(国境を越えたコロンビア・ククタの街で、客から声がかかるのを待つベネズエラ女性【6月25日 朝日】)
【“しぶとい”マドゥロ政権を支える「超法規的処刑」 5千人超を殺害】
アメリカの支援を受けるグアイド国会議長らの野党勢力の活動が活発化し、一時はいよいよ追い詰められるのか・・・という感もあった南米ベネズエラのマドゥロ大統領ですが、最近は大きな動きもなく、再び膠着状態に陥ったように見えます。
すさまじいハイパーインフレーション・経済崩壊でも潰れないマドゥロ政権、いつも言うように非常にしぶといです。
****ベネズエラ大統領、野党のクーデター計画阻止したと主張****
ベネズエラのマドゥロ大統領は26日、野党によるクーデター計画を治安部隊が阻止したと明らかにし、大統領ら要人の暗殺や服役中の元軍人を大統領に就任させることなどが計画されていたと主張した。
マドゥロ大統領はテレビで「ベネズエラの社会と民主主義に対するクーデターを計画したファシストのテロリスト一味を暴き、排除、拘束した」と述べた。
また「この犯罪者、ファシストグループを監視してきた結果、明確な証拠の下に捕らえ、投獄した」とした。
2009年に汚職で逮捕されたバドゥエル元国防相の解放を狙った情報機関本部への攻撃も計画されていたという。
マドゥロ大統領は、野党指導者のグアイド国会議長のほか、米国、チリ、コロンビアの政治指導者も計画に関与していたと主張した。
グアイド氏はこれを否定。マドゥロ氏に批判的な向きは、容疑者に強要した証言を根拠に大統領が政治目的でクーデター計画をでっちあげたと非難している。【6月27日 ロイター】
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この“クーデター計画”なるものの真相は定かではありませんが、これに付随して、関係者の「拷問死」というおぞましい報道も。
****ベネズエラ、クーデター関与疑いの海軍将校が「拷問死」 内外から非難****
米政府とベネズエラの野党勢力は6月30日、ニコラス・マドゥロ大統領に対するクーデター計画に関与した疑いで拘束されていた海軍将校が「拷問」を受けて死亡したとして、マドゥロ政権を激しく非難した。
ベネズエラの野党指導者フアン・グアイド国会議長とマドゥロ大統領の対立によるこう着状態が5か月以上も続く中、米国務省は海軍将校ラファエル・アコスタ・アレバロ氏の死の責任があるとしてマドゥロ大統領を非難した。
米国務省は声明で、アコスタ氏は「マドゥロ大統領が差し向けた暴漢とキューバ人顧問らによって拘束されている間に死亡した」とし、「米国は、アコスタ氏の殺害と拷問を激しく非難する」と述べた。
一方、米国など約50か国から暫定大統領として承認されているグアイド氏は6月29日夕、アコスタ氏は「拷問を受けた末に」死亡したと発表していた。
アコスタ氏はマドゥロ大統領に対するクーデター計画に関与した疑いで逮捕された13人のうちの一人。ベネズエラ政府は、クーデター計画にはグアイド氏も関係していたとみている。
ベネズエラ政府は先月26日、将校らによるクーデターの試みを阻止したと発表していた。これによると、計画されていたクーデターは先月23日から24日の間に実行される予定で、大統領および複数の高官の暗殺も企てられていたという。
中南米諸国とカナダでつくる「リマ・グループ」はアコスタ氏の「暗殺」を強く非難するとともに、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官に介入を要請した。 【7月1日 AFP】AFPBB News
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海軍将校ラファエル・アコスタ・アレバロ氏の「拷問死」が疑われるのは、マドゥロ政権の政権維持のためには暴力を厭わない強権体質のためです。
もっとも、問題とされるべきはアレバロ氏ひとりではなく、何千人にも及ぶとされる犠牲者です。
