(【7月3日 CNN】 過密状態にあるメキシコ国境の移民収容施設)
【「この事件の真の被害者は生まれてくることができなかった胎児だけだ」】
アラバマ州では5月、レイプや近親相姦による妊娠も含め、中絶をほぼ全面的に禁止し、殺人罪に等しいとみなす全米で最も厳しい法案が可決された件は、5月21日ブログ“アメリカ 次期大統領選挙論点として再燃した人工中絶問題”でも取り上げました。
その中絶を殺人罪とみなすアラバマ州で、けんかで腹部を撃たれた結果流産した母親が、胎児の過失致死罪で起訴されるという、なんとも理解しがたい事件が報じられていました。
****腹撃たれ流産した母親に胎児の過失致死罪、中絶禁止の米アラバマ州****
米アラバマ州の当局は、妊娠中に銃で5発撃たれ流産した母親を、胎児に対する過失致死罪で起訴した。同州では、中絶をほぼ全面的に禁止する法案が可決されており、女性の中絶の権利を訴える人権団体は27日、厳しい非難の声を上げた。
起訴されたのは、マーシェ・ジョーンズ 被告。同州に拠点を置き、中絶希望者に資金援助するイエローハンマー基金はツイッターに、「マーシェ・ジョーンズさんは妊娠中に腹部を5回撃たれ流産したとして、過失致死罪で起訴された。それなのに加害者は今も自由の身。マーシェさんを刑務所から出してみせる」と投稿した。
ジョーンズ被告は昨年12月、同州プレザントグローブでけんかになった別の女性から発砲を受けた。大陪審は当初、発砲した側を起訴していたが、検察が案件を取り下げ、逆に26日に逮捕したジョーンズ被告の方が起訴されるに至った。
現地ニュースサイトAL.comの報道によると、地元警察当局は「捜査で分かったのは、この事件の真の被害者は生まれてくることができなかった胎児だけだということだ」という見方を示し、「胎児の死につながったけんかを最初に仕掛け、続けたのは母親の方だった」と指摘した。
同国ではこれまでに、南部と中西部の10以上の州で中絶を規制する厳しい法案が可決され、裁判で争われている。アラバマ州では5月、レイプや近親相姦(そうかん)による妊娠も含め、中絶をほぼ全面的に禁止し、殺人罪に等しいとみなす全米で最も厳しい法案が可決されている。 【6月28日 AFP】
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発砲した相手は起訴されず、銃撃され流産した母親が胎児の過失致死罪・・・・いくらなんでも、そんなのおかしいと思うのですが、中絶を絶対悪とみなし、胎児の生命を奪うことを許さないというアラバマ州検察の考えは異なるようです。
アメリカの検察制度は連邦検察官系列と州検察官系列があって、日本とは異なりますが、よく映画・TVドラマで目にするのは、選挙で選ばれる州地方検事は政界への進出のステップである場合が多いというシチュエーションです。
今回の起訴も、そうした社会状況にあって、中絶に厳しい世論受けを狙ったもの・・・でしょうか。
さすがに、アメリカでも批判があったようで、母親への起訴は取り下げられることになったようです。
****腹撃たれ流産した女性を胎児死亡させた罪で起訴、検察が取り下げ 米アラバマ州****
米アラバマ州で妊娠中に銃で腹部を撃たれ流産した女性が胎児を死亡させたとして過失致死罪で起訴されたことをめぐり、同州の検察は3日、女性に対する起訴を取り下げた。(中略)
(腹部を撃たれた)ジョーンズさんに対する起訴をめぐっては人権団体などが激しく反発。ジョーンズさんの弁護士が起訴の取り下げを求める申し立てを行い、アラバマ州バーミンガムの南西に位置するベッセマーカットオフの地区検事は3日、起訴を取り下げた。
ジョーンズさんの弁護を担当するマーク・ホワイト氏は地区検事の決定について、「依頼人にとってもアラバマ州にとっても適切なもの」と評価し、「検事の決定はジョーンズさんが今回の悲劇から今後立ち直る助けとなるだろう」と指摘した。(中略)
アラバマ州では今年11月から新法が施行される予定となっているが、1973年に最高裁が女性の中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」に反するとして裁判で差し止め命令が出るものとみられている。 【7月4日 AFP】******************
極端な考え方にのめりこみ、バランスを失すると、今回の奇妙な起訴のようなことにもなるのでしょうが、こうした事案がイスラム原理主義的な国やアフリカの途上国ではなく、アメリカで起きたことであるという点が、なんとも印象的なところです。
いつも言うように、日本とアメリカは価値観を共有する同盟国ですが(その同盟も最近はあやしくなってはいますが)、日本からすると相当に変わった考えもアメリカには存在していますし、物事に対する考え方も大きく異なることが多々あります。
【「収容施設に不法移民が不満だというなら、来るなと伝えろ。問題は全て解決する!」】
そのアメリカに関しては、社会の在り方やトランプ政治について、奇異に感じられること、個人的には納得しがたいことが日々報じられているのですが、取り上げているときりがないので、今日報じられたものの中で一番印象に残ったものをひとつ。
****不法移民が収容施設に不満なら「来るなと伝えろ」、トランプ氏****
ドナルド・トランプ米大統領は3日、不法移民には米国に「来ない」という選択肢もあると述べ、移民収容施設が過密で劣悪な状況にあるとの報告を一蹴した。
トランプ氏はツイッターに、「急ごしらえで建てられたり改築されたりした収容施設に不法移民が不満だというなら、来るなと伝えろ。問題は全て解決する!」と投稿した。
国土安全保障省は2日、移民収容施設が「危険なほど過密」な状態にあると警鐘を鳴らしていた。収容施設には米国にとどまろうとする移民数千人が収容されており、そのほとんどは中米の母国の暴力と貧困を逃れてきた人々だ。
国土安全保障省と収容施設を訪問した民主党議員らの報告を受けて、トランプ政権に対して施設を閉鎖し移民を解放するよう求める声が高まっている。 【7月4日 AFP】
