業者の大半は高等教育を受けた20─24歳の若年層。リポートは「たとえば都市部の男性の場合、この年齢層は労働年齢人口の13.5%だが、失業者全体に占める比率は60%に上る」としている。

公式統計で過去5年間の経済成長率が7%前後となっているにもかかわらず、モディ首相は数百万人の若年失業者の雇用に十分な措置を講じていないと批判されている。

ビジネス・スタンダード紙は2月、政府が公表を拒んだ公式調査として、2017/18年度の失業率は少なくとも過去45年間で最高水準に達したと伝えた。

シンクタンクのインド経済モニタリングセンター(CMIE)がまとめたデータによると、今年2月の失業率は7.2%と、2016年9月以来最高に上昇。前年同月の5.9%からも上昇した。【418日 ロイター】

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【後を絶たない自殺者 不正の横行】

この状況を乗り切るためには何としても“いい大学に入って・・・”ということになっています。

結果、上記記事でも指摘されているような絶望して“自殺”する若者も後を絶たないようです。

 

****試験結果の発表で高校生19人が自殺、採点に誤りか インド****

インド南部のテランガナ州で、大学入試を兼ねる中間試験の結果が先月中旬に発表されて以来、19人の生徒が自殺している。当局が1日までに明らかにした。

 

問題になっているのは高校3年生に当たる12年生の試験。答案の採点や評価を巡って保護者からの抗議が殺到し、採点の誤りが原因で落第になったという訴えが相次いでいる。大学のほとんどは、この試験を合否の判定に利用している。

 

中には受験したのに欠席扱いにされたり、答案を完成させたのに零点にされたという生徒もいた。

 

保護者らは、試験を実施した中等教育委員会とテランガナ州当局の両方に責任があると主張する。同委員会は採点を外部の企業に委託している。この企業のコメントは得られていない。

 

インドの教育制度に対しては、生徒を過酷な重圧にさらしているとする批判の声が上がっている。試験に合格するだけでなく、あらゆる代償を払っても期待を上回る成績をあげることが求められるためだ。

 

国家犯罪統計局によれば、同国では毎年数千人の若者が自ら命を絶っており、2015年は全自殺者の6.7%に当たる9000人近くに上った。専門家などは、学校での重圧が一因だと指摘している。

 

テランガナ州は保護者に対し、試験結果に誤りが疑われる場合は教育委員会に苦情を申し立てるよう呼びかけ、誤りが確認されれば是正すると説明している。

 

州警察によると、それでも4月18日に結果が発表されて以来、毎日2〜3人の自殺が報告されているという。【51日 CNN】

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インドの教育・入試制度に関する簡単な説明は、下記のようにも。

 

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インドの教育制度は、州ごとに若干の差異はあるが、日本の6・3・3制とは違う5・3・2・2制を原則としている。

 

中等学校に通う10年生が共通試験をパスすれば、日本の高校に相当する上級中等学校(11~12年生)に進み、2年間の教育を受ける。

 

その後、12年生が日本でのセンター試験とも言える共通試験を受け、その結果によって希望の大学に進学する。【2018420日 産経】

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“人生を決める”試験ともなれば、当然に不正も。

数年前になるでしょうか、カンニングペーパーを持った大勢の家族が試験が行われている校舎の壁をよじ登っている信じられないような写真が話題になったこともあります。

 

****【当世インド事情】なんでもありの超競争社会はびこる受験不正 警官買収しカンニングも**** 

インドで学生の進学・進級に重大な影響を及ぼす全国共通試験で問題用紙の流出が判明し、大騒動となっている。

 

事件の犯人や動機は不明だが、インドの受験に不正がはびこる実態が改めて浮かび上がった格好だ。受験での不正を指南する犯罪組織も跋扈するなど、受験を勝ち抜くための激しい競争が何でもありの状況を生み出しているようだ。

 

試験問題がスマホで拡散「ペーパーリーク」

漏洩があったのは、3月26日に行われた共通試験で、後期中等教育中央審議会(CBSE)が作成した10年生の数学と、12年生の経済の試験問題だ。(中略)

 

いわば生徒の将来を左右する重要試験でのスキャンダルの衝撃は大きく、インドメディアも「ペーパーリーク(問題用紙の漏洩)事件」として、報道合戦を続けている。

 

これまでの調査によると、外部に漏れた詳細なルートは分かっていないが、問題文はスマートフォンの通信アプリ「ワッツアップ」を通じて、あっという間に拡散したという。

 

事態を重く見た試験管理当局は、12年生の経済学について4月下旬に再試験を実施することを決めた。対象は50万人で、10年生の試験も実施されれば、再受験者数は200万人以上にふくれあがる。

 

捜査も進んでおり、すでに流出に関与したとされる教師や学校職員ら十数人が逮捕されている。外部からの依頼の有無など詳細は判明していないが、捜査当局は2つの試験問題は別々の場所で漏れ、拡散したとみている。

