(買い物客でにぎわうミャンマー・ヤンゴンの市場=1月29日(共同)【2月1日 産経】 一見、平穏な市民生活が営まれているようにも見えますが・・・・)
【「悪化の一途」 「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」】
昨日・今日、国際面で最も多く目についたニュースはミャンマー情勢に関するもの。何か変化があった訳ではなく、国軍によるクーデターから2年経過という「節目」にあたっての記事です。
2年が経過しての状況は一言で言えば「悪化の一途」。欧米によるミャンマー軍政批判に慎重な日本政府が言うのですから間違いないでしょう。
****悪化の一途をたどるミャンマー情勢を深刻に懸念=松野官房長官****
松野博一官房長官は1日午前の記者会見で、ミャンマーで軍がクーデターを起こしてから2年が経過するなか「ミャンマー国軍は国際社会の声に聞く耳を持たず、暴力行為は止む兆しがない」と指摘、「悪化の一途をたどるミャンマー情勢を深刻に懸念している」と述べた。(後略)【2月1日 ロイター】
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クーデター勃発後の2021年4月にミャンマー国軍が拘束。5月に解放され、日本に帰国することを余儀なくされたジャーナリストの北角裕樹氏は「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」と。
****ミャンマー国軍によるクーデターから2年「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」ジャーナリスト・北角裕樹氏が解説****
(中略)ミャンマー経済は、2011年の軍事政権による民政移管後、概ね順調な拡大を続けていた。北角氏は「民主化が進んで夢があり、明るい未来があった。しかしクーデター後の混乱で、立て直せない状態にある。商店には日常が戻ってきていると聞いているが、ダメージを負っているのはとくに貧困層だ。物乞いをしなくてはいけない人もいると聞いている」と厳しい経済状況について触れた。
国軍の弾圧で民間人の死者はおよそ2900人、拘束中の政治犯は1万3000人を超え、いまも各地で民主派との武力衝突が頻発している。
言論活動については「今は政府・国軍の批判は出来ない。するとしたら地下活動でしか出来ない。ジャーナリストが他の仕事を持ちながらヤンゴンに潜伏し、インターネットで配信するという方法になる」と述べた。
また「ミャンマーの90年代は圧政の時代だったが、『今はそれに輪をかけて厳しい』とミャンマー人が言っている。いまは内戦状態で、国民が敵・味方に分かれて戦っており、いつ密告されるかもしれず喫茶店でも話が出来ない」と、心休まらずピリピリとした緊張状態に置かれた国内の様子について指摘した。【2月1日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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国軍は「力による支配」の体制を固めており、8月までに行うとされていた総選挙もその実施は不透明になっています。仮に実施されたとしても国軍に都合の悪い勢力の参加は許されず、国軍支配を正当化するための形式的儀式でしかないでしょう。
****ミャンマー支配を固める国軍 クーデターから2年****
ミャンマーで国軍がクーデターにより全権を掌握してから1日で2年となる。国軍は8月までに総選挙を行う意向を示すが、公正な選挙が行われる可能性は低い。
民主派への弾圧や少数民族武装勢力との戦闘を続けながら、国軍は形式のみの「民政移管」で親軍政権を樹立し、支配を固めようとしている。
国軍は2021年2月1日、国家顧問兼外相のアウンサンスーチー氏(77)や与党、国民民主連盟(NLD)の幹部らを拘束し、全土に非常事態を宣言。憲法はその期間を最大2年と規定しており、31日に期限を迎えた。終了後は半年以内に総選挙を行う必要がある。
国軍はNLDが圧勝した20年の総選挙に不正があったとしてクーデターを起こし、総選挙実施はその直後から表明していた。ただ、国民的人気があるスーチー氏には度重なる刑事訴追で身柄拘束を続け、政治生命を断つ動きを進める。スーチー氏が受けた刑期は計33年に及ぶ。選挙制度も改め、組織票を持つ国軍系政党に有利な比例代表制を導入する予定だ。
民主派は総選挙をボイコットする考え。NLD元国会議員は産経新聞の取材に「すべてが国軍に有利な環境で行われる選挙に参加する意味はない」と述べた。
国内では民主派がつくる挙国一致政府(NUG)が結成した「国民防衛隊」と国軍の戦闘が続き、NUGに呼応する少数民族武装勢力も攻勢を強める。不安定な治安状況を名目に、国軍トップのミンアウンフライン総司令官は選挙延期の可能性も示唆している。
市民団体によると、クーデター以降の弾圧の死者は2901人、逮捕者は1万7525人。国連の集計で住居を追われた市民は120万人を超える。NUG関係者は「最大の課題は国際的関心が薄れていること。国際社会はミャンマー市民が日々殺されていることを踏まえ、国軍の横暴をさらに糾弾すべきだ」と訴えた。【1月31日 産経】
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【スーチー氏の近況】
スーチー氏の近況は詳しくは報じられていませんが、“スーチー氏は首都ネピドーにある刑務所内の約20平方メートルのバンガローに収容されたままだ。スーチー氏が率いた国民民主連盟(NLD)の男性幹部によると、暑さが厳しく、水が汚いことから皮膚アレルギーの症状が出ているという。”【2月1日 共同】