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トランプ政権の進める不法移民取り締まり強化の結果として収容施設環境の悪化に関して、民主党などからの批判が出ているなかでの発言です。
****米不法移民収容施設 過密状態で危険な状態****
アメリカのトランプ政権が不法移民の取り締まりを強化する中、収容施設には、定員を大きく上回る人数が詰め込まれ、危険な状態であることが分かった。
足の踏み場もないほどのすし詰め状態となった部屋。中には小さな子供の姿も確認できる。これらは、先月、テキサス州南部のメキシコとの国境近くにある不法移民の収容施設で行われた監査の際、撮影されたもの。
2日に公表された報告書によると、拘束される不法移民の急増で、部屋の定員の2倍の人々が収容されるなど「危険な過密状態」になっているという。また、基準を超えて10日以上拘束されている人々もいたと指摘している。
こうした現状が明るみに出たことで、民主党などからは「非人道的で劣悪な環境だ」などと批判が高まっている。(後略)【日テレNEWS24】
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****米移民収容施設が極度の過密状態、抜き打ち調査で報告****
米当局がメキシコ国境で移民を収容している施設が極度の過密状態にあり、子どもが長期間拘束されているなどの問題点が、政府内部の抜き打ち調査で明らかになった。
調査チームは先月初め、国境沿いの中でも特に拘束件数が多いテキサス州リオグランデ渓谷の5施設を視察した。
報告書には移民であふれかえる施設内の写真などが添付されている。
同伴者のいない子どもたちを収容している同州マッカレンの施設では、165人の子どもが1週間以上拘束されていた。
米当局の規則によると、未成年者は72時間以内に保健福祉省の保護施設などへ移すことになっている。しかし国境警備隊のデータによれば、3割以上がこの制限を超えて収容されている。7歳未満の子どもが2週間以上待機していた例もあるという。
当局の方針では大人も72時間以内に釈放することが望ましいとされるが、調査対象の施設ではこれを超える収容者が計3400人に上り、うち1500人は拘束から10日以上経過していた。
温かい食事やシャワー、着替えなどの基準も守られず、5カ所のうち3カ所の施設では子どもにシャワーを浴びさせていなかった。大人の収容者がサンドイッチだけの食事で重度の便秘になり、治療が必要になったケースもみられた。
国土安全保障省は今回の報告を受け、臨時のテントを設置するなどして移民の増加に対応する方針を示した。
移民の収容をめぐっては、5月の調査でも定員125人の施設に900人が詰め込まれた状況などが指摘されていた。【7月3日 CNN】
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トランプ大統領らしい“率直な物言い”と言えばそうでしょう。
おそらく、支持者集会で発言すれば、「そうだ!」と賛同の声が一斉に上がるのでしょう。
日本でも、こうした“本音”を良しとする人々が大勢いるのでしょう。
ただ、個人的にはどうしてもこういう発言には馴染めません。
確かに、不法に入国しようとする移民を摘発拘束する権限はアメリカにあります。
それらの移民の流入を許せば、アフリカ移民に揺れた欧州のような状況にもなって、多くの問題が起こるというのもわかります。
しかし、それら移民の多くは母国の暴力と貧困を逃れてきた人々です。
犯罪者でもなければ、アメリカ社会に害をなそうとして流入する者でもありません。
そうした人々が結果的に劣悪な状況に置かれているということに対し、「それがどうした。嫌なら来るな!」という粗野な発言が“トランプだから”で済まされる、おそらくそうした発言を支持する人々が大勢いるということが呑み込めません。
トランプ氏やその発言を支持する人々からすれば、不法移民の人権に配慮するなど“きれいごと”“建前”にすぎないということになるのでしょう。そんな“きれいごと”を言っていたら、自分たちの国が不法移民であふれてしまう・・・と言うのでしょう。
ただ、たとえ戦争にあっても民間人や捕虜の権利を認め、平常時の社会にあっては犯罪者の人権にも一定に配慮し、少数派の人々への差別を戒め・・・・というかたちで「きれいごと」や「建前」をなんとか現実のものにしようと努めるようになったことが、市民社会成立後の数百年の歩みの成果だったと思っています。
壁際で移民を蹴散らし、拘束した移民の環境など意に介さず、「来るのが悪い!」と自分たちの生活を守ることだけが正当化されるというのであれば、これまでの成果を無にし、力がすべてを支配する社会に逆行するように思えます。
トップの姿勢を受けて、末端職員も・・・
****米国境職員の移民巡る不適切投稿を調査=国土安全保障省トップ****
米国土安全保障省のマカリーナン長官代行は3日、米税関・国境警備局(CBP)職員が移民に対する不適切なコメントなどをフェイスブックに投稿していると報じられた問題を巡り、調査を命じたことを明らかにした。
非営利ニュースサイト「プロパブリカ」は今週、CBPの現職員や元職員がフェイスブックの非公開グループに移民の死に関する冗談や、移民収容所の問題を訴える民主党のオカシオコルテス下院議員に対する侮辱的なコンテンツを投稿していると報道。米・メキシコ国境の移民収容施設の非人道的な状況を巡り、トランプ大統領の移民政策に対する批判が強まっている。
マカリーナン長官代行はツイッターへの投稿で「現職のCBP職員が関与していると今週報じられたソーシャルメディアの投稿は憂慮すべき、かつ許されない行為」とし、「決して容認されない」と言明。国民の法執行の任務に対する信認を脅かした職員は「責任を負う」と述べた。【7月4日 ロイター】
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