 

捜査関係者は「ワッツアップのつながりをたどり、情報の根源を突き止める作業をしている」と話す。

 

親が校舎をよじ登りカンペ手渡し

大規模漏洩に至らずとも、インドでは試験をめぐる不正が後を絶たない。

 

2015年には、東部ビハール州の複数の学校で、受験者を家族らが手助けする集団カンニングが行われて大混乱に陥り、生徒計約600人が退学処分を受けた。

 

カンニングは古今東西こっそり行うものと相場が決まっているが、このケースでは受験生の家族が校舎の外壁をよじ登り、2階や3階にいる生徒に直接カンニングペーパーを手渡していた。会場前では警察官が警備に当たっていたが、なぜか制止する様子もなく、親族らによる買収がささやかれた。

 

同州では騒動をきっかけに試験会場にカメラを設置し、カンニングペーパーを隠せないよう受験時には靴や靴下の着用を禁じる措置を取った。

 

「問題化するケースは氷山の一角。犯罪組織の介在もちらつき、不正の蔓延は止まらない」と指摘するのは、インド地元紙記者だ。

 

不正斡旋、替え玉用意犯罪組織の収入源

近年発覚したケースでは、受験生が試験問題をこっそり服に隠してトイレに行き、スマートフォンで撮影し、通信アプリで協力者に送信。打ち返ってきた解答を記入し、悠々と高得点をマークしたという。

 

こうした闇の教師である協力者を受験生側に斡旋するのが犯罪グループの役目だ。協力者の連絡先は20万ルピー(約32万7千円)ほどの値段で取引され、反社会的組織の収入源になっていることが伺える。

 

グループが暗躍するのは学生のテストだけに限らない。15年には警察官採用試験で志願者ら1000人以上が逮捕される大規模な替え玉受験が発覚したが、犯罪組織が1人当たり5万~10万ルピー(約8万2千~16万4千円)で替え玉を提供していたとささやかれた。

 

不正がはびこる要因が「世界屈指」ともしばしば指摘される受験戦争の激しさだ。子供を高水準の大学へ送り込み、好待遇の企業に就職させることは、貧困から抜け出すなによりの近道となる。

 

5億人の若年層「受験地獄」

最高峰であるインド工科大(IIT)は好成績で卒業すれば、企業からいきなり年収500万ルピー(約817万円)を越える提示を受けるケースも珍しくはない。当然、倍率もすさまじいものとなり、昨年IITは118万人が受験し、倍率は100倍を超えた。

 

こうした中で教育熱も高まる一方で、一部の上級中等学校では、大量の宿題で「寝る時間がない」と生徒たちが抗議デモすら起こしている。成績の悪さに悲観した学生が自殺することも珍しい話ではない。

 

国連人口統計(17年)によると、15年時点で、インドの0~19歳の人口は約5億人。大学の絶対数は不足しており、今後も激しい競争が繰り広げられることは容易に想像できる。受験戦争を越えた「受験地獄」(地元ジャーナリスト)がある限り、テストをめぐる醜聞は絶えなさそうだ。【2018420日 産経】

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【中国:点数だけで合否が決まらない問題も】

通称「高考(ガオカオ)」と呼ばれる全国大学統一入学試験が実施されている中国にも、似たような激しい入試競争がありますが、長くなったので1点だけ。

 

インドの入試制度に大きな影響を与えている独自性が「カースト制」なら(差別から抜け出るためのIT関連大学への希望者集中や「留保制度」による逆差別)、中国には“点数だけでは合否が決まらない”独自の事情があります。

 

****超学歴社会の中国 点数だけで合否が決まらぬ統一試験「高考」の理不尽****

(中略)中国の新学期は9月。毎年6月になると、通称「高考(ガオカオ)」と呼ばれる全国大学統一入学試験が実施されます。日本の大学入試センター試験とも似ていますが、ごく一部の例外を除いて大学ごとの試験はありません。

 

受験生は複数の大学に出願できますが、高考の点数だけで合否が決まる一発勝負。しかも成績上位者から順に、いい大学に振り分けられるわけではありません。

 

中国特有の地域格差があり、受験生の戸籍がある省や自治区によって、大学の定員数も合格ラインも異なるのです。

 

これは、人口の流動を防ぐためともされています。例えば、合格ラインの低い地域でトップの成績を上げた受験生は、重点大学に入学できるのに、合格ラインの高い地域で同じ点数をとった受験生は、二流大学しか入れない、といった理不尽が生じます。そのため、子供の戸籍を受験に有利な地域に移そうと画策する親もいるほどです。(後略)【2018716日 太田出版ケトルニュース】

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こうした韓国、インド、中国に比べれば、日本の入試の厳しさはそれほどでも・・・とも思えますが、まあ、当事者にとっては、あまりなぐさめにもならないかも。

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