その政治的影響力はほぼ封じ込められている状況のようです。「前世代の人」との評価も。もっとも、もし解放されれば、再び民主派の中核となる存在でしょう。
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スーチーさんと市民による武装勢力とは完全に分離されています。スーチーさんが彼らや彼女たちを指導している状況にはありません。
市民の武装勢力はもちろん、軍に反対する一般市民はスーチーさんたちの解放を求めていますが、あくまで「市民の権利と義務」を意識して行動しています。スーチーさんは民主化のシンボルでしたが、すでに前世代の人だという認識があるようにも感じます。【2月1日 フォトジャーナリストの宇田有三氏 日系メディア】
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【せめてもの「沈黙のストライキ」】
国軍支配に抵抗する民主派勢力は外出を控えて軍への抗議の意思を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。
そのことは、国軍の厳しい支配下で積極的な抗議は出来ない状況にあり、そうした方法しかとれないという現状を示してもいます。
****ミャンマー“クーデター”から2年 民主派勢力、抗議の意志示す「沈黙のストライキ」呼びかけ****
ミャンマー軍がクーデターを起こしてから、1日で2年です。軍による武力弾圧が続く中、民主派勢力は1日、抗議の意志を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。
ミャンマー軍が全権掌握の根拠としていた非常事態宣言は、先月31日で期限を迎えました。軍は憲法にのっとり、8月までに総選挙を行い、民政移管する意向を示していますが、民意を反映した選挙になるかは疑問視されています。
一方、民主派勢力は1日、外出を控えて軍への抗議の意思を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。軍の徹底した武力弾圧で、表だった抗議行動はできなくなっています。(後略)【2月1日 日テレNEWS】
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「沈黙のストライキ」すら、国軍の圧力のもとで行うのは非情な決断と覚悟を要します。
【薬物に逃避する若者も それを黙認する国軍】
もちろん武装闘争に身を委ねているような若者らの意思は固いものがあります。
“右手を失った男性「(Q.後悔は?)命をかけて戦っている仲間を思えば、右手くらいなんでもない。ただ、母に伝えた時、母は泣きました。そのことは悲しかったです」”【2月1日 TBS NEWS DIG】
しかし、普通の一般市民にとっては、出口の見えない泥沼状況は耐えがたいものがあり、一部には「薬物」に逃避するような状況もあるようです。また、そうした状況を軍が黙認・誘導しているとも。
****ミャンマー軍事クーデターから2年 軍と民主派の戦闘が泥沼化…市民生活に影 若者の一部に「薬物」まん延も****
ミャンマーで軍事クーデターが起きてから2月1日で2年です。軍と民主派の戦闘が泥沼化する中、電力事情の悪化で停電が続くなど、生活に影を落としています。市民の間に閉そく感が広がり、一部の若者たちの間では「薬物」がまん延。国外に逃れようとする若者も後を絶ちません。
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ミャンマーの国境地帯。クーデターに反対する若者たちは、今も軍と激しい戦闘を続けています。一方、最大都市ヤンゴンの車通りはクーデターの直後より戻ってきた印象も。市場にはたくさんの食材が並び、都市部では日常が戻りつつあるように見えます。
しかし、世界銀行によると、ミャンマーでは経済の落ち込みで、貧困ライン以下で暮らす人が2017年(24.8%)から1割以上増え、全人口の約4割に達しているということです。
鶏肉店の店員 「客は3分の2に減った。みんな、お金がないのだと思う」
さらに、市民生活に影を落としているのが、電力事情の悪化による停電です。毎日4時間ほど停電が続く地区もあるといいます。幹線道路では信号機も停電し、商店が立ち並ぶエリアでは至る所で発電機が使われていました。
店のオーナーは、「少しイライラします。電気が止まると(発電機の)ガソリンを買いに行くので、その分、仕事が増えます」と話すなど、市民の間に閉そく感が広がっています。
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民主化への道筋が見えない中、抑圧された環境は若者たちを追い詰めています。
かつて抗議デモに参加していた25歳の女性が見せてくれたのは、カラフルな照明が輝くナイトクラブの映像です。1年あまり前、友人に誘われて、初めて訪れた時のものだといいます。
女性(25) 「たくさんのテーブルにパイプや皿を置いて、堂々とドラッグをやっている人たちがいたんです」
話の途中、彼女が突然バッグから取り出したのは、黄色いプラスチック製のパイプ。彼女も薬物を常習するようになっていました。若者の一部でまん延しているのは通称“K”。幻覚作用のある「ケタミン」です。
女性(25) 「ここ(ナイトクラブ)は、ヤンゴンで楽しめる唯一の場所です。私たちはどこへ行っても自由ではありませんから」
無法地帯となっているナイトクラブですが、当局は見て見ぬふりをしているといいます。また、国連薬物犯罪事務所(=UNODC)によると、ミャンマーでは去年、麻薬の原料となるケシの栽培面積が3割以上増えたとの報告もあります。