政権の暴力装置となって「超法規的処刑」を行っているのが、政権配下の民兵組織です。
****ベネズエラ「重大な人権侵害」 5千人殺害と国連報告書****
政情不安が続く南米ベネズエラの人権状況について、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が4日、報告書を公表した。独裁的なマドゥロ政権により、2018年だけで「政権に反対する者」が5287人殺害されているなどとし、「重大な人権侵害がある」と結論づけた。マドゥロ政権は「誤りばかりだ」と反発した。
報告書では、政権を支持する武装民兵「コレクティーボ」が市民の殺害に関与しているとし、民兵の武装解除と関与した犯罪への捜査を求めた。また、野党議員や人権活動家、記者など政府に批判的な人物に対する不当な逮捕や拷問がなされているとも指摘した。
経済状況については、配給制度が機能しておらず、国民の多くが食料や医薬品の不足に直面。18年11月から今年2月に1557人が薬不足で死亡したとした。
マドゥロ政権は「米国の経済制裁が危機の原因だ」と主張。報告書は、制裁が危機を深めているとしながらも、「制裁前からベネズエラ経済は危機にあった」と指摘した。
報告書は、マドゥロ政権のほか、人権侵害の被害者や目撃者など558人へのインタビューを元に作成された。【7月5日 朝日】
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国民生活を破綻に追いやっているマドゥロ政権が今も維持されている理由のひとつに、政権批判を許さない上記のような「超法規的処刑」を含めた暴力支配があげられます。
【失脚工作がうまくいかないアメリカ 関与を続けるロシア】
関係国の動きの面で言えば、反米マドゥロ政権を倒したいアメリカの目論見は、これまでのところ失敗続きの状況です。トランプ大統領は中国、北朝鮮、イランとけんか相手が多すぎて、国際的注目度では劣後するベネズエラどころではないのでは・・・とも推察されます。
****トランプ氏、ベネズエラ大統領の失脚目指す取り組み継続=特使****
米国のベネズエラ担当特使、エリオット・エイブラムス氏は25日、トランプ大統領は依然、ベネズエラのマドゥロ大統領を失脚させ、米国など西側諸国の支援を得て暫定大統領就任を宣言した野党指導者、フアン・グアイド国会議長を大統領に就任させるため圧力をかける政策にコミットしていると述べた。
マドゥロ大統領はロシアと中国の支援を受けており、これまでのところ、トランプ大統領が進める失脚工作は成功していない。
エイブラムス氏は、イランとの緊張の高まりや中国との貿易交渉など他の緊急課題により米国がベネズエラに対する関心を失ったのか、との疑問を一蹴。
また、マドゥロ氏がベネズエラの挙国一致内閣に参加する可能性を断固否定し、記者団に、「(マドゥロ氏が)解決の一端を担ったり、暫定政権に参加したりする可能性は考えにくい」と述べた。(後略)【6月26日 ロイター】
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一方、マドゥロ政権を支えるのがロシア・中国。
そのロシアに関して、トランプ米大統領は6月3日、「ロシアがベネズエラから、大部分の人員を引き揚げたと我々に伝えてきた」とツイートし、ロシアがベネズエラから手を引くとの情報を流していましたが、ロシアはこれを否定。最近はむしろ軍事的関与を強めているようにも見えます。
****ベネズエラに再びロシア空軍機、首都空港に着陸****
ベネズエラ首都カラカス北方のバルガス州マイケティアにあり、カラカスの空の玄関口となっているシモン・ボリバル国際空港に24日、ロシア空軍機が着陸した。ロイターの記者が目撃し、軍用機の行動を追跡する専門ウェブサイトでも確認された。(後略)【6月25日 ロイター】
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****ロシア、ベネズエラ軍増強を支援する用意─外務次官=RIA****
ロシアのリャブコフ外務次官は5日、ベネズエラ軍の増強を支援する用意があると表明した。ロシア通信(RIA)が伝えた。
西側諸国の大半が、ベネズエラ暫定大統領就任を宣言した野党指導者のグアイド国会議長を後押しする中、ロシアは中国とともにマドゥロ大統領を支持している。【7月5日 ロイター】
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【国外で直接対話も ただ、政権側に譲歩の必要性もなく、期待がしづらい交渉の行方】
国内で対立が続く状況を打開すべく、政権側とグアイド氏らの反政権側の直接交渉も断続的に国外で行われてはいます。ただ、マドゥロ大統領側に譲歩の気配がない状況で、どのような交渉が成立するのか疑問も感じますが。
****混迷のベネズエラで直接対話が再開****
南米ベネズエラの独裁的なマドゥロ政権と、米国の支持を受け「暫定大統領」を名乗る野党連合のグアイド国会議長の双方の代表団による直接会談が、カリブ海の島国バルバドスで9日までに始まった。
ベネズエラでは、それぞれが正当性を主張する「2人の大統領」の対立が膠着(こうちゃく)状態にあり、野党連合側が求める大統領選のやり直しにマドゥロ政権側が応じるかが焦点となる。
双方の直接対話はノルウェー政府が仲介。今年5月にも同国の首都オスロで開かれたが、物別れに終わった。バルバドスでの直接対話は今月8日に始まり、マドゥロ氏は同日、初日の協議は5時間行われたとし「平和的解決に向けて楽観的だ」と表明した。
米紙ワシントン・ポストは、これまで即時退陣を求めてきた野党連合側が、マドゥロ氏に一時的な大統領職を認めた上で、大統領選のやり直しを求めるという「譲歩案」を模索していると報道。深刻な経済危機でマドゥロ政権の支持率が急落しているため、政権奪還できる見込みが高いとみているという。ただ政権側はこれまで大統領選のやり直しを拒否しており、合意に達するかは不透明だ。
ベネズエラでは先月末、政権に対するクーデター計画に関与したとして身柄を拘束された海軍少佐が死亡する事件が起きた。これを受け、グアイド氏はマドゥロ政権側との直接対話を拒否する意向を示したが、今月7日になって「独裁体制からの脱却を目指し、権力を強奪した政権の代表者と話し合う」と表明した。【7月10日 産経】
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暴力支配であるにしても、これまでのところ軍部に大きな離反の動きもなく、マドゥロ大統領に徐穂する必要性はあまり見当たりませんので、交渉の成り行きには大きな期待はできないように思えます。
【避難先コロンビアでの厳しい生活 それでも国を出ざるを得ない窮状】
こうした状況で苦しむのは一般国民です。
国内に食糧・医療が乏しく、国外に逃れる人々も400万人を超えているといわれますが、国外に出ても厳しい現実が待ち受けています。
****ベネズエラ、我が子のため国境越える コロンビアへ食料・医療求め続々****
経済が破綻(はたん)し、政情不安が続く南米ベネズエラの人々が、食べ物も薬も手に入らない深刻な人道危機に見舞われている。幼子を抱えた母親や妊婦は、国境を越えてコロンビアに続々と入っていた。
■ほとんどが不法
4月15日午前10時、コロンビア北部ククタのエラスモ・メオス大学病院。産科待合室の妊婦18人のうち15人がベネズエラ人だ。ほとんどが不法に国境を越えて来た。
妊娠8カ月のおなかをさするマリアニ・キンテロさん(20)はベネズエラ中西部バレンシア出身。昨年夏に妊娠がわかり、母親と家を出た。「近所では出産で亡くなった人がいた。食べ物も薬もなく、安心して産めるとは思えなかった」
パスポートの入手に700米ドル(7万8千円)が必要と言われた。売り物の肉がほとんどない肉屋で働く夫の収入10年分に当たる。そんな金はなかった。
バスを乗り継ぎ、国境で民兵に2万8千ボリバル(600円)を渡し、抜け道を通らせてもらった。命の宿るおなかを気にしながら山道を慎重に歩いた。「国境の川の水が少なかったのが幸運だった」。コロンビアに入り、すぐ向かったのがこの病院だ。
生後1カ月の女の子エメルリスちゃんを抱くマリア・グスマンさん(30)はこの病院で出産後、バレンシアの実家へ家族の看病に戻り、また不法入国したばかり。実家は停電が続き、水もガスも使えない。周囲の家からは、まきを燃やす煙が立ち上っていた。
エメルリスちゃんが生まれた3月12日はベネズエラで最初の大規模停電が起きたころだ。「この子のために国を出ることを選んだ」と言って、抱きしめた。(中略)
■一度は逃げたが
午後7時すぎ。ククタの繁華街の街灯の下に女性たちが立ち始めた。
ベネズエラ西部メリダ出身のパオラ・アルバレスさん(21)は昨年4月から売春をしている。
医師になることを夢見ていたが、高校卒業のころ経済危機が深刻になり、進学できなかった。「大学を出ても月に5ドル(600円)ぐらいしか稼げない。あの国で学ぶことに意味はない」。食堂で働くなどしたが、1カ月の給料は卵30個、米1キロを買えばなくなった。2年前、子供が生まれ、生活は行き詰まった。
近所の友人から「コロンビアでいい仕事がある」と誘われた。交通費や宿泊費を支払ってくれ、国境を越えて来た。待っていた男に交通費などを返すまで働けと命じられ、売春宿に監禁された。人身売買の被害に遭ったと気づいた。1時間3万5千ペソ(1200円)で客を取り、大半は宿の男に持っていかれた。
逃げ出したが仕事はなく、街頭に立つ。夕方6時から午前4時まで。今は1時間当たり5万ペソ(1700円)が手元に残る。
多くの売春婦が客に暴力をふるわれている。怖いが、これしか仕事がない。2、3カ月に1度、メリダに戻って生活費を渡す。「洋服屋の店員をしている」と家族にうそをついている。
アルバレスさんと一緒に街頭に立つニコラ・ペレスさん(23)は、3人の子を親戚に預けてカラカスから出てきた。「送金を受け取る家族は私の仕事に感づいているはず」と話す。
薄暗い連れ込み宿の硬いベッドの上で考える。「すべては子供たちのため。そう思わないと耐えられない」
■大学出たけれど
コロンビアの首都ボゴタで売春をするアンドレア・ゲラさん(23)はカラカスの高級住宅地で育った。大学を卒業し、企業の会計担当をしていたが、インフレで食べるにも事欠くようになった。父の会社も経営が傾き、母、3歳の娘と一緒にコロンビアに来た。
3カ月前、母が病気になり、追い込まれた。新聞広告で見つけた売春あっせん所に登録した。「顔を見せる方が客は見つかる」と言われ、赤い下着姿の写真をウェブサイトに載せた。「娘には自分と同じ人生は歩ませたくない」
ベネズエラ経済は石油に依存してきた。貧困層を救済するとして1999年に大統領に就任したチャベス氏は工場や農地を国有化した。生産が落ち込んだ分、石油収入を元手に輸入で不足を補った。2013年からはマドゥロ政権がこの路線を引き継いだ。
だが14年に石油価格が急落、米国の経済制裁も相まってインフレが加速した。食料や医薬品がない人道危機に直面し、国連によれば、ベネズエラを脱出した人々は今年6月には400万人に達した。このうちコロンビアにいる130万人の半数は不法入国を含む非正規の滞在とみられる。
女性への支援活動をしているコロンビアのNGOによると、ベネズエラ人の女性の多くが何らかの形で売春を余儀なくされている。ククタの女性問題担当局は、市内の売春婦の3分の2がベネズエラ人で、17年以降に倍増したと推計している。【6月25日 朝日】
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避難先コロンビアでの生活は悲惨ではありますが、それでも収入も、食料・医療もないベネズエラ国内にとどまるよりは・・・という究極の選択です。
なお、コロンビアで医療を求めるベネズエラ人の9割は未払いとのことで、今のところはコロンビアの病院はそれがわかっていても受け入れています。しかし、何らかの対応がないと持続できないでしょう。