(ショイグ国防相と協議するプーチン大統領【7月6日 CNN】)
【海底通信ケーブルからの通信傍受任務中の事故か?】
今月1日、ロシアの原子力潜水艇がバレンツ海(北極圏 スカンジナビア半島の北)で14名の死者を出す火災事故を起こしたことが話題になりました。
****火災事故のロシア潜水艇は原子力型、プーチン大統領が表明****
ロシアのプーチン大統領は4日、バレンツ海のロシア領海内で1日に火災事故を起こした潜水艇について、原子力潜水艇だったことを初めて明らかにした。ショイグ国防相は潜水艇に搭載されている原子炉の安全は確保されているとしている。
ロシア国防相は2日、北極に近い海域の海底で探査活動を行っていた極秘潜水艇で火災が発生し、ロシア人乗組員14人が死亡したと発表。
国防省は潜水艇の種類については明らかにしなかったが、ロシアのメディア、RBCは火災を起こした潜水艇は「AS─12」と呼ばれる原子力潜水艇で、通常の潜水艦が到達できない深海で特別任務にあたっていたと報道。
インタファクス通信は国防省の発表として、「ロシア海軍の要請で海洋環境を調査していた深海科学探査艇で火災が発生した」とし、「煙の吸入により14人の乗組員が死亡した」と報じていた。
ロシア政府は1日に発生した事故を2日になってから公表。その後、大統領府が4日、プーチン大統領が大統領府でショイグ国防相と会談し、火災を受けた潜水艇の原子炉の状況について質問するもようを公開するまで、事故を起こした潜水艇は原子力潜水艇だったことは明らかにされなかった。
大統領府が公表した会談のもようによると、ショイグ国防相はプーチン氏に対し「潜水艇に搭載されている原子炉は完全に隔離されている」とし、「乗組員は原子炉を守るために必要なすべての措置を行い、原子炉は完全に稼動できる状態にある」と報告した。
潜水艇は事故後、バレンツ海に面するセベロモルスク海軍基地に停泊。ショイグ氏は、火災は電池に関連する部分で発生しその後延焼したが、完全に修理できるとしている。
大統領府は会談のもようを4日朝に公表したが、会談がいつ行われたのかは分からない。
ロシア政府は今回の事故について公式な調査に着手しているが、秘密裏に行われる公算が大きい。旧ソ連時代の1986年に発生したチェルノブイリ原発事故のほか、118人が死亡した2000年の原子力潜水艦クルスク沈没事故の際も、当局は即座に情報を公開しなかった。【7月5日 ロイター】
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ソ連の隠蔽体質を引き継ぐように、ロシアの情報公開は極めて不十分です。
事故を起こしたのが原子力潜水艇だったという極めて重大かつ初歩的事実を4日になってようやく認める・・・・。
また、事故当時、バレンツ海で接するノルウェーに対し火災の発生を連絡しなかったとのことです。
(2000年の原子力潜水艦クルスク沈没事故のときは、“プーチン大統領は黒海のソチで休暇をとっており、その後CIS諸国非公式首脳会議に出席のためウクライナのヤルタに行き、その後休暇を続け、救助作業が難航しているにもかかわらず他国の援助を拒否したり、すぐにモスクワに戻らなかったため、強い批判を受けた。”【失敗知識データベース】とのことですから、原子力事故や災害一般に対する政治責任の感覚が、日本や欧米とは異なっているところもあるのでしょう)
ロシアのこうした秘密主義的対応は体質的なもの、民主主義の前提となる情報公開への意識の低さが根底にありますが、それに加えて、今回の潜水艇が“秘密作戦”に当たっていたことが、ロシアの口を重くしているのでしょう。
****極秘作戦中だった? 火災の露潜水艇 地元メディア報道****
ロシア北方艦隊所属の潜水艇で火災が起き、乗員14人が死亡した事故で、露メディアは6日までに、潜水艇は海底通信ケーブルからの通信傍受など、極秘作戦に従事していた可能性があるとの見方を報じた。
露政府は軍事機密を理由に、潜水艇の機種や詳細を明らかにしていない。火災は、ノルウェー沿岸にも近いバレンツ海のロシア領海内で、1日に発生した。
複数の露メディアは、火災が起きたのは原子力潜水艇「AC12ロシャリク」だったと指摘した。ロシャリクは全長約60メートルで、2003年に配備された。25人が搭乗でき、深度6000メートルまで潜行可能という。機体の写真は公開されていない。
ロシアの海底通信ケーブル防衛や通信傍受、敵対国のケーブル切断による通信妨害などを目的に建造されたという。露メディアは潜水艇が実際の通信傍受作戦への従事や、訓練も行っていた可能性を指摘した。
潜水艇は事故後、露北部セベロモルスクに移送された。調査の結果、火災は電気回路がショートしたことで起きたと発表された。死者には、7人の海軍大佐と2人の「ロシア英雄」称号保持者が含まれていた。【7月6日 産経】
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“海底通信ケーブルからの通信傍受”というスパイ活動は、ロシアだけでなく、アメリカもやっているものです。
現代社会を支えているのがインターネットによる情報のやり取りですが、具体的には、大陸間のインターネットは海底通信ケーブルによってデータ送信が行われています。
したがって、海底通信ケーブルからの通信傍受、あるいは、逆にその機密保持ということが極めて重大な課題となります。
*****情報通信の「生命線」巡る攻防 米中が争う「海底ケーブル」覇権*****
(中略)現在、大陸間のインターネットのデータートラフィック(デジタルデータの行き来)は、九九%が海底に敷かれた光ケーブルを介して行われている。衛星よりも高速に大容量を運べるからだが、陸上でも光ケーブルがほとんどのデー夕を運んでおり、世界のインターネツトを支えている。(中略)
海底通信ケーブルは、長くスパイ工作の対象とされ安全保障の弱点と懸念されてきた。古くは、冷戦時の一丸七〇年代に米海軍の潜水艦がロシアに近い海域で「アイビー・ベルズ」と名付けられた極秘作戦を実施。オホーツク海の海底を走るソ連のケーブルで通信されるデータを傍受していたという話は有名である。
最近では、米中央情報局(CTIA)の元職員のエドワード・スノーデンが、内部告発サイト「ウィキリークス」で、米国家安全保障局(NSA)による大規模な通信監視プログラムを暴露している。
それによると、海底ケーブルなどから情報を秘密裏に搾取する「アップストリーム」と呼ばれるシステムがあるという。このシステムでは、海底ケーブルが陸のケーブルと接続されるポイントでデータを収集している。
要するに、海底ケーブルはスパイ機関にとって格好の情報収集の的なのである。(後略)【「選択」7月号】
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潜水艇による海底通信ケーブルからの通信傍受というのは、その世界では常識でも、なかなか一般には公表できない性質の任務であるため、今回原子力潜水艇事故の情報公開も遅れ、また、部分的なものになっているということのようです。
秘密にするので、いろいろと憶測を呼び、同時期に起きたもうひとつの不思議な出来事“ペンス米副大統領が2日に予定したニューハンプシャー州遊説を突然取りやめた。ホワイトハウス高官はCNNテレビなどに「(ペンス氏の)健康面の問題でも国家安全保障上の問題でもない」と述べたが、明確な説明はなく、何らかの緊急事態が生じたのではないかという臆測も流れた。”【7月3日 時事】という件と絡めて、ロシアとアメリカの原子力潜水艦が交戦し、アメリカ原潜は沈没、ロシア原潜に14名の死者がでた・・・といった情報も、イスラエル軍事情報サイトからの情報としてネットにはあるようです。
まあ、フェイクニュースの類でしょうが、それとは別にして、ペンス副大統領が何故急遽ワシントンに呼び戻されたのかという件、何があったのか?トランプ大統領が発作でも起こしたのか?ということは気になるところではあります。
【原子力潜水艦の沈没事故】
今回事故のもうひとつの重要な側面は、当然ながら原子力船の事故という点です。
ソ連・ロシアとアメリカは、これまでも原子力潜水艦沈没事故をたびたび起こしており、海底に何隻もの原子力潜水艦が沈んでいる・・・というのが現実です。
ソ連・ロシアについては、以下のようにも
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1968年のホテル級原潜の沈没および艦級不明原潜の沈没にはじまる。
70年にはノベンバー級原潜が演習の帰途,火災から原子炉停止,4,700mの海底に乗員52名とともに沈む。
83年には演習に向かおうとするチャーリーI級原潜が原子炉室に浸水し水深50mに沈没し,16名が死亡。
その同じ艦が2年後にカムチャッカ沖で再び沈没。
86年にヤンキー I 級原潜がミサイル燃料爆発から火災,炉心溶融は寸前で回避するも5,500mに沈没し,乗員4名死亡。
89年にはマイク級原潜コムソモレッツ号がノルウェー沖で火災,酸素発生装置の爆発から沈没,66名中42名が死亡。知られているだけで以上の6件があった。そして今回のクルスク号である。【2008年11月9日ブログより再掲】
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アメリカについては、1963年と1968年に2隻が沈んでいます。
年代的に見ると、60年代から80年代に集中しており、最後が2000年ということですから、近年は安全性が向上したということでしょうか?
【35年前には日本海で米空母とソ連原潜が衝突】
いずれにしても物騒な話ですが、1984年には日本海でともに核兵器を装備したアメリカ空母とソ連原潜が衝突するといった事故もあったようです。
****ソ連の原潜と米空母の衝突事故:核戦争の危機はいかに回避されたか****
1984年、ソ連の原子力潜水艦とアメリカの空母の衝突事故が起きた。あわや核戦争、さらには第三次世界大戦という危機だったが、幸運にも回避された。だが、事態が別に転んでいた可能性も大いにあった…。
1984年3月21日の朝、日本海にあったソ連の原子力潜水艦「K-314」の水兵たちには、その後の事態は想像もできなかった。まさにその日、彼らが、アメリカの空母「キティホーク」と衝突事故を起こすなどとは…。
米側にとっては、 日本海で突如起きたこの“攻撃”は、パールハーバーの奇襲の再現のように思われたかもしれない。
これはまったくの偶発事で、こんな“作戦”は、ソ連原潜の艦長は思ってもみなかった。が、にもかかわらず、この事件は、米ソ両国、さらには全世界の将来に予測不可能な結果を引き起こしたかもしれない。
2隻の艦船はいずれも核兵器を搭載していたので、もしそれが爆発したとすれば、破局的な環境破壊にくわえ、2つの超大国間の深刻な対立につながっただろう。
それは監視から始まった
米海軍の空母「キティホーク」は、最大約80機の航空機を搭載できた。1984年3月、米韓合同軍事演習「チームスピリット84」に参加するために、8隻の艦船を従えて、日本海に入った。
ソ連の極東地域と目と鼻の先にこんな強力な艦隊が出現したことを、ソビエト太平洋艦隊が察知できないはずはなかった。原子力潜水艦「K-314」は空母を追跡するよう命じられた。
3月14日、ソ連原潜「K-314」は、米空母「キティホーク」を発見し、追跡が始まった。米側は、すぐさま追尾されていることに気がつき、追尾を振り切ろうと躍起となった。この「鬼ごっこ」は1週間続き、そして予想外の事態が起きる。
衝突事故
3月20日、悪天候のため、K-314はキティホークを見失った。K-314は状況をつかむために、水深わずか10メートルのところまで浮上した。ウラジーミル・エフセーエンコ艦長が潜望鏡をのぞくと、米艦隊がたった4~5㎞の地点にいることを知り、驚愕した。だが、それより問題だったのは、米艦隊とK-314がお互いに向かって全速前進していたことだ。
エフセーエンコ艦長は、直ちに潜水せよと命じたが、もう遅かった。K-314とキティホークは衝突した。(中略)
ソ連の原潜には、浮上して姿を現す以外に選択肢はなかった。原潜の水兵らが、緊急タグボートを待っている間、キティホークから発進した数機の米戦闘機から、「空の訪問」を受けた。キティホークは、上空からソ連原潜を調査する機会を逃さなかった。
「我々は、直ちに彼らを援助できるか見極めるために2機のヘリコプターを飛ばしたが、ソ連原潜は甚大な被害は受けなかったようだった」。キティホーク艦長、デヴィド・N・ロジャーズは回想する。
衝突の結果、ソ連原潜のスクリューは大きな被害を受けた。空母は、船首に巨大な穴が開き、数千トンのジェット燃料が海に漏れた。それが爆発しなかったのはまったく奇跡としか言いようがない。
幸い、両艦船に搭載された核兵器も爆発しなかった。
処罰
K-314は、最寄りのソ連海軍基地に曳航され、その航路の一部は、米フリゲート艦に護衛された。キティホークについていえば、演習「チームスピリット」はそこでおしまい。空母は、日本の横須賀港で修理するために、ゆっくり移動していった。
米国側は、この衝突事件について、ソ連原潜の艦長を非難し、ソ連海軍司令部もこれに同意した。ウラジーミル・エフセーエンコは、艦長の職務からはずされ、陸上勤務に移された。
だがエフセーエンコはこんな決定には承服できなかった。事件で犠牲者が出たわけではなく、潜水艦も失われなかったから。「我々は沈まなかったし、誰も火傷しなかった」
さらに彼はこう付け加えた。「我々は長い間『敵』を追い出すことさえできたんだ」【4月8日 RUSSIA BEYOND】
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私はこの米空母「キティホーク」とソ連原潜の衝突事故は記憶にありません。
ネット検索すると、確かにそういう事故はあったようです。