“黙認”の理由について、別の20歳の女性は「(軍事政権は)若者が政治に興味を持たないよう、注意をそらそうとしています」と話しました。
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混迷が深まるミャンマー。国外に逃れようとする若者も後を絶ちません。
29日、ヤンゴンにあるアパートの一室を訪ねると、肩を寄せ合って座る女性たちの姿がありました。国外で職を得るために、英語の勉強をしているのです。地方から出てきた20歳から35歳までの女性9人が、共同生活をしています。パスポートが発行されたら、一刻も早く国外に出るためです。
出国を目指す女性(20) 「母と祖母の体調があまりよくありません。もし、お金があれば2人の治療ができます。稼げるなら“悪い仕事”(売春)以外、何でもやります」
クーデターから2月1日で2年。混迷からの出口はいまだ見えません。【1月31日 日テレNEWS】
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若者が政治に無関心になるように、国軍は意図的に麻薬を流している・・・といった話もよく聞かれるそようです。
【制裁に参加しない日本 結果的に資金が国軍へ】
「力による支配」を強める国軍に対し、欧米は制裁強化で対抗しています。制裁の効果があがっているとは言えない状況ではありますが。
****米と同盟国、ミャンマーに追加制裁発動****
米国は31日、同盟国の英国、カナダ、オーストラリアと協調してミャンマーへの追加制裁を科す。ロイターが入手した米財務省の声明で分かった。(中略)
声明によると、米政府はミャンマーの選挙管理委員会、ともに国営の鉱業関連企業2社、エネルギー関係当局者、現・元軍人に対して制裁を科す。カナダとオーストラリアは1月31日に追加制裁を科した。
財務省の声明によると、今回の米国の制裁では国営のミャンマー石油ガス会社(MOGE)のマネージングディレクターと副マネージングディレクターを対象にする。人権擁護団体は、軍事政権の重要な収入源となっているMOGEに対する制裁を要求してきた。
財務省によると、Myo Myint Ooエネルギー相も対象となる。同氏は国内外のエネルギー部門でミャンマー政府を代表し、石油・ガスの生産と輸出に関わる国有企業を管理している。【2月1日 ロイター】
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日本はこうした欧米の制裁には参加せず、民主派と同時に国軍ともパイプを維持する対応をとっていますが、日本も制裁に参加するように促す声もあります。
****「日本も制裁参加を」=ミャンマー危機で国連報告者****
ミャンマー国軍によるクーデターから2年になるのを前に、同国の人権問題を調べる国連のアンドルーズ特別報告者が31日、報告書を公表した。その中で日本に対し、国軍関係者らへの制裁網への参加や、軍関係者の即時国外追放を促した。
報告書は、ミャンマー国軍が設置した最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」について「正統な政府ではなく、承認されるべきではない」と強調。国連加盟国に対し、承認につながる行動を慎み「SACを外交的に孤立させる」よう求めた。
日本や韓国など、ロシアのウクライナ侵攻で制裁を発動しながら、ミャンマー危機では制裁を見送っている国に対しては「直ちに制裁を科すよう勧告する」と訴えた。【2月1日 時事】
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日本はクーデター以降、経済制裁を強める欧米諸国と一線を画し、対話を探ってきましたが、国軍の強硬さは増す一方です。また、「対話」と言いながらも成果はほとんどなく、日本が手を引いたあとの中国の影響力拡大を経過しているのが本音とも。
新規ODAは停止していますが、既存のODAは続行されており、その資金が国軍支配化の企業に流れており、結果的に国軍支配を資金的に支援している形にもなっています。
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国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、橋梁事業などを手掛ける横河ブリッジが、ミャンマー国軍傘下のミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)に対し、約130万ドル(約1億7000万円)を支払っていたことが判明したと発表した。
松野長官は、バゴー橋建設事業について「交通や物流のボトルネックを解消し、ミャンマーの経済発展を支え、国民生活の向上を促すことを目的とした事業」と説明、「ミャンマー国軍の利益を目的として実施しているものではない」と述べた。【2月1日 ロイター】
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一方的に事業を中断すれば契約違反になる可能性があるとのことで継続されている事業ですが、国軍支配に苦しむミャンマー国民を納得させる理由ではないようにも思えます。
****ミャンマー “非常事態宣言 6か月間延長” 国営メディア****
ミャンマーの国営メディアは、軍が2年前のクーデターに伴って発令していた非常事態宣言を6か月間延長すると伝えました。非常事態宣言は、軍による統治を正当化し、民主派勢力を抑え込む根拠とされてきました。【2月1日 NHK